表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜小路茶話  作者: 望月 明依子
第四章 「華」
50/81

第四話「再会」



その日は、思ったより早く訪れた。


七月に入ると、試験が始まる。

その準備をしていると、まるで学期末考査しか評価対象にならなかった御勢の附属高校の頃のようだ。

大学に入って驚いたのは、先生によって教科書やノート、あげくの果ては危険物以外全て試験場に持ち込み可という試験の方法だった。高校ではまずありえない。

もちろん、持ち込み一切不可という試験も存在する。先生によるのだ。


試験の代わりにレポート提出を求める先生もいる。

私は六月ぐらいから、週二回、杉谷に入るまでいろいろ面倒を見てくれていた個別指導の塾で講師をさせてもらっていた。

試験勉強をしつつ、そこの塾に集まる他学部や優子お姉ちゃんと同じ大学の子たちと情報を共有していた。


渉の大学もやはり厳しい試験なのだろう。優子お姉ちゃんの大学の医学部の子もアルバイト先にいたが、テスト期間中は完全に仕事を休んでいた。

普段は渉と連絡は常々取っていたが、テスト前はお互い連絡を控えていた。



まだ一年の前期、試験の数は多くはない。

その代わり、一年のうちに取っておかないと再履修は厳しい科目が多い。

始めての大学の試験。緊張が走る。

一科目目、二科目目……試験は続いていく。

ただ、高校の時とは違い、一週間の間に時間割通り試験が行われる。一日に何科目も、というのはまだない。

「美咲、どう?」

「持ち込み可のやつはなんとか。持ち込み不可の試験って、緊張するね」

「美咲でも緊張するんだね」

「そりゃあそうだよ、響は?」

「とにかくね、最後の行まで埋めるようにしてる。意味不明なこと書いてるかもだけど、ここはやる気の見せどころって感じで?」

「なるほどね!」

「とりあえず、明日がんばれば土日だよ。一息つけるよ」

「だね。明日は持ち込み不可の必修あるし、頑張らないとね」

「うん、お互い頑張ろうね」

そう言って響は帰って行った。

私も帰って、勉強しよう。明日は教養科目の試験もある。


「美咲」

「早希嬢?」

そこには、早希が立っていた。

「試験が終わった日の、夕方。うーん、だいたい5限が終わったくらいだから、時間をゆっくり見て六時ぐらいかな。空いてる?」

まだ試験期間内だ。アルバイトは休みを取っている。

「うん、バイトも休みだし、空いてるよ」

「よかった。この日なら、陽子も予定が合うって。そうね、学食なんてどう?」

「陽子と、会えるの?」

「そうよ。陽子にもそう言ってるわ」

「やった!」

「その様子、陽子にも伝えておく。陽子も、美咲にすごく会いたがってたから」


陽子の持ちかけてきた話は、一連の事件の全ての始まりだった。でも、そのことに関しては私は何も思っていない。

何と言っても、私の杉谷高校での初めての友達だったし、私の夢を応援して渉と共に杉谷から送り出してくれた。

その後も、杉谷の中で一貫して私と渉側に立ってあの子と戦ってくれ、あの事件の後は真理先生と池田先生へ証言や情報をくれた。入院中はお見舞いにもきてくれた。

私が杉谷高校を去る時にもらった手紙を思い出す。結局、陽子の負けない夢って、なんだったんだろう……。


翌日の試験をどうにか終え、一息ついて帰宅した。

あの日陽子にもらった手紙を改めて読み返してみる。

「私たち、また会えるよね」

意外な形で会ったことは何度もあったが、学部は違えど同級生として、再び同じ学校に通うことになるとは、本当に思ってもいなかった。

陽子に会ったら、聞いてみよう。陽子の負けない夢は、何……?



土日は残りの試験勉強でいっぱいいっぱいだった。

でも、これが終われば夏休み。少しは余裕が出るはずだ。

ちょっと止まっている研究も、進めておこう。

渉も夏休みなら、少しは余裕があるかもしれない。遊園地とは言わなくても、またうちに遊びに来てくれて、日々の話をできればいい。

祐樹もこっちに帰ってくるだろうか。もし帰ってきたら、全員揃った桜小路会を開きたい。

そして、テスト最終日の夕方には陽子に会うのだ。

おっと、集中集中……。テストが完全に終わるまでは、気は抜けない。


月曜のテストは朝と夕方だけだったが、そういうテストの方が逆に厄介だ。

昼を挟むので、家に帰るか悩む。いつもは響の家にお邪魔して一緒にご飯を食べたりしていたが、テスト期間中にそれをやるのは響の迷惑になりそうだ。

「美咲、うちで一緒に勉強しようよ」

「響、いいの?」

「毎週一緒にうちでランチしてたじゃん。それがテスト勉強に変わるだけだよ」

「うん、じゃあ、お邪魔します!」

そうして、夕方の試験まで私たちは試験勉強をしたのかおしゃべりをしたのかわからない時間を過ごした。夕方の試験は持ち込み可なのが幸いだった。


そうして、試験期間は残すところあと一日。

明日は午前中に試験があり、午後に試験があって、それで終了だ。

六時までは少し時間があるが、その時間は図書館あたりで時間を潰そう。

御勢の図書館は、意外と色々なジャンルの本が揃っている。まあ、座席は大概勉強している人たちに浅慮されているため、読みたい本があったら借りて家で読んでいるが。

せっかくの試験終了日だ。久しぶりに裁判員制度の研究を進めてみよう。


そして、一年の前期試験最終日。

「終わったあ!」

最後の試験は教養科目で、たまたま誰とも選択が一緒でなかったため、一人でその開放感を味わった。

「うーん、だいたいあと三時間くらいあるかな……」

これまでの教科書をバッグに詰め、図書館へと向かう。

空いている席に荷物を置き、貴重品だけを持って本を探す。今年の夏は、研究とアルバイト、桜小路会、渉とも会いたいし……と考えると、九月までの夏休みが短いような気がし始めた。

つい一年前までは、夏休みなんて二週間あるかないかだったのに。


これまでの研究から、この先の方向性を見つけ出すために役立ちそうな本を数冊ピックアップして席に戻る。テスト明けとはいえ、図書館は人でいっぱいだった。

みんなテスト勉強してるのかな、と思いつつ、ずいぶんとサボっていた研究のまとめを軽くしながら、これからどういう方向性に持って行こうかを考える。思考は学会発表の頃で止まっていた。

うーん、あの授業で高校生への意識付けの端っこのようなものは、できたのかな? まあ、これだけで完全な意識付けが出来たなんて到底思えない。もっと一般的な意識付け……となると、麻衣子が高等学校の公民科の授業として研究すべきことなのかもしれない。

私は、私が今ここでできることをしないと。

そういうことをぼんやり考えていたら、時計はすでに五時半を指していた。

「そろそろ行こうっと」

私は借りて読めそうな分の本を借りる手続きを済ませ、学食へと向かった。



テスト最終日の夕方の学食は、軽い打ち上げのような雰囲気を醸し出していた。

ここに、早希と陽子が現れるのだろうか。

入り口から少し離れ、そばにある掲示板のたくさんのサークルなどの掲示物を眺めていると、「わっ!」と早希と陽子に声をかけられた。

「きゃっ! ……早希嬢に陽子……陽子!」驚きながら振り返ると、そこには早希と陽子が立っていた。

「久しぶり、美咲。会いたかったよ」陽子が言う。

「私も、会いたかったよ、陽子」

「さて、あたしの仕事はここでおしまい。積もる話もたくさんあるだろうし、学食でなくてもいいじゃん。あたし、野暮用があるから帰るわ。二人でごゆっくりね」

「ありがとう、早希嬢。彼氏待たせてるんでしょ?」

「あ、こら、陽子、それは秘密で……」

「ありがとう、早希嬢。自分のデートまで犠牲にして私たちの再会をセッティングしてくれて。今度、なんかおごるよ」

「気にしないでいいよ。さ、あたしもう行くから」

そう言って早希は去って行った。


学食は夜は七時半で閉まってしまう。久々の再開で、積もる話をするにはちょっと一時間半では足りない気がした。

「場所変えようか」

「そうだね、いつものファミレス行く?」

「そうね、そうしよっか」

私たちは大学を出て、御勢学園大学附属高校の合格祝い、そしてあの子の話を持ちかけられたファミレスへと向かった。


ファミレスももう満席だ。しかし、待ち時間も苦ではなかった。

「ねえ、陽子はどうして御勢に来たの?」

「あたしね、高校の頃、おじいちゃんの介護の手伝いしてたのね。今は施設に入ってお世話してもらってるんだけど。その頃から、将来は介護関係の仕事したいな、って思ってたんだ。いろいろ調べてたんだけど、まず大学で国家資格の社会福祉士を目指して、そこから実際に職務経験を積んで取得できる資格を目指すのもいいかなと思って。2年の頃までは美咲のお姉ちゃんのいる大学狙ってたけど、周りからはかなり厳しいだろうって言われてて。

そしたら、三年で担任になった大久保先生が、「御勢学園大学に、文学部の福祉学科が認可されたぞ。一期生だし、偏差値もまだわからないが、受けて見る価値はあるんじゃないか?」ってここを勧めてくれたの」

「ああ、あの時私を御勢の附属高校へ転入を後押しした学年主任のあの先生が、陽子の3年の時の担任だったのね」

「そう。一年の時は全然気にもしてなかったんだけど、三年になって、特進クラスの担任になって。まあ、進学率を気にしてた点もあったんだろうね。でも、あたしからしても願ってもなかったわ。

あの後私も必死で御勢学園大学の文学部福祉学科のこと調べて、これならいろいろな点で自分の将来の目標とも合ってるし、何より国公立大学に浪人して行く負担を考えると、よっぽどいいんじゃないかって親を説得してね。親も、自分で決めたことなら、ってことで許してくれた。過去問がないから、対策はかなり苦労したよ。私は大谷くんとは違う塾に行ったけど、塾の先生にも相当面倒見てもらったなあ」

「やっぱり、みんな塾って行ってたの?」

「そうだね、だいたいみんな何か塾に行ってたみたい。あたしの行ってた塾は杉谷の子は少なかったけど、大谷くんの言ってた塾は文系理系問わず通ってたみたいだし、みんないろんな塾に通ってたみたいだよ」

「へえー、やっぱりそういうものなんだねえ」

「美咲たちの学校は塾に通ってる子とかいたの? 希望すれば大学に行けるシステムだったんでしょ?」

「ううん、いくら希望してても成績次第では一般入試に回って、落ちれば浪人の可能性もあったよ。私の知ってる限りでは塾に行く余裕のある子はいないみたいだったけど、国公立大に受かった子もいたぐらいだから、もしかしたら行ってた子もいたかも」

「えー、大学の附属高校っていうくらいだから希望すれば絶対大学までいけると思ってたのに」

「思ってたほど甘くもなかったし、杉谷より大変といえば大変だったかも。でも、百花姉様とか早希嬢とかと仲良くなれたし、杉谷では体験できないことをできた2年間だったと思う」

「百花姉様に聞いたよ、学会で発表して新人賞を取ったんだって?」

「え、百花姉様そんな話までしたの?」

「美咲の高校時代の話は大抵百花姉様と早希嬢から聞いてるよ。すごく仲良くしてた男の子がいたんでしょ?」

「え、ちょっと、それは誤解……」

「分かってるよ、美咲。百花姉様も早希嬢も、きちんと彼氏の存在を知って、その上でクラスメートとしてええと、水野くん、とか安田くん、戸塚くんと付き合ってたって教えてくれたし。クラス内でもいろいろ誤解されてたみたいだけど、進んで否定してたしって言ってた」

「……陽子にはもう情報筒抜けだね」

「だってこっちには早希嬢と百花姉様がいるもん。まあ、百花姉様とは最近あんまりあってないけど」

「どうして?」

「試験とかは受けに来てるよ。NPOの仕事とかボランティアに力を入れてるみたい」

「なるほどね、さすが百花姉様」

「でも、そんな誤解を受けるほどに一緒にいたの? ええと、水野くんだっけ……?」

「うーん、部活動の一環でたまたま二人が指名されただけで、たまたま帰る方向が一緒だから一緒に部活が終わった後に帰ってたのを目撃されたあたりから誤解されたのかな? 半年くらいかかる活動だったし、夏休みとかもかなりの時間部活に取られちゃったし……」

「もちろん、今も大谷くん一筋よね?」

「当たり前じゃん! 陽子にまで誤解されちゃ、悲しいよ……」

「ごめんごめん」

そこで、「二名様でお待ちの中村様」と席を案内された。


それぞれ食べたいメニューを注文し、料理を待ちながら話を続ける。

「で、美咲はどう? 法学部って、大変?」

「うーん、まだそこまで大変ってほどじゃないかな。学年が上がると大変になるらしいし、私教職課程も選択してるし」

「え、美咲教職課程取ってるの? 先生になるの?」

「ううん、そういうつもりはないんだけど、大学に残り続けるなら、もしかしたら授業とかする必要があるのかな、と思って、教え方の方法ぐらいは知っておいていいかな、と思ってさ」

「美咲も相変わらずだねえ。高校一年の時に決めた目標が変わってないっていうのは、大したもんだわ」

「そういう陽子も、自分の目標を達成するためにここに来たんでしょ?」

「まあ、そうだけどさ」

「そうそう、また中村っていう名字の女の子と仲良くなったの。同じ法学部だけど、ずいぶん遠くから来たんだって」

「やっぱり、中村っていう苗字って結構いるもんだね」

「みたいね。いつか三人で会ってみるのも面白いかもね」

「お待たせいたしました、ご注文の品でございます」

料理が届き、私たちは再会に乾杯して食事を始めた。


食べ終わった後も、飲み物とデザートで随分と粘った。

「そういえば、陽子、真理先生、ええと、花田先生から連絡来てる?」

「うん……半年くらいをめどに、タイミングを見計らった感じで連絡が来る」

「私にも……池田先生から連絡が入る。受験の頃は親が留めてくれてたみたいだけど」

「あんまり、よくないみたいだね」

「うん、本当ならもうすぐ20歳で一度出ないといけないはずなのに、治療が順調にいっていないみたいって」

「……そういえば!」

「どうしたの、美咲」

「あたし、今年の三月、卒業旅行で京都に行ったんだ。ってことは、近くに行ったってことだよね……」

「落ち着きなよ、そこですれ違ってたわけじゃないんだし、今取り乱したところで何もならないって」

「そうか、そうだよね……」

「美咲、京都のどこに行ったの?」

「ええと、主に京都市内……」

桜小路の実家や、祐樹の大学はどの辺りかはよく覚えていない。

「確か、宇治市だったと思うよ。あたしもあの後一通りネットで京都医療少年院っていうのはどういうところかっていうのは調べてみたし」

「そうなんだ……」

「まあ、それぞれに連絡があるんだし、今は様子を見ておこうよ。美咲はちゃんと病院には行ってる?」

「定期検査ぐらいかな、今は。随分傷も目立たなくなったし、痛むことも少なくなったよ」

「無茶しちゃダメだよ、何にしてもね」

「じゃ、ここもそろそろ引き上げますか。まあ、明日から晴れて夏休みだけどね」

「ああ、明日からバイトだあ」

「陽子、何のバイトしてるの?」

「図書館」

「お、いいバイトじゃん」

「なんだかんだ言って、結構大変だよ。まあ、さすがに重い本とかは男の人が持ってくれたりするけど」

「陽子らしいアルバイト先だね」

「まあ、楽しいからいいけどね。美咲は?」

「杉谷に来るまで通ってた塾で、個別指導の講師」

「そこもそこでまた美咲らしいね」

「そう?」

「教えることに興味があるんだったら、ぴったりじゃない」

「陽子は家から通ってるんでしょ? すっかり遅くなっちゃったね」

「ふふ。そういう時のためのもう一つの家があるのだ」

「えっ!」

「実は、バイト先で、本当に偶然なんだけど東中、杉谷高校、御勢の文学部の福祉学科って男の子がいてね、意気投合しちゃって」

「彼氏さん、と」

「そういうこと」

「おめでとう! 陽子、幸せでしょ」

「へへっ」

「でも、その彼氏さん、実家からじゃないの?」

「贅沢にも学校の近くで一人暮らし。その代わり、生活費は自分で稼ぐっていう条件なんだって。だから、学校以外はほとんどバイト。まあ、今のバイトなかなかしっかり稼げるから、今のバイトにちょこちょこっと他の仕事やるくらいで大丈夫みたい。で、いざお金がピンチになったら実家に帰るって言ってた」

「てことは、今日は……」

「彼氏さんの家にお世話になりまーす」

「ごちそうさまでした」

そうして、私たちはファミレスを出た。



学校の方へ戻る陽子と別れ、家に帰る。

テスト終了の解放感と陽子のラブラブな話を聞いた後で、無性に渉に会いたくなった。

ただ、渉たちはテスト期間中だったり、サークルで忙しかったりしていないだろうか。

とりあえず、「まだ忙しい?」といった内容のメールを渉に送ってみた。

返事はすぐに帰ってきた。

「テストが今週末までなんだ。週末には時間ができるから、久しぶりに、美咲の家に遊びに行くよ」

「やった! テスト、がんばってね」

メールを閉じると、ふと桜小路会のみんなのことを思い出した。

夏休みだ、まず祐樹に帰る予定があるかどうか聞いてみよう。集まるのはそれからだ。



そして、大学生として、始めての夏休みがやってくるーー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ