表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜小路茶話  作者: 望月 明依子
第三章 「風」
42/81

第十八話「合格発表」


年が明け、あっという間に新学期が始まってしまった。

お正月は例年通りおじいちゃんとおばあちゃんの家に遊びに行ったが、半日程度で帰ってきた。

その他はほぼ外出していない。渉とも去年のクリスマスイブ以来連絡を取っていない。


新学期の一番のイベントは、社会部の全体会での世代交代だ。これを終わらせない限り、私たちの仕事は終わらない。

「私は、みんなに助けてもらって俺たちなりにこの部をまとめ、今日まで社会部の部長としての仕事をさせてもらいました。私を支えてくれた役員、そして三年生の仲間たちに、そして私たちについてきてくれた部員のみんなに、深くお礼を述べたいと思います。ありがとうございました」

匠が部長としての最後のスピーチをする。私たちもみんなに混ざって、匠に惜しみない拍手を送った。


桜小路先生が新体制の発表をはじめる。

「では、来年度の新社会部の役員を発表します。呼ばれた人は、前に出てきてください。部長、大石さん、副部長岡田さん、歴史科リーダー佐々木くん、サブリーダー渡辺さん。地理科リーダー井上くん、サブリーダー小野さん。公民科リーダー内田くん、サブリーダー野田さん。会計、四宮くん、米倉さん。以上だ」

室内がざわめく。現在の二年生全員の名前が呼ばれたこと、そして各科にサブリーダーという役が新設されたことに部内が驚きを隠せないでいるようだ。

「静かに。私は呼ばれていない、という二年生はいないはずだ。そう、今年は学年全員で部を運営していってもらいたいと考えた。そして新しいサブリーダーという役、これはリーダーを補佐する役目と、万が一リーダーが役割を果たせなくなった際に、スムーズにサブリーダーがリーダーとしての役目を果たしてもらう。

また、まだ来年度の学会の共同研究者は私も決めていない。だから、誰にでも可能性がある。その際、リーダーが選ばれたらリーダーといえどその人はその科から抜けてもらう。だから、その時にスムーズに引きつぎができるように、リーダーとサブリーダーは常に情報を共有しておいて欲しい。そのためのサブリーダーという役の新設だ。代表として、大石さん、一言挨拶をお願いします」

「ええと、新しく部長になりました大石凛と申します。私のような人間がこのような大役を務められるか不安ではありますが、精一杯みんなと頑張りますので、よろしくお願いします」と言い、ぴょこんと頭を下げる。

「では、各科新リーダー、サブリーダー、会計の二人は三年生のリーダー、会計から引き継ぎを受け、またここに戻ってきて欲しい。二年生全員での顔合わせだ」


私は優と、去年川口先輩から引き継ぎを受けたように四宮くんと米倉さんに役割を引き継ぐ。特に大切なことは部室のお茶を切らさないこと、いいお茶は、落ち込んだ人、疲れた人の癒しとなっている大切なものであり、部費を払っている以上好きな時に好きなだけ飲んでいい、という話をした。

「お茶の話は、西山先輩、凛や葵から聞きました。今は全部中村先輩が役割を引き受けているから、中村先輩から引き継ぎを受けたときにはきちんとその仕事を受け継ぐのよ、と西山先輩は言っておられました。それがこの部の伝統だからね、と」

そうだったのか。百花は、お茶のことも、きちんと次の世代に話していたんだ。

私たちは会計の道具一式を二人に委ね、どちらがどういう役割を受け持つかは彼らの話し合いで決めてもらうこととした。去年と同じだ。私たちは一度部屋を去り、二人だけで話し合える場を作った。

その間に、私たちも二人で思い出話をする。

「そういえば、優は会計になった時、私のこと知ってたの?」

「知ってたも何も、同じクラスに転入してきて、しかも同じ部に入るんだろ。知らない訳ないじゃないか」

「そっか、私、自分の周りばかりで、他の人にまで気を回せる余裕なかったな」

「そりゃあそうだろうな。杉谷からだろ? 県立から私立、しかもうちはかなり特殊な性質の高校だからな。しかも、美咲はそうそうに桜小路会を作ってその中に溶け込んだ。といっても、一応、俺の存在は知ってただろ?」

「うん、名前と、夏合宿でどんな研究してるかくらい……」

「そんなもんだよ。俺が美咲のことを深く知ったのも俺たちが桜小路会に入ってからだし、美咲もそうだろ?」

「うん、川口先輩と付き合ってるなんて、全く思いもよらなかった……」

「あの時知ってたって言っても、名前と、研究内容くらいなものさ」

ずいぶん時間がたった気がする。そろそろ二人のところに戻ってあげよう。


「先輩、もし月末にお金が合わなかったら、どうすればいいんですか?」亜美が聞く。去年の私と同じだ。

「大きな額で合わない時は、桜小路先生に相談してみて。もし数円、数十円単位だったら……」

私は小銭のみを入れた小さな財布の存在を明かす。この財布の存在は限られた者にしか知られていない、ということも付け加え、これで微調整をして欲しい、と伝えた。

その財布も会計の移譲の時、優に渡した。優から小銭のみの秘密の財布を受け取る亜美。


私たちの打ち合わせが終わり、二人を部室へ戻した後、私たちは教室へ戻った。

それぞれの引継ぎを済ませた桜小路会メンバーも、教室にいた。無論集まっているだけで、それぞれ勉強していたのだが。

「会計も終わったか」

「ああ、終わった」

「俺らの役割も、無事に終わったな」

「後は、みんな希望通りの進路に決まることだね」

「じゃあ、帰ろうか」

みんなこれで社会部の一部員に戻った。残るは、センター試験だったり、内部進学の結果待ちだったり、私立大学の一般入試が控えている。


センター試験組は学校内でも特別なカリキュラムを組まれたりしていたため、日程を意識したことがなかった。桜小路会でもセンターを受けるのは優のみ。年明けの全体会以降特別に桜小路会で集まることもなかったため、センターを受けない私はセンター試験の日程すらも知らなかった。

金曜の夜、帰宅して夕食を食べながらテレビを見ていたら、「各大学などの試験地でセンター試験の準備が進んでいます」というニュースの報道で、私ははじめて次の日土曜日から二日かけてセンター試験が行われることを知った。

ほえ、センターって明日からなんだ、と唖然としながらニュースを聞いていた。何も知らなかった。

お姉ちゃんはきっと四年前は緊張の夕食を食べたんだろうな、と思う。

そして、今、緊張のさなかに渉はいるはすだ。

がんばれ、渉、がんばれ、優、がんばれ、みんな。

渉へは電話は控え、「渉、信じてるよ。全力で挑んできてね」と一言メールを送るだけにしておいた。


週明け。教室はセンター組の悲喜こもごもだった。

センター組はこれをもとに国公立大学の出願を考えたり、私立大学のセンター利用の出願をしたりする。

私たち内部進学の結果待ち組はひたすら合格の知らせを待ちながら、一般入試対策をするのみだ。

祐樹のような他の私立大学受験組は、一層対策に拍車がかかる。それぞれ入試日も合格発表日も違う。それに合わせて、併願するのか、一本で行くのか、そのスケジュールも変わる。

祐樹は最初から島井大学一本で行く予定のようで、ひたすら分厚い参考書や赤本と格闘している。

みんなやっていることはばらばらだが、目標はただ一つ、自分の目指す進路を確定させることだ。


二月一日。私立大学の一般試験が始まる。

祐樹は島井大学の一般入試を受けに旅立った。そして、私たち内部進学結果待ち組の実質的な合格発表日だ。

二月からは出席も自由になるが、一日だけは内部進学希望者は絶対に出席ということになっている。他の私立大学の一般入試を併願しており、一日に遠隔地でしか試験が行われない場合のみ例外的にそちらを優先とされるが、大概そのようなパターンはないそうだ。

一人ずつ、内部進学希望者は結果を面談で通知される。それまではひたすら自習だ。

ピリピリした時間が流れる。一人、だいたい二十分くらいだろうか。このクラスで内部進学希望者はだいたい半分、十五人程度だ。私は半分より後になるだろうか。昼過ぎる可能性がある。

「昼までこの空気、キツイなあ……」

戻ってきた子は、一様に無表情だ。結果は一般入試の合格発表日まで他言禁止されているようで、自分だけが知っている、ということになる。智也や優が戻ってくる。早希も戻ってきた。私より後に、百花や麻衣子、匠の発表も控えている。

私は呼ばれることなく、昼休みに入った。


「祐樹も、昼休みなのかな」

「私立大学の試験って、緊張しそうだね」

「見ず知らずのところだしね」

それだけで、みんな黙々と昼食をとった。


午後の面談が開始してしばらく。ようやく、私は桜小路先生へ呼び出された。

御勢学園大学法学部の赤本を閉じ、机にしまって桜小路先生のところへ向かう。

「失礼します」

「中村さんだね、どうぞ」

桜小路先生に椅子を進められ、そこに座る。

「…………」

「…………」

沈黙の時間が流れる。その時間が長い。

その沈黙を破ったのは、桜小路先生だった。立ち上がり、私の手を取り、「おめでとう、中村さん!」と告げた。

「ほ、本当ですか?」

「そうだ。これまでの提出物、出席、成績等から、内部進学判定会議で、あなたの御勢学園大学法学部の内部進学が決定したんだよ。おめでとう。本当に、おめでとう。よくがんばった……」

「本当に法学部ですよね?」

「ああ、間違いない。正式に発表できるのはまだ先だから、合格証書を渡すわけにはいかないが、ここに、合格証書がある」

まさしく、御勢学園大学法学部の合格証書であった。今まで待ち望んで、望み続けてきたものだった。

「ああ、このことはまだ他言禁止だからね。ご家族には報告しても構わないけれど、ご家族にも一般入試の合格発表日までは他に漏らさないようにくれぐれもよろしく願いたい」

「分かりました」

「安田くんも今試験の真っ最中だ。仲間うちでも、結果報告は出来るだけ控えるようにな」

「はい」


やった……! 高校一年の夏、自分の夢を考えて杉谷からここへ来て、決して楽な道ではなかった。

大きな傷も増え、信じられないくらい大勢の人前に立つという経験もした。

そして、念願の夢へのスタートラインへ無事に立つことができた。

本当は叫び出したくて仕方なかったが、他言禁止だ。冷静さを保ちつつ、教室へ戻った。

本当は、もう赤本もいらない。しかし、他言禁止の今、赤本を見る目は完全に滑っている。

そういった目で周りを見ると、すでに赤本や参考書を放棄している子がいる。要は、「合格」と伝えられたのだろう。

「あれ……?」

優が解いているのは、赤本ではなく簿記二級の問題集だ。確か、夏合宿で十一月に簿記二級を受けるとか言っていた。さすがに十一月は無理だったか。でも、優も合格したということだ。

そうやって辺りを見渡しているうちに、麻衣子や百花が戻ってきた。

冷静さを装ってはいるが、落ち込んでいる様子はない。

そして、桜小路会最後の内部進学希望者、匠が桜小路先生のもとへ呼ばれた。

約二十分後。匠が帰ってきた。表情は明るい。喜怒哀楽の表情をコントロールすることが苦手な匠らしいな、と思う。


そして、全員の面談が終了して、桜小路先生がホームルームをするために教室へ戻ってきた。

「今日の結果は、どうあれまだ他言禁止だ。ご家族には報告しても構わないが、一般入試の合格発表まで他に漏らさないようにくれぐれも注意してくれ。また、今から他の私立大学を受ける子、今試験の真っ最中の子がいる。ここで入試は終わりじゃない。今合格したからといって、気を緩めるとそれが周囲に悪影響を与える。あくまで、合格はスタートラインだ。大学は自由だが、何もしないと全く実の無い四年間や六年間になる。そういうことを今から頭に置いて、今の研究を続けることや、新たな目標を定めることを私は勧める。卒業式まで、いや、卒業しても、研究する習慣は続けて欲しい。それがこの学校の目標なのだから」

そういって桜小路先生はホームルームを終わった。

私たちはこっそりと部室へ集まった。桜小路先生に見つからないように、細心の注意を払って。


「みんな、どうだった?」

「そう言うと、言い出しにくいよ」

「じゃあ、みんな目つぶって、せーので手あげる。それからみんなで五数えた後、目開ける。手上がってたら、合格したということで」優が提案した。

「よし、桜小路にばれないようにこっそりな」

みんな目を閉じる。

「せーの」小声で言ったのは匠だった。

みんなの手が上がっているのが感覚でわかる。やっぱり、みんなも合格したんだ……!

「一、二、三、四、五!」数を数えたのは麻衣子だった。

みんなの目が開く。そして、みんなの手が上がっていることに喜ぶ。

「やった!」

「みんな、おめでとう!」

「みんな、がんばったよ……」

「しーっ! 桜小路先生来ちゃう!」

みんな声を落とす。

「とりあえず、部室出よう、と言うより、学校出よう」

「そうだね」

みんな荷物をまとめ、こっそり校舎を出る。


私たちが集まったのは、駅の近くの公園だった。

この時間は子どもとお母さんが遊んでいたり、散歩している人が休憩していたりする。

「やったね! みんな、合格だよ!」

早希が叫び出しそうな声で言う。

「うん、嬉しい!」百花も今までにない嬉しそうな声だ。

「俺はまだやることあるけどな」

「そして、今祐樹が試験中なんだよな」

「みんな、他にどこか受ける予定?」

「私はもうない」

「私もないや」

「俺もないな」

「俺は、大学じゃないけど、簿記二級を月末に」

「私もない」

「てことは、大学は祐樹待ちだね」

「十日発表だっけ?」

「それまで、何してる?」

「私は今までの続きかな……。一期生って、どういう感じか分からないから、とりあえず今まで通り」

「私、しばらくNPOの事務所の立ち上げのお手伝いに行って来る。出席は絶対じゃないしね」

「俺、どうしようかな……ちょっと気が抜けて、考えきれないや」

「私のとこの手伝いしにこない? 立ち上げだし、人手だけはあり過ぎるほどあっても足りないの」

「私も研究の続きする。もっと勉強しとかないとな、って思う」

「俺は勉強してるぞ」

ということで、祐樹の合格発表までみんな別行動ということとなった。


「ただいま」

「お帰り」

お母さんも緊張した表情をしている。

「受かったよ、お母さん。御勢学園大学の法学部、合格した!」

「よかったわね! 私も緊張していたわ。私が行けなかった学校、あなたには精一杯楽しんでほしいわ」

「まだ正式な合格発表は後日、十七日だから、それまではオフレコ。家族には伝えてもいいけど、十七日まではオフレコでって」

「わかったわ。注意する」

そして、お父さんが帰ってきて、三人で合格祝いをした。

渉はどうしているのだろうか。優子お姉ちゃんと同じ大学の推薦を取れたのか、それとも……

私はただひたすら渉からの連絡を待つこととした。


二月十日。島井大学文学部の合格発表の日。

前の日、百花からメールが来ていた。もちろん、祐樹のアドレスは除いている。

「明日、祐樹の合格祝いをしようと思います。合格でなくてもお疲れ会です。祐樹は家でネットで合格発表を確かめるそうなので、せっかくですし部室で確認して、みんなでお祝いをしましょう! 」

「了解!」

返信した後、返って来たメールには驚くべき百花の作戦が書かれていた。


朝八時。久しぶりに集まった桜小路会メンバーは、御勢学園大学の近くの神社にいた。

「おはよう、みんな。昨日のメール、確認してくれた?」百花が確認する。

「ああ、百花姉様、大胆だな」匠が感心している。

「俺も、驚いたぜ。あんな計画を立てて、実行しようとはな」優も感心しきりだ。

「でも、楽しそう! 祐樹の家、初めて!」麻衣子は楽しげだ。

「そっか、麻衣子は初めてだな」匠が言う。

「え、みんな、行ったことあるの?」

「旧桜小路会の時に、夏の友をみんなで片付けにな」

「だから、俺は知らない」優は言う。

「まあ、とにかく行ってみましょ。祐樹は今日は家にいるって昨日聞いたし」

「よーし、行くぞー!」


ピンポーン。祐樹の家のチャイムを鳴らすのはこれで二度めだ。

「あら、朝からお友達がこんなに。祐樹、ゆうきー!」

「どうした、って百花姉様だけでなくてみんなで!」

「祐樹、せっかくだから、部室行こうよ。部室もネットつながってるし、島井大学のホームページ確認できるよ」

「でも……」

「一人でいても、楽しくないよ。部室行こうよ!」

「せっかくお友達がこんなに誘ってくれてるんだし、学校行って来なさい、祐樹。みんなでいた方が、緊張もほぐれるでしょ? 昨日からガチガチだもの、この子。みんな、この子を誘いに来てくれて、ありがとうね」

祐樹が着替える間、私たちはあたたかいお茶をいただいた。祐樹の家にも、緊張が張りつめている。

「じゃあ、学校行って来る」

「私たちが、責任持って祐樹くんをお家までお送りします」百花が言う。

「あら、皆さん頼もしいのね。じゃあ、祐樹のこと、お願いします」

そして、私たちは祐樹を囲むかのようにして部室まで連れて来た。

「発表は何時?」

「……午前九時」

麻衣子がいいお茶を入れ、優が島井大学のホームページにつなげる。

百花や匠は緊張でガチガチの祐樹のそばにいて、常に何か話しかけている。

匠は分からないが、百花が話しかけてくれるのは祐樹にとって嬉しいことだろうが、今は緊張の方が上回っているようだ。

午前九時。ホームページにアクセスが集中しているらしく、優が何度も読み込みを繰り返している。

「ところでさ、受験番号は……?」

みんなハッとした表情で私を見つめる。そのことについて完全に全員の意識から抜け落ちていたらしい。

「0011581」祐樹はバックから受験票を取り出し、読み上げる。

「文学部だな」

「ああ」

私はようやくつながったらしい合格発表のページを確認しに行く。11579、11581……11581!

「祐樹、あったよ、0011581!」

「本当か!」

みんながパソコンの前になだれ込む。祐樹も受験票を持って番号を確かめる。

「あった……あった俺の番号……」

「よかったじゃん、祐樹。これで桜小路会、全員合格だよ!」

「間違いじゃないよな?」

「帰って、速達で合格通知を待つか、島井大学まで見に行くかだな」

「島井大学、遠いよね」

「京都のあたりだっけ?」

「ああ」

「でも、とりあえず桜小路会全員合格! おめでとう祐樹!」

「みんな、合格したのか?」

「十七日までオフレコだけど」

「俺からも、みんな、おめでとう! 特に美咲、辛かっただろう……」

「うん、でも、これで夢のスタートラインにみんなで立てたし、辛さも吹っ飛んだ!」

「美咲は本当に、あれこれありながらよく乗り越えられたわね」

「ほーんと、美咲は強運の持ち主よね。まあ、それに負けないくらい一生懸命努力してたの、ちゃんと知ってるけど」

「みんながいてくれたから、私いろんなこと乗り越えられたよ。みんな、本当にありがとう……」

「ほらほら、涙は卒業式までとっておくの。祐樹のお母さんとの約束どおり、祐樹を家まで送っていかないと」

「そうだね。十七日以降、部室で合格祝いしよう!」

「そうね、十七日以降なら桜小路先生も許してくれそうだし、そうしましょ」

そうして私たちは祐樹を家まで送り届けた。祐樹の笑顔に、お母さんは私たちへ何度も何度も感謝してくれた。


二月十七日。御勢学園大学の一般入試の合格発表当日。

「俺ら、一応受験票ってあるのか?」NPOの立ち上げの手伝いがひと段落ついて、匠も登校している。

「まあ、番号を掲示する必要があるから、存在するんじゃないのか?」優が言う。

「桜小路先生に聞きに行けば?」

「誰が?」

………… 無言が場を支配する。

「じゃんけんだ。負けた奴が、六人分の受験票を取りに行く」

「なんかフェアじゃないね。合格してるんだし、いいじゃん、みんなで取り行こうよ」

そう言うことで、全員で桜小路先生のところへ受験票を取りに行くことにした。


「受験票か。取りにくるとは思わなかったが、ちょっと待っててくれ」

桜小路先生は六人分の受験票を探して私たちへ渡した。

「俺らも、合格発表見に行くか」

「改めて、合格に感動ってとこだね」


御勢学園大学の掲示板には人だかりができていた。

御勢学園大学教育学部附属高校の制服を来ている子は見ない。やはり、もう合格と分かっているものをわざわざ見にはこないのだろう。

杉谷の制服をちらほら目にした。

「あったよ、匠の番号だ!」

「麻衣子のもあったぞ」

「私の見つけた!」

「百花姉様のもあったよ!」

「で、法学部、と……」

「あった! 私の番号!」

「まあ、合格って言われてるしね」

「でも、本当に合格なんだって、実感」

「優の番号もあったよ」

隣の経済学部の方から百花が探し出して来たようだ。

「みんな、合格おめでとう!」


そして、百花が祐樹に電話して部室へ呼び出し、本当の合格祝いを始めることにした。

今から買い出しをあれこれ始めないといけないが、今の私たちには苦痛ではなかった。

ただ、一年生、二年生は普通に授業をしている。桜小路先生も授業中だ。

部室に人が来る時間まで、出来る限り音を立てないように、部室に鍵をかけていつもより豪華なお祝いの桜小路会を開いた。

桜小路会全員の笑顔が、部室に咲きそろった日だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ