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第二話

あの後すぐ自身がバタバタとポケットというポケットまでひっくり返して持ち物を確認し……なんでこんな事をするのかという疑問をエレンに問われたがどうとも答えようがなかった。この世界観の中でのプレイヤーの立場が分からない以上答えようがなかったのだ……、三日分の水に携帯食料、短剣一本とこちらの通貨で言う所の金貨一枚を見つけ出した後、通貨について問う俺に対して可哀そうな物を見る目で懇切丁寧に教えてくれた。

曰く、通貨は一番上から星鉄貨、白銀貨、金貨、銀貨、銅貨の五種類があるそうな。

星鉄貨は1G……1,000,000,000ゴールドの価値があり、専ら国家間の取引に使う。

白銀貨が個人が使うであろう貨幣の内で最も価値のあるもので、およそ1M……1,000,000ゴールド。まあ廃人プレイヤー御用達になりそうだな。

金貨は10k……10,000ゴールド相当。恐らく一般市民にとっては最も身近で大切なものだろう。万札だと思えばいい。白銀貨は言うならば札束だな。

銀は1k……1,000ゴールド、銅は0,1k……100ゴールド。

銅が最低単位の貨幣だとすると、ドル札が一番近いのかね。

さて、そうなれば当然の事ながら疑問が浮かぶ。


「なあエレンちゃん、一番価値の低いはずの銅貨の価値が大きすぎやしないかい?銅貨以下の価値の貨幣は?」


「え?余った分とかは物々交換ですよ?」


「……その分って自分で要求したり?」


「当たり前じゃないですか」


またもや何を当たり前な事を……といった目で見るエレンちゃんの視線を受けながら、俺は冷や汗を流していた。


……これ、やばいんじゃないか?


これってつまりあれだぞ、日本で言うならば要求しなきゃ百円以下切り捨てって事だぞ。

気づかないでいたらものすごい勢いで金が減る。

特にこんなあからさまに持たせた金で装備を整えろと言わんばかりの初期装備だ。細々とした物を買う人も居るだろう。

となると巡り巡って……。


……うん。

早急に装備を整えるか別の町に行く必要が出てきたかもしれない。

いや、装備を整えるのも場合によっちゃ危険か。


「よし、手に職をつけよう」


「おー、よくわかんないけど頑張れ推定無職のお兄さん」


「うん、少し分かってきたけど辛辣だよね君。……頑張るから道案内、続けて頼んでいいかな?

とりあえず両替所に行きたいんだけれども」


「え? 両替所? いいけれど……変なお兄さん」



「……本当に、変なお兄さん。

何がしたくて銀貨四枚ずつ靴の中に入れてるの?

両替所の中でやらないでよ、私まで変な目で見られるじゃない」


「いや、窃盗対策で」


「この町そこまで治安悪くないよ……?」


いや、一応ね?と言いながら靴を履く。

なんとなくだが前情報がない以前にこの世界自体の難易度が高そうな気がする。

警戒するに越した事はないだろう。


「……さて、エレンちゃん。とりあえず武器とか道具とかそういうのを売ってるところを見たいんだけど、何か良い所ってない?」


「良い所……うん、あるよ!」



そうして案内されたのは、商業区の奥深く。

家々の隙間には建物の深い影がかかり、綺麗な白亜のレンガが鼠色に見える。

そんな中を右に左に左に右にまっすぐ左に右に、路地から路地へ路地へ路地から……もう無理、場所覚えられん。

そうしてたどり着いたのは店だった。

薬のような絵が描かれた小さな看板が、年月を経て渋味を感じる色味になっている。


「エレンちゃん、ここは……?」


「私の家ー!」


さあどうぞどうぞ、と背中を押されてその店に入る。


「いや押さなくても……おお……!」


なんというべきか、そこにはロマンがあった。

雑多に並べられていると呼ぶのも似つかわしくないほどに所狭しと物が置かれている。

バッグや剣、薬らしき何か、何かの素材、食料、ランタン、ロープ……。

一応通る道がありカウンターらしきところまで辿り着けそう、という意味では辛うじて店の体を成しているその店は、まさに雑貨屋、万事屋と呼ぶのが相応しい。

いいよね、こういうの。何というか何が出てくるかわからない感覚。初見の本屋にも似た宝探し感。


「あら……エレン、帰ってきてたのね。そちらの方は?」


「お客さーん」


なるほど……強かな子だ。強かすぎて本当にAIか疑問に思うレベルだが。

エレンと同じく金髪碧眼の華奢な体つきをした女性が奥のほうから出てくる。

店主兼母親、と言ったところか。


「あらあら、いらっしゃいませ。こんな汚い店ですが、どうぞ見ていってくださいね。

あ、エレン、いつもの所におやつ置いてあるから、食べていいわよ」


「はーい!お父さん、後よろしくー」


!?


「えっ……父……?」


「はい、妻は既に他界していまして。……あの子には、寂しい思いをさせてばかりで……」


そう言って、悲しげな笑みを浮かべながら手を頬に当てる。

その姿は物憂げな魅力を湛えており、少し心臓が高鳴る。だが男だ。


「ああ、すいません。……それで、何が入用ですか?」


「えー……そうですね、金貨一枚分で色々と装備を整えたいんですが……」


「そうねぇ……装備と言いましても、目的が何かによって変わってきます。

もう少し詳しく、お聞かせ願えませんか?」


「そうですね……なんといえばいいか。冒険者みたいな、って言って通じます?」


「はい、通じますよ。……あの、先ほどから思っていたのですが、お客様はもしかして"追放者"ですか?」


「追放者、とは?」


「ここら辺で古くから言い伝えられている伝説ですよ。

曰く、"彼ら神々より追放されし者なり。しかし善行も悪行も成しておらず、地に降り立った後の行いによって図るべし。彼ら無知なり。されど知恵はあり。彼ら無能なり。されど万物において一を教えれば十を覚える"。

……知らないという事は、本当にお客様は追放者なんですね」


なるほど……ゲーム的に訳せば、世界観的には何の権威もない。世界観を知らないけど覚えるのは早い。全ての熟練度が0だが習熟するのが凄まじく速い……詰まる所、プレイヤーという常識がなく、そして成長が著しく速い存在を世界観に落とし込むための伝説なんだろう。


「はい、その話を聞く限りでは俺は追放者みたいですね」


「ああ、やっぱりそうでしたか!……と、そうですね、当店でおすすめできるのはこちらになります」


そう言いつつ、エレンのお母……お父さんが店内で唯一綺麗だったカウンターに物を置く。


「まずは中古の剣ですね。ショートソードとロングソードの二つが在庫にありますが……お客様の場合はどちらかのほうが良さそうです。ショートソードは一つ3000ゴールド、ロングソードは5000ゴールド。

……ああ、中古ではありますが良品ですよ?きちんと整備してあげれば長く使えます。予算内に収まる武器は他にもありますが、剣は武器としても基本的なものですから、慣れておいて損はないかと」


「次に、旅装としてコート、防具は鎖帷子と籠手があります。コートは物を仕舞う処が多く、寒さも凌げます。素材も丈夫なので、切り傷からも守ってくれるでしょう。鎖帷子は少し重い上に安い買い物ではないので、お客様のように旅をしたい方には少し合わないかもしれません。籠手は帷子よりも軽くて丈夫ですので私としてはおすすめですが、多少なりとも扱いには慣れないといけませんね。それぞれ1000ゴールド、5000ゴールド、2000ゴールドとなっています」


「最後に細々とした物ですね。ロープに怪我用の軟膏、毒消しの薬草、ランタンと油、マッチ、水筒、それらが入る腰巻鞄で3500ゴールドです」


「そうですね……ロングソードにコート、籠手、道具一式が良いですね」


「えーと……計11500ゴールドで1500ゴールド足りませんが……?」


「はい、足りませんね。……そこでなんですが、追放者仲間にこの店を紹介しますので、まけてもらえませんか?」


「ああ……なるほど。ならそうですね……ロングソードとコート、籠手はそのままの値段でお売りします。サイズもお客様に合う物を見繕ってきましたので、このまま着て行けますよ。紹介して頂いた追放者の方が見えられた後にご来店頂いたら無料で道具一式を売らせて戴きます。これで如何でしょう?」


「はい、それで結構です。それと……」


「はい、何か?」


「入り組んでいてここまでの道のりを覚えていないので、噴水広場からここまでへの地図なんか頂けると……」


「……やっぱり、入り組んでて分かりませんよね……ここまでの道……お陰でお客様も少なくて閑古鳥が鳴いていて……」


「あー……たぶんこれで客も来ると思いますよ?」


「そうだと私も嬉しいのですが……はい、よくお似合いですよ。お会計は8000ゴールドとなります。……あの、お客様、何故靴をお脱ぎに……?」



変人を見る目で見送られながら、俺は店を出た。

天を仰ぐ。とても蒼かった。


……あれで、男なんだよな。


「……運営、仕事しろ……」


呟きが空しく響いた。

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