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変化

 頭の蔦を触ってみれば微かに動いているような気もします。ただそれは微細でいうなれば手首を触ったときに感じる脈のようなものです。ちょっとおかしいかもと思いましたが、周りに気づかれるような大きな変化ではありません。ならばなぜみなさんは私を注視してるのでしょう?

 そう思うと頭にやった手に違和感が生じます。蔦が手を這う感覚。ひもが手の中をすり抜ける感覚です。重力に負けて蔦が落ちてそれでみなさんに見られているのでしょうか。リボンでまとめて来たんですけどほどけてしまったのですかね。しかし手の中の感触でさらに違和感が増えました。落ちているのではなく上に引っ張られているのです。何も力を加えていないはずなのに重力に逆らうのはおかしいです。ここでさらに周りからの視線が強くなりました。後ろの後藤さんは机からできるだけ後ろに下がり私と距離を取っています。逆に青柳さんはデジカメを構えながら私にゆっくりと一歩一歩近づいてきます。その表情は驚愕でしょうか? 目は歓喜ですね。先ほどのプレハブで熱く語っていた時と同じ目です。ぶっちゃけ逃げたいですが椅子に座って体をよじり、振り向いているこの状況では席から立つこともままなりません。


「めぐみさん、落ち着いてこの写真を見てね」


 落ち着いていない青柳さんが今撮った写真をスマートフォンのディスプレイに映します。

 そこにはもちろん私が映っています。そして蔓も映っているんですが頭の上でつの字になってます。お昼までは朝にセットしたように、頭に冠のように巻いてあったのですがどうしたのでしょうか? 意識的に動かさなければこんな形になるのはおかしいですし、こんなたわんだ形で固定されるというのもおかしな話です。

 

「さっきからめぐみちゃんの蔦がグネグネと動いてるんだよ。それでみんな見てたの」

「え!? さっきからずっとですか!!」

「そうそう、午後の授業始まってからかな、ほら今も」


 私が声をあげて驚くと後藤さんは更に続けます。そして今度は自分のスマフォをセルフ撮りにして頭の蔦を見ると一直線に垂直に伸びていました。やっぱり勝手に動いています。


「ところでめぐみちゃんってさっきの数学の問題って5問目わからなかった?」

「ちょっと考えてしまいましたけどなんでわかったのです?」

「やっぱり……、えーっとね…。なんかめぐみちゃんが考えこんだら蔓がひょいって曲がったのよ。それでここから見るとはてなマークみたいだなって」


 私が疑問に思ったら蔓がはてなマークになる? そんな馬鹿なことが!?


「ほら、今一瞬曲がってまた上に伸びたね。疑問に思った後、驚いたのかな?」

「ちょっと待ってください。それじゃ私の思考は駄々洩れですか?」

「驚いたりわからない時だけだよ。そんなに細かくわからないから大丈夫」


 驚いたり、考え込むのがばれるってだけでも大したものな気もしますが細かい感情はやっぱり伝えきれないみたいですね。だけどなぜ突然こんな出来事になったのでしょうか?


「とりあえずみんな落ち着いてください。このことは他言無用ね。どこでも話しちゃいけない。見なかったことにしてくれるかな。そしてめぐみちゃんは後でプレハブね! ちゃんとデータ取らなきゃ‼」


 青柳さんがざわめくクラスを鎮め、口止めもする。こんなことすぐに広まりそうなんですが、岡村さんも睨みを効かせてますし大丈夫なんでしょうか。そして後ろの楽し気にプレハブに集合と言われたことも気になります。更にいつの間にか取り出したスマフォで授業中でもあるのに楽しそうに通話している彼女の姿に恐れも感じます。


「とりあえず授業に戻ってもいいか? 生田はその蔦がはてなの時は詳しく説明してやるから勘弁な」


 なんとなく授業に集中を欠いた雰囲気でしたが先生も無理矢理講義を再開させて問題を進めていきます。そこで私がわからなかった個所はこちらから言わずとも丁寧に説明してくれたので良かったというべきなんでしょうか?

 実際よかったというべきなんでしょうね。この学期の座学の成績はクラスごと軒並み上がりました。私のわからないところを重点的に説明していただいたので私の成績が上がったのはもちろんです。更に自慢ではありませんが私はクラスの中でも成績上位にいます。その私がわからない問題を丁寧にやったことでクラスメイトの応用への導入もできたそうで少しだけ他のクラスよりも平均点が高い状態となったのです。

 そんなことは置いといてもやはり無意識に感情が表に出てしまうというのは恥ずかしいですしわからないことをわかったふりすることもできないのですよね。何か意志を持ったものが住み着いているのか、それとも自分の意志が反映されているのか。これ以上何かが起こる前に刈り取りたいものです。

 その後の授業は青柳さんが落ち着かない様子でしたがそれでも無事に終わり、放課後です。普段なら楊枝がなければすぐ帰るところですが青柳さんが手ぐすね引いて待っています。そしてみゆとひろみも興味津々でこちらを見ていました。


「さあ、めぐみちゃん! 見知らぬ発見を探しに行きましょう!!」

「私たちもいいんですか?」

「ちょっと実験に協力をお願いするわ。それにやっぱり友達と一緒の方がリラックスできるし大丈夫よ」

「一応、隊長からは護衛を派遣すると連絡があった。なのでこれから少々息苦しいかもしれないが渡辺さんと浅井さんにも護衛が付くので承知してほしい」

「なんか護衛に守られるなんてドラマみたいだね」

「そうだね~」


 どんどんと話が膨らんできています。というかみゆとひろみは巻き込んでしまったのだけど大丈夫かしら。彼女たちにも護衛が必要だなんて危ないことがなければいいのですけど。

 そう不安に思いながらもプレハブの研究室に皆で向かい私はいつもの通り問診から受けることになりました。みゆとひろみは別室で他の研究員から今の状況を説明されるそうです。

 難しい顔をしている沢渡先生と楽しそうな表情をしつつも焦点が合っていない雰囲気の青柳さんの前に座り今の状況を質問されました。


「頭が痛いとかかゆいってことは?」


 特にないですね。


「動いているのって自分で意識したらわかるの?」


 言われるまで気づかなかったことですし、いまも動いているという感覚はないですね。ちゃんと手で触れば動いてるのは確認できますけど今どんな形なのかを判別することも不可能です。


「ほかの形に念じれば変えることはできるの? 例えば〇や×なんか」


 どうなんでしょう。〇! ×! 強く念じてみましたがどうでしょうか。びっくりマークになりましたか。じゃあ無理なんですかね。


「すこしリラックスしてやってみてください。強く念じれば全部エクスクラメーションマークになるのかもしれませんので」


 エクスクラ? よくわかりませんが静かに念じてみます。……まる。……ばつ。どうでしょう? ちょっと動いたけど形が決まらずに今度は冠に戻ったんですか。


「まるとかばつの形を想像しながらゆっくり念じてみてください」


 なるほど形を想像するんですね。まるはわっか、ぐるっと回る。ばつは交差、斜めにバビュン。


「これはできましたできました‼ まるとばつが表現できましたよじゃあ他にもいろいろと数字やひらがなとかも表現できるかもしれませんね。うまくいけば単語や短い文章も書けるかもしれません‼」

「だから青柳さん、昼も注意したようにちょっと落ち着いてください。今日調べたいのはこれ以外にもたくさんありますし、こんな実験よりもなぜこのようなことが起こるのかのメカニズムの方が大事です。これがわかれば応用が効くんですから。とりあえず脳波を取りながらこの蔦を動かしてみましょう。蔦にも電極を張ってどのような電気信号が流れてるか計測もしますか。すみませんが生田さん、こちらにかけてください。脳波を取ります」


 今日もまずは脳波を取って頭皮の皮膚組織の採取や髪の毛の採取、髪の毛がいつもより多く取られた気がします。

 しかも沢渡先生は髪の毛はペンライトで照らしてますし、青柳さんは試験管に今採取された私の髪の毛を入れて薬剤漬けにしています。何か変化があったのでしょうか?


「すみませんね。生田さんの髪の毛から葉緑体が検出されたというので少々髪の毛を多く採取させてもらってます。いつ生えた部分からかは研究中ですね」

「めぐみちゃん、一本だけ髪を染めさせてね。髪が一日に何㎜伸びるか測定するから基準となる髪を決めたいの」


 髪の毛に葉緑体ってあれですよね、植物が光合成する器官ですよね。なんかえらいことになってませんか? それって私は太陽光を浴びていれば栄養が補給できるってことですか? だとしたら食べる量を減らさないと太ったりしますか? それにそれに……


「落ち着いて落ち着いて、蔦が混乱してるよ。これだと手元が狂いそう。ちょっと深呼吸しようか。すーはー、すーはー。そうそうすこし落ち着いたね。まだわからないことだらけだから一緒に解明していきましょう」


 青柳さんが思考の渦に囚われていた私を落ち着かせてくれました。染める髪はわかりにくい位置に隠れている髪となりました。一本だけ違うというのも少し気になりますがしょうがないですね。

 検査と診察が終われば今日のところは帰って大丈夫だそうです。葉緑体のことは数日かけて調べるので来週頭にはわかるとのこと。そのころには遺伝子検査もわかるんでしょうか。


「やっと終わったの? お疲れ様~ 話聞いたけど私のオムライスのグリーンピースが原因なんだって、なんかごめんなさい」

「まるでドラマだね。私ものどに詰まらせたら同じことになったのかな? 私たちも協力するから早く育ち切るといいね」


 みゆには謝られましたけどそれでもだれも予想できない結果ですし、もちろんわざとじゃないので気にしてませんと答えました。ひろみはまるでもしかしたら自分もと言っていましたが大変なのでならなくてよかったのでは?

 帰るタイミングで岡松さんが各自に旧世代の液晶と番号のみの携帯電話を渡してきた。


「これから3人で話すときはこちらの携帯を使ってください。盗聴やハッキング対策をしています。万が一でも情報を他の国に盗られたら面倒なことになりますので。逆に彼女たちにはどんな相談をしてもかまいません。その方が精神的な安定にはつながるでしょう」

「でもこれ使うと録音とかされるんじゃないですか」

「いや、そういった処理も噛んでいません。情報を残さない方がよいと判断しましたし、あなたたちの会話の中で後に必要となるものはないと判断しています。何か不満や希望がありましたら直接私どもに言っていただければ随時対応しますので気軽におっしゃってください」

「はいわかりました。それでは私に関することだけはこの携帯電話を使えばよいのかしら?」

「そうですね、こちらのアドレス帳には研究員と警護、医者、学校教師の連絡先を登録しています。また緊急時は数字ボタンの長押しか電源を切ることで緊急のアラートとなりますのでご承知おきください」


 段々と周りを巻き込んだ大事になっていきますね。緊急アラートが必要なほど私は危ないのでしょうか? まあ収穫さえされてしまえば過去の人となることでしょう。あと一か月程度です。我慢しましょう。




 まだ現実味がなかった。ドラマのような非現実が立て続けに起こったからだろう。他人事の感覚だった。緊急アラートなんて防犯ベルと同じことかな、なんて思ってもいた。異物は叩かれるか持ち上げるか。決して一緒の立場ではないのだ、人間社会にとっては。

 新しい人間の形。それは私の周りの心を変えていくのには大きすぎる変化だった。まだまだ奇異の視線で見られるというのは序の口である。次第に私への期待は膨れ上がるのだった。


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