第三十二話「桜色の打ち掛け」
新居にたどり着いた私たちの最初の仕事は、新しい家に運び込まれた荷物の片付けを二人ですることだった。
カーテンだけは家についてもう一度サイズを測って買いに行った。それだけでその日はクタクタだった。
夕食は渉とパスタを食べに行った。あの、桜小路先生が京都の帰りに連れて行ってくれたところだ。
次の日から、本当の二人だけの生活が始まった。
渉がいる日には、一緒に食事をして、渉が持ってきてくれたテレビでなんでもない話をしながら二人だけの時間を過ごす。
これだけのことが、なんてホッとするのだろうか。
入籍予定日。
私のお父さんと渉のお父さんに証人になってもらった婚姻届。間違いはないはずだ。あとは、これを今日出しに行くことで正式に私も「大谷美咲」となる。
「大谷美咲……」
忘れられない。あの子が発したと言う、私の名前……。
今日、本当に私はその名前になる。
数日前、私にかかってきた電話。
「美咲ちゃん、とうとう結婚するのね。おめでとう」
「ありがとうございます。真理先生は……?」
「おかげさまで、司法試験に合格いたしました。現在、司法修習中です」
「おめでとうございます!」
「ありがとう。全ては、美咲ちゃんのおかげだからね。それで……」
「それで?」
「池田先生から、報告は受けてる?」
「はい……」
そう。池田先生は、半年おきの報告を欠かさず行ってくれた。その内容はずいぶん長いこと変わりのないものだったが、その内容に変化が出てきはじめたのが去年の夏頃からだった。
「彼女の仮退院に向けて、周囲が動き出している」
「彼女の家族はもうこの街にはいないらしいが、どうにかしてこの街には戻ってこらせないようにしたいらしい」
「北のほうに住む彼女の親戚のつてで、働き口をなんとか見つけたそうだ」
次々と報告される彼女のこれから。私の心は未だに整理がつきそうにない。それはきっと、渉も同じなのだろう。
二人でいても、その話にはならない。それより昔の話にはなるのに。
「ごめんなさいね、辛い話をさせてしまって」
「いいえ、真理先生にも色々とお世話になりましたし、きちんとご報告しないといけないと思っていました」
「ありがとう、美咲ちゃん。私も、もう少し頑張るわ。また、この街に、池田先生のところに戻ってくるから」
一緒に役所に行って婚姻届を無事に提出した後、お互いそれぞれの職場へ向かった。
住民票ができたら新しい住所と名前を届け出なくては。あと、郵便局に直談判して、転居届と局留めの手続きもやっとこうかな……。
学校に行くだけでなく、家のことも自分でする。それも一人分でなく、二人分。
もともと一人分なんてやったことないから、二人分の家事をドキドキしながら毎日こなしていく。
家で少しでもお母さんの手伝いをしておいたのが本当に助かっている。
二人で暮らし始めてから分かったこともある。
渉は、朝に弱い。
正式には優子お姉ちゃんのいる病院に勤務ということにはなっていないためまだ夜勤はないが、夜遅くなることも多い。
それから寝ると、朝の機嫌が悪い。
いつもの渉でなくて、驚いた。何か怒らせることをしてしまったかと自分を振り返ってもみた。
「俺、寝ないと全然ダメなんだ。朝も、かなり遅くまでぼーっとしてる。怒ってるわけじゃないんだ」
「そうなんだ、てっきり、何か私が失敗して渉を怒らせちゃったのかと……」
「いいや、美咲は毎日頑張ってるよ。慣れない家のことに、学校にも行ってるんだろ?」
「うん、でもまだ入学式前だから、堂々としてるわけにいかないんだけど」
「俺も何か手伝う。俺にできそうなことがあったら、教えてくれ」
「ありがとう、渉」
そして、三度目の御勢学園大学入学式。
本当にここまで学生を続けていることができるなんて、大学に入った時には思っていなかった。
でも、とうとうここまでやってきた。
再び優と同級生になる。学部も違うし、昔のような同級生という感じではないが。
三年で修了できて、それからここに残って授業を持ちながら研究を続けたいな、と思っている。
もちろん、そううまくいかないかもしれない。ただ、最初の目標はそれだ。
「中村さんが上を目指すなら、私もそれに付き合いますよ。彼女も、あなたを心から応援していますから」
矢川先生が言う。もちろん、彼女とは矢川先生の奥様、葵のことだ。
「葵、元気ですか?」
「ええ、元気ですよ。絵を描くのが好きだから、時間を見つけては色々な絵を描いてて、私もそれを見て癒されています」
「いいですね、そういうの」
渉も正式に優子お姉ちゃんと圭太さんのいる病院に研修医として働きはじめた。
お互いにそれぞれ少しづつ忙しくなり始めてきているが、できる限り一緒にご飯を食べ、二人でいる時間を取るようにしていた。
「美咲、そろそろ住民票ができてるんじゃないか?」
「そうだね、そろそろかもね」
「住所も変わってるし、届出とかも必要だろう? 俺も、美咲を扶養に入れないと」
「うう……学生でごめんなさい……」
「いや、美咲がちっぽけな理由で昔からの夢を諦められる方が、俺としては悔しい。気にしないで、自分の目標に向かって、今は進んでくれ」
「お世話になります」
学校に届け出ているのは実家の住所のまま。ひとまず、学校には住所変更と名前の変更は届け出ないと。
学校に届け出を済ませ、正式文書等には「大谷」を使うことになったが、差し支えない範囲では旧姓の「中村」を使用してもいいということが分かった。日常生活ではこれまで通り、「中村美咲」で行くことにする。
二人で暮らし始めて一ヶ月。ゴールデンウイーク手前。
「ところでさ、美咲」
「ん、なに?」
「まとめて休みを取れそうな時期ってあるか?」
「うーん、私学生だし、休もうと思えばいつでも休めるけど……」
「去年みたいに、学会とかないのか?」
「あ……」
今年は力が発表の年だ。十一月に仙台で行われる。矢川先生には、「今年いきなり発表は求めません。来年、もしくは再来年には発表してもらうつもりですから、そのつもりでいてくださいね」と言われているくらいだ。
「十一月に仙台に行くけど、今年は私の発表の必要はないから、そんなに忙しくないと思うし、本当にいつでも大丈夫」
「じゃあ、十一月より前がいいかな」
「何が?」
「式だよ」
「えっ!」
「驚くことないだろう。今は籍だけを入れている形だから、きちんとけじめをつけないとと思ってたからな。不満か?」
「ううん、全然!」
「じゃあ、この休み、二人で作戦会議だ」
「渉……」
「何だ?」
「いつでもいい、いや……」
「どうした?」
「せっかくだから、一緒にどこか行きたいと思って。新婚旅行……?」
「そうだな。長い休みは今は厳しいけど、近場ぐらいならばどこか行こう。行きたいところ、お互いに出していこうぜ」
「うん!」
そうして、ゴールデンウイークを使って私たちは式の計画を立てることにした。
「美咲、どういう結婚式がしたいとかあるか? 誰を呼びたいとか、どんなのが着たいとか」
「うーん、呼びたい人っていうのはあんまりないんだけど、本格的にやりたいな。本物のチャペルとか、神社の境内とか」
「そうか」
「渉は? 仕事の関係で、いろいろ呼ばないといけない人いるんじゃない?」
「それがさ、今の職場に来てそんなに経たないし、あんまり大掛かりにしたくないっていうのが本音なんだよな。できれば、お互いの両親と兄弟、おじいちゃんおばあちゃんぐらいの家族婚ってやつ?」
「へえ、意外だね。渉、友達多かったし、たくさん呼んで大掛かりにやりたいのかと思ってた」
「いいや、あんまり大掛かりにしても疲れるだけだし、俺の両親とおばあちゃん、美咲のご両親とおじいちゃんおばあちゃん、優子お姉ちゃんと圭太さんあたりまででいいかなと思ってる。美咲、どう思う?」
「そうだね、私もたくさんの人を呼びたいとは思っていないな。それにあんまりあの時期を思い出したくないっていうのもある」
「そうだろうな」
「でも、家族ぐらいでならいいかもね」
「よし、美咲の希望で少人数……美咲、ドレスと着物、どっち着たい?」
「……うーん、どっちもだけど、どっちかと言われたら着物かな」
「じゃあ、どっちも着れる可能性のあるところ探すか」
ということで、招待客十人の小規模な披露宴をつけた、本格的なところを……となると、この市内のちょうど中心にある神社が家族向けの結婚式プランというものをやっていた。
「美咲、これどうだ?」それを先に見つけた渉が私を呼ぶ。
「ああ、あの神社?」
「そうだ。美咲、神社でもいいって言ってたよな?」
「うん、そうだね。袴に白無垢、本格的だね」
「ここに書いてあるウエディングフェアの日は、俺いないや。明後日だったら普通に一日動けるけど、見せてもらったりできるかな?」
「電話してみようか?」
「お願いできるか?」
「任せて!」
翌々日。
「十名ぐらいの招待客で、家族中心の結婚式をと考えていますが、可能でしょうか?」
「衣装など、どのくらい選べるのでしょうか?」
「料理などはどのようなものが、どのくらいが基本なのでしょうか?」
担当になっていただいたプランナーさんを質問攻めにしてしまったが、一つ一つに丁寧に答えていただき、次回料理を試食させてもらうことができるという話になった。
「とりあえず、俺らの日程の都合を決めないとな」
「そうだね、そうしないと会場を押さえられないしね」
日程を仮に十月の頭頃にすることにした。暑すぎもせず、寒くなりすぎない頃ということで。
それと同時に、披露宴でどういうことをしたいか、何が着たいかということを具体的に上げていくことにした。
結婚式関連雑誌をまず買い、どのようなイベントにどのくらいの費用がかかるのか、どのアイテムにどんな費用がかかるかをにらめっこしながら考えていった。
試食にも行き、同時に指輪も注文しに行った。
本当に結婚式の準備って忙しいんだな、と思った。
家族婚でもこれだけ忙しいんだから、たくさんの人を招待して披露宴を行うとなるともっと忙しくなるんだろうな。
もちろん、渉も色々と協力してはくれるが、仕事の都合上準備は私が中心になってしまう。
そして、何度目かの会場との打ち合わせの日。今回は特に衣装合わせをすることにしていた。
「美咲、結局あれでいいのか?」
「うん、それが一番だろうなと思って」
私は色々と考えた末、白無垢とウエディングドレスを一度ずつ着ようと考えていた。会場にはどちらもあり、そのような組み合わせも問題ないとのことだった。
「それなら、俺は袴を借りるだけでいいかな。タキシードでなくてもいいって言ってたし」
私たちは会場の衣装室に通された。
「わあ……」
優子お姉ちゃんの結婚式の時の衣装室とは違うが、白無垢もドレスもずらりと揃っている。
「白無垢とドレスとお選びになるんですよね」
担当のプランナーさんが色々とドレスを持ってきてくれる。基本的にこのプランナーさんは衣装係なのだそうだ。
色々と衣装を着せ替えてもらいながら、私はふと目に入った色打掛に目を奪われた。
ピンク色、というよりもっと淡い、さくら色……といったほうがいいような淡い色。それまで気がつかなかったが、一度視界に入ってしまうとそればかりが気になってしまう。
「すみません……」
「何でしょう?」
「あの、ピンク色の打掛って、試着できますか?」
「ええ、どうぞ。今お持ちしますね」
「あれが気に入ったのか?」
「うん……」
「お待たせしました」
簡単にではあるが、試着させてもらう。
「あら、お似合いですよ」
「おお、きれいだな、美咲」
「そう?」
口々に言われ、照れくさくなる。
「これまでのプランですと、ドレスを選ばれるか色打掛を選ばれるかですね。時間的にも二回のお色直しは長くなりますし……」
「美咲、どっちがいい? ここは美咲次第だぞ」
「うーん……」
ドレスも着た。色打掛も着た。そしてどちらかを選べと言われている。
「……」しばし沈黙の時間が流れる。
「色打掛……」
「本当にそれでいいのか?」
「うん、それでいい」
「じゃあ、それで話を進めますね。その色打掛、実は最近入ったばかりで、まだあまり着られた方いらっしゃらないんですよ」
衣装も決まり、指輪も出来上がったところで私たちにできることはあとは招待状の発送や出欠の確認くらいだ。
まあ、私には最大にして最難関のイベントが待っているのだが。
招待状を送った両親やおじいちゃんにおばあちゃん、優子お姉ちゃんに圭太さんからの出欠が揃ったのはもう夏だった。
準備しながらもお互い日常生活や学生生活、社会人としての生活は続いている。
「美咲、新婚旅行ってどこ行きたい?」
「ああ、なんかバタバタしてて考えてなかった……」
「式に続いて少し休み取るつもりだから、秋頃だと思ってくれたらいいんだけど」
「十一月にはならないよね?」
「そうだな。あと、海外とか遠くに長くは行けない。ごめんな」
「ううん、海外に行きたいとは思ってなかったから。渉、どこか行きたいところないの?」
「時間と距離の制約があるからな……美咲、温泉好きか?」
「うん、好き」
「高校の卒業旅行で行ったあたりの温泉、いいと思ったんだ。本当に短い期間だけど、いいか?」
「渉と一緒なら、いい。渉たちが行ったところ、興味あるし」
「いつかは、一緒に長い旅行に行こうな」
キャンパス内で久しぶりに優と会った。桜小路会メンバーで今私の一番近くにいるのは優である。
結婚式の話をすると、優は微笑ましそうに、
「へえ、いいじゃないか、美咲たち。二人とも忙しいのに、ちゃんと式も挙げるんだな」
「うん、旦那がけじめはちゃんとつけないとって。家族婚の予定だけどね」
「旦那さんって、お医者さんだったっけ? 色々関係者とか呼ばないといけなさそうなのにな」
「うーん、あんまりそういうのが好きじゃないみたい。優たちは? 二人がドレスアップしたハガキもらったけど」
「あれ、俺らだけで式らしきものをしただけだよ。けじめはつけないといけないんだけど、奥さんが社会人で俺が学生っていう立場上、なんだか式を挙げにくくってさ。俺がドクター修了したら、改めて式するかもな」
それくらいの会話であったが、優たちが壮大な計画を立て始めたことなど私はまだ知らない。
その頃、私は一つのことに頭を悩ませていた。
「両親への手紙」。
結婚式で読み上げる、いわゆる涙なしでは読むことができないと言われるものだ。まあ、 優子お姉ちゃんは涙一つ見せていなかったが。
文章はたくさん書いてきた。苦手な読書感想文から、毎月桜小路先生に提出していたレポート、高校の時の学会の原稿、高校の卒業論文、大学でのレポートに、大学での卒業論文、大学院での学会の原稿に修士論文……数え上げるときりがない。今も博士論文の根本になるものを書き始めている。
でも、両親への手紙は全くそれらとは異質だ。それゆえに、何を書いたらいいか全く分からなかった。
困りきった私は、渉に聞いてみることにした。
「ねえ、両親への手紙って何書いたらいいんだろう?」
「小学校とか中学校の卒業の時にもみんなで書いたじゃん。それみたいな感じでいいんじゃないのか? 俺、聞いたぞ。美咲のお母さんが卒業式のたびに手紙書いてくれてすっごく嬉しかったってうちのお袋に言ってたって」
「へえ、そうだったんだ」
「結婚式だからって、難しいこと書かなくていいと思うぞ。あの時書いたことの繰り返しでも、きっと喜んでもらえると思うな」
「ありがとう、渉」
それから少しずつながら、私は手紙を書き始めた。優子お姉ちゃんの分と鈴と小鈴の分の手紙も忘れずに書いた。
そして迎えた、結婚式当日。
暑くもなく、寒くもなく。穏やかな太陽の光が私たちを照らしているようだった。
「行こうか、美咲」
「うん」
会場に到着すると、たくさんの人たちが私の着付けに回り始めた。
たくさんの人が、たくさんのものが飛び交い、私を白無垢姿の花嫁に仕立てていく。
渉は別室で袴の着付けをしてもらっているはずだ。
挙式の前に、二人で写真を撮ってもらうことになっている。
ようやく私の着付けが終わると、写真室に案内された。そこには袴姿の渉が待っていた。
花嫁の登場に、みんなの顔がほころぶ。
二人が並んでカメラの前に並ぶと、渉が私にそっと、「綺麗だよ、美咲」と耳打ちした。
「う……は、恥ずかしいよ、渉……」
「だって、綺麗だから」
「はい、撮りますよ」
そして、結婚写真を撮影し、私と渉の両親のもとへ向かう。次は神前式だ。
バージンロードとは違い、母親と一緒に並んで本殿へ向かう。意外だった。
その後ろを父親がついてきているようだが、後ろを確認する余裕はない。
そして本殿に到着する。
その日の流れの説明は聞いていたが、いざ本番となると緊張する。
たどたどしくも、大きな失敗もなく、神前式は厳かに過ぎていった。
朝のうちに回収された指輪も、ここで再びお互いの左手の薬指に収まった。
そして、集合写真を撮り、そのまま披露宴会場へ向かう。
二人で高砂に着席すると、「おまかせ」していた司会者の方が手際よく披露宴を進めていった。
家族婚らしく、出席者一人一人が一言ずつ自己紹介をしてから始まった。
白無垢と袴姿でのケーキカット、乾杯をしてしばらくしたら私はお色直しだ。
私のお色直しもお母さんに手を取ってもらうことにしていた。ああ、お姉ちゃんはこんな感じでお色直しの退場をしていったんだな、という感慨にふける間もなく、会場を出てすぐに係の人が着替えにかかり始めた。
お色直し後も和装だ。着替えは係の人にされるがままである。
とはいえ、自分が一目惚れした色打掛。やはり、綺麗な色だ。
渉は両方に合う袴を選んだということでお色直しというものはない。
会場は、私の着替えを待っている。
着替えが終わり、桜色の打ち掛けをまとった私が入場する。
珍しい色の打ち掛けに、声が上がる。
洋式の披露宴のようだが、渉と二人で会場内にキャンドルを灯して回る。その時にみんな写真を撮りたがるそうで、優子お姉ちゃんも圭太さんもたくさん写真を撮ってくれた。
会場を一周すると、とうとう私の手紙を読み上げる時が来た。緊張する。
「お父さん、お母さん、優子お姉ちゃん、鈴、小鈴へ
私は小さいころから何度も何度も、生命の危険にあってきました。その度にみんなには大変な心配をかけてしまったと思っています。
それだけでも迷惑をかけていたのに、高校を変わりたいというワガママまで通してしまい、特にお父さん、お母さんにはとても迷惑をかけてしまったのではないかと思っています。
お父さん、お父さんが昔から色々なことを教えてくれたから、今の私がいると思います。まだ学生という頼りない立場ですが、お父さんが教えてくれたことをこれから生かしていけるような生き方をしていきたいと思います。ありがとうございます。
お母さん、お母さんには悩みを聞いてもらったり、私が困っているときに助けてくれたり、転校する前には学校に話を聞きにきてもらったりと、いろいろ私のことについては手を焼いたのではないかと思っています。本当に感謝しています。ありがとうございます。
優子お姉ちゃん、お姉ちゃんは、私の絶対的な味方でいてくれました。そのことが、すごく心強かったです。私の先を軽々と行くお姉ちゃん、でも、すごく努力していることを知っています。圭太さんと、これからもずっと仲良くしていってください。優子お姉ちゃんが、私のお姉ちゃんでいてくれて、本当によかった。ありがとうございます。
鈴ちゃん、小鈴ちゃん、二匹が家にきてから、家の話題が二つ増えました。拾ってきたすぐの時は鈴ちゃんと小鈴ちゃんは親子なのかなとか。どちらかが元気がないとどちらかがそばに寄り添っていたりとか、最近は二匹で日向ぼっこしていたりとか、本当に仲のいい鈴ちゃんと小鈴ちゃん。いつまでも、いつまでも元気でいてね。ありがとうございます。
今日、大谷渉さんと結婚式を挙げることができました。渉さんとは、小さいときからずっと、ずっと一緒にいたのですが、今日結婚式を挙げたことで、気持ちとしても区切りをつけることができたと思っています。
今日まで私たちを見守っていただいて、本当にありがとうございました。まだまだ未熟者の私たちですが、二人で力を合わせて精一杯頑張って参りますので、どうぞよろしくお願い致します」
会場のあちらこちらから、すすり泣くような声が聞こえる。目の前のお父さんとお母さんも涙ぐんでいる。
本当にみんな泣くんだな、と自分はどこか遠くから見つめている感じでいた。
そのまま、用意していたプリザーブドフラワーを私のお母さんと渉のお母さんに渡すと、私のお父さんと渉のお父さんの挨拶となる。
「美咲は、小さい頃から確かにあまり体が強くない上に、様々なトラブルに見舞われ、成人することすらできないのではないかと思ったこともありました。しかし、娘は自分の意思で、自分の未来を切り開いていきました。まだ一人前とは言えない子ですが、そんなこの子でも一緒になってくれると言ってくれた渉くんには心から感謝しています。渉くんの意思の強さにはこれまで私も感心させられるばかりでした。きっと、これから二人で幸せになっていってくれると思います。短くはありますが、これをもって新婦の父親からの挨拶とさせていただきます。本当にありがとうございました。美咲、渉くん、本当におめでとう」
「渉は、親である私から見ても、良くいえば芯が強い、悪くいえば頑固なところがある子です。昔から、美咲さんのことを治して見せるんだ、と言って、私に「どうやったら美咲ちゃんを治せるの?」と聞いてきていたものです。その頃の渉がそのまま今の渉になっている、という印象です。ただ、それを悪いことだとは私は思いません。強い心を持っているからこそ、渉は自分の決めた道を貫き通しましたし、今日の日を迎えることができました。まだ医師としても、人間としても半人前ですが、きっと美咲さんと一緒に力を合わせて頑張ってくれることと信じています。渉、美咲ちゃん、本当におめでとう。私もあまり話すのが得意ではないので、これで新郎の父親の挨拶とさせていただきます。ありがとうございました」
そして、最後に新郎である渉の挨拶。
「皆様、今日は私と美咲さんの挙式・披露宴にお越しくださいまして、本当にありがとうございました」
一緒に頭を下げる。
「私も、一体いつ頃から美咲さんと一緒にいたのか、はっきりと思い出すことができません。物心ついた頃には、すでに美咲さんと、お姉さんの優子さんと一緒に毎日遊んでいました。
そんな毎日で、美咲さんを守りたいと思った一番最初は、やはり小学校三年生の夏だったと思います。うちに遊びに来た帰りに彼女が交通事故にあってもしかしたら……という話を母親から聞いて、近所だからといって油断していた自分を責めました。父親はその時病院を手配していたということだったので、もしかしたら医者になったら美咲さんを助けられるかもしれない、と考え始めたのもその頃です。
その後、彼女は奇跡といわれる回復を見せました。影響が全くないような生活をしていました。しかし、それが崩れたのが高校に入りたての頃です。彼女が倒れたのです。
自分は何ができるのだろう。当時の自分は、父親と同じ内科医になるつもりでいました。
しかし、自分なりに考えたり、父親や美咲さんのお姉さんの優子さんに話を聞いて、一般内科ではなく、神経内科をめざすことにしました。彼女が抱えるものの、その一部を自分も助けてあげられるようにしたい。それが一番の動機です。
その一心で医学部を目指していたとき……彼女は、事件に遭いました……。これは、自分のせいであると言われても仕方がありません……。犯人は逮捕され、医療少年院に入院したとのことですが、今年退院し、この街でないところで就労しているとの話です。
その時、私はここにいる自分の両親と美咲さんのご両親、お姉さんの前で誓いました。「自分の命に代えても、美咲さんを守らせてください」と。
後から考えると、その場にはそぐわなかった発言だったかもしれません。ですが、その意見を絶対的に肯定してくれたのが美咲さんのお姉さん、優子さんでした。優子さんが後押しをしてくれたおかげで、その意見は全員に受け入れていただくことができ、美咲さんにも届きました。
それからは自分の言葉に違わぬように、努力を重ねて参りました。彼女には長いこと待たせてしまいました。でも、何も言わずについてきてくれた彼女には、本当に感謝しています。
お父さん、お母さん、美咲さんのお父さん、お母さん、優子お姉ちゃん、ようやくこの日を迎えることができました。これからも美咲さんとずっと、ずっと一緒です。美咲さんを、自分の命に代えても守ります」
割れんばかりの拍手が起こった。また、会場のあちこちからすすり泣きが聞こえてきた。
これで、披露宴は終了だ。
ささやかな引き出物を来ていただいた方に手渡しながら、お見送りを行う。
終わってからも写真を撮ったりと忙しかったが、無事に全員のお見送りを終わらせた。
「終わったな」
「うん、終わったね」
「お疲れ様」
「お疲れ様。渉、あれだけの話す中身、準備してたの?」
「ああ、なんだかんだでな」
「すごい……。私よりすごいよ」
「さて、新郎さん、新婦さん、お着替えなさいましょう」
その声で私たちは着替えに戻っていった。
その三日後。
一泊二日の新婚旅行へ私たちは向かっていた。
これからは、二人いつまでも一緒。
大変なこと、辛いことも確かにあるかもしれない。
でも、きっとその先には「やっぱり渉と一緒でよかった」と思えるようになるだろう。
渉と一緒なら、きっと。
見上げる青い空が、二人を祝福してくれているようだった。
ーー第四章「華」 完ーー




