1章 柳沢家の事情 4
「この間、幹人と話していてな。そしたら君のの話題になったんだよ。
どうやら、学校に行ってみたいそうじゃないか。」
どうして僕の話題になったのかは、恐ろしいから聞かないでおこう。
「まぁ、確かに学校に行ってみたいというのは本当ですけど、僕がもし学校に行ったらこの家の仕事が疎かになってしまうかもしれないじゃないですか。」
小さい頃に幹人様と話していて、「学校に行ってみたいなー。」なんてことを話したことはあったけど、
僕は小学校も中学校にも通っていなかったし、今更高校デビューなんて源蔵様と
禁断の恋に堕ちるくらい恐ろしいことなのに。
「この僕、クローン人間が作られたのは、学校生活を送るためではなく幹人様とこの家の人たちを支えるために作れたんですよ!」
必死に抗議する。
僕なんて友達一人もつくったことがないのに、学校なんて行ったって
きっと、イジメられて心に深い傷を負って帰ってくるだけだというのに。
源蔵様が更に険しい顔になった。
「人権を知っているかい?」
もちろん知っている。 名前だけは。
黙っている僕に源蔵様は話を続けた。
「人権というのは、私達には有って君には無いものなんだよ。」
「私達は何かに利用されるために生み出されたのではない。生きている間に好きなことをやり、自分のやりたいことを見つける。
それが人間なんだよ。
でも君は、この家を支えるという目的があって生み出された。
きっと君はこれから人間として生きるには、難しいかもしれないね。」
テーブルの上の紅茶を手に取り少量を口に運ぶ。
そして、僕と目を合わせた。
普段の目とは違い、とても優しい目をしている
「だから私は、君をクローン人間として生み出してしまったことを後悔している。
それで、せめてもの償いとして、学校という楽しくて人間らしく生活できる所に君を行かせてあげたいんだよ。」
気付いたら僕は泣いていた。
きっと、分かっていたんだと思う。自分が人間らしく生きられない事も、
人間らしく生きている人を羨ましいと思っていた事も。
まだニヤニヤしている幹人様は
「僕はもう十分学校を楽しんだからね、後の楽しい時間はオマエにあげるよ。」
幹人様のニヤニヤが笑顔に変わり、その笑顔を見ていると違和感ではなく、何故か
とても心地の良い気分になった。
だが、この美しいムードはここで終わる。
「ただし、条件がる。」
再び恐ろしい顔に戻った源蔵様が強い口調で言った。
もうすでに涙が止まっていた僕は、「条件とは?」と弱々しい口調で尋ねる。
「条件は3つあるんだよ~。」
楽しそうな顔の幹人様が3つの条件を提示した。
「1つ目は、君がクローン人間だってバレないこと。
2つ目は、僕よりも良い成績で卒業すること。
3つ目は、友達をつくること。」
1つも優しい条件がないっ。
2つ目の幹人様より良い成績を取るというのは、幹人様のクローンである僕が一体、どうやったら取れると言うんだろうか。
さらに3つ目の友達をつくるというのは、考えるまでもなく、多分無理だろう。
だって僕は柳沢家の人たちぐらいとしか、まともに話したことが無いのだから
それに1つ目は···
「多分君にとって一番難しいのは、1つ目だろうな。」
源蔵様が困ったように呟いた。
源蔵様が困ってるということは、この条件はきっと幹人様が考えたものだろう。
ヒドイご主人様だ···。
なぜ、1つ目の条件が一番難しいかというと、答えは簡単だ。
僕がクローン人間だから。
クローン人間というのは、体の2/3が人間と同じ組織で作られていて、あとの1/3は
機械で出来ているそうだ。
かなりハイスペックな僕だが、
僕の首の後ろには製造番号が記入されている。
そう、人間というより物、といったところか。
それに服を脱ぐと所々にネジの跡や、よくわからない物も付いているのが分かる。
つまり、これを見られたら一発でクローン人間だってバレる。
それなのに幹人様は···
はぁ···
ため息しか出てこない。