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成長

 あの会議以降私の周りの護衛の数も増えましたし、プレハブの中の研究者の数も増えました。とりあえず守ってくださるようで安心です。結局あの人たちがどうするのかわからないんですよね。研究の推進をするのか、それとも現状維持で観察中なのか。研究者も増えたことですしおそらく予算は増えているんでしょうけど、研究って何をしてるのかわからないんですよね。

 そうそう、つぼみもできたんですよ。今はまだ小さいですがおそらく来週までには咲くと思います。ちょっと楽しみですね。調べたところによると白か紫の花が咲くみたいですね。つぼみは白なのでこのままおそらく白い花が咲くのでしょう。

 それでも蔓が長くなって少しうっとおしいのもあるんですよ。いまは頭の上でとぐろを巻いていますが、まるで王冠のようになってしまっていていろいろなものにぶつかるんです。自分の身長に30㎝ちょっと足した状態なので190㎝ほどで車に乗るのも一苦労です。普通に190㎝の身長の方でしたら足の長さもありますが私は頭の上に30㎝を盛った形ですから上半身と下半身のバランスも悪いのですよ。ものすごく短足に見えてしまうのでこれも悩みどころですね。ただ蔓はうまく扱えるようになり今は蔓が伸びる範囲のペットボトルを取ってくるくらいなら朝飯前です。まあ歩いて取りに行った方が疲れませんけどね。こちらも毎日、朝と放課後に訓練という名の実験をしていますね。ただ面白くなって自宅でもついついリモコンを取るときとか冷蔵庫から飲み物を出すときにやってしまいます。お母さんからはものぐさするなと怒られてしまいました。だけど逃げ回っている蚊を蔓の一突きで仕留めたときには拍手されましたけどね。その蚊が吸っていた誰かの血は養分となりましたし一石二鳥です。

 しかしながら同じことを学校でやったらものすごく引かれました。ついつい耳元にぷーんと耳障りな蚊の飛ぶ音がしたのでほぼ無意識に机に叩きつけたらバシッと音が響いてしまって教室中が静まり返りました。それを見た周りのクラスメイト達の別の生き物を見るような目が忘れられません。更に放課後では沢渡先生を始めとした周囲の大人たちにも勝手な行動をするなと怒られたのです。無意識でやってしまったのでしょうがないじゃないですか。確かにやってしまったとは思いましたが怒る理由として秘密保持などの観点からと言われて釈然としないものを感じました。

 そんな非日常を送る私ですが警護の方が増えたのにもお金以外の理由もあるそうです。あの会議の後、情報が拡散されたので私と植物が持つ特性を嗅ぎつけた国や機関が誘拐計画を立てているというものです。こちらは隊長の真野さんから直接説明されました。自宅を含めて絶対一人にならないようにと。それは私の家族も同じです。できるだけ可能性はつぶしているが相手がどのような手段を取るのかもわからないそうです。そして動いている組織も一つではなく捕まれば実験体か鑑賞物、またはそれらの研究所や好事家に売り渡す仲買人ブローカーなどいろいろだそうです。そして一度捕まって国外に連れ出されたら二度と日常生活には戻れないだろうと警告されました。ここでプレハブで怒られた理由と私を取り巻く緊迫感がわかり、背筋が震えました。

 だけど警戒していても襲撃とは起きるものですね。私の乗っている車に車で突っ込まれ、その後も夜間に自宅に押し入ってきたりしました。一番ひどかったのは学校での立てこもりでしょうか? 

 車がぶつかった衝撃から蔓が私を守ってくれましたし、割れた窓からさらわれそうになったときも相手の腕を締め上げつつ首元にまで蔓を伸ばし窒息させてしまいました。その襲撃があって私専用の護身用の武器も作られました。ハバネロの粉塵の入ったカプセルとホットソースが飛び出る水鉄砲です。本来ならば取り扱うのに専用のゴム手袋を必要とするレベルなのですが元々が植物性のものなので私が蔓で触る分には問題ないのです。自宅への襲撃ではこちらが活躍しました。ちょっと粉塵が飛んできて私も涙が出ましたけどそれでも撃退できたので良かったです。

 一番ひどかったといった学校の立てこもりはとある男子生徒がWEBで知り合った誰かにそそのかされてやったというものでした。どこからか手に入れたナイフを片手にクラスメイトを人質に私とその少年を屋上に飛んでくるヘリコプターに乗せろというものでした。これは何が難しいかというと実行犯と人質がどちらも高校生ということで事態の解決を難しくしました。結局は稚拙な立てこもりなので警察の強行突入で型が付きました。

 しかしいま、この事件に関しての論議でワイドショーはにぎわっています。どうしてなのか、なぜなのか。この判断は間違ってなかったのか? いろいろな議論が沸き上がります。その中には私を否定するものもあり、最近テレビを見ることもしなくなりました。しかもこの影響で学校が休みになってしまったので、それを利用した研究所を回る毎日となり、自由な時間もなく遊ぶこともなく、最終的には開花も近いということで高岡さんが所長を務める研究所のベッドで泊まっていて家にも帰れない日々です。現在は自宅にも誰もいませんけどね。

 自宅への襲撃もあったので私の家族はホテルで暮らしているそうです。他にも私に近い人たちは全て護衛が付きホテル暮らしだそうです。おじいちゃん、おばあちゃん。叔父叔母にいとこ。ひろみやみゆも。

 未知のものというのは怖いと思います。怖いと思い忌避するひともいます。しかしそこに活路を見出す人もいますし、自分の利益に結び付ける人もいます。それらの感情に振り回されたのが今の状況だと思うと人の欲は怖いものだと思います。


「めぐみちゃん、大丈夫? 顔色が悪いよ。確かに環境は悪いけどね」

「青柳さん、大丈夫です。もうちょっとですので」

「顔も青いし最近よく眠れてないでしょう? 振り回している側が言うのもなんだけどもっと気を楽にして受け入れちゃいなよ」

「私が私でなくなるような気がするんです。私が異物に思えるんです。日常ではありえない状況でここが自分の場所とは到底思えないんです。私はどうなるんでしょう?」

「そうだね。いまは確かにありえない日常だね。それで非日常のあとに日常が戻ってくるかを考えるならば元通りの日常は戻ってこないのかもしれない。だけどそれは受け入れて進んでいくのが人の人生なんだよ。悲しい話だけど親が死んだ。親の勤める会社が倒産した。突然病気になった。交通事故にあった。こんなことで日常から切り離されるんだよ。だけどそれを受け入れた日常をいつの間にか作り上げて人生は続いていくんだ。だから受け入れればいいしこれが日常と思えるような、そしてそれを楽しめる余裕を持たないとね」


 今までの日常には戻れないんですか。そうですね、あまりにも違いますものね。だけど今の状況が日常になるのは嫌ですね。検査漬けの毎日でプライバシーも何もないある意味監視付きの生活。


「あとは新しい価値観を作れば自分が普通になれる。面白いじゃない。私もその蔦を自由に操ってみたいし、自分の身近に植物があれば空気がリフレッシュできるかもだし」


 確かに蔓を自由に操るのは楽しいです。腕が伸びたような感覚ですし、普段できないこともできたりします。そして価値観を変えるですか。そう、私は普通。頭に植物が生えているのが普通。生えていないのは異常で異端。そんな世界であれば私が普通。

 いつの間にか声が出ていたようで


「そうそう、頭に植物を生やすのが普通の世界となればめぐみちゃんは普通。ただの時代の先取り!」

「そうですね。私が普通。みんなが異常なんですね」


 その後様子を見に来た沢渡先生に顔色がよくなったと言われ、ほかの研究者の人たちからも萎びてた蔓にハリが出たと言われた。これなら開花ももうちょっとだろうと。




 かなりナーバスになっていた私はこの青柳さんとの話で脳内の霧が晴れてクリアとなった。私は開花と開花の先にある種が楽しみだった。もしかしたら私と同じ人を作れるかもしれないと。きっとそれは強い願いだったのであろう。そしてあいつは私の意志を汲むのがとてもうまかったんだと。

 しかし開花してからも受難は続くのだった。

 

 


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