むかしのおはなし(改)
追記
2019年4月11日に加筆修正しています
隣のおじいさんの家に3人が入るとおじいさんはすぐにドアを閉めて閂をかけた。
ドアから外の様子を伺っていると、何人かの足音が聞こえ、そして去っていく。
おじいさんは大きく息を吐くと、暖炉の近くにある椅子にどっかりと腰を下ろした。
「街外れの炭焼きの所の子だな」
ヘンデアルとグレテルの父を知っているらしいおじいさんはそういって二人を見た。
「母親が亡くなって、父親もなくなって、近くに住む農家の親戚に引き取られたと聞いていたが」
「この秋の飢饉で奴隷商人に売られそうになって逃げました」
「そうか…となりのも心配していたが、逃げたはずのお前たちがどうして街にいる?」
暖炉の火にあたりながら独り言のように聞いてくるおじいさんの声に、二人は森の魔女の家にお世話になっていることなどを簡単に話す。
「ということはそこにいる女の子は魔女の子かい」
二人の後ろに隠れ、どうしていいのか困っていたマルガレーテに問いかける。
「…そうよ。魔女よ」
何か文句があるの、と言うようにマルガレーテは身構える。
街の人々が魔女をどういう目でみるのかマルガレーテは知っている。
それだけ嫌な思いをしたからだ。
「ひょっとしてお前さんは5,80年前にこの街に来たことがある魔女かい?」
おじいさんは目をよく凝らしてマルガレーテを見ようとする。
「ち、ちがうわよ!」
「そうじゃよな…いくら魔女だとて、年をとらないわけがない。ヘンデアルとグレテル、そしてお嬢さん。いまこの街がおかしくなっているその原因だと追われる、この街の昔話を少し聞いてくれるか」
暖炉の鍋からお湯をすくうと、3人にお茶を入れながらおじいさんは話をしはじめた。
いまから80年ほど前。
この街の周辺一帯で今回のようにどんなに作物を育てても実らない時期が続いた。
王都に支援を頼むが、国全体での不作のため王都、王宮の備蓄も底をつくことになった。
子供は口減らしに捨てられ飢えて死ぬものが国中にあふれた。
そこに13人の魔女が現れた。
彼女たちは国中の街を回り、食べ物を与え、作物を枯れないよう農業指導をし、土にまじないをかけて豊作になるよう土壌を豊かにし、国中の人々を救おうとした。
人々は魔女に感謝をし、彼女たちを崇拝するようになった。
ところが、これを面白く思わなかったのが国の神を司る教会の司教たちだ。
人々の心が教会から離れると、政治に影響が出るだけでなく、お布施として集めるお金にも影響が出る。
魔女が街を豊かにし、10数年が経った頃。
彼らは魔女の悪い噂を町中に、国中に流した。その年はたまたま作物があまり育たない、雨の多い年だった。
作物が育たなくなったのは彼女たちの所為で、それを自分達で治すために国にお金を払うように言ってきている。治すことで手柄を立てようとしている、と。
「それは…!」
「君達が驚くのも無理もない。ただ、教会はそういうことを昔からしていたんだ」
話の途中でヘンデアルが声を上げると、おじいさんが緩く首を振って話つづける。
魔女のせいで作物が育たなくなった。
魔女がいたせいで牛や馬が死んだ。
魔女のせいで病気になった。
教会が流す噂は瞬く間に人々の間を回り、魔女たちは国から追われていった。
国境の最後のこの村で魔女は不作の畑を最後まで面倒みて、人々に食べ物を与え、飢餓から街の人々を救おうとした。
ここの教会と領主は魔女が悪い人たちではないことを知っていたからだ。
この土地の領主が兄で、教会の司祭は弟。
とても勤勉で誠実な人たちだった。
魔女たちを匿い、魔女が悪い人たちではない、と一生懸命人々に説いていた。
ところが、王都から兵隊がやってきて、突然彼らを捉えて王都へと連れて行ってしまった。
後には王都からやってきた領主と司祭がこの街を仕切るようになり、他の町と同じように魔女たちを迫害するようになった。
恩義のある人たちを捉えられて、救いたかった人たちに信頼されず、魔女は悲しみのまま、街を後にしたという。




