「良い作品」と「売れる作品」は違うという耳タコな話
世の読者を「大衆」と「意識高い系」の二種類に分けたとしよう。
絶対数で言えば、「大衆」が八割で、「意識高い系」が二割ぐらいだと思う。
「大衆」は分かりやすく、読んだ後に良い気分になれる、すっきりとする作品を好む。
こういった読者を主なターゲットにするのが、大衆娯楽作品だ。
映画で言うと、新海誠監督の作品の中で、『君の名は。』を好むような層が「大衆」だと考えてもらえればいい。
一方でコアなファンは、同監督のそれ以前の作品(『秒速5センチメートル』など)の方を高評価する。
これが「意識高い系」だ。
新海誠監督は、コアなファン向けの作品から、「大衆」向けの作品に舵を切ってみせたことにより一躍大ヒット作家になったというのは、最近よく見かける論調だ。
「本当に面白い作品」なんて言葉を軽々に使う人がよくいるが、まずはここを理解しないことには始まらない。
「本当に面白い作品」とは、誰にとって「本当に面白い作品」なのか。
漫画家、冨樫義博さんの『ハンター×ハンター』という作品のどこが凄いかと言えば、「意識高い系」の読者が楽しめる内容でありながら、同時に小学生ぐらいの子どもが読んでも面白い内容になっているというところだ。
一方、例えば僕は幸村誠さんの『ヴィンランド・サガ』という漫画が大好きなのだけど、これは職人的あるいは芸術的という意味でとんでもなく素晴らしい作品だと思うのだが、同時にあまり「大衆」向けとは言えない作品でもあると思う。
だから、スマッシュヒットはしない。
それでも序盤は「大衆向け度」を高めに描くことを意識しているように思うが、コミックス九巻からの奴隷編は、大衆向けであることをかなり諦めている感じは見受けられる。
「売れる作品」を書くためには、何よりもまず「大衆向け」であることを意識しないといけない。
アマチュアでずっとやってゆくつもりなら必要ではないが、プロは売れる作品を書くことは義務である。
何しろ、超人級のワザマエを誇る幸村誠さんですら、それを戦術的に一定割合で取り入れることを、意識してはいるのだ(スタートが週刊少年マガジンだったということもあるのだろうけど)。
いわんや僕ら凡人をや、である。
ちなみに、サイレントマジョリティとノイジーマイノリティという概念があるのは、こういうことなのだと思う。
何かに対して積極的に声を上げるのは二割の「意識高い系」の人たちで、彼らは八割の「大衆」の意見を代弁しているわけではない。
積極的に声を上げる読者――ノイジーマイノリティの声にばかり従い続ければ、「意識高い系」の読者にヒットするが「大衆」にヒットしないという作品が生まれることになる。
「大衆」から評価される作品を書くためには、どうにかしてサイレントマジョリティの本音を捕まえないといけない。
ここで、数字分析的な手法が役に立つことになる。
ただ一方で、「大衆向け」に傾きすぎるのも、個人的にはあまり好ましくないように思う。
実際、スマッシュヒットする作品は、二割の「意識高い系」をも巻き込んだ作品であることが多いように思う。
大衆向け度十割、というような作品は、安定して中堅どころの売り上げを重ねるが、「意識高い系」の読者からは徹底してバカにされるという印象だ。
なお、「大衆」を見ずに、「意識高い系」のみを相手にしてプロになるというのは、今の出版業界では事実上不可能に近い思う。
現代の出版業界は、薄利多売が大前提になっているからだ。
多売できなければ、ビジネスとして成立しない。
例えば、ピカソの絵画は、大衆が見ても価値が分からない。
彼の画集を大量印刷して何千円とかで売っても、ろくすっぽ商売が成立しないだろう。
少なくとも、そんじょそこらの萌え絵画集に負ける程度の売り上げしか弾けないだろうと思う(※注)。
ピカソのような画家がプロとして成立するのは、絵画一枚に何億円も払う大富豪が存在するからだ。
「意識高い系」の富豪が莫大な金を持っていて、彼が良いものに対してその金を湯水のように支払うことを惜しまないから、「意識高い系」にしか良さの分からない「良い作品」が社会的に価値を帯びるのである。
※注……ちなみに僕は、ピカソの画集よりも「そんじょそこらの萌え絵画集」の方を買う側の人間である。この場合、「絵画を見る目があるか」という側面においては、僕は「大衆」に分類される。
でもいいじゃん! だって萌え絵画集を買った僕は幸せなんだから!
一方で、僕は小説のキャラクターが人間らしく描かれているかということに関しては結構うるさい方で(僕が読み手として好きになる作品はキャラが人間らしく描かれているものがほとんど。そうでない作品はあまり楽しめない傾向にある)、こういう側面においては僕は「意識高い系」に分類される。
なので、「大衆」であることや「意識高い系」であることが問題だとか、そういうことを言いたいわけではまったくありませんので、あしからずご了承ください。




