よいことかんがえた
一刻ののち、数日お風呂に入ってなかったテッカがきれいさっぱりつるつるになってお風呂を出てきた。
その姿を見て、マルガレーテはちょっと目を見張ってしまう。
意志の強そうな目だといっていたけれど、きちんとした服を着てきれいにしていると、どこかの貴族の子息と言っても通るくらい、気品のある見た目をしていた。
ヘンデアルとグレテルが愛嬌のある優し気な顔立ちだが、真逆のテッカはそのしっかりしてそうな見た目で家のない子供たちに信頼され慕われていたようだ。
「ちなみに、その商人の別荘には何人くらいの子供たちがいるの?」
「1歳~3歳の子供たちが5人 4歳から7歳までが7人 7歳以上が10人、全部で21人だ」
「思ったよりいっぱいいるわね…」
「それにジュリアさんちにもごはん届けないとだしね」
「街でスープ配るのもできれば引き続きやりたいな」
街全部といわないまでも、マルガレーテの肥料で作物が育つまではあとちょっと。それまで街の人たちが飢えないようにどうにかしないといけない。
「私の畑なら簡単に作物育てられるけど、さすがにこれを街でやるわけにはいかないし…かといって、毎日3往復も4往復もしたらさすがに目立っちゃうわよね…個々の場所がばれないとも限らないし」
街の畑でマルガレーテの畑のように作物をとるのは難しい。
マルガレ―ての畑で作ったものを届けるには目立ちすぎてしまう。
「俺たちが手伝って、運ぶっていうのは?」
テッカがそう提案するが、それも目立つことにはかわらない。
「テッカ達だってそこにいるってばれたらまずいだろう?」
「そういわれたらそうだな…」
「ここに連れてこれたらいいのに…」
「いくらなんでも20人以上は無理よ」
広いとはいえ一部屋しかないマルガレーテの家にはすでに乳飲み子と幼児が5人とヘンデアルとグレテルまでお世話になっているのだ。
子供たちが大きくなったらキャパ的に完全にアウトになるだろう。
「街の中だと教会の目があるしなあ…」
「昼間は大丈夫だとしても、夜にいきなり連れ去らわれたりしたら…」
「教会が切羽詰まったらやりかねないわよね」
街のはずれに森から遠回りしたとしても、それで何往復もしたり、何台もの台車が通れば街の入り口にいる衛兵だって気が付くだろう。
「そういえば、迷って森を抜けたって言ってたわよね?」
「ああ、ここにくる手前、見晴らしのいい丘を越えて、沢を下ると、森を抜ける道があるんだ」
「多分この家の裏の道にもつながっているんだけど…」
「ああ、森に出るちょっと手前で獣道がもう一本あったからそれかな」
「さっき、その近くに廃村があるっていったわよね」
「ああ、たぶん、数年経ってて、草や木が生い茂っててわかりにくいけど、数件の家と畑らしき跡があった」
どうやら畑の跡らしきところで野生化したトマトやトウモロコシにお世話になったらしい。
「生い茂ってて分かりにくいの、いいわね」
その話を聞いて、マルガレーテの顔が輝く。
「森は、それこそ焼き討ちされたり、捜索されたら、見つかりやすいけど、森を出ちゃえばその心配もないし、なにより国境付近っていうのがいいわよね」
「そうか。他国の衛兵が踏み込んだら、それだけで領域侵犯で問題になるんだ」
「何かあったら国境の向こうに逃げちゃえばいい。商人なら他国にいっても問題ないでしょ?」
「つまり商人ってことにするんだね」
「違うわよ、本当に商人になるの」
マルガレーテが良いことを思いついた、と人の悪い笑みを浮かべる。
「他国から商人が来るのよ。しかも何回も。で、やすーくお野菜とかパンとか置いてってくれるの。教会はどうするかしら?」
「たぶん、警戒するよね」
「警戒したらどうなると思う?」
「王都に連絡する?」
「それもそうだわね」
「…商人を始末しようとする」
マルガレーテの質問にテッカが答えた。
「うん。そう。で、その商人が他国の商人でしかも他国の偉い人とつながってたら、どうなるかな?」
「そりゃ大変なことになると思うけど…」
「でも、僕たちはただの村人だし、他国の偉い人なんかと知り合いじゃないし」
「それはなんとかなるとおもうのよ。これなーんだ」
マルガレーテが皮ひもに付いたタグのようなものを取り出す。
「それって」
「商業ギルドのタグ。しかも隣の国の国王の王印つき」
「なんでマルガレーテがそんなもの持ってるの?」
ヘンデアルがマルガレーテの持っているものを手のひらで裏返したり光にかざしたりしながら質問すると
「他の魔女がこの国から出てくときにくれたプレゼントのうちのひとつ。ひとつはこの家の結界魔法、もう一つはこのギルドタグ。何かあったら隣の国に逃げ込みなさいって。これがあったら保護してもらえるからって一番偉い魔女様がくれたの。とりあえず、明日から忙しくなるわよ」
マルガレーテはそういって、ヘンデアルやグレテル、テッカにさっさとベッドに潜るように命令するのだった。




