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桜小路茶話  作者: 望月 明依子
第四章 「華」
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第十五話「教育実習」



大学四年生になった私たちは、学校で会うということもあまりなくなった。

せいぜい、同じゼミの和菜と教職科目でも顔を合わせるくらいだ。

もういよいよ、これから先の進路を決める時期なのだ。


春休みに行われた矢川先生との面談も、前回と大きな変わりはなかった。

唯一の違いといえば、卒論をいつ頃提出できるかのめどが立っているか尋ねられたくらいだ。

法学部のゼミはそれぞれ自由で、卒論がないゼミもあるようだ。

矢川ゼミは独自の卒論発表会を卒業式ごろに行い、原稿を全員分集めて製本してくれるのだそうだ。

そのためには来年の一月ごろには出来上がっていて欲しいんだけどな、と矢川先生は言っていた。

現状ではとにかく御勢学園大学大学院の入学試験勉強第一で、それから卒論は追い込むつもりでいる、と私は伝えた。

それまでの準備はある程度済ませている。追い込むのは高校の頃から慣れっこだ。

それよりも、やはり次のステップへ進むための試験対策。そちらの方が優先だと考えていた。


新学期が始まっておよそ一ヶ月。

教育学部以外の教職課程履修者が集められ、教育実習説明会が行われた。

すでに各学部で誰がどこの学校で教育実習を行うのかというのは振り分けが行われているようだが、実習へ行く学校へ個人でバラバラに挨拶に行くよりまとまって挨拶を行った方がいいということで一斉に説明会が行われるらしい。

とはいえ、やはり教育学部以外で教職課程を履修している人はそこまで多くはない。

しかも、学部学科によっては、高校ではなく中学校、もしくは中学か高校か選べるという場合もあると言う。

私は予想通り、御勢学園大学の附属高校で実習を行うこととなった。

一緒に大学から御勢の附属高校で実習を行うのは三人。思った以上に少ない。

中学校だったらもっと多かったのかな、と思うが私は御勢の附属中には関係がない。

私が公民科の実習を行うが、後の二人は物理科と国語科。

国語科は、本当に久しぶりに顔を合わせた、えりえりだった。

「美咲ちゃん!」

「えりえり!」

「久しぶり!」

「えりえり、教育学部じゃなかったんだね」

「うん、文学部にいるの」

そういえば、担当教員って誰になるんだろうか? 桜小路先生はどっちかといえば歴史や地理の方を教えていたイメージがあるから、別の先生が担当になるのかもしれない。

「とりあえず、三人の誰かが代表者になって附属高に連絡しないといけないんでしょ? いいよ、私やる」

「いいの、えりえり?」

「うん、任せて」

そうしているうちにえりえりはあっという間に御勢の附属高校に電話を入れてしまった。

あとは御勢の附属高校での実習説明会までだ。



約二週間後。久しぶりに御勢学園大学の附属高校にやってきた。今度は生徒としてではなく、教師の卵として。

この時期に実習をするのは御勢学園大学の教育学部以外だ。つまりは他学部や他大学に進学した教育実習を必要とするものたちだ。

ほとんどは御勢学園大学の教育学部に進学した3年1組のみんなとここで再会するのは難しい。えりえりと再会できたことが驚きだった。

やはり、実際に説明会が行われる会議室に入ると、用意されている資料は少ない。

そして顔ぶれを見ても、大概は二組だった子のようだ。

「あ……」

「中村さん」

「山内さん!」

「元気だった?」

「うん、山内さんは?」

「おかげさまで。元気よ」

「国語科の実習?」

「うん、本多さんもいるし、安心した」

結局実習生は全員で六人。社会科系は私だけだ。

そして、気になっていた担当教官は……

「久保田先生……」

確か、現代社会とか習ってた気がする。そういえば、あんまり久保田先生から日本史とか地理とかの話は聞かなかったな。

まあ、今回は公民科の実習だ。桜小路先生に会いに来たわけじゃない。

「今回の実習の担当教官の久保田です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「中村さんは桜小路先生の方が馴染んでるかもしれないと思ったけれど、桜小路先生は今年クラス担任を持っていらっしゃらないことと、あなたが公民科の実習をされるということで私が担当教官となった、というわけです。まあ、教員採用試験を受ける受けないに関わらず、ホームルームに出ることも実習には必要だからね。もちろん、放課後の部活動の指導として社会部に顔を出す分にはいっこうに構いませんよ。それも実習の一環なのですからね」


久保田先生は一年二組の担任をされている。1年生は各クラス文系理系が混ざっている。先生も文理混ざっているのだ。

久保田先生に授業をさせてもらえる内容を聞き、自分ならどういう風に授業を進めて行こうか、と考える日々が続いた。

高校の時に多少なりとも指導案を読んでおいたことが今どれだけ役立っていることか、とつくづく思う。

お父さんにももう一度昔書いたという指導案を借り、自分の指導案に活かせるところがないかを考えた。

そして、いよいよ二週間の実習期間がやってきた。



「御勢学園大学法学部四年、中村美咲です。これから二週間、よろしくお願いします」

すでに教育実習には慣れている子たちのようだ。一番慣れていないのは私かもしれない。

初めて出る職員会議に初めてのホームルーム、緊張しっぱなしの一日だ。今日は私の授業はない。私の初授業は明日の三時間目だ。

その間は他の先生の授業を聞きに行ったり、指導案作成にあてられる。

私は久しぶりに、本当に久しぶりに、桜小路先生の授業を聞きに行くことにした。歴史の授業と公民の授業とでは直接の関係はないかもしれないが、私の授業の持っていき方や授業構成は桜小路先生の授業そのものだ。まさに、私の授業のお手本なのだ。

桜小路先生は二年生の日本史の授業を担当されていた。ああ、この感じだ。思い出す、あの頃を。

だが、今はそれどころではない。少しでも、自分の授業に活かせるように桜小路先生の授業を聞かなければ。

話し方、口調、間の取り方……自分の授業に活かすべき点はたくさんある。

私はとりあえず思いついたことをたくさんメモして桜小路先生の授業されている教室を後にした。


「美咲ちゃん、お疲れさま」

「えりえり、今日授業してきたの?」

「うん、さっそくだったからかなり緊張した」

「緊張するよね。私も明日からだから緊張する……」

「思ってた以上だったよ。なかなか上手くできないものだね」

「えりえりでもそう思うんだ……」

「じゃあ、私先生と打ち合わせ行ってくるね」

「行ってらっしゃい、お疲れ、えりえり」

「またね、美咲ちゃん」

私も久保田先生との軽い打ち合わせがある。ただ、今日はほとんど何もしていないため、本当に久保田先生のアドバイスを聞くくらいだ。

「でも、疲れた……」

二週間の実習期間。初日からこれなら、先が思いやられる。


翌日。三時間目、一年二組での、初めての私の授業。

授業をさせてもらえる範囲の指導案は作り、関連しそうな資料もがんばって揃えた。

ただ、桜小路先生と匠と三人で三年一組の教卓に立ったときや大学のキャンパスで学会発表用の授業をやった時とは感覚が全く違う。一人なのだ。一人でなんでもやらないといけないのだ。

「え、ええと、授業を始めます……」

頭の中で描いていた桜小路先生の授業はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。



授業をするという経験はアルバイトでやっていたが、四十人を目の前に授業をするというのは初めてだ。

作っていた指導案をなんとかこなすだけで時間一杯だった。授業の間に余談を挟んで生徒の興味を引き戻すという行為がいかに高度なものであるか改めて気づかされた。

その日の放課後。私は控え室に戻るとすぐに久保田先生に呼び出された。

「中村さん、打ち合わせをしましょう」

「はい」

今日の指導案などを持って職員室へ向かう。駄目出しは覚悟だ。

「中村さん、初授業お疲れさまでした。いかがでしたか、初めて一人で40人を目の前にするのは」

「緊張、その一言に尽きます……」

「そうですね。いろいろと固い感じがしましたね、まあ、最初の授業ですからね。でも、最初にしてはがんばって授業をされていたと思いますよ。研究発表まで、まだ道は長いですが、頑張りましょう」

そして、授業のアドバイスを各部分で頂いた。どれも非常にためになるものだった。


「ただいま」

「おかえり、美咲。疲れたでしょ」

「どうだった、授業は」

学校に戻った父親が興味津々な感じで聞いてくる。

「ボロボロ……上手くいかないもんだね……」

「最初から授業が上手くできる人間なんているもんか。どんなベテランの先生も、そういった感情を乗り越えてきたんだ」


次の日からも、私は教卓に立った。一年二組だけでなく、一組でも授業をさせてもらった。

緊張はなかなか取れなかったが、授業の流れというものは少しだけつかむことができた。

その中で少しだけ自分の話をすることができた。


その日の反省会。久保田先生に言われた。

「中村さん、せっかく自分の話をするなら、もっとしっかり話した方がよかったね。子供たちも大学生活や授業というものに興味を持てただろうし、卒論の内容をせっかく話したんだったら、じっくり話し込むくらいが子供たちも興味を惹かれるよ」

「そうだったんですね……」

授業を進める必要性から中途半端に自分の話を打ち切ってしまったのだ。

それが逆効果だったのか……反省だ。


そして、教育実習の総まとめ、研究発表がやってくる。


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