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まちのようす(改)

追記

2019年4月10日に加筆修正しています

教会を出た後、ヘンデアルはこの街にいたときによくお使いにいった市場に行く。


「ヘンデアルじゃないか!お前たち売られそうになって逃げてどこかにいったって聞いたけど、無事なんだね?」

見知った市場のおばさんが駆け寄ってきて、ヘンデアルの頬を両手で挟み、無事を確認すると抱きしめてくる。横のグレテルもあちこち撫で繰り回したあと、ぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。

意地悪な叔父と叔母が二人にひどく当たったときも、このおばさんはこっそり慰めてくれたり、時にはこっそりご飯を食べさせたりしてくれた人だ。


「心配かけてごめんね。僕もグレテルもこの通り無事だよ。叔母さんたちはなんていってた?」

「育ててやったのに逃げ出した恩知らずだって」

「さすがに奴隷商人に売られそうになったんで、逃げたんですけど」

「奴隷商人に!? なんとまあ…」

事情を説明すると、言葉がでない様子で前掛けをぎゅっと握っていた。

「でも安心して、いまはとっても安全なところで、ご飯も食べさせてもらってるんだ」

そういって、荷車の幌を捲り野菜や小麦を市場のおばさんに見せる。


「あとこれ、貰って欲しいんだ。グレテルが一生懸命捏ねて作ったパン」

大きなパンを2つおばさんに渡す。

「それと、このジャガイモと人参と玉ねぎと…」

「ヘンデアル、ヘンデアル、こんなにたくさん貰えないよ。悪いし」

「おばさんが、僕たちがお腹空いたときにご飯食べさせてくれた、そのお礼。ずいぶん遅くなっちゃったけど」

そういって、両手に抱えきれないほどの野菜とパンを手渡すとおばさんは涙ぐみながら「それじゃあおじいさんと一緒に食べるからね」そういってもらってくれた。


「あとね、おばさん、お願いがあるんだ。僕たち実は森の奥の魔女にお世話になってるんだ」

そういうとおばさんは目を白黒させて

「魔女って、お前たち大丈夫なのかい?食べられたりひどい事されたりしていないのかい?」

と聞いてきたので

「食べられたらここに来れないし、逃げて来たわけでもないよ。不器用だしおっちょこちょいで世話が焼けるけど…いい人なんだ」

「…そうかい?」

「でね、おばさんのお店でこの野菜とか小麦とかパンを安く売ってほしいんだ。ここら辺は不作がつづいているっていうし、僕たちは銅貨が必要だし。安く売ってみんなの腹の足しになればと思ってるんだ」

「てことは、これは魔女が育てたのかい?」

「そうだけど、僕たちも食べたけど普通の野菜だし、むしろ街で売ってるのより美味しいよ。街の人のためにも、おばさんお願いだよ。他の人は魔女のだっていったら怖がって食べないかもしれないけれど、そうしたら飢える子供も、病気になる人も増えちゃうと思うんだ」

真剣なヘンデアルのまなざしにおばさんはわかったよ、と商品を売ることを引き受けてくれた。


市場で品物を預けると、次は焼いたパンをもって街のあちこちにいる孤児たちにパンを配りにいく。

みんな長い不作で親が亡くなったり、親が子供を捨ててどこかほかの街にいったりして行き場のない子供たちだ。


「ほらこれ食べなよ」

パンを渡すと、争うようにつかみ取り、食べる子たち。

一時しのぎだけれども、いまはこれが精いっぱいだった。


「にいちゃん、みんなも僕たちみたいにマルガレーテのところにこれればいいのにね」

グレテルがそういったが、ヘンデアルはその言葉に厳しい表情を浮かべる。


街をひとまわりし、パンを配り終わり市場に戻ると、おばさんが二人を待っていた。


「あっという間に売れてしまったよ。これ、売り上げね」

と、売り上げを全部二人にくれようとしたので、おばさんに売り上げの一部を渡すと

「ありがたいねえ…」

と喜んで受け取ってくれた。

街を回っている時に、おばさんと一緒にかわいがってくれていたおじさんが病気であるというのを二人は聞いていたので、今度は薬を持ってこようと心にきめて街を後にする。


「にいちゃん、次来たときは教会の司祭さんにおねがいするの?」

グレテルが空になった荷車を軽々と引きながら聞いてくる。

「いや、あそこの教会には頼む予定はないよ」

「でも…」

「トイレついでに孤児院に行ってみたけれど、子供の一人もいなかった。でも、孤児院として看板を出してるってことは王都からのお金を懐にいれてるんだろうな」

それともう一つ不穏な噂を孤児たちに聞いたが、それは確証をつかむまで黙っていることにした。


「何とかしないとな。大丈夫兄ちゃんが考えるから、グレテルも協力してくれよ」

そういって、グレテルの頭をなでると、二人は森の道を進むのだった。



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