まちのろじにて(改)
追記
2019年4月11日に加筆修正しています
3人は台車を引きながら1刻ほど森を歩き、昼前には町の入り口に到着した。
街の教会の目を避けたいので、野菜やパンを詰んだ台車は目立ってしまうため、町の入り口近くにある茂みに隠して、何度か取りに来ることにしよう、と話し合う。
3人は手に持てるだけの野菜やパンを袋に入れて、食べ物だと分からないようにし、町の中を進んでいった。
前日と同じように昼間だというのに道に人の影がやはりない。
「静かだね」
「うん…」
町の入り口から、町の中心へと歩いていく。
市場だったところを通り抜け、教会前の広場から裏路地に入る。
昨日留守だったおばさんおじさんが気になったからだ。
頑丈にした扉や窓を見る限り、無理やり誰かに侵入されたりしたわけではなさそうだったが、隣のおじさんは気が付いたら不在だったといっていた。
路地は広場より日陰な分、人がいない寂しさがさらに浮彫になる。
普通であれば買い物帰りの女の人たちがそこらで立ち話をしていたり、洗濯物を干していたり、子供が遊んでいたり、人の生活の息吹が感じられるはずが、まるで町の人が一切いなくなったかのようだ。
目的のおばさんの家につくと昨日と同じようにノックしてみる。
やはり返事がない。
「やっぱりいないね」
「隣のおじいさんにパンと野菜届けて、また来てみようか」
そんな話をしていると、路地向かいの家の扉が少しだけ開いた。
「あなたたち、ちょっと」
顔を少しだけのぞかせたおばさんが手招きする。
「なんですか?」
「しー!静かに、そっと入ってきて」
そういうと、薄く開けていた扉を開いて急いで、と家の中に招き入れてくれた。
家の中は、この街によくあるタイプの木で組まれた梁に漆喰の壁。
綺麗に整頓されていて、家主の性格が几帳面で綺麗好きなことがうかがえる、好ましいものだった。
「突然声かけてごめんなさいね。最近は昼間でも何かあると教会の衛兵がやってきてしまうから」
30代くらいの女の人は、僕たちに謝罪をしながら、椅子を勧めてお茶を出してくれた。
「向かいのホークウッドさんのお家を訪ねてきたの?」
「はい。僕たちホークウッドのおじさんにお世話になったので」
「お留守みたいなのですが、おばさんの具合が悪かったはずなので、心配しているんです」
「どこにいるかご存知ですか?」
ヘンデアルとグレテルはお茶を出してくれた女の人におばさんの居場所に心当たりがないか聞いてみる。
「そうなのね。おばさんの具合が悪いっていうのは聞いたんだけれども…」
女の人は少し考え込んだあと思い当らない、と首を振った。
お茶を一口飲もうとしたマルガレーテの手を制し
「ところで」
とヘンデアルが女の人に向かって質問を口にする。
「貴方はいつこの町に? たしかこの向かいはホワイトホーンさんのお宅だったと思うんですが。ホワイトホーンさんは都に行ってしまったとは聞いていたので、親戚の方か何かですか?」
「え…ええ、そうなの。父の遠い親戚のホワイトホーンさんを頼ってきたんだけれども、都に行ったと聞いて、此処をお借りして戻るまで待とうと思って…」
そういうと、何かをごまかすように咳をする。
「そうなんですね。あと、このお茶なんですが、僕たちお茶のアレルギーがあるのでせき込んでいらっしゃるならどうぞ」
自分たちに出されたお茶をその女性の口元にもっていくと、その手を振り払われた。
「あ、ご、ごめんなさい。ちょっとびっくりしてしまって」
「そうですか、すみません。じゃあこちらのお茶をどうぞ」
今度はグレテルに出されていたお茶を差し出す。
「あ、いや、私はいいので」
「でもせっかく入れていただいたお茶、捨ててしまうのももったいないですし」
そういって女の人の前に差し出したお茶を頑なに女性は触れようとしない。
「どうしたんです?ひょっとして飲めない事情でもあるんですか?たとえば何か薬がはいっているとか」
そういうと女性がびくっとし、扉に向かい外に出ようとするのを
「グレテル!」
「おっけー!」
グレテルが持ち前の力で簡単に抑えて、家にあった紐で手足を縛りあげる。
「教会の人?それとも領主サイドかな?」
柱にくくりつけた女性を見下ろしながらヘンデアルは質問する。
「‥‥」
質問には答えない、と言わんばかりにぷい、と横を向く女性の前にマルガレーテはしゃがみ込む。
「ねえ、なんで私たちに薬入りのお茶を出したの?それは誰の差し金?」
そういいながら、指で床にむかってくるくると円を描くと、それに伴ってちいさな風が起こり、床の埃がくるくると回る。
「あなた!魔女ね!」
それを見て、女性は見るからにおびえガタガタと震え始めた。
「わかった! 話す!話すから!!!! そうよ、私は教会の司祭に言われて、向かいの家にあなたたちが来たらこのお茶を飲ませて衛兵を呼ぶようにって言われていたの!」
教会の司祭の手先であることをあっさりと白状したのだった。




