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第一話

「っしょ、っと……」


少しの立ちくらみが収まると、洋風の広場が広がっている。

背後にある聖女風の姿をした噴水……おそらくはリスポーン地点だ……を見つつ、腕を回し足を回し、体調に問題がない事を確認する。

周囲を見れば、同じように感覚の確認をする者やおそらくは知り合いを探しているであろう者の姿が見うけられる。


それにしてもいい風景だな、どうやらグラフィックについてはPV詐欺ではないらしいと考えながら、俺は腰に括り付けてあるやたら古びたスクロールを取り出し広げた。


VRMMORPG「パンドラ」は、サービス開始以前から色々と問題に……もとい、話題になっていたタイトルだった。

投入資金やら会社の規模やらは類を見ないレベルで大規模で、第一弾プレイPVは精緻にして雄大、賛否両論になることが多いネットの感想ですら目に見えて称賛の声が多いほど、有名ゲーム雑誌の先行プレイでの感想も上々で、サービス開始日がわからない段階ですら既にモンスターコンテンツの片鱗が見えるほどだった。


そこまではよかった。そこまでは。


PV公開から1年半、後続のPVどころか情報すら何一つ無く、それでいて制作は順調であると公式は嘯く。

その公式のサイトですらやたらと大規模な掲示板以外の項目はComing Soonの文字が立ち並ぶ始末。

ちなみにアイテム紹介のページで唯一紹介された「情報のスクロール」が今しがた俺が出したスクロールで、効果は公式ページをスクロールを介して閲覧する事が出来る、という物。

なおVR機器備え付けのネット機能で公式を閲覧した場合実際に使用する事が出来、スクロールの中の公式ページのスクロールの中の……と、加速度的に小さくなっていくスクロールを操作さえできれば永遠に公式ページを開き続ける事が出来たがために公式掲示板が炎上すらせず困惑に包まれたスクロール・マトリョーシカ事件はあまりにも有名。

公式の掲示板に載った「サービス開始一週間前にスキル制かレベル制なのかすら分からないゲームって何だよ!?」というコメントは拡散されてネット上ではすでに流行語染みた知名度を誇っている。ちなみに開始直後の今ですらどちらか分かっていない。


パンドラなどと銘打ってはいるが、第一弾プレイPVの時点で希望は零れ落ちてしまった。後から出てくるのは災いだけだろう。そもそも箱が開かれる(サービス開始する)かも分らんがな!

いやでも一応サービスは開始するしまだ神ゲーの可能性が無きにしも非ずだって……。


最終的に、このVRMMOパンドラについてのサービス開始前の意見はこの二つに分かれた、と言っていいだろう。


そして、俺はこのゲームがどちらに分類されるのかを自分の目で確かめに来た、という訳だ。

いくら何でもサービス開始したら公式サイトに何かしらの変化でもあるだろう、とスクロールを覗く。


「……ん?」


おかしい。

公式サイトにあれだけ立ち並んでいたComing Soonの文字がすべて消えている。

代わりにその分デカデカと このゲームについて というページがある。

生唾を飲みながら、そのページを閲覧する。



皆さんはテンプレート化したMMORPGに飽き飽きとしてはいないでしょうか?

得られた情報はすぐに攻略Wikiに乗せられ、やるべき事はすべてそこから調べればいい。

何も考えずに最も強い構成に育ててしまえばいい。

我々はそんなゲームから脱却したい! 本当の冒険を提供したい!

そこで、我々が導き出した答えは、"放棄"することでした。

我々にはゲームバランスを取る事も、デバックする事もしません。出来ません。

非常に高性能なAIにゲームの全ての権限を託し、運営させる事にしました。

皆様のキャラクターは全てステータスも成長率も千差万別。

ステータスウィンドウもありません、アイテムボックスなどという便利なものもありません。

我々はユーザーの皆様には何も教えません、ですのですべての情報は自分達で集めてください。

それでもあえて、我々からのアドバイスをするとすれば……まずは自分の出来る事から調べましょう。

剣の振り方にモーションサポートなどありません、魔法は覚えられるものなら覚えてください。

鍛冶をしたければ鍛冶場に弟子入りしましょう、錬金術?覚えたければ先生を探しましょう、探せるものならば。

情勢は刻一刻と変化します、我々にもわかりません。この世界においては、神のみぞ知る、ならぬAIのみぞ知る、なのですから。

では、よい冒険を!



……マジか。

正気かこいつら。


「嘘だろ」「気でも狂ったんじゃね?」「これは一月以内にサービス終わるわ」「パンドラの中に残ったのは希望でも絶望でもなく困惑だった」「誰がうまいこと言えと」


同じように公式ページを閲覧したらしい周りの奴らが口々に声を上げる。


「運営仕事しろよっ!」


その中でもこの一言については、深く深く頷いてしまった俺なのであった。



さて、と一息入れて俺は立ち上がる。

まずは方針を決めなきゃいけないだろう。何も分らんのだし。


「んー……」


まず大前提として、このキャラで俺がやりたい事から決めよう……とは思ったのだが。

ぶっちゃけた話、このゲーム複数キャラクターが作れない。

これについてはログインするためのキャラ作成の段階で分かった事なのでどうしようもなかったのだが、そもそも魔法使い特化も戦士特化も盗賊プレイも生産職も全部やりたかった自分としては何とも言い難いものがあった。

あー、でも待てよ?

ステータスも分からん、モーションサポートも入らん。

となれば、全部やって器用貧乏になっても大した問題にはならないんじゃないだろうか。

公式は、ただふざけてやったんでもなく正気を失ってたんでもなく、テンプレートを破壊したい、って明確な目的でこういったシステムにしたんだから、もしかしたらレベル制限やスキル制限は無いのかもしれない。

ただの希望論ではあるが、間違っていたならばデータを消してやり直せばいい、か。

特化とは言っても、このシステムで特化してるかどうかも分からないだろうし。

攻撃したダメージとか受けたダメージとかが分かるならまだしも、ステータスすら見させない設定してる運営がそこを見せるはずないしな。

特化構成にしてパーティーを組むというMMORPGの一種の不文律を破り、全てのジャンルを好きなだけ、やりたいようにやる。

……うん、ワクワクしてきたぞ。

よし、これでいこう。



俺は広場から適当に立ち去る……前に、ふと目に映った町の案内板に近づいた。

考えてみれば、どこに何があるかすら分からんのだ。

町はきれいな円形をしていて、この噴水広場を中心に、それぞれ商業区、職人区、行政区、住宅区の四つに綺麗に分かれているらしい。

どうするかな、まずは商業区で剣でも買うか……いやこの場合職人区なのか?

というかゲームデザインが分からないから如何ともし難いな、古式ゆかしいTRPGみたいな感じだったら武器よりも先に道具類を優先した方がいい事もあるだろうし……というか金は持ってるのか? いや待てそもそも有ったとしても価値が分からんぞ。市場価値が分からん。

武器が高いのか、薬が高いのか、食料が高いのか。現状望める収入に支出はどうか。

最悪何も金がないなら着てる服を売るしかない。


「初めて早々半裸生活か……?」


「どうしたの、お兄ちゃん?町で裸になったら捕まるよ?」


えっ。

話しかけられることも、お兄ちゃんと呼ばれる事も、最終手段である衣類を売り飛ばすことが叶わなくなったことも。

全てが全くの予想外で驚きながら、俺は声のした方を向いた。


「……えーと、君は?」


「私?私はエレン!それよりも、何か困ってるみたいだけれど……どうかしたの?

駄目だよ、いくら困ってるからってはだかんぼになったら皆に迷惑がかかるよ!」


うわーファンタジーだわ。

さらりとした金髪に碧眼。質素ながらも清潔な衣服。

それも凄いが驚くべき事はそこじゃない、"完全に立体的な二次元絵の少女"なのだ、彼女……エレンは。

このゲームは……というかVR界隈のキャラクリエイトはスキャンされて再現された自分の姿から加工していく。

勿論アニメやらに出てくるような色鮮やかできれいだったりかわいかったりなキャラクターにしようという奴は後を絶たないが……これが中々に難しい。

というか、顔だけなら皆努力次第で何とかなるのだ。ネットにあるモデリング講座とかそういうのを調べて、時間と情熱をかけて努力をすれば。

そう、二次元の顔は作れる。だが、二次元の首二次元の肩二次元の腕二次元の……まあ要するにそれ以外の体の部品も含めて、動作不良や幻肢痛その他諸々の不具合が出ないように……というのは最早素人どころかプロですら無理だ。

質の悪い事に、現状のキャラクリエイトのシステム上一度できたデータが他者には流用できない。

故にそれができるごく一部の人間は押し並べて億万長者だ。

というか個人に対応する二次元キャラ作るだけで文字通り億の金がかかる。

まあそれはPCの話で、NPCだと流用が可能な上、二次元的なキャラに都合の良い骨格から作れるから難易度はがくっと下がる。

要するに、この子はNPCで。なのに、少なくともこういう訳のわからん発言に対して普通に会話出来るほどに高性能なAIである、という訳だ。

どちらか、どころかどちらも欠落している事が多い昨今のVRゲームのNPC界隈では、これもこれでファンタジーだったりする。


「あー、いやね、ここに来たばかりで右も左も分からなくて……」


「じゃあ、私が色々と案内したげる!」


そんなこんなで、VRMMORPG「パンドラ」で、俺は奇麗な少女に道案内をされる事になったのだった。

なんかこうふわっと見切り発車で書いていきます。

あ、書き溜めとかはありませんので書き上がり次第マーライオンの如く垂れ流しますのでどうぞよしなに。

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