まじょのおなまえ(改)
追記
2019年4月10日に加筆修正しています
「ヘンデアルとグレテルていうのね…もぐもぐ…で、二人ともお家を追い出されたと…もぐもぐ…へーそうなんだー…もぐもぐ…」
「ごはんを食べている時はしゃべらない!」
「…はあい」
魔女の名前はマルガレーテといい、この森に棲んで60年ほどだという。
年齢は100才だというが、ヘンデアルとグレテルが見る限りその貫禄は全くない。
せいぜい自分たちより1,2歳年上、そんな女の子にしか見えない。
しかも料理も掃除もダメで、得意なのはハーブティを作ること。
魔法はそこそこできるがとびっきりのものは特になく、空が飛べて、マッチ程度の火が出せて、風でお掃除ができて日常生活にはそこそこ便利だが、人に危害を与えるほどじゃない、という。
ただ、作物を育てることに関してはとてもとても得意なのだという。
「君達、ここで働かない?」
マルガレーテはヘンデアルとグレテルがご飯を食べ終わり、子供を寝かしつけた後、良いことを思いついた、と提案してきた。
「帰るお家はないんでしょう?ここなら三食昼寝オヤツつきよ」
「まさか、無給で子供2人をこき使おうっていうんじゃないですよね?」
「え?」
「乳児3人と幼児2人の世話係が欲しいんですよね?」
「あ、え」
「確かに状況的にワンオペでは厳しいと思います。確かに僕たち2人は行く場所もないですし、こんな子供2人でうろうろしていたら悪い大人に騙されてどこかに売られてお仕舞ってことにもなりかねません」
「あ、はい」
「条件としては子供の面倒は2人だけでなくマルガレーテも含む3人で見る。家事、主に料理は受け持ちます。畑仕事などの力仕事も弟が手助けしましょう。但し、僕たち二人と子供たちみんなが自立できるまで、必要な教育を受けさせること、お手伝いする賃金として週に一人につき銅貨10枚の賃金を支払う事。これはいま子供な彼らがお手伝いできるようになったら彼らにも当てはめます。大人に比べたら銅貨10枚は安いと思います。僕たちはある程度成長したら王都なり街なりに行って生活する可能性がありますので、そのための資金だと思ってください」
「し、しっかりしてるぅー」
マルガレーテの提案にヘンデアルは賃金と教育の約束を取り付ける。
けれども、ヘンデアルは知らなかった。
「…魔法はつかえるし、食べ物は自給自足してるけれど、お金…私持ってないの…」
つまり、ヘンデアルとグレテルは5人の子供たちとの200才の子供を養うため、「お金を稼ぐ」ことをしなければならないのだった。
翌日からヘンデアルは魔女の家やその周りを確認し、生活の安定を考えることにした。
家の東側にあった扉は大きな風呂場とトイレというとても近代的で衛生的なものがあり、子供にも衛生的な生活をさせてあげれることがわかった。
家の裏手にはマルガレーテが「得意だ」というだけある実りのある畑がこじんまりとしてではあるがひろがっていて、そのさらに奥にあった大きな小屋には牛が5頭と鶏が30羽、あと豚が12頭元気に自由に暮らしていた。
ヘンデアルとグレテルはまずお金を稼ぐために、畑を少しだけ拡張し、マルガレーテの力で日持ちがして加工しやすいジャガイモと玉ねぎと人参、あと小麦を急速に成長させて、収穫をする。
街は不作で食べ物が不足しているので、これを安く売ってあげればこれ以上魔女の所に子供が来ることはなくなるし、銅貨も稼げる。
あとは大量に収穫した小麦を家の裏にある水車小屋で粉を挽き、飼っている牛の乳とそれで作ったバターでパンを大量に焼く。
以前魔女が焼いた黒焦げ堅いパンではなく、ふっかふかの美味しいパンだ。
「美味い・・・!」
「パンは力仕事だからな。グレテルの得意分野だ」
グレテルの作るふっかふかのパンは街で売るだけでなく、何も言わずにでていってしまったため、いままで街でお世話になった人たちに配ろうと思っていた。
叔父と叔母に見つかる可能性もあるが、帰る場所があるなら振り切って逃げることもできるとヘンデアルは考えていた。グレテルとばらばらになること、危険が及ぶことが一番の心配だったが、マルガレーテの家があるなら問題ない。
なぜなら、マルガレーテの家は一定の大人には見えないようになっているからだ。
「では街に売りにいこう」
そういって、グレテルが軽々と引く荷車と一緒にヘンデアルは街へと向かう。
一緒に行こうとマルガレーテを誘ったが顔を伏せてゆっくりと首を振った。
「私が一緒だと、売れるものも売れないから…」
魔女は街では昔から忌むべき存在として、話されていた。
昔は魔女と共存する村もあったそうだが、今では街に魔女がいると不幸が起こるといい、野菜や肉を売らなかったり、無視したりと魔女に風当たりが強く街で魔女は生きにくい。
亡くなったヘンデアルとグレテルの父はそういって悲しそうな目をしていた。
黒いとんがり帽子と黒いワンピース。
この魔女の証のトレードマークを着ている限りどこに行っても魔女は魔女だと証明されてしまう。
100才生きていても、人に嫌われるのはきっと悲しいことなのだ。
「わかった。そしたら僕たちが売ってくるから、マルガレーテはお夕飯の準備しておいてよ」
ヘンデアルとグレテルはマルガレーテにそういうと、2人で荷車を引いて、街まで野菜を売りにいくのだった。