きょうかいのわな(改)
めちゃくちゃ久しぶりに投稿しました。
2019年5月14日 ちょっと修正しました。
「お願いだから…殺さないで…」
マルガレーテをみて震える女の人に
「いや、掃除するくらいの風じゃ人は殺せないよね」
「あれで最大風力だからなあ」
ヘンデアルとグレテルはやれやれといった目つきでマルガレーテを見る。
「うるさいわね!悪かったわね微風しか出せなくて!」
そんなマルガレーテに女の人は
「だ、だましたのね!!」
と睨んでくるが
「別に私はちょこーっと床を風で掃除しただけだもの。勝手に勘違いしたのはそっちよ」
というと女の人はぐっと黙る。
「ま、とりあえず薬の入ってないお茶でも飲んでどうするか考えようか」
ヘンデアルが暖炉で火を起こして、お茶の準備をする。
「教会の司祭側ってことは、やっぱり何か弱みでもにぎられてるの?」
マルガレーテは、女の人の前に座り、そう聞くと
「当たり前でしょ。この街や近隣の村で教会にたてつける人なんているわけないんだから」
そして俯きながら、事情をとつとつと話し始めた。
彼女は街から少し外れたところにある領内の村の出身で、農家をやっているという。
ここ数年の不作により父親は王都へと出稼ぎにいくことになり、残された家族をなんとか養おうと彼女も畑仕事に精を出していた。
祖父母や母と一緒に働いていたが、数か月前に母が体調を壊し、薬が必要になった。
薬は高いが母の命には替えられないと、家にある代々大切にしていた家具や農具なども売り、お金を用意した。
薬をどうにか手に入れられないか、と教会に相談にいった折、薬を用意してやる、かわりにと、言われてしかたなく従ったというのだ。
「向かいにいたおじさんおばさんを騙して、街を混乱に陥れる悪いやつらだから、薬で眠らせたあと、教会に引き渡すようにって言われたのよ」
観念したように女の人は教会との話を包み隠さず話をする。
「こんな子供たちがくるなんて思わなかったけど、野菜や食料をもって、向かいの家を訪ねてくるものがいたら、すべて薬で眠らせるようにって」
そういいながらも彼女は自分のしていたことと教会の言動に疑問を持っているようだった。
「街を混乱に陥れるような人たちには見えないけれども、ああ、でも魔女がいるのだものね」
そういって、マルガレーテのほうを見る。
マルガレーテはそんな女性にむかって
「お母さまはどんな風に具合が悪いの?」
にっこりと微笑みながら、女性の母親の体調を聞いた。
「咳がずっと続いて、熱が高く、下がらない。街にはよく効く薬があって、それを飲めば快方に向かうって聞いたけれども、村にいる人たちにはもう長くはもたないだろう、と言われたわ」
女性の目からぽたりと涙が落ちた。
そんな女性の肩にマルガレーテは手をぽん、と置く。
「魔女はね。悪さしたり人を害するだけでなく、薬を作ることも得意なのよ」
そういって、ポケットからいくつかの粉を取り出し、台所から木の器とスプーンをもってきて、それらをゴリゴリとつぶし、それをいくつかに分けて紙で包む。
「はい。これ」
「…これは?」
「咳が出るのは肺が悪いものを取り込んで具合が悪くなっているのだと思うからそれを抑える葉っぱと熱を下げる作用のある実。それをすりつぶして混ぜたもの。毒じゃないわよ。一日に一回、ちゃんと飲んでね。あとは疲れからくるものだと思うから、ご飯を食べてゆっくり寝ること。ちゃんと飲めば10日くらいで咳も熱も治まるわ」
「でも…」
「はい、これ。少なくとも家族6人が10日はもつでしょう」
そういって、持ってきた食べ物を女性の手に押し付ける。
「あとはー…このまま教会の手先になりたい?」
そう質問すると女の人は首を振る。
「こんなことをしてもらう薬で母が喜ぶとは思わなかった。けど、それでも大事な母なので生きててほしかったから…」
「それで教会の言うことを聞いてしまったのね。良かったわ。私でなんとかなる薬で」
そういって、マルガレーテは女の人に向かってにっこり笑う。
「あなた、なんで魔女なのに…」
「魔女は、みんなが思っているような悪い人じゃないよ」
彼女がマルガレーテをみて思わず言った言葉をグレテルが否定する。
「彼女は街を心配してくれているし、僕たちを助けてもくれた。噂のような魔女なんていないんだよ」
「本来は魔女って、作物の豊作を願ってくれるいい人たちなんだよ。このマルガレーテのようにね」
ヘンデアルもグレテルと同様にマルガレーテや魔女に対しての間違った認識を変えてもらおうと説明する。
「そうね。私たち、間違っていたのかもしれないわ」
二人の話を聞いて、女性はマルガレーテによって手渡された薬をじっと見つめながらそう言う。
「じゃああとは教会の手先をやめる方法ね」
マルガレーテは立ち上がってよし!と気合を入れる
「教会にはあなたの住んでいるところはばれてるのかしら?」
そう聞くとおそらくはばれているだろう、という返事。
街の外にある村や畑なんていくらでもある。
そのなかの一人が教会に来たからと言って、どこの誰だかわかることは本来はよほどのことがない限り、ない。
けれども
「教会に相談したときに、村の名前や畑の場所を最初に詳しく聞かれたので…」
「じゃあこのまましらばっくれて逃げちゃうってわけにもいかないかー」
「なあ、マルガレーテ、逃げて教会の追手がくるのをビクビクして暮らすくらいなら、マルガレーテの家につれてっちゃおうよ」
グレテルが提案をするが女性の家族はお年寄りが2人。病人が1人。
決して移動するのに楽な人数ではない。
それに
「さすがに私の家は手狭だし、森の奥にお年寄りや病人を連れていけないわよ」
ヘンデアルとグレテルを除いても子供たちが5人もいるのだ。
なによりお年寄りに森の道はきついだろう。
「じゃあいっそのこと、村じゃなくてこの街に連れてきちゃうってのは?いまは空き家もいっぱいあるし」
ヘンデアルがそう提案をする。
「僕たちには逃げられた、もしくはこなかったから、引き続きここで見張るって言えば、裏切って追われることもないだろうし。家族が近いほうが安心だし、それに何かあったら街なら隠れる場所もいっぱいある」
「でも畑があるでしょう?」
農家であるなら世話をしなくてはならないだろうそういって女の人を見ると
「ここ数年不作で手を入れても実らないことも多くて…」
「じゃあ!」
「うん、この街で様子を見るのはいいアイデアだね!」
「食べ物も定期的にもってこれるし」
そういって、三人がにっこり笑うと、女の人は
「ありがとう…」
そういって、泣き崩れた。




