表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

結実

 あれから三日。すぐに花びらは落ち、中心が成長してきました。もう小さな花だった名残はなく、まだ小さいですが細長い鞘状の実となっていました。日々の大きさを測定していますが、日に日に大きくなっていく実を見るのは毎朝の楽しみになりました。収穫までもあと早ければ一週間ほどですね。サヤエンドウとして収穫するならば明日、明後日でもいいかもしれません。発芽してから一か月弱で収穫となり、私でも異常だとは思います。そして青柳さん曰く、この成長の早さもいろいろな可能性を持ち合わせていると考えられており、研究者をうならせているそうです。

 今後の予定としてはまずはサヤエンドウとして一部を収穫し、食用に適するかを確認するそうです。そして今度はもうちょっと大きくなってから収穫し、グリーンピース。考えただけで嫌ですね。サヤエンドウのうちに全部収穫してしまいたい衝動にかられます。最後に固まってちゃんと種の状態になって収穫でこれは次世代を残せるか? 次世代はどのような特性を持つのかを調べる元になると言われました。これで枯れるはずなのでそうしたら私の頭に残る根を全て摘出するそうです。こちらが1週間ほどの入院が必要とされているので期末試験や夏休みに被らないことを祈るだけです。


「もう結構大きくなったよね。めぐみちゃんは収穫したら食べるの?」

「どうしようかと思ってます。グリーンピースは絶対嫌ですし」

「私のグリーンピースが発端だからね。なんかすごいことになったけどこのエンドウ豆は私とめぐみちゃんの子供だね」


 みゆが変なことを言い始めました。確かにみゆと私の協力? でできたものではありますが、育てたのは私ですよ。そういうと、じゃあ私は家庭をかえりみなかったお父さん役だねと言って更に笑ってました。


「だけどめぐみちゃんがこれを食べるのは共喰いになっちゃうんじゃないのかな?」

「自給自足ともいえますよ。だけどもうちょっと食べておいしいものがよかったですね」

「そうだね。イチゴとか果物の方がおいしかったかも。そうしたら私も分けてもらったのに」


 ひろみが少々とぼけたことを言っています。だけど頭の上にイチゴがあったらついつい摘まんでしまいそうですね。それを考えると地味なサヤエンドウでよかったんでしょうか。


「だけどこれで送迎付きの優雅な生活も終わりかぁ。またラッシュの電車に揉まれる日々だよ」

「一応1学期中は今と同じだそうですけどね。収穫して出せる情報を出してしまえば脅威は減ると真野さんが言ってました。私もやっと家に帰れますよ」

「あの学校占拠事件は驚いたもんね。それにめぐみちゃんの家には侵入者も来たんでしょ」

「蔓で縛って確保したってやつだよね。犯人もあんな捕まり方するとは思わなかったんじゃない?」


 やっと夏休みになれば日常が帰ってくることに安堵感を覚えつつ、いろいろな事件を振り返ります。結局彼女たちが襲撃されることはなかったそうで直接巻き込まなくてよかったと本当に思います。


「そういえば蔓ってもうあまり動かないの?」

「全然動かないわけじゃないんですけど、幹が太くなったせいか動きが鈍くなった感じですね。それにあまり曲がらなくもなってますね。今の感じですと人を縛るのは難しいんじゃないでしょうか?」


 花びらが散ったころからでしょうか、蔓が太くなり動きが鈍くなりました。なので冠型にすることもできず少しは曲げて低くしていますが、その影響で幹が絡まりあって頭の上がジャングルです。教室の入り口とかいろいろなところで引っかかってしまってものすごく移動に手間がかかります。送迎の車も室内が広いマイクロバスになりました。しかも特例で床にクッションを置いて座っているんですよ。

 同じ理由で教室でも前にいると後ろが見えないということで一番後ろの席で固定ですし、水泳の授業も折り返しのターンができませんでした。

 やはり結構生活に制限ができるのでこれからも解放されるのはうれしいです。

 

「めぐみちゃんの髪とかもどうなるんだろうね? いまって光合成してるんでしょ。やっぱり植物のおかげでそうなってるなら枯れたらなくなっちゃうかな」

「とりあえず少し切りますよ。研究のためと言われて切らせてくれなかったんですよ。なのに髪の伸びるのは早いのでもう腰元まで伸びてますし」

「それに黒から農緑にグラデーションになってるよね。どこらへんで切るつもり?」

「いっそのこと黒い部分を全部切ってもよい気がしますが、背中の真ん中付近でしょうか」

「だったらショートヘアにしてみゆとおそろいとかは?」

「そこまでの勇気はないですね。それに長い髪は気に入っているので」


 髪の話題になっていると横から割り込んできたのは


「髪を切るならうちの研究所が買うよ。イザナギ製薬の方で植毛や育毛剤としてのサンプルがほしいんだよ。てか研究材料だから切った髪は他でも欲しがってるんじゃないかな? 美容室セットはこちらで用意するのでそこで髪を切るようにしてね」

「普通に美容室に行ってはダメなんですか?」

「その後、その美容室が強盗に入られる可能性もあります。なので美容師さんをお招きするという形で被害を防ごうかと考えています」


 青柳さんが混ざってきて急に物騒な話題になりました。襲撃される可能性とかあるんですか? 岡村さん。心配しすぎの気もしますが、それでも用心を重ねることに否はないので従いますけど。これで用心を怠って何かが起きて後悔するのは嫌ですからね。


「それでこれからの予定なんだけど、いまめぐみちゃんのサヤエンドウはちょうど60鞘あるのね。それで1鞘当たり8から12粒の豆が入っているわ。鞘ごとに交配の有無等があってあまり一定ではないけど3回に分けて収穫したいと思っているの。サヤエンドウの状態、グリーンピースの状態、そして種子として完成した状態ね。毎日成長を見てはいるけど急に今日収穫しますってことになる場合もあるわ。それと収穫なんだけどはさみで切っちゃって大丈夫? 手摘みの方がいいならそっちにするけど」


 いきなりまじめな話になってちょっと戸惑いましたが、収穫の順番ですね。それは大丈夫です。はさみか手摘みかもどちらでもあまり影響はないですかね。


「はさみでいいですよ。痛覚があるとかそういう感じでもありませんし、最近は更に感覚が鈍っているので大丈夫です」

「そう、じゃあそう伝えておくわ」

「これで収穫が終わったらとうとう終わりですね。青柳さんと会えなくなるのは寂しいですね」

「いや、毎日ではないにせよ当分私と会うと思うよ。さっきの髪のこともそうだし、事後の体調変化のデータも欲しいしで」

「私も当分は生田家の警護に就くので以後もよろしく」


 収穫後もまだまだ振り回されるみたいで私の非日常は続いていくそうです。なんの気兼ねもしない日常はどこにあるのでしょうか?


 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ