おうとのしょうぐん
マルガレーテの予想通り、1月ほどして王都から領主と司祭とともに、200人ほどの兵士がやってきたが、街からあと半日、というほどの街道で鶏の大群に襲われ、王都へと帰っていったと報告を受けた。
鶏、やりおる。
その報告を受けた街の人たちは、喜びの声とともに、さらに兵士が多くなるだろう次の襲撃のために気を引き締める。
だが、街道の鶏もただ同じでいるだけではない。
数を増量して迎え撃つ。
半月後、倍になった兵士たちがまた街に向かって来たが、街道の鶏のほうが強かった。
そこで王都のメインの軍が動いたと聞いたので、本決戦になるだろう、と気合を入れる。
街道の鶏たちは、無駄に殺させないため、今度は森へと再び逃がしてやった。
おっかなびっくり、王都から街までの街道をあるいてきた軍の兵たちは、街の門に着くと開けるように、と命令をしてきたので、
「司祭と領主の解任と王都に売られた子供たちの身柄を戻してくれたら応じる」というと、兵士が中央の偉い人へと街の要望を伝えにいき「検討するのでしばしまて」との答えが返ってくる。
「考えてくれるのかな?」
「たぶんただの時間稼ぎで、街の他に侵入できるところがないか、確認してるんだとおもう」
マルガレーテの質問にヘンデアルが答える。
その考えが正しかったようで、街のあちこちにたてた櫓から、兵士たちの姿が確認された、との連絡がはいる。
「そしたら街の人たちは家の中に避難してもらおう」
「鶏を放すよ」
街に警備兵ならぬ警備鶏が放たれる。
ちなみに、街の人たちは家で3日は籠城しても大丈夫なくらいの食べ物と水の確保をしてもらっている。
門の兵士が「上のものが話をしたいと言っている」というので、ヘンデアルとグレテル、そしてマルガレーテが話し合いに応じることにする。
門の外で、話し合いようの天幕を張り、そこで話をする、とのことだ。
「いきなり刺されたりはしないわよね」
「そのために、物見やぐらで街の人たちに監視をさせているから、変なことはしないだろう」
三人は扉から出ると、兵士に促されるまま天幕の中へと入る。
そこには兵士の親玉のような甲冑を着た壮年の男と街の司祭と領主がいた。
「お前たちがこの町の代表か」
壮年の男がマルガレーテたちに話しかける。
「いや、別に代表ではないです。ただ、ここの意見をきいて、街にもっていくだけの係です」
ヘンデアルがそう答えると、片眉を上げて、男はふん、と肯定とも否定ともとれる反応をする。
「こんな子供が代表なわけないってあなたも思っているでしょう?」
マルガレーテがそういうと、男はそうだな、と頷いた。
「お前たちの要望はこいつらの首のすげ替えと子供たちを戻すことだったな」
「そうよ」
「断る、と言ったらどうする?」
「あまり楽しくない結果がお互いに待っていると思うわ」
「それは2回ほど兵士を撃退したのと同じ方法か?」
「方法がそれだけとは限らないでしょう」
「たしかにな、1月で作ったにしては、街を囲う木の塀も扉も立派なものだ」
そういって、男は豪快に笑う。
「だが、こちらには1000の兵がいる。まあ、やつらを出すために俺もここにくることになったんだがな」
「こんな国境近くの町まで、将軍がお越しになるんですね」
「興味もあったからな」
ヘンデアルが相手のことを将軍と呼ぶことにマルガレーテがびっくりしたが、よく見ると、マントの肩口に位を表す章が付いていた。
「二度もわが兵たちを撃退した辺鄙な街がどんなものかこの目で見るのも悪くはない、と思ったんだよ」
「それでどんな印象ですか?」
「まさか子供が出てくるのは思わなかったな」
「それはすみません。でも交渉は子供でもできます。それで、僕たちの要望は通してもらえるのでしょうか?」
ヘンデアルはそういって、将軍の目を見て言う。
「その前に、確認をするのだが、お前たちの街ではここ数年不作だったのは本当か?」
「本当です」
「それが突然起こったというのもか?」
「はい。教会の呪いで起こったと僕たちは考えています」
そういうと、将軍はふむ、と考え事をする顔になる。
「実際この国では原因不明の不作が続いている。他国にとどろくほど有名な穀倉地帯だったこの国が、だ」
数十年ほど前から少しずつ作物が育たなくなりはじめ、とうとう国の倉庫が底をつくほどになった。
隣の国からの輸入に食べ物を頼るようになったが、そうすると国の経済がたちゆかなくなってくる。
もともとこの国は穀倉地帯の作物に頼った税収と近隣の国との取引で成り立っていたからだ。
王の執政に不信感をもった教会は、民衆を味方につけ、王に政治の実権を渡すことを反対した。
また、近隣の国の豊かな畑を手に入れるために戦争を始めるよう国民を扇動し準備を進めていた。
王はそれに反対し、教会から真っ向から対立。
その中で王妃と小さかった王子が王都から離れた街で暗殺される事件が起こる。
王都がきな臭くなり、身辺を気にした王が王都から王妃たちを逃がしたことが裏目に出てしまったのだ。
「それがいまから5年ほど前の出来事だ」
将軍は王にずっとついていた近衛兵だったが、教会の動きを把握するために、教会のもとへと下ったのだと話をし、それを聞いた司祭と領主が驚いた顔で将軍を見る。
「この街で起こったことを聞いて、教会の尻尾がなにかつかめるかもしれないと思ったのだが、どうやら収穫はそれ以上だったようだ」
将軍、ワーホルトと名乗った彼は司祭と領主を見て言った。
「この二人をこの街の司祭と領主にはしない。だが、教会の目を欺くため、しばらくここにとどめ置いておこう」
今、王都では教会を主導とした、他国に攻め入って穀倉地帯を手に入れようという風潮が高まっているという。
そのために国のあちこちから子供や男たちを集め、兵士を作り出しているという。
「だが、根本をなおさなければただむやみに人が死ぬだけだ」
ワーホルトは教会がむやみに他国に攻め入るのを良しとせず、どうにかできないかと秘密裏に王と話をしていた。
この街の話を聞き、何かあればと思い、将軍みずから出向いたのだという。
「そもそものこの国の畑の不作は教会の所為なんです」
教会の呪いの話を説明すると、ワーホルトはなるほど、と頷く。
「教義があるため、戦争をよしとしないが、国が、国民が危うくなれば他国に攻め入ることも正当化される。国を増やし、信者を増やせる。そういうことなのだろう」
そういって、司祭を見ると、司祭はこれ以上ないくらい顔の色を青くし、ぶるぶると震える。
「状況はわかった。だがどうしものか…」
ワーホルトはこの国の状況を考える。
この広い穀倉地帯すべてが教会の数十年にわたる呪いで不毛な土地に替えられてしまった。
それを取り戻すには同じくらい数十年かかるだろう。
だが、そんなことをしていては国民が飢えて死んでしまう。
国民のために他国から穀物を仕入れれば、国がそんなに持たず破綻してしまう。
だが、戦争をするのはもっと国民の血を流すことになる。
八方ふさがりだった。




