表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/40

まじょのいえ(改)

追記

2019年4月10日に加筆修正しています

魔女は困っていた。

近隣の村で不作が続いているのは知っていた。

どうやら流行病もあったらしい。


魔女は薬の覚えもあれば、農作物をちゃんと育てるノウハウも魔法も知っていた。

自分を忌み嫌う村人のために、それを使おうと思えば思うほど、村人は彼女を恐れ、果ては迫害される。


さらには口減らしと称し供物として人の子を置いて行ったりする。


「えーっと、70度で作って40度まで冷まして…」

いま、魔女の家はさながら乳児院のようだった。

「あーまって、泣かないで…!次は君にミルクあげるから…!」

むしろ泣きたいのはこっちのほうだった。

生まれてまだ100年くらいしかたっていない、魔女のなかではまだまだひよっこ。

産んだこともないのに、いきなり5人もの子育てをすることになったのだ。


「こんなちっちゃい子たちを置いていくなんて酷い親もいたものだわ!」

魔女とはいえ別に人を取って食う訳でもなし。

(村人には人を取って食うと思われているみたいだけれど)

かわいいあかちゃんをみすみすしらんふりするわけにもいかず、森の奥に置いて行かれたちっちゃい子たちを面倒みることになったのだ。


「まま…」

「ちょっとまってね、赤ちゃんが終わったら君達のごはんすぐ用意するから」

「まま…」

「ごめんねーすぐすむから…」

「まま…」

2歳くらいの男の子がスカートのすそを引っ張ってくる。

もうちょっとまってね、という魔女に男の子は首を振る。

ご飯だとおもっていたけれども、どうも様子が違うようだ。

「どうしたの?」

「おそと…」

お外と言われて扉のほうを向くと、木をノックする音が「コンコン」と聞こえる。


こんな夜中に、しかも魔女の家に一体だれが訪ねてくるのだろう。

もう嫌な予感しかしない。

そう思いながら魔女は

「はあい、だあれ?」

と扉に向かって声をかけた。



「…しわがれ声じゃない」

「…どっちかっていうと若い女の人の声だね」

返ってきた声に驚きながら兄弟は

「すみません、森で迷ってしまって、一晩泊めてもらえませんか?」

と、礼儀正しく扉の向こうに声をかけた。



すると「バーン!」という効果音が聞こえそうなほどの勢いで扉が開かれる。

「泊まる!? いいよ!大歓迎! 君達赤ん坊の世話したことある? ない?どっちでもいいけど、これミルク、人肌に覚めたら、この子とあの子に飲ませて、私はあっちの子たちのご飯作るから」

バン、とドアが開いて、二人とも強引に家の中に引きずり込まれ、ミルク瓶と赤ちゃんを手渡されて、二人を招き入れた魔女と思わしき人は風のようにくるくると動き回り、キッチンでドタバタと何かを作り始める。


家の中は、広い部屋ひとつで成り立っていて、扉は南側の壁の中央にあり、右手東側には暖炉と壁に作り付けの台所があり、暖炉の前には大きな丸いテーブルとイスが置いてあった。

10人は座れそうな大きなテーブルと椅子。台所側の壁にはお茶やお菓子の瓶が所狭しと並んでいて、お皿やカップなども並んでいる。

そして東側の壁のはじっこには貯蔵庫かと思われる小さな扉がある。

南側、扉の正面奥は一段高くなっていて、木でできた柵で隔たっているそこには本棚と魔女のものと思われる作業机がおいてあった。

机の上には良く分からない瓶や書籍、乾燥したハーブらしきものと書きかけの紙とペンが置いてある。


そして、キッチンとは反対、西側の壁沿いには魔女のものとおもわれる大きなベッドの脇に、魔女の家には不釣り合いなゆりかごが3つと子供用の小さなベッドが2つ並んでいた。


ヘンデアルは身の危険がなさそうだと判断し、とりあえず3人の赤ちゃんにミルクを飲ませてげっぷもさせる。グレテルはちっちゃいけれどもう立って歩ける2人の子供がお腹が空いた、というのをなんとか宥めながら遊ばせていた。


「はい、できた・・・!」

息切れしながら大きな鍋を台所から大きなテーブルに持ってくるとどん、と置く。

「はい、席ついて!ってもうついてるか! えへへ、じゃあごはんにしよう」

ちっちゃい子もヘンデアルとグレテルも分け隔てなく大きなお皿によそうのを見て

「ちょっとまった!」

とそれを止める。

「平たいお皿はこぼすし食べずらいから、このマグカップによそって。あと具材が大きすぎ、ちょっとナイフ貸して」

ちっちゃい子に食べやすいよう、持ち手付きのスープカップにし、具材を細かくする。

「パンは?」

ヘンデアルがスープだけじゃないだろう?と目で聞くと

「これ…」

コゲが立派についたパンがキッチンの奥から出て来る。

「…しょうがないな。チーズあるか?」

コゲが付いているところを落としてパンを細かくちぎるとスープに浮かべて焼きすぎて堅くなったのをふやかす。その上にチーズをのせると湯気でとろけて美味しそうな匂いが広がる。

「ごくり…」

席について良い子で待っていた2人の分を手早く作ると、キラキラした目で魔女が見てくる。

「君…すごいね…!!!」

「別に、こういうのは家でやらされていたから…な…」

ヘンデアルはそっぽを向いて照れ隠しに言うとグレテルが

「兄ちゃんはその料理の腕を見込まれて街のレストランからうちで働かないかって誘いがきたもんな。まあ、意地悪な叔父さんがその話を台無しにしたけど」

そう付け加える。

「グレテル、余計なことはいわなくていい」

そういうと

「キミの名前グレテルっていうのね」

魔女がちっちゃい子たちがごはんを食べるのを手伝っているグレテルの頭を撫でる。

そんなに年がかわらない女の子に弟が頭を撫でられるのを複雑な気持ちで見ながら

「アナタの名前は?」

ヘンデルは、スープ皿を持ち「パンとチーズのそれ作って」と期待に満ちたまなざしで見てくる魔女に向かってそう問いかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ