夢十一夜
なくしたなくした
何をなくした
なくしたそれは何である
なくしたなくした
こわがるみんな
なくしたそれは恐ろしい
なくしたなくした
何をなくした
なくしたそれは何たるや
無くした亡くした
それは××××
あおいひかりにきえてった
放課後、ふと思い出した忘れ物を取りに行くべく、『セーター』を着た一人と『シャツ』だけの一人、という、とあるありふれた二人組は学校に戻った。
「誰もいませんね」
セーターがいう。
「まあそうでしょう、終わってから割と時間もたったのですし」
シャツがこたえた。
二人は進む。日の落ちるのも早い季節、廊下は既に薄暗い。音といえば、二人の歩くコツコツという足音、そして外で吹き荒ぶ風が窓をガタガタといわせる何とも不気味な音ばかりである。その窓の景色も、人を憂鬱にさせる色の空の下、枯葉が宙を舞う、さながら廃墟からの景色のようであった。
「それにしても、二人して忘れ物なんて珍しいこともあるものなのですね」
切り出したのはシャツである。
「そうですよね。しかも二人とも剣道の道着っていう」
セーターがいうと、シャツはやれやれと腕を組みながら、
「まあ仕方がないでしょう、畳んだら小さく収まるのですから。存在自体を忘れてしまうのが道理、というものです」
と自分を正当化した。そんなシャツにセーターは何とも言えぬ心境を覚えたが、セーターより少し先を行くシャツの表情は、セーターには分からなかった。
少しして、教室に着いた。扉を開ける。やはり、誰もいない。カーテンは開いているのに明かりはさしていない。とても暗い。
「何だか世界から誰も彼もいなくなったような感じですね」
「その意見には同感です」
セーターがぶるっと武者震いした。
「何だか、少し怖いかもしれません」
「そうですね、否めません」
二人はそれぞれの席へと歩き、それぞれの道着を鞄に入れた。これでもう用はない。帰ろうと振り返ったシャツは、しかし、ふと掃除用具入れの上に淡い青い光があることに気がついた。あれは何なのだろうと近づくと、それは青いバケツのようであった。
「どうしました」
きいたセーターも、光るバケツに気がついたようだ。何でしょう、と少し近づくも、その異様な雰囲気に直ぐに一歩下がった。
「何で光っているのでしょう」
セーターが少し怖がりながらシャツにいった。
「同じく気になっていたところですよ」
シャツも不気味がりながらこたえた。
「中に何かあるのでしょうか」
「何かって、何がです」
「懐中電灯とか」
「なくはないですけれど、何故」
「分かりません」
「そうですよね、…うーん、お手上げです」
シャツは一拍おいた。
「降ろしてみませんか、アレ」
「え、正気ですか」
セーターは半歩下がった。
「不気味ですが、気になりませんか」
「それは、そうですけれども」
セーターは気味が悪そうに腕を組む。
「何だか、降ろしてしまうのはいけないことのような、さながらパンドラの箱を開けてしまうような、そんななにか威圧感のようなものを感じるのですが」
セーターの意見にシャツも腕を組んだ。
「…否定はできませんね」
では帰りませんか、とセーターは持ち出したそうとしたが、正直なところセーター自身バケツの中身が気になるところではあった。怖いものほど知りたい、とはまさにこれのことである。
「…ではこうしましょう。二人でアレを降ろします。それから、せーので中身を二人で同時に確認します。手を繋いでいてもいいかもしれませんね。どちらにせよ、二人で一緒ならば恐怖は軽くなるはずです」
「…そう、ですね。そうかもしれません。確かに」
「では決まりですね」
繋ぎますか、手、とシャツは片方の手をセーターに差し出したが、セーターはそれを断った。
窓は相も変わらず風でガタガタと揺れていた。外の光も、そんな窓を嫌うように全くさしてこない。本当に、暗い。暗すぎる。セーターとシャツはその異質な暗さを唐突に思い出した。おかしい。どう考えても異常であった。暗いこともそうであるが、そう、何より、人が全くいないのである。人どころか、その場の生命は全て枯れ果ててしまったかのように生物が姿を消していた。
まるで夢の中のようであった。
「…では、降ろしましょう」
シャツがバケツに手をかけた。
「そうですね」
セーターもバケツに手をかけた。
「せーの」
…二人は、認めてしまった。あおくあおくひかるバケツの中身を。
その存在を、認めてしまった。
その中身は、まさしく二人に災厄をもたらすもの。
ーーーひとつの生首、であった。
「ーーーーーーー‼︎‼︎‼︎」
すぐさま悲鳴があがった。
一人分の、悲鳴である。
続いて逃げる足音がした。
二人分の、足音である。
風はがたがたと窓を揺らす。闇は沈黙を続ける。もう何も、動くものはない。
それらを見ていたのは、《常に一人》であった。
「あの、あれは、一体何だったのでしょう」
『セーター』は云う。
「見覚えがあるような気がしてなりません」
『シャツ』も云う。
「あなたもですか、奇遇ですね」
『セーター』は応えた。
「ええ、つまり、そういうことなのでしょう」
『シャツ』も応えた。
「正体が解れば怖くもありませんね。
では、つまりあれは私のーーーー」
鞄に入れた、剣道の防具。
その中に、面は入っていない。
当然であろう、二人は頭を守る必要など、存在しないのだから。
青いバケツのなか、只その首だけが、静かに嗤った。
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ここからは解説ページとなります。
《ホラーとしての解説》
忘れ物を取りに行く二人、二人は何も「見ては」いません。
只確認したとか、認めたとか。感じ取っているだけで、視覚はしてません。
そしてバケツの首、最後に悲鳴をあげたのは二人ではなくあの首です。
もっと言うと、二人は悲鳴をあげることができません。
そして剣道の面。あの頭に着けるあれです。あれを二人は持っていませんでした。必要なかったからです。だから、''畳んだらコンパクトに収まり''ます。
分かりますか?
最後の意味深な、「つまりあれは私のーーーー」というセリフ、「あれ」とは生首のことです。つまり、「あの生首は、私の」ということになります。
生首が二人のどちらかのものである。
そう、はなから二人には「首がありません」。
二ページ四行目、表情が分からないのではなく表情が無い、それを見ることもできないのです。
最初の囃子は亡くなった=(首が)なくなった、という意味です。
読む人だけが怖くなる、そんな仕掛けでした。
以下、全くもって怖さが無くなるので読まなくても大丈夫です。
《読解としての解説》
てか怖さとかはなからあったのだろうか…。何だか消化不良起こしてぶっ倒れたしらいねがいますが気にしません。
現代社会の個性の消滅や否定を暗示してるはずなんです…。分かりにくいですけど!だから二人は一人称がありませんし、これといった特徴もないんです(セーターとシャツなんて、その場限りでその人に由来する特徴などとは言えませんし)。
だが個性の打ち消しとホラーとを同時に追求した結果、両方に中途半端になったという。いや救えません…。
バケツの首は人の個性を表しています。それが本体から離れている=個性が無い、もしくは消えていると考えてくれれば良いです…。そのつもりで書いたんですけど伝わりません…。バケツはゴミ箱とでも思ってくれたらいいです。それが最初は高いところにあったので、個性を尊重してるはずだけど捨ててる、といったそういうやつです。
二人は最初から首から上は無いです。だから『いった』とかが平仮名。最後のように、ここは変換として「言った」ではなく「云った(〜のようだ的な)」を当てはめて欲しかったから。実際には言葉を発音してません。どうやって意思疎通してんのかはいまいちわからないですけど「言う」ではなく「伝える」、もっと言うと「伝えたようだ」という客観的な考え。あくまで二人は個性の無い人々の象徴ですから、二人の個人的な言葉ではない、という訳です。
それから、二人は基本的に相手の意見を否定してません。受け入れます。ようは流されてます。個性が無いから、否定するほどの意志もないんですね。
他にも割と表現してますが書くのめんどいので以上です((おい
かの夢十夜的何かを追求した駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。




