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第三話

結局、その日はそれでログアウトした。

ちょっと精神的にくるものがあったんだ。あれは。うん。

オンラインゲーム初日の行動としては多少なりとも稼ぎだったりもう少し探索でもするべきだったんだろうが、気が衰えてなお行動するのは辛い。若い頃ならまだしも。

それに今回に限って言えば、掲示板に情報を載せた為に多少なりともエレンの母……ではなく父の依頼は達成出来て道具類を受け取る事が出来るだろう。

準備万端にした上で行動する、という風に考えればあながち損をしたという訳でもないだろう。



「……んん!?」


ログインして目に入った光景は異様な物だった。

エレンのは……いや父……もう面倒なのでエレンの店と呼ぶが、噴水広場からエレンの店に続く方面に対して先が見えないほどに長い行列が出来ていた。なんだこれ。

とりあえず目の前の並んでいる人に話しかける。


「あー……すいません、この行列は一体何ですか?」


「ん? ……っておお、装備かっこいい」


「お、ありがとうございます。旅人みたいで結構気に入ってるんですよ」


「なるほど旅人ロール……そういうのもあるのか。……あ、すいません、初期装備じゃないのが珍しくて。この列はエレンの雑貨屋?という店への行列ですよ」


「なるほど、やっぱりか……。ああ、いえいえ、気持ちは分かりますよ。こちらこそ並んでいるのに話しかけてすいません」


やっぱりエレンの店への列なのか。ログインする前に見た掲示板で並んでるとは聞き及んでいたが、まさかここまでの行列が出来ているとは……。


「大丈夫です、私も暇潰しになるので嬉しいくらいですから。……やっぱり、と言いますと。やはりあなたもエレンの雑貨屋で?」


「ええ、良い物を見繕ってもらったと思いますよ。……あの店で装備を買った私が聞くのも何ですが、この長すぎる行列は一体?他の店には行かないんですか?」


「いや、それがですね……ぶっちゃけ混乱状態ですよ。ほら、そもそもがマスクデータばかりで情報が全然無いですし、このゲーム表示も碌に無いじゃないですか。頭上にプレイヤーネーム表示すら無いし、そのせいでNPCとPCの違いすら判別し難いですし。……NPCをPCと勘違いしてナンパしてしょっ引かれる連中とか、それに巻き込まれて冤罪でしょっ引かれる町探索勢がいたりとか……」


「酷い事になってますね……というかしょっ引かれるんですか?このゲーム」


「はい、しょっ引かれるんですよ。リアルで12時間経ったら釈放されたみたいですけど……まあ、そんな訳なので例のスレの"金髪碧眼未亡人男の娘の人"が紹介してて、その文言に釣られて実際に見に行った人が多く、ちゃんと存在している事が確定してるエレンの雑貨屋に集まってる訳でして」


「なるほどなぁ……」


「……あ、見つけた!お兄ちゃん!」


確かにインパクト目当てにスレタイにはしたが、まさかそんな不名誉な渾名が付いているとは……と内心傷ついていると、聞き覚えのある声が脇から聞こえた。


「えーと……エレンちゃんか。これで依頼は達成、でいいだろう?流石に」


「まず来て!お願いだから!」


「えっちょっ」



そんなこんなで、凄まじい長さの行列でありながら一列を保っている行列を辿りながら俺とエレンちゃんは店へとたどり着いたのだ。

店の裏口らしき所から入り込む。


「お父さん、連れてきたよー!」


「! あ、大変申し訳ありません、しばしお時間頂けないでしょうか?……」


相も変わらず美しいソプラノの声を響かせながらエレンのお母……お父さんは店に入っているPCに声をかけてこちらに来る。

そしておそらくは店の居住区に繋がるであろう扉を開けて、妙に恭しく俺を招き入れた。


「この度は大変失礼な事を頼んでしまい、申し訳ございませんでした!」


「でしたー?」


そして俺を招き入れ、扉を閉めた瞬間凄まじい速さで二人は土下座して謝ってきた。


……?


「……えっ?あー、その……何故謝っているのか、聞いて良いですか?」


「追放者の方々がこれほどまでに大量に店に訪れるなど、追放者の長、あるいはそのような立場の方でしかあり得ません!」


「いやそんな事は無いんだけれども……それで?」


「追放者の方々が来すぎてもう在庫が無いんです!それに私どもの店はそれぞれの専門店から買い付けているので、この調子で私どもの店だけ売れていると売ってくれなくなるかもしれないんです!そうしたら私達は路頭に……ですので正直な所私どもが何の失礼をしたのかは検討も付かないのですが、お願いしますので追放者の方々をどうにかしてください!」


「……分かりやすい説明、ありがとうございます」


……マジか。いや、確かに理解はできる。要するに村八分にされるかもしれない、って訳だ。

他の店を差し置いてその店だけ馬鹿みたいに売れてしまうと、大なり小なり嫉妬は買うものだ。

それも質が良かったり立地が良かったり、あるいは安かったりなど納得のいく理由があれば他店舗の溜飲も下がるだろうが、この店は非常に入り組んで分かり辛い上に商品の大体を仕入れている、言わば卸売。

中世的な世界観のこの世界のNPCならば、これだけの行列ができる理由など理解は及ばないだろう。

……逆説的に言えば、そういう関係性が生まれるほどに高度なAIが全員に積まれてるんだよな。頭おかしいわ。


「……了解しました、出来る限りのことはしましょう。その代わりに」


「……代わりに?」


「この街の主要な、それぞれの店まで案内してくれません?」



「うおっ、熱っ」


「そりゃそうだよ、鍛冶場だもの」


あの後すぐにエレンちゃんを案内役に付けてもらい、俺はこの街……ファストの探求ツアーに出かける事となった。ちなみに街の名前はエレンちゃんから聞いたのだが……うん、すごく分かりやすく最初の街って感じだ。


「……おお、エレンの嬢ちゃんじゃねぇか!そこの兄ちゃんは誰だ?」


「おっひさー爺ちゃん!」


「爺……ちゃん……?血縁関係で?」


「ん?ああ、違ぇよ。エレンの嬢ちゃんにゃあ懐かれちまっててな、爺ちゃんなんて呼ばれてる」


そう言う鍛冶師の翁の顔は、粗野な口調とは裏腹に緩んでいる。

なるほど……エレンちゃんが案内役に付けられるだろうとは思っていたが、話は割とスムーズに行きそうだ。


「んで、そう問うお前さんは何もんだ?ただの客って訳じゃあなかろうに」


「そうですね、簡単に説明させてもらいますと……私は追放者でついこの間この街に来たばかりでして、右も左も分からない所を、エレンちゃんに彼女のお父さんの店を紹介してもらったんです。で、店を追放者仲間に紹介した所」


「追放者がほぼ全員そっちに行って在庫やらなんやらがにっちもさっちもいかねぇ上に俺達他の店に喧嘩売ってんじゃねぇか……と思って土下座でもしたか、あいつ?」


「すごいですね、全て正解ですよ」


「まあ、あいつとは長ぇからなぁ。あの野郎の奥さんにゃあ世話になった……っと、こんな話を初対面でするもんじゃあねえな。で?その追放者の野郎が何用だい?」


「はい。先ほど言った通りの状況ですので、あなたの店を追放者連中に"紹介"しても良いか聞きに来たんです」


「……紹介、ねぇ?」


「ええ、紹介です」



「……これで全部紹介したけど、どーお?良かった?」


「うん、最高。これでスタートダッシュ出来そうだよ」


そう言いつつ、鍛冶場の後に"魔導書店、薬局、雑貨屋、冒険者ギルド"に立ち寄った俺は、ちょっとした契約書数枚と"初心者用魔導書、初心者用携帯錬金術セット、大型リュックサック、冒険者カード"を仕舞いつつエレンちゃんの頭を撫でた。


……いやー、自由度高過ぎない?この世界。

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