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 ジナが二番目に強いなんてのは、てんで出鱈目だった。これで、誰がどの順位で強いのか、まるでわからなくなってしまった。混迷する三人。お互いにお互いの強さを見て確認し合ったからだ。

 しばらくは長い沈黙があった。サントロとジェスタが無言のうちに対立していた。サントロはジェスタを殺しに来たのだ。ジェスタとしても、ミタノアとしても、一歩も気を抜くことができなかった。

 中央拠点サーバーから輸送船に向かう通路のなかを、点、点、点、と三つの死体が転がっていた。『失格者』以外のものがそれを見たなら、すぐさまぎょっとして警報を出すにちがいない。殺人という異常事態に自衛するよう注意をうながす警報がなるにちがいない。死体を見て人が集まってくるのは時間の問題だった。急がなければならない。急いで決着をつけなければ、面倒くさいことになるのは、どちらもわかっていた。

「おれが出る」

 ぐいっとミタノアを押しのけて、ジェスタの方が前に出た。正直、今までサントロの力をあまく見ていたのだ。ついうっかり、ジナに対処を任すようなへまをしてしまった。これ以上、犠牲を出すわけにはいかない。いちばん優秀なジェスタみずからがサントロと戦うべきだったのだ。

 長いことジェスタとサントロは見合っていた。お互いに間合いというかタイミングを計っていた。

 その沈黙を、意外な乱入者が割って入って、やぶった。そいつは、全身を筋肉のような配線の束でつつまれたサイボーグだった。トチガミだ。

「おいおい、こんなところで決闘かよ。まったく進歩のないやつらだぜえ。おれなら、決闘なんてやめて、仲良く手を組むぜえ。みんなで仲良くしようぜえ」

 トチガミの吹聴がまたはじまった。なんとか、仲間をつくってジェスタをはめようとしているのだ。

「生きていたのか、トチガミ。死んだはずじゃあないのか」

 三人とも同じ疑問をもっていた。

「げえははははははっ、おれはしぶといぜえ。永遠とはいわないが、限りなく不死に近い体を持ってるんだぜえ。おまえら、おれをあまく見ない方がいいぜえ。特にサントロ、おれに一度勝ったからって、それで長生きできるのがおまえとは限らないんだぜえ。ビーキンの野郎は死んだようだが、ざまあみろだぜえ」

「おまえ、ただのサイボーグじゃないな」

 ジェスタがいった。

「そのとおりだぜえ。おれはただのサイボーグじゃないぜえ。わかったら気をつけることだぜえ。決して、おれを軽んずることのないようになあ。そうしないと危険だぜえ。おまえらもただじゃすまないぜえ」

「どこかに人格のバックアップがあるんだ。そのバックアップをもとに同じ人格を再構成しているんだ」

「またまた、そのとおりだぜえ。まったくよくわかってるじゃねえか。そのとおり、人格のバックアップがあるかぎり、おれは何度も再生するんだぜえ。おれは死んでも死なねえってことをよく覚えておくんだぜえ」

「こんなやつ、人格のバックアップさえ破壊できれば、いつでも殺せるんだ」

「またまたまたまた、そのとおりだぜえ。だが、この広い宇宙のなかのどこにおれの人格のバックアップがあるのか、おまえらに見つけられるのかあ。まず、まったくもってムリだぜえ。あきらめた方がいいぜえ」

 突然の乱入者に、ジェスタとサントロの戦いは完全に興がそがれてしまった。ジェスタとしても、サントロとしても、まずはトチガミをどうにかしたい。

 ジェスタは恒星シリウスの自転を止めて、近くに落ちていた石ころを拾った。

「そこで提案だが、人類の支配はおれを総司令官にしてくれればいいぜえ。見てのとおり、生身より遥かに頭のいい構造をしているんだぜえ。おれを総司令官にして損はないぜえ。ジェスタはスポンサーってことでいいぜえ。エネルギーさえ貸してくれれば、あとは遊んでいてもいいぜえ。具体的な支配の計画はおれが練るぜえ。おれにまかせてくれれば、ばんへぶらげっ」

 しゃべっている間に、トチガミの頭部がふっとんだ。ジェスタが天体反動銃で石ころを飛ばし、トチガミの頭部にぶち当てたのだ。トチガミは再び死んだ。だが、もうジェスタたちにはわかっていた。これが本当のトチガミの死ではないことに。本当にトチガミを殺すためには、この宇宙のどこかにあるトチガミの人格バックアップを探し出さなければならない。

「トチガミは危険だ。悪いが信用できない」

 ジェスタがいった。

「おれは逃げるからなあ」

 サントロがそういって、走って区画を曲がった。サントロの脳が、ジェスタに今関わるのは危険だと警告していたのだ。トチガミが狙っているのはジェスタだ。このあとも、ジェスタにからみつづけるだろう。ジェスタから離れてしまえば、もうトチガミがサントロを訪ねてくることもないだろう。サントロはだから逃げた。トチガミが何度も現われそうなその場から、ひとまず脱出を図った。

 人類を支配するかの争奪戦は、トチガミが復活して、三対三に再び戻ったのだった。


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