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死を求める少女。

土の続編を書いてみました。


あれから一ヶ月が経った。

あの少年が家を訪れることもなかったし、警察に捕まるようなこともなった。

日に日に重なる恐怖の連続に佐伯は相変わらずおびえながら暮らしていたが、生活が変わることもなく仕事をこなし家につく。

ふいに目につくあの少女の埋めた竹筒に少年が埋まったいるのを感じながらそれさえも快感と言うものに変わっていく自分の心に嫌になった。

もう少年は死んだのだろうか。死んだのならば自分がこんな世界の中生きている意味はなくなる。早く自首をして罪を償うことばかり考えていた佐伯は少年が埋まっている竹筒に水を流し込み溺死させようと思ったが、やめた。

何も触らなくなったその場所にはこうすけが埋まっているように雑草が生い茂り、何かを掘り返したあとも跡形もなく消えていた。

少女もきっと世間から話題に上がることもなくなるだろう。

未だに、行方不明として片付けられている彼女の行方に佐伯はたびたびニュースや職場で聞くことになったがそれも数が減り今はまた起こった連続少女殺害事件の話で持ち切りである。




そんな中でまた、まるで恐怖の連鎖のように訪れるこの感情は佐伯の中に未だに残ったいた。

人を埋めたい。

そんなことを思う自分自身があり得なく恐ろしく思えて、いつかまた人を殺してしまうんじゃないかという恐怖を思うと捕まることよりもそのことのほうが恐ろしく思えた。

何か、気を紛らわすことをしなくては。土をスコップで掘って何も埋めずに埋めるという作業をまた佐伯は再開した。

職場に着ていくスーツがどれだけ汚れても佐伯は何もない空白みたいな行動を行い続けた。



そんなある日、何事もなかったかのように思っていた少年から何故か電話がかかって来た。

何故自分の電話番号を知っているのだろうか。佐伯は疑問になったがそれも少年が自分の弱点を持っていることに違いはなかった。

「一人の少女を殺してほしい。3日後にあなたの家に来るから同じ方法で殺すといい。大丈夫。彼女にはあなたの犯行は話していません。ただ彼女に家に行くようにとお勧めしただけです。」

ただそれだけ、少年は不気味な感情のこもっていない声で言うとパタンと電話は切れた。

その3日後。少年が言っていたとおり一人の少女が訪れた。

この辺では見かけない、紺色のブレザーに髪は後ろで1つに束ね、何を考えているのか分からない表情で佐伯の前に現れるとこくんと静かにお辞儀した。

彼女は少年の知り合いだろうか。聞こうと思ったがやめた。

「どうぞ。」

佐伯は少女を家に通すと静かに門を閉めて縁側から家に上がる。

お茶を彼女の前に差し出すと無言のまま彼女はそのお茶を口に含んだ。静かな沈黙。木々が風に揺れる音を聞きながら佐伯は少女が口を開くのを待った。

「佐伯さんは、私を殺してくれるんですか?」

それは、少女がお茶を飲み終わって一息ついた頃。

いきなり訪ねられた彼女の声に佐伯は少し驚いたもののそれよりも自分を殺してくれると訪ねた彼女の言葉がやけに耳に残って反芻した。

「それはあの少年から聞いたのですか?」

佐伯はこっちを向いて答えを待っている少女に訪ねる。

「それは。。。教えてもらってません。。。でもただ、ここにくると死ねることが出来るよ。そう言われました。」

彼女の言葉はあの少年のように感情を押し殺しているような言葉ではなかったが少し欠落したかのように思った。彼女が自分のやった恐ろしい犯行のことを知らない。そんなことよりもそのほうが大事なことだった。彼女が知らなかったことに佐伯は安堵する。

「じゃあ、君はあの少年の言葉を信じてここに来たというわけですか?」

「はい。。。」

震えた声はきっと死ぬことについてまだ勇気が持てないということだろう。佐伯はそう直感した。


ーーーすぐには殺さないほうがいい。


そんな考えに佐伯は自分の心を疑った。

自分は今この少女を殺そうと思っているのか?

罪を償おうと決心した私が何故?

それも押さえきれない快感のためか、それともあの空白の行動に意味はなかったのか。佐伯はまた得体の知れない何かがまた再びもぞりと動き出したような気がした。

怖い。

自分の今行ってしまうであろう行動が、行為が。

恐ろしくてたまらない。


何故自分はまだそんなことをしてしまうのだろう。

佐伯のまわりにある真っ黒な暗闇は佐伯の心を蝕もうとまた佐伯の体を乗っ取ろうとしている。そのために佐伯は自分の手を何度も汚す。

やってはいけない行為だと分かっていても、まるで歯車が狂ったかのように佐伯の手は着々と誰かを埋める棺桶を作る手を止めない。まるで人を平気で殺すロボットみたいだ。感情なんて持たない殺人鬼。

それは佐伯の手が傷つくことよりも、自身の感情を傷つける。


ーーそれなのに。そんなことを既に強く知っているのに、何故、彼女を殺すという結論に行き着いてしまうのだろう。



「あの少年から、電話がかかって来ました。もちろん用件はあなたのことです。」

佐伯は静かに少女にむかって話をきりだした。それは、覚悟と言っていいほど真剣なものだ。

「何を聞いたんですか?」

彼女はそんな佐伯の異変に気づいたのか恐る恐ると言っていいほど震えた声で訪ねた。

「一人の少女を殺してほしい。3日後にあなたの家に来るから同じ方法で殺すといい。大丈夫。彼女にはあなたの犯行は話していません。ただ彼女に家に行くようにとお勧めしただけです。とそんなことを言ってました。たぶん、あなたも私のことも試しているのでしょう。」

そして、佐伯は一度大きく息を吸って覚悟を決めた。


「私に、殺してほしいですか?」

その言葉は静かにそれでも確実に彼女に届いたはずだ。静寂の中、佐伯の震えた声は彼女の結論を急かすように響く。

彼女はそんな覚悟に耐えきれなかったのだろう。少しの沈黙と時間を使って佐伯のほうに向き直った。それは、覚悟と言うよりもまだ迷いと言うものがあるような気がした。

「怖いんです。本当は、だからあなたと一緒にいる時間も含めて、もうちょっと考えさせていただけますか。」

それは彼女なりの答えだった。

佐伯はこくんと頷いた。



自分自身の覚悟が徐々に薄れいるのを佐伯は静かに感じていた。



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