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秘密


 プレハブに入ると沢渡先生が出迎えてくれ、お茶まで用意されていました。教室より冷房も強くちょっと肌寒いです。なので温かいお茶はとてもありがたいものでした。


「うわー、なにこれ。こんな風になってたんだ。突然工事が始まってこのプレハブが建った時は何が起きたんだろうって思っていたんだけど中を見るとすごいね」

「そうだね! みてみてこんなにお菓子やジュースもあるよ。それに病院で見るような機械もいっぱいある」


 みゆとひろみは中の設備を見て目を丸くして驚いていました。確かに学校のグラウンドに突然できたプレハブの中にこんな設備が整っていたら驚きますよね。まだ私も全部は知りませんけど放射線注意と扉に書いてあるあの一角にはレントゲンか何かがあると思いますし、心電図モニターやら点滴を吊るすラックなどもあります。確かにこの中は非日常ですね。まあ私の頭が一番非日常なんですが。

 先に沢渡先生と午前中の報告をしていた青柳さんがきょろきょろと置いてあるものを観察しているみゆ達に


「こちらに座ってください。ここでご飯を食べるんですよね。その際にそちらの渡辺さんと浅井さんにも伺いたいことがあるので食事の間にでもお聞かせください。あとこの中で聞いたことは他言無用でお願いしますね」


 青柳さんの指示に従い席に着くみゆとひろみ。私も二人の方に椅子を少しずらします。それにしてもみゆ達に確認したいこととは何でしょう?


「まず確認したいのがあなたたちは体に異常はないのかしら? 頭が痛いとか変な貧血とかの症状はない?」


 みゆとひろみは顔を見合わせて


「ないなぁ」

「ないですよ」

「そうなの、じゃああなたたちには種が根付かなかったのかしら? それでグリーンピースを使ったお弁当を作ったのはどちらだっけ?」


 なんの話か分からずに首を傾げてます。私は問診でも聞かれたのでいつのどんな話かは分かるんですが青柳さん、説明が足りないと思いますよ。


「えっと、みゆちゃんです。茶色の髪の子の方です。彼女が作ってくれたオムライスにグリーンピースが入ってました」

「ああ、そうだったわね。ありがとうね、めぐみちゃん」


 私がフォローすると青柳さんは私にお礼を言ってから、恍惚の笑みを浮かべて言葉を続けました。


「そうそう、あなたの作ってくれたオムライスのおかげで新しい時代が幕明けたのよ。誇っていいわ。この技術が再現できれば耕地面積がなく飢餓が絶えない地域でも農業を進めることができるわ。それに日本でも栽培できなかった植物が作れるかもしれないしいで」

「青柳、そこまでだ!! それは知らなくていいことだ。知ったときに秘密を守れるのか考えろ!! 特に渡辺さんと浅井さんはさらに関係ない。彼女らまで巻き込むぞ! それにまだ実現できると決まったわけではないんだ」


 声を荒げて青柳さんの言葉を遮る沢渡先生。こんなに怒った沢渡先生を見るのは初めてです。むしろ焦っているような感じもしますが。

 しかし私が知らなくていいこととは何でしょうか? 私の体のことなのに私に隠されていることが多すぎます。先ほどの写真のこともそうですし、いまは栽培なんて言葉が出ました。また私の頭に何か植物を植えるのでしょうか? もう早く普通の生活に戻りたいです。

 

「いまの青柳さんの言葉は忘れてくれるとありがたい。実際私は渡辺さんと浅井さんがこのプレハブに入るのは最初は反対だったんだ。しかし同じ症状を発症する可能性があったのと、この事態を引き起こした根本的な原因である渡辺さんと話をしたかった。青柳さんにもおなじようなことを言われて私も気になって許可したんだよ。ただこんな事態になるとはね。ちょっと僕らは席を外して話し合ってくる。君たちはここでご飯を食べてるといい。昼休みが終わる前に教室に帰らないといけないしね。また放課後にでも質問させてください」


 そういって沢渡先生は放心状態の青柳さんを押してパーテーションで区切られている問診室の方へ移動しました。みゆとひろみは沢渡先生の突然の剣幕と彼女らの発症の可能性、そしてみゆは原因と言われて驚きで言葉が呑み込めないのか目を白黒させています。みゆの作ったオムライスのグリーンピースがこの事態の発端というのは私が説明してもよいのでしょうか? それともこの説明も放課後に沢渡先生からしてもらいましょうか? そうですね。説明は後回しにしてご飯を食べちゃいましょう。


「ねえ、めぐみちゃん。さっきあのお医者さんが言ってたことって」

「私が説明してよいのかわからないわ。なので放課後にまとめて話すということでいいかしら?」


 説明は後回しにして、説明係も他人任せにしようと決意した私ですがみゆは食い下がります。ひろみも気になったみたいで


「いや、気になって午後の授業に集中できないから」

「そうだよー、なんでめぐみちゃんの頭に草が生えたのか気になるじゃん。しかも私たちにも可能性があるなんて他人事じゃないじゃん」

「みゆちゃん、ひろみちゃん! とりあえずお昼にしましょう。午後の授業に間に合わないわよ」

 

 ちょっと大きめの声を出しながらお弁当箱を開きます。強制的にお昼としましょう。


「もう、あとで詳しく教えてね」

「気になるなー」

「ちゃんと後で教えますから」

「あのお医者さんの判断だよね」


 まあ沢渡先生がどこまで説明するのかはわからないです。しかしそれは任せてしまいたい。そう思っていると思わぬところから声がかかった。

 入り口付近で待機している岡村さんが私たちの方に近づき話し始めた。


「いや、失礼ながらこちらが判断する。現在真野隊長に連絡を取り判断を仰いでいる状況だ。正直このプレハブに入れるのもかなりの危ない橋を渡っているんだ。これで彼女らも要護衛対象となる可能性は高い。何も知らなくてもこの中に入ったということはいろいろと目を付けられる可能性があるんだ。しかし青柳さんが研究のために必要だと沢渡先生と他の研究員を説得し許可をもぎ取ったので止む無くだ。これからあなたたちも覚悟していた方がいい。すでにからめとられているのだから。とりあえず私の独断で午後の教室での護衛は二人体制とする。多田、準備しろ!」

「はっ!」


 多田と呼ばれて敬礼をしたのは30台前半くらいの男性でした。細面の長身ですが髪の毛はオールバックで黒のスーツを着てます。それでもあまり印象に残らないタイプですね。もし髪型を変えたり眼鏡をかけたら私はあの人を見つけることはできないと思います。

 しかしみゆとひろみを巻き込んでしまったのでしょうか? 今日、私がお昼をここに誘わなければこんなことにはならなかったのでしょうか。後悔がよぎります。これから先、二人を危険な目に合わせるかもしれません。護衛が付くということはそういうことなのでしょう。


「めぐみさん、気に病むことはないですよ。彼女らに護衛が付くのは既定路線ですし、密かに彼女らの周りは警戒してました。逆に近くで守れる口実ができたので今回のことで自分を責める必要はありません」


 岡村さんが慰めの言葉をかけてくれました。しかし二人にも護衛がすでについているということはどういうことなんでしょう。二人も初耳だったみたいで岡村さんに詰め寄ります。


「じゃあずっと監視されていたってことですか? 何も聞いてないですよ」

「キャー、お風呂とか覗いてないですよね。私の寝室とかも」


 詰め寄られた岡村さんはたじたじになっている。それは体格のいいスーツを着た警官が女子高生に押されているということでちょっと面白くなってしまいます。それでも岡村さんはグイっと二人を軽く押し戻して


「大丈夫だ。家の周りを巡回して不審人物を確保しているだけだ。決して家の中に細工や覗きなどはしていない。宅配物と郵便物は検査させてもらっているがな」

「なんでそんなことになってるんですか」

「詳しい説明は放課後だな。先ほどは説明をするかの判断はこちらで行うといったがおそらく許可はもらえるだろう」

「そうなんですか。じゃあ楽しみにしとこ」

「みゆちゃんよく楽しめるね。私は何が起こるかわからないから怖いよ」

「もう巻き込まれてるからね! だったらどうしてこうなったか知りたいじゃん」


 正反対なことを言う二人。確かにみゆの言うことにも一理あるかもしれません。もう巻き込まれているようなので逆に知らない方がとっさの判断ができないので危ない気もします。そのあとも不意に二人から質問をされますが主にSNSで拡散してることが精神的につらいと思わずつぶやけば慰めてくれます。本当に打算や義務でない優しさを向けられて涙が出そうになりました。

 そんなこんなでゆっくりとご飯を食べ終えた私たちは授業開始5分前の予鈴を聞き、慌てて教室に戻りました。青柳さんもしれっと私たちと一緒です。沢渡先生からのお説教は終わったのでしょうか。

 そしたら教室ではプレハブの中にいたことはばれてたようで教室に入るとクラスメイトが護衛の方を気にしながらも恐る恐る取り囲まれます。ただ先生も教室に入ってくるわけで


「お前ら、席に着け。もう授業始まってるぞ!」


 先生の声に皆、渋々ながらも席に着きました。やはり明日もあのプレハブでご飯を食べましょう。そうしないと質問攻めでご飯どころではなさそうです。そして二人にも護衛が付くというのがわかります。あの好奇の視線が二人にもちらちらと向かっているのです。それが学校の外部でもというのならやはり二人をあのプレハブに誘ったのは失敗だったのかと後悔しました。

 だけど一人でご飯というのも寂しいですし今日は二人と話せて楽しかったです。それに一人で秘密を抱えるのは疲れてしまいますし、なんでも話せる友達というのはかけがえのないものです。


「ねぇ、……ねぇねぇ……」


 そんなことを考えてると後ろの席の後藤さんから小声で呼びかけられます。授業中なのにどうしたのでしょう。ふと顔をあげて周りを見渡すと私の頭に皆の視線が集中しています。ここまではっきりと見られているというのがわかるのも珍しいですね。特に先生と私より後方の列のざわめきが止まりません。教室に用意された椅子に座っているはずの青柳さんも立ってこっちを見ています。

 またなにか大変なことが私の頭に起きたのでしょうか? ちょっと不安になります。


「おぉ~」


 なんか声を揃えて歓声をあげられました。歓声といってもスポーツの試合などの激しいものではなく動物園でパンダを初めて見た時のような感動の入り混じったものです。だけど私は珍獣じゃありませんよ。多分、きっと。しかし突然何が起きたのでしょうか。午前中で皆慣れてクラスメイトからの視線は少なくなっていましたのに。

 そして手を頭にやってちょっと確認します。すると少々違和感がありまして。


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