2章 学校というもの
何度か幹人様に学校までリムジンで付いていき、一緒に行ったことはあるが
学校の中に入った事は一度もない。
さすがに、幹人様と一緒に居るところを見られたらマズいからだ。
つまり入るのは初めてということだ。
今、まさに全裸で魔王と話し合いに行くくらいの緊張感が俺にはある。
いや緊張なんてものじゃないな。これは。
そして更に問題が1つ発生している。
今の時刻は8時15分。
「まだ時間はあるが、どうしたものか。」
校門の場所は分かる。玄関の場所も分かる。自分のクラスへの行き方も分かる。
だが···
「僕の上靴どこだ。」
予想外だった。 この学校、『私立黒堂学院』の総生徒数は1500にん弱。
つまり、1500足ある上靴の中からあと15分程で見つけ出さねばならん。
「ムリに決まってるだろおぉぉぉおおっ!」
思わず叫んでしまった。
玄関にいる人たちの視線が一気に集まる。
どうしよう。こんなに人に見られたのは初めてだ。
なんか感動する
「と、とりあえずまず上靴をどうにかしないと」
――――周りを見渡してみると、お客様用のスリッパがあるではないか。
「致し方あるまい。これを借りるとするか。」
スリッパを取りだし、足に装着
「思ったより歩きにくいなぁ。」
それに、歩く度にスリッパの「パッ、パッ」という音が鳴り響き、
音が鳴る度に周りの人たちの視線が集まる。
ものすごく恥ずかしい···。
少し小走りで自分の教室を目指す
今の時刻は8時20分。
前方に変な人を発見
見るからに、変である。
廊下に這いつくばって辺りをキョロキョロしている。
よく見ると、あれっカワイイ。
僕は何故かカワイイから、という理由でその女の子に話しかけてみた
「ねぇ、何してるの?」
するとその女の子は僕をジーっと5秒程見つめたら、
「うぇっ、柳沢くん!?」
なぜ、そんなに驚くのだろう。
「な、なんで柳沢くんが···。」
いや、なんでって言われても。
「それで、何してるの?」 もう一度聞いてみる
するとその女の子は慌てたように、
「さ、探し物···。」
とだけ、答えた。
「何を探してたの?」
「ス、ストラップ。 大切な物なんだけど···。」
大切な物、か。
まだ時間もあるし、一緒に探してあげよう。
「で、どんな感じのストラップなの?」
「えーと、イルカのストラップで色はオレンジ色。 大きさはこれくらい。」
と、手で大きさを説明してくれた。
仕草1つ1つがカワイイ。
女の子が動く度に、長い黒い髪の毛が一緒に揺れ動く。
「じゃあ、一緒に探すよ」
「うぇ!? なんで柳沢くんが?」
リアクションが大きい女の子だな。
「だってまだ時間あるし、大切な物なんでしょう?」
大切な物。それは僕が持っていないもの。
「で、でも···。」 まだ何か言いたそうだが、僕が探すことに変わりはない。
「2人で探した方が、その分早く見つかるでしょ?」
女の子はとても意外そうな顔をして、
「う、うん。分かった」
と、小さく頷いた。
5分程経ったが、まだ見つかる気配がない。
女の子の話によると、この廊下にそのストラップを落としてしまったらしい。
「全然見つかんないんだけど···。そっちは見つかった?」
「い、いや私もまだだけど···。」
「!」
「どうかしたの? 柳沢くん。」
不思議そうに僕の顔を覗く。