いちばでたねをくばる
その日、ヘンデアルとテッカは荷馬車に乗って街の入り口へと向かっていた。
街の入りぐちで衛兵が止めると、テッカが商人ギルドの証明書を見せる。
ヘンデアルは顔が割れている可能性があるので、フードをかぶってテッカに任せていた。
「隣の国から、小麦や野菜をもってきたんだ。ここら辺が不作だって聞いてな。良い商売になるって思ったんだけどどうだい?」
そんなテッカの軽口に衛兵は
「さあどうだろうな。王都のほうが商売になるんじゃないか?」
と答えるが
「王都はこっから7日だろう?ここならうちの国から1日だ。ここのほうが楽だよ」
そういってテッカは商売はどうしたらいいかを衛兵に聞くと、教会を通すように、と言われる。
「そうか、ありがとう。これはちょっとしたお礼だ」
そういって銀貨を握らすと、衛兵は急に愛想がよくなってニコニコとしだす。
「市場を使うのに教会に言うのって、どうすればいいんだい?」
その様子をみながらテッカがそう聞くと
「市場の申請するなら、よかったら口をきいてやろう」
なんて言い始め、教会の手続きをしに一緒に教会に行き、市場の許可をとってくれたのだった。
「ありがとな」
「いやいや、とんでもない。兄さんも良い商売を」
そういって衛兵はまた街の入り口へと戻っていく。
ヘンデアルはテッカの鮮やかな手並みをみてはあ、とため息をつく。
「ヘンデアルは頭はいいが、こういう政治的なことは苦手だもんな」
とテッカに言われ苦々しい気持ちになったが、しょうがない、と苦笑いをする。
教会の手続きは売上の3割を教会に収めること、となっていた。
なかなかに暴利だが、ここは気にしなくても大丈夫だ。
そうこうしているうちに、市場が出せる広場に着く。
「さ、商売をはじめよう」
今日運んだのは麦やジャガイモ。ニンジンなど。
食材だが…
「さー!隣の国から運んできたての野菜や麦だよ!」
テッカが声を上げて商売を始める。
「おや兄ちゃん野菜を売っているのかい?」
「ああ、新鮮とれたての野菜だよ!今なら仕入れすぎちまった麦や野菜の種もみや種もおまけしとくよ」
「なんだって! そりゃほんとうかい。ちょっと他の奴にも声かけてくるよ!」
テッカに話しかけた通りかかりのおじさんがそういって来た道を慌てて戻っていく。
「種もみサービスしてくれるって本当かい?」
「ああ、おばちゃん美人だから人参一本1シリングで種もみのこの袋をおまけするよ」
「ええ!?それじゃあ赤字になっちゃわないかい」
「それがこれ、余ってて処分するやつだったんだよ。荷物になるからもらってくれるとありがたいんだ」
「そりゃ本当かいじゃあ人参10本もらおうかね」
「じゃあ、10袋おまけね」
「ありがたいねえ」
話をきいていたおばちゃんも人参を買ってその倍はある種の袋をニコニコしてもっていく。
「聞いたぞ、野菜買ったら種がおまけでついてくるんだってな」
「そうですよ!隣の国の特別製、発育の良い種なのでぜひ育ててください」
マルガレーテの魔法付き、とは言わず隣の国の所為にした種を野菜を買った人たちにどんどん渡していく。
あっというまに山とつんだ野菜と種がなくなっていく。
「売り切れちゃいましたが、また3日後に来ますんで!」
そういってテッカがニコニコと宣伝をする。
街のおじさんとおばさんたちがまた来ておくれよ、と嬉しそうに言ってくれたので、頷きながら次の約束をして、2刻ほどで広場から帰ることにする。
「ずいぶん盛況だったみたいだな」
教会で手数料を払おうとすると、教会の詰め所にいる衛兵がそう声をかけてきた。
「売上はこれくらいですけどね」
袋にいれた硬貨を衛兵に見せて手数料を払おうとすると、
「あんなに山積みだったのにこんだけしかないのはおかしいだろう」
と、疑いのまなざしで見てきたので
「隣の国で押し付けられて、邪魔だった種があったんですよ。捨てるわけにもいかないし。野菜のおまけにつけたんで嵩あるように見えましたが、そんなでもないんですよ」
そういって愛想笑いを浮かべていると、朝街の入り口にいた衛兵が
「どうした」
とやってくる。
事情を説明すると
「確かに、種の袋を一杯運んでいたな。別におまけであげたんだし、野菜は販売してたんだし問題ないだろう」
と擁護してくれたのでいぶかしそうにしていた衛兵もそういうなら、と手数料を受け取り、解放してくれた。
「いやあ、やっておくもんだね。賄賂」
馬車に乗って街を出てしばらくしたあと、テッカがこらえきれずに笑いだしてそういった。
「まさか、あそこまで役に立つとは思わなかったよ」
「でも、種をおまけにつけるのはあと一回だな。なにか対策をとられても面倒だ」
「今回でもずいぶん配ったし、街の畑を持っている人たちには次で十分いきわたると思うよ」
肥料を渡した後、街の食料不足をすぐにでも改善するべく、マルガレーテと考えた策のうちの一つがこれだ。
「隣の国の種」といえば成長が早くてもそんなもんだろう、と思ってくれるし「魔女の力」だとは思わないだろう。
マルガレーテの種はマルガレーテの肥料との相性も良い。
はやければ1週間で収穫できるものも出てくるはずだ。
それまでは飢えないように、農作物を届けるが、畑の実りがきちんとあれば街は少しは活況を取り戻すはずだ、とヘンデアルは考えていた。
「あとはもうひとつがうまくいくといいな」
山の道を馬車で走りながら、ヘンデアルとテッカはお昼過ぎでまだまだ明るい森の中を走るのだった。




