ー第5話その2
ー第5話その2
空港で恭之助が行き先の変更を告げた。
「追悼公演の追加が決まった」
美里は帰れるものと思っていたので、がっかりしながら言った。
「あと誰を追悼するの?」
「アルサダムキシュ」
「誰?」
「イラク。バービル県アンヒッラ村が会場だ」
「だから誰?」
恭之助は家族に囲まれて笑っているアラブ人の写真をスマホで見せた。
「02アカデミーで、押さえ込んだファンから逃げた所を、対テロ部隊に射殺された彼だ」
「あの夜の犯人!」
美里はスマホをもらって、写真を見た。
「どういう事?」
「アラビア語のメールが来た。フィメールのファンだそうだ。彼の友達だ。アルサダムキシュの生まれ故郷の村に来て欲しい。彼のそうしなければならなかった理由を話したいそうだ」
美里は写真を見続けていた。
「行かないと、その理由は理解できないのね?」
「そうだ。彼は治安部隊の指令官だ。アラーに誓って身の安全は保証するそうだ」
「…フィメールが狙われた理由も聞きたいね」
「アルサダムもフィメールのファンだったそうだ」
恭之助はスマホの写真で、中央にいる若者を指先で示した。
「ファンなら。行かなきゃ」
「そう言うと思った」
「私は無茶?」
「久屋大通公園で、初めて見た時からな」
「恭之助も無茶でしょ?いきなりマネージメントさせてくれなんて」
「若かった。こんな事になるなら。言わなきゃ良かったと思う時も有る。イギリス空軍にトイレ運ばせるのにさ。将軍を6時間説得した挙げ句、美里のサインくれたらなんとかするだぜ!最初に言えよって、ホント言いたかったぜ」
「恭之助」
「なんだよ?」
「ありがと」
「やめろよ。一緒に生きて闘ってるんだ。当たり前の事にイチイチ感謝するな」
「何照れてるの?嬉しいくせに」
恭之助は照れ隠しに立ち上がった。
「安藤がチケットの変更をやってる。ちょっと見てくる」
美里は微笑んで、逃げて行く恭之助を見送った。