まちのじじょう
さらに3日後。
街についたテッカとヘンデアルはいつものごとく衛兵に賄賂を渡し、広場での営業をしようとすると、衛兵に
「今日から3日間は広場で市場をひらくことはできない」
と言われる。
どうしたのかと思ったら、教会前の広場は、王都からの兵士の簡易テントが張られ、兵士たちの詰め所になっていた。
「どうやら王都から誰かが来ているみたいだな」
テッカがそうヘンデアルに耳打ちしてくる。
「宿場に泊まるふりをして、街をちょっと見てみよう」
そういって、街を馬車で走らせると、ちょっと前まで人通りがなかった街に少しだけ活気が戻ったように見える。
街はずれの畑には、野菜や小麦が収穫間際な様子でたわわに実っており、あちこちの畑で忙しそうに働く人たちの姿が見える。
炭焼き小屋の畑もたわわに実っており、本来はヘンデアル達が刈り取る予定だったその畑では、ヘンデアルとグレテルをいじめていたおじさんおばさんが忙しそうに収穫をしていた。
街に来たときも全然見かけなかったし、様子を伺おうともしなかったが、少なくとも飢えて死んでいたりはしていなかったようでちょっとホッとする。
ヘンデアル達の家の畑を自分たちののだ、と言い、きっと刈り取っているのだだろうが、ヘンデアルもグレテルも街の畑まで面倒は見れないのでそれは良しとすることとする。
「畑は順調みたいだな」
「するとやっぱり気になるのは王都から来たやつだな」
「うん」
兵士が思ったように集まらなくて、業を煮やして来たのなら、子供たちは間一髪助かったことになる。
もし他の用事で来たのなら、少し気になるところだ。
「様子見に、街の宿屋に泊まってみるか?」
そうテッカに言われ、ヘンデアルは頷く。
幸い野菜を売ったお金などがあり、使い道もないので、二人で1泊するくらいはなんとでもなるだろう。
馬車を止めれる厩がある手近な宿屋で、二人は宿泊をすることにする。
あとは、これが動かなければいいんだけど、という保険もかけておく。
「ありゃおまえさんテッカじゃないのかい」
宿屋のおかみさんがテッカをみて驚いたように声を上げる。
「実はちょっと前から隣の国いって、商業ギルドで商人の真似事してるんだよ」
テッカはそういって嘘と本当と織り交ぜたような話をすると、宿屋のおばさんは「あのテッカがねえ」と感慨深そうに頷く。
炭焼き小屋であまり街の中心にはいなかったヘンデアルは良くいく市場くらいにしか知り合いがいなかったが、テッカは御用聞きなどもやっていたので、商売をしている人たちにすこし顔見知りがいるらしい。
「逆に農家の人たちはさっぱりだから、広場で種がうれたんだけどな」
そういって笑う。
宿屋のおばさんから聞いたところによると昨日突然王都から兵士たちがやってきて、陣を張り始めたらしい。
教会の司祭と領主が大慌てで出迎えていたそうだ。
どうやら教会の上層部の偉い人が王都の軍を引き連れてきたらしい。
「今日一日は街のあちこち見回っててねえ、治安は良くなるだろうけど、なんだか緊張するねえ」
宿のおばさんは能天気にそういっていたが、ヘンデアルとテッカはお互いに顔を見合わせる。
深夜に、町中に響き渡る鳴き声で、テッカとヘンデアルは目を覚ました。
こんな夜中に鳴くはずのない声。
それが何十も聞こえる。
「やっぱりか」
そういって飛び起きると、宿屋のおかみさんにたいまつを借りる。そして街の人を起こして、声のあるほうに行ってほしいと伝えると、馬車に飛び乗って、鳴き声のほうへと向かう。
鳴き声は比較的街の中心からそう遠くない畑から聞こえた。
「うわ!やめろ!なんだこいつら!」
「つつくな!やめろ!!!!いたい!!!」
たいまつを掲げると、畑の中央に王都からきた司祭服を来た人と兵士が数人、今もなお鳴き声を上げている鶏につつかれている。
騒ぎをききつけて、街の人たちも集まってくる。
「こんな夜中になにしてるんですか?」
司祭服の人にテッカが聞くと
「なんもしてない。ただ畑をみてただけだ!」
と答える。だが、その周りは立ち枯れた麦が囲い、その麦を覆うように呪いを描いた板のようなものが建っている。
「じゃあ、その板はなんですか?あとどうして今日の昼まで元気だった麦が枯れてるんですか?」
「なんだって!? うちの畑の麦は夕方までぴんぴんしとったぞ!お前さん何しやがった」
テッカの声にその畑のおじいさんらしき人が司祭にくってかかる。
「いや、わしは何もしていない!!!!怪しい木の板がたっていたから、畑が心配にみていたのだ」
「こんな夜中に?」
「そうだ!!!!」
そういう司祭服の人を鶏が啼きながら突っつく。
「でも、この板は教会のものですよね?」
そういってテッカが板を畑から抜く。
「ほら、ここに教会の印がある。これでもアナタとは関係ないというんですか?」
テッカは教会の印のある板を掲げてさらにいう
「隣の国で聞いたんですが、畑を不作にする呪いがあると聞きました。この国の教会がそれを得意としていると。不作にして、街や国をつぶしたり、意のままに操るために使うそうですね」
それを聞いた街の人たちが騒めきだす。
「なんだって?そんな呪いをこの町の畑に使ったのか」
「教会は何を考えているの!?」
司祭服を着た人は
「しらんしらん!!!!そんなのは嘘っぱちだ!」
そういって、人をかき分けて教会へと帰ろうとする。
「でも、ほら、こうやって実際畑を枯らそうとしたんじゃないか?」
さらに言い募るテッカに、司祭服の男は
「覚えておけ、小僧」
そういうと、兵隊のいる詰め所へと戻っていく。
一部始終をみていた街の人たちは「教会が畑をからそうとしている」「自分たちを好きなようにするためだ」「こんなことをしている場合じゃない」と口々に言いながら、収穫間際の畑にたいまつをもって入り、採れるだけの野菜や小麦を収穫しようとする。
それは夜が明けても続き、本来であれば3日から1週間ほどかかる収穫作業を一日がかりで街の人総出ですべて終えたのだった。
収穫をおえた人たちが次にしたのは、教会へと詰め寄ることだった。
「教会が畑をダメにしたというのは本当か」
「そんな呪いが本当にあるのか」
「王都の偉い司祭は何のために街に来たのか」
口々にその疑問を街の司祭へと投げつける。
王都から来た司祭は朝になるとすぐ王都へ帰る準備をしはじめていた。
そうやら悪いことがばれたので、急いで逃げかえる気らしい。
だが、そうはさせまい、と果敢にも戦っているのは、畑でもファイトを見せた鶏たちだった。
鶏はマルガレーテの畑を見守っているうちに、畑を荒らすものを攻撃する習性を身に着けていて、司祭や衛兵を畑から追いかけ執拗につっつき啼き攻撃をしていく。
責められる街の司祭と王都の司祭、そして領主は王都へと助けを求めるため、そろって馬車に乗り込み、衛兵を護衛につけ、街から出て王都へと向かっていった。
もともと人望のなかった司祭と領主が王都へ逃げていくのを、街の住民は勝鬨の声を上げて見送るのだった。




