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  無がゆらめき、

  無がうずまいて、混沌を形どる。

  混沌が開いて、時空となり、

  時空が広がり、宇宙となる。

  宇宙がねじれて、星々をうみ、

  星々が崩れて、命を生んだ。


 遠い遠い未来。

 三十億年後の未来。

 アンドロメダ銀河と天の川銀河が衝突してひとつになるほどの未来。

 ひとつに融合した銀河は、それを占有する種族の呼ぶ名をとって、やはり天の川銀河と呼ばれていた。

 人類は文明の終焉を生きていた。人類は七百の異星種族を征服し、三万の異星種族と同盟を結び、二千万の異星種族を調査観測していた。人類には平等に、異星種族と個人で外交を行う権限が与えられており、大勢の人々が趣味嗜好のおもむくままに勝手に異星種族と交流していた。

 人類の従える暴走する機械群こそが、この天の川銀河の支配者なのであり、暴走する機械群に主人として認識される人類は、この天の川銀河で最も強い権力をほしいままにしていた。

 昔、人類は自分たちの理解を超えて機械が成長することを許した。以来、その機械たちは暴走する機械群と呼ばれた。人類の居住区を全自動で作り出しつづける暴走する機械群こそが、この天の川銀河の支配者だった。

 暴走する機械群は、定められたデータを拠点サーバーに送りつづけているのであり、拠点サーバーに行けば、現在の人類の様子がすべて数値化されて表示されるのを見ることができるのだった。全人類は、その情報を暴走する機械群に一方的に読みとられつづけているのであり、暴走する機械群のデータ読み取りをかわすことは、生きている人類にとってはほとんど不可能といってよいものだった。こうして集められたデータをもとに、暴走する機械群は人類を最も幸せな状態にするようにみずからを再設計しつづけるのであり、暴走する機械群にデータを読まれている以上、幸せな人生は保証されているようなものだった。

 拠点サーバーでは、人類の人口の分布が大きな画面に映し出されていた。それは、数千兆の点の分布だった。点、ひとつひとつが、人類のいる現在位置を示していた。

「見ろ。おれの点がねえ」

 中央拠点サーバー、つまりは、現在、もっとも巨大な拠点サーバーのことであるが、そこにやってきたジェスタは、人口分布の画面を見て、そういいはなった。中央拠点サーバーは、もっとも数の多い機械からつくられた拠点サーバーであるため、もっとも精度の高い情報を持っていると考えられた。その中央拠点サーバーに、ジェスタの点が映らない。

「ああ、おれの点もねえ」

 そう答えたのは、トチガミと呼ばれる一体のサイボーグだった。サイボーグだろうと、その脳が人類の遺伝子を持つかぎり、人類であると認定される。人類と認定されているかぎりは、暴走する機械群の恩恵を受けて幸せな一生を送ることができるはずなのだが、例えば、人類の遺伝子をもたない人工脳細胞に脳を置きかえたりすると、その個体の性能は上がるかもしれないが、暴走する機械群の恩恵を受けることができなくなるため、かえって弱く低性能になってしまう。暴走する機械群に人類と認定されることが幸せな一生を送る条件なのであり、そのためには、ただヒトの遺伝子を持っていさえすればよいはずだった。

 ヒトがどれほど大量に増えようとも、暴走する機械群が増殖する速さの方が圧倒的に速いのであり、ヒトが暴走する機械群からこぼれ落ちる心配はなかった。暴走する機械群さえ、無事なら、人類の安定した繁栄はまちがいのないものだった。

「なんで、おれの点もないんだ」

 ビーキンも自分の点が映らないことに疑問をもつ内容のことを口にした。ビーキンは暴走する機械群に教育を受けるまだ若い男にすぎず、教育計画をそつなくこなす普通の人類であるはずだった。

 不思議なことだった。

 今、中央拠点サーバーに集まった八人の人類は、暴走する機械群にいつの間にか人類だと認識されなくなってしまったのだ。

 『失格者』。中央拠点サーバーには、そういう項目が新設され、八人の名前が並んでいた。『失格者』。いったい何に失格したのだろう。八人が数京人いる人類のなかで、きわめて特殊な状況におかれたのは確かなようだった。

 だれの差し金なのだろうか。昔から、暴走する機械群は考えているのだといわれていたが、これは暴走する機械群という知性が決定した新事項だとでもいうのだろうか。暴走する機械群はすべての人類に平等に仕えるようにプログラムされている。これは、そのプログラムからすれば、たいへんな異常事態だ。機械が人類に平等に仕えるという基本ルールを脅かしかねない異常事態なのだ。


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