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披露

 学校の教室に入るとひろみの机の前の椅子にみゆが座って話していました。私も会話に加わろうと近づけばみゆが気づいてくれて


「おはよー、めぐみちゃんはどんなお弁当持ってきた?」

「おはようございます。私は」

「ねえ、ここはお昼のお楽しみにしようよ。だけど今回はちゃんとお母さんのお手伝いしたんだよ」

「だけど二人はもう何を作ってきたのか話してたんじゃないですか? 私だけ仲間外れはひどいです」


 ちょっと拗ねたような感じで抗議すると


「大丈夫だよ、まだ話してないから。ちゃんとめぐみちゃん来るまで待ってたんだから」

「そーだよー、私は気になるのにひろみちゃん教えてくれないんだよー」

「まあ、みゆちゃんが何作ってきたのかは聞いちゃったけどね。ほらめぐみちゃんにも教えてあげなよ」


 みゆは作ってきたお弁当のことを語りたくてしょうがないらしくホームルームが始まるまで止まらなかった。作ったものはちゃんとレシピを見て色合いとかも選んで作ったらしい。ひろみも元々手伝っていたということもあり、みんな実は私よりうまいんじゃないかと思い、お昼ごはんが来るのがちょっと気が重くなりました。

 結局お弁当のメニューは言わない、というかひろみが言わせなかった。お昼まで楽しみにするのがいいらしい。

 そして午前中の授業が終わりお昼休みとなりました。今日は教室ではなく大きな机がある中庭で食べようってことになりましたので、お弁当を入れた保冷バッグと水筒を持って3人で移動しました。

 結構争奪戦が激しい場所なのですが運よく一つ空いていてそこを確保して一息つきます。四角い大き目の机なのですが真ん中にパラソルが立ててあり、ちょっと暑くなってくるこの時期でも日影ができて涼しいんで人気なんです。

 さてお弁当のお披露目です。いつもはお弁当箱が一つなのですがおすそ分け用で作ったものを入れた小さなタッパーも取り出します。ひろみやみゆも考えることは一緒のようでちょっといつもより容器が多いみたいですね。


「じゃーん、見て見て! ねこちゃんとわんちゃんのオムライス」

「いっせーのせまで待とうって言ったじゃん。私はまだ準備中なんだよー」

「ひろみちゃん、落ち着いてください。そんなに急がないで」

「いいじゃん、お昼休みは短いんだしスムーズに順番に見せていかないと食べる時間ないよ」

「そうだけどー、じゃあ私のは後で見せるね。それでみゆちゃんはどんなお弁当なのかな?」


 ひろみは自分のお弁当を入れたきんちゃく袋を開ける手を止めて、すでにふたが開いたみゆのお弁当箱をのぞき込みます。つられるようにして私ものぞき込むとそこにはいろんな動物の形にあしらわれたお弁当の中身が見えました。


「メニューはオムライスとカボチャとブロッコリーのサラダで、あとはウインナーだよ。オムライスはねこといぬの形にしてみた。サラダはくじらさんでウインナーはたこさんとかにさんだよ」


 オムライスはねこといぬの形のおにぎりをピラフで作り、薄焼き卵で巻いたものということでした。カボチャサラダは半球状によそったものの上に細くそいだブロッコリーを刺したものでクジラらしいです。あとは懐かしい感じもするたこさんとかにさんのウインナーです。昔はお弁当にこれが入っているととてもうれしかった記憶があります。


「わーい、動物園みたいだね。このねこさんのオムライスかわいい!」

「ちょっとクジラはむりやりなきがするけどね。だけどオムライスは自信作」

「面白いですよ。私はこんなにしっかりとしたコンセプトは決められなかったので」

「そうなの? じゃあ今度はめぐみちゃんのを見てみよう」


 ひろみに促されて自分のお弁当を包んでいる布を開く。そしてふたを開けたら


「わあー!! おしゃれ。だけどご飯がないの?」

「星形のコロッケとか作れるんだ。めぐみちゃん、揚げ物も自分でしたの?」

「ご飯の代わりにパスタにしてみたのよ。揚げるのはお母さんに手伝ってもらったわ」

「揚げ物は大変だよね」

「お母さんに手伝ってもらったんだ。いいなぁ。わたしはお兄たちのお弁当があるからってあまり手伝ってくれなかった。そして朝ごはんが私が作ったオムライス」

「私もお弁当に使った材料の余りでお母さんが朝食を作ってたわ。それに昨日のうちにコロッケは作ったので昨日の夕飯もコロッケよ」


 今朝、目玉焼きを失敗しそうになったことは隠しておきましょう。だけどやっぱりお弁当は何かのついでになることが多いのかしら?


「これはパスタなの? 何か麺って感じではないけど」

「ペンネっていうらしいわ。ちょっと太いマカロニみたいなものかしら? お母さんがみんなで分けるならこっちの方がいいんじゃないって」

「そうだね。ちょっと食べていい?」


 ひろみがフォーク片手に聞いてくるのでお弁当箱を少しずらしてあげます。するとフォークで一本だけ取っていきました。


「どうぞ、みゆちゃんも食べていいよ」

「わーい、ありがとー。じゃあ私のもお裾分けするね」


 続いてみゆも私のお弁当からペンネを取っていきます。逆にみゆのお弁当箱を差し出してきたのでどれを取っていいのか悩んでると


「オムライス食べていいよ。こっちにもあるから」

「じゃあそちらをいただくわ。自分のお弁当は自分で食べた方が良いわよ」


 やっぱりみゆも少し多目に作ってきたらしいです。それならばお弁当の方じゃなくて別に用意された方をいただくことにします。


「ペンネって美味しいね。中にミートソースがつまっていて噛むと口の中に飛び出るの。それじゃ私のお弁当も紹介させて! 今日は自信作なんだよ!」


 ひろみは私の作ったペンネを褒めてくれました。自分が作ったものが褒められるってちょっと気恥ずかしいですが嬉しいものですね。今度、お母さんにちゃんとお礼を言いましょう。

 そして彼女のお弁当が今度は机の真ん中に来ました。私はみゆのオムライスに伸ばしていた手を引っ込めます。一方でみゆの方は身を乗り出してひろみが開けるのを待っていました。

 ひろみがお弁当を開けるとそこには色とりどりのサンドイッチが詰まっていました。ハムサンドにタマゴサンド、イチゴジャムやピーナッツクリームなどいろいろなサンドイッチが小さいサイズに切られて並んでいます。きれいに並んだサンドイッチはまるで宝石箱のようでした。

 みゆのは動物園、ひろみのは宝石箱、だったら私のは彼女たちにどう見えているのでしょうか?


「私のもおすそ分けしようと思ってちょっと多めに作ってきたからみんな食べてね」


 ひろみがそう言うと、何かに気づいたようなみゆがつぶやきました。


「みんなでちょっと多めに作ってきたならおなか一杯になっちゃうね。食べきれるかなぁ?」


 確かにわたしも普段のお弁当より多いですし、みゆやひろみも多めに作ってきたということは合わせれば4人前か5人前の分量となりそうです。自分で作ったからこそ残したくはないですが、おなかのことを思うとちゃんと節制しないといけないと、とも思います。ちょっと背中に汗が出てきそうですね。暑いからというわけでなく……。

 私たちは顔を見合わせ、


「今日は特別! うん、パーティーだね!」

「そうそう、明日のお弁当減らせば……」

「そうね、せっかく作ったからには残したくはありませんし」


 今日だけ「特別」というみゆの一言につられて考えないことにします。都合がいいように考えるのも時には大切です。みゆにもペンネはおすそ分けして自分のお弁当を減らします。逆にひろみからはハムトマトサンドがおすそ分けされました。他にもジャムサンドなどの甘いサンドイッチもです。コロッケも一つずつ配り、ポテトサラダのキャベツ巻も一切れ配っていきます。結局いろいろと混ざって混沌としてきましたね。というかこれはすべて食べられるのでしょうか?

 自分のお弁当を食べながら、みゆ達の作ってきたものにそれぞれ感想を言い合いながらも食べていると次に手に取ったのはみゆの作ってきた動物オムライスおにぎりでした。

 かわいいので食べるのがもったいないと思いつつも一口かじります。味自体は普通にオムライスですのでおいしいです。しかし歯にカリッと当たる何かがあり、その違和感につい手の中にある一口分が欠けてピラフが露わになったおにぎりを見ると例の緑色のあれがいるではないですか。吐き出すわけにはいかないので思わず飲み込みますが変な飲み込み方をしたせいでむせました。


「けほっ!、けほっ!」

「めぐみちゃん、大丈夫? ほら水でも飲んで落ち着いて」

「けほっ、あり…がと……」


 となりにいたみゆが背中を叩きながら私の水筒を開けて取ってくれました。そのお茶を一口飲むとむせたのも治り調子が整いました。だけど鼻の奥にちょっと違和感が残りましたが、そのうち治るだろうと思い深く考えなかったのです。


「ありがとう、みゆちゃん。ちょっとのどに詰まっただけだから」

「のどに詰まったら危ないよ。それに私のオムライスが死因じゃ一生後悔するし……」

「ふふ、そうね。みゆちゃんを殺人犯にしちゃうところだったわ」

「だけどめぐみちゃんはむせる前、何に驚いてたの? 目を見開いてたよ」


 目の前に座るひろみからは私の表情がよく見えていたらしくこんな質問を投げかけられます。ごまかすのも変ですしここは正直に話してしまおうと思います。


「ごめんなさい。私、グリーンピースが苦手なのよ。だからピラフにグリーンピースが入ってるのを見て驚いてむせてしまったの。みゆちゃんが作ってくれたものなのにほんと申し訳ないわ」

「あー、そっか。嫌いじゃしょうがないよね。私も茄子が嫌いだからこれどうしようか悩んでいたんだ」

「もう、好き嫌いはめっだよ。ちゃんと食べないと」

「じゃあ茄子は私が食べますね。それで申し訳ないんだけどグリーンピースだけ避けていただくわ」

「はい、じゃあ、あーーん」


 ひろみはあまり好き嫌いがなく笑いながら私たちに好き嫌いはダメだと怒っていたが、みゆは箸で茄子をつかみ私の口元に差し出してきた。なので私もパクッとそれを食べる。


「だけどちゃんと生のグリーンピース使った自信作だったんだけどね」

「あー、だからかな。さっきのオムライスの中にあまり火が通ってないグリーンピースあったよ」

「えっ、ほんとに? じゃあ重ね重ねごめんなさい」


 その後は何事もなく昼食を終えることとなった。まあ食べ過ぎで午後の授業が眠かったのはご愛敬です。




 しかしこの日を境に私の平穏な生活は破られることとなった。



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