1章 柳沢家の事情 5
「そして、この3つの条件の内 2つしくじったら···」
さっきまでニヤニヤしていた幹人様の顔が急に源蔵様に負けない程の恐ろしい顔で
僕の顔を見る。
「し、しくじったら?」 さすがに、顔を合わせられないぼくは、顔を逸らす。
「しくじったら、罰ゲームね。」
良かった!
別にこの家から追い出すとかじゃないんだ。
本当に良かった。
「それで、どんな罰ゲームなんですか?」
心が軽くなった僕は少し余裕があったのかもしれない。
幹人様はニヤニヤ顔に戻り、こう言った
「うーん、じゃあヒントだけね。
えっと、強いて言うなら、紐無しのバンジージャンプかな?」
人々はそれを死と呼ぶ。
やばいっ、体の震えが止まらないっ
こんなんじゃ、楽しい学校生活を送るどころの話じゃないよね!?
「僕、本気だから。」 さらに追い討ちをかける幹人様。
そんなに僕を殺したいのか···
やっぱり、親子は似るのか。 残念だ。
すると、幹人様が急に思い出したかのように、
「あっ、もう学校に行かないと遅刻しちゃうよ。」
···え。
「まさか、今日からですか···」
「当たり前でしょっ、さぁ、早く制服に着替えて~」
ああ。早く遺書書かないとな。
ペンと紙どこにあったけ。
でもな、遺書書くっていっても僕、家族いないし。
柳沢家の人たち書いても良いんだけど、殺人の実行犯だしな。
まぁ、いっか。
と、これからの事を真剣に考えていると、すでに僕はいつも幹人様が着ている学校の制服を着ていた。
それから、あれよあれよと手にカバンを持たされ、靴を履かされ、リムジンに乗せられていた。
「はっ! いつの間に僕はこんな所にっ」
気が付いたら僕はリムジンの中。隣には、幹人様が座っている
「あともう少しで着くよ~♪」 幹人様が鼻唄を歌いながら言った。
「まさか、学校ですか?」
「うん、そうだよ。」 即答であった。
やはりさっきのは悪夢じゃなかったのか···。
半ば諦めている僕は、幹人様に学校での様子を尋ねてみることにした。
「学校で幹人様はどのような振る舞いを?」
「うーん。僕、あんまり学校に行ってなかったからねー。 友達は居ないし、
誰かに話しかけられる事もなかったかな。」
まぁ、無理もないだろう。
なんせ幹人様は、あの柳沢企業のご子息なのだから。
きっと近寄りがたいのだろう。
「なるほど。よくわかりました。
簡単に言うと幹人様は学校で孤立していたというわけですね。」
それで僕に友達をつくれなんて言うなんて、
この人大丈夫かな。
「それで幹人様、学校というのは勉強以外に何をするのですか?」
ちょっとワクワクしている僕。
「それは、学校に行ってからのお楽しみということで。
それに今日からはオマエも『幹人様』になるんだぞ。
そうか···。 学校では幹人様の顔に泥を塗るような事はしないように心掛けないと。
「おっ、もう着いたよ。」 幹人様の凛とした声が響く。
よーし。僕はまだ16才。
こんな所で死んでたまるか!
「じゃあ、行ってきます幹人様!」
「うん、行ってらっしゃい 幹人。」
幹人様に『幹人』と呼ばれたことに少し違和感を感じながら、人生初の学校生活の
第一歩を踏み出した。