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桜小路茶話  作者: 望月 明依子
第三章 「風」
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第十一話 「二度目の、合宿」


匠が打ち合わせ日数を減らしてくれるよう、桜小路先生に直談判してくれたおかげで、これまで毎日遅くまで行われていた打ち合わせも日数が減り、時間も短くなった。

「打ち合わせした内容で、私も指導案を書いてみる。水野くん、中村さん、あなたたちにはこの前の裁判をもとに模擬裁判の例を作ってみてくれないか。堅苦しく指導案の形式にこだわらなくていい。

まず、裁判の流れを思い出して、それを文字に起こして、誰がどのような役をやるといいかとか、考えてみてくれ。模擬裁判をやるのは、まず三年一組を考えているから。その辺りは、二人に任せる。合宿の前に、直前の打ち合わせをしよう」

「分かりました」

そうして、私たちはお互いノートパソコンを持ち込んで部室で裁判の記録を作成したり、誰がどの役に適しているかを好き放題に語り合った。

「どう? こんな感じで記録を起こしてみたけど」

「俺もやってみた」

二台のパソコンを並べて、お互いの記録を読み合いながら、欠けている部分などを補完していく。

「あ、ここは抜けてた」

「こういうところもあったか」

そうして、記録はそれぞれに完成した。

「でも、クラス内で当てはめるっていうのも難しいよな。前提として、被告人と弁護人、検察官、裁判官を決めておく必要があるからな」

「うちのクラス、席替えでくじ引きが定着してるし、この役割はくじ引きを利用するっていうのは? 適任者なんて、思いつかないよ」

「そうだよな。弁護人らしいとか、裁判官らしいとか、ましてや被告人らしいとか、失礼だよな」

「裁判員も、最終的にはくじ引きで決められるんだし、この役割もくじ引きで決めていいと思う」

「そうなると、人が余る?」

「そうなるね。最低、十二人で成立するからね」

「となると、残りの生徒は見学、ということか」

「うちのクラスをモデルケースとするなら、三十人いるから、弁護人、検察官、裁判官を増やすのも手だよね」

「でも、裁判員裁判を体験する模擬裁判なんだろ? そちら側の人間を下手に増やしても、あまり意味はない気がするな。だったら、裁判員六人という縛りを取っ払うのも、ありじゃないか? 例えば、六グループに分けるとか」

「あ、なるほど! グループは考えつかなかった」

急いでメモをする。

「作成者サイドの俺らを除いて、二十八人。裁判進行に必要な担当が被告人、裁判官三人、検察官、弁護人で、六人。二十二人か」

「別に私たちを授業から除く必要はないんじゃない? これで二十四人。四人ずつ、六グループ」

「これでできそうか?」

「数としては、問題ないと思う。役割のある子には台本用意すればいいわけだし」

お互い、話し合った内容をノートパソコンにメモしていく。

「みさみさ、最近彼氏さんと会えてる?」

「いきなりだね。この前遊びに来たよ」

「補習中は毎日会えてたから良かったけど、補習終わったら智也に会えないのが辛くてな。合宿終わって後期補習までの我慢なんだけどよ」

「電話は?」

「普通の携帯。ほとんど連絡はメールなんだけどさ、辛いよな、会いたい時に会えないって」

「そうだよね、私もこの学校に来て初めて渉と離れ離れになったから、会えない辛さは分かるよ。近所なのに、会えないっていうのが何より辛いね」

「みさみさはずっと彼氏さんと同じ学校だったんだよな。俺が智也と仲良くなったのは高校からだ。あいつが御勢の附属中に入って来た時は、名前しか知らなかった。その頃は、市川もいて、智也にこんな感情を抱くなんて、思ってもいなかった……」

「恋が始まるのには、ちょっとしたきっかけで十分……だっけな。そんなもんだよ」

「みさみさ達は、きっかけも何もないだろ?」

「改めて付き合うことを決めたのは、周りがうるさくなって来たから。特に中学になったら、そういうことを楽しみにしてる子がしつこくて」

「そうなんだよな、中学になると、そういう奴らが、無理に誰かと誰かをくっつけたがるというか」

「それ、今もあんまり変わらない気もするね」

「特にこの学校内は、出入りがそこまで激しくないからな。成長しないのかもしれないな」

「他校への進学が多いって調べたけど、御勢の附属中は」

「にしても、県立高校とかだと全然顔ぶれ変わるだろ、多分」

「まあ、確かにね」

原中から杉谷高校へ進学した生徒が多かったとはいえ、さすがに半数とは言えない。陽子のように、東中など全くの他校からの生徒もいた。

「智也、何してるんだろうな、今。気になる」

「恋してるね、匠」

その後も、匠ののろけ話に付き合わされた一日だった。



そうして、二人の意見として模擬裁判の流れを桜小路先生に提出したのは、合宿直前の打ち合わせだった。

「おお、よく考えたな。確かに、誰かを最初から役割を決めるのも良くないな。その時にくじ引きでいいと思うぞ。そして、私が模擬裁判までに必要な知識などを授業案にしてみた」

そう言って、私たちに授業案を渡す。私たちが一通り目を通した後、桜小路先生が言う。

「さて、この二つを合わせたものを授業の完成形とするわけだが、合宿までには厳しいな。後期補習以降の課題にするとしよう」

「今回の合宿は、模擬裁判の原稿でいいんですか?」

「ああ、それでいい。そこまでの知識に関する原稿は、後からでも追いつける」

そうして、合宿での発表原稿は一応完成した。



「匠、地理科はみんないるよ」

「公民科も全員出席」

「歴史科もみんないるぞ」

「じゃあ、行くか」

去年と同じようなスケジュール、同じ場所で合宿が開催される。

もちろん、新入部員の二年生や、仮入部の一年生には、秘密特訓が何であるかは誰も明かしていない。これも去年同様だ。

「さち、課題進んでる?」

「日本史は終わった! 地理もだいたい……」

「さちはとにかく世界史が苦手だからね」

「もー! それ言わないでよ! 今一生懸命やってるのに!」

「ドイツの首都は?」

「モスクワ」

「ほーら、また間違った」

「あれ?」

「ロシアの首都は?」

「ベルリン」

「逆。さち、そこ何度も間違え過ぎ」

「あれー?」

中原さち。今年の一年生の中でも、天然というか、本人は至って真面目にやっているのだろうが、どうもずれてしまっている部分があるようだ。しかし、日本の地理や歴史については驚くほど正確で、詳しい。「今は世界史や世界地理をきちんと覚えられるようにしてます」と言っていた。

話している相手は井田奈緒と言う同じ一年一組の子。お金への執着が凄まじく、必要な費用もなかなか払いたくないといった子だが、なぜこのお金が必要かなどと、いろいろ考えていくうちに経済学へと興味が向いてきたらしい。今はまだ高校公民科の政治・経済の範囲だが、本人の興味は明らかにその域を超えてきている。

「誠、日本史の自由課題、当然幕末のことだよな?」

「当たり前だろ、亮一。俺は新選組以外では書くつもりはない」

「俺も坂本龍馬以外のテーマで書くつもりはない」

「まあまあ、自分たちで提出する課題なんだし、ムキになるなよ、誠、亮一」同じ一年一組の雄大がなだめる。この二人は普段は仲がそんなに悪いわけではないのだが、自分の好きなこと、ひいては研究テーマになると池田屋事件が勃発してしまう。

この二人をもし再来年、学会で共同発表させるとどうなるだろうか。

二年生も、継続して選挙制度について研究を続ける双子の翔兄ちゃん、小学校の先生になりたいと言っていた凛、「法科大学院に行って、司法試験合格して、裁判官になるのが夢なんです」といっている葵。それに加えて、今年から数名新たな顔ぶれが増えた。みんな目標も研究も様々のようだが、改めて研究内容を聞くのは今回が初めてだ。

そして、私たちは全員からの質疑の対象となる。バックに桜小路先生がついてくれるのはありがたいが、三年一組を授業モデルとする模擬裁判の簡単な指導案の発表だ。下手をすれば、三年生全員を敵に回し、授業自体不可能になるかもしれない。

匠の言っていた「怖さ」を今になって感じ出した。

そうしているうちに、一年ぶりの合宿施設へと到着した。


今年は去年より全体の人数が少ない。とはいえ、ごく僅かだ。

部屋割りも男女別で女子は科ごと、男子は混合。入浴も去年と同じ、時間をずらしてローテーションしていく形だ。

荷物を部屋に置くと、さっそく早希は呼ばれて行ってしまった。

唯一去年と違う点、それは桜小路先生が私たち三年生の室長を呼び出して室長会議を定期的に行うのだ。私は呼ばれる用がないため、同じく部屋に残っている絵美と話す。

「美咲、合宿参加して大丈夫だったの?」

「参加する分には問題ないけど、アレはダメだって。あと、お風呂はシャワーにしときなさいって、医者が」

「アレはね。まだ体育も見学?」

そう言って絵美はハッと口をつぐんだ。そしてあたりを見渡しているようだったが、幸い誰も気がついている様子はない。

「危ない危ない」

そうしているうちに、早希が戻ってきて昼食を食べに食堂へと向かった。


今日の昼食は焼きそばにスイカ。これを食べたら歴史科の発表から、二度目の合宿の発表が始まる。

昼食を食べた人から各自研修棟へ向かっていた。

初日の午後は主に歴史科の一年生、新入部員の二年生の発表だ。気になったのは、やはり誠と亮一の対抗意識むき出しの新選組に関する研究と坂本龍馬に関する研究だったが、歴史科の一年生紅一点の三原うららの研究も注目が高かった。

「自分の名前の由来から、今流行りの名前に至るまで、どのような人々の考えがあったのかを細かく調べています」と言い、現在は最近の名前の背景にある人々の心境などを考察しているらしい。

桜小路先生は、「歴史的とも、現代社会的とも取れる研究だな。だが、面白い。これからも期待している」とコメントしていた。

続いて新入部員の二年一組の子たちの発表だ。もう正式に社会部に入部して四ヶ月、書くレポートもしっかりしてきている。伊織の「大正時代の日本に学ぶ現代の日本」という研究も、大正時代の日本、特に政治を研究し、現代の日本の政治に活かす方策を見出せないかという研究だった。今日は午後五時が終了時間だった。

私は終了後、うららに声をかけた。

「うららちゃん、面白い研究してるね」

「中村先輩、ありがとうございます。私、昔から自分の名前の由来が気になってて、それから他の人の名前の由来、それから名前の流行りやその背景にある人々の考え方を知っていくと面白くて。いつから「子」がつく名前が流行り出して、いつから流行らなくなったかとか。ちょっとワイドショーみたいな感じもしなくはないんですけどね」と自分でも言っていた。

「ううん、小学校の時に必ず自分の名前の由来とか親に聞くしね。その興味を長く持てているって、すごいと思うよ」

うららは恥ずかしそうに「ありがとうございます……」と照れていた。


夕食を食べた後、忘れずに薬を飲む。今年はまた薬が増えてしまった。

入浴順は女子は歴史科から。男子はどちらからだろうか。匠と祐樹は同室だそうだが、優は別の部屋だそうだ。

全員の入浴が終わり次第今日最後の室長会議が開催されるため、夜の桜小路会は不可能だろう。

ただ、今年は早希だけでなく百花も同室である。ミニ桜小路会ならこっそり開催できそうか。早希だけでなく副部長の百花も室長会議へ呼ばれるため、入浴後から就寝の間には不可能だが、消灯後にひっそりと三人で行うことならできそうだ。

早希と百花が帰ってきた。

「明日は七時起床ね。軽く掃除したら、午前中は研修棟で今日の発表の続き。午後は秘密特訓だからね。あ、美咲は見学でいいから。今のところ、体調が悪いとかいう人はいませんか?」

そのタイミングで百花が全員の顔色を見て回る。特に顔色が悪いという子はいないようだ。

「じゃあ、消灯! みんな、ちゃんと寝るんだよー」

早希が電気を消す。あちこちから話し声が聞こえてくるが、一番話をしているのは私たちだった。

「最近集まる機会もないよね」

「私、課題でいっばいいっぱい。やっとレポート書けた感じ」

「美咲たちは毎日打ち合わせ?」

「うん、時間はずいぶん短くなったけど、ほとんど毎日匠と打ち合わせ」

「彼氏さんは?」

「学校の補習と塾の夏期講習で毎日忙しそう。この前、久しぶりにうちに来て、世代交代したって話してたけど」

「そういえば、私たちもそろそろ次の部長とか考えとかないとね……」

「でも、かなり桜小路先生の意向も含まれるじゃない?」

「去年、どういう感じで百花姉様とか、早希嬢は決まったの?」

「分からない」

「何でだろうね」

「学会後の、あのお茶会で決まったのかな?」

「たぶんそうだろうね。それまで、一切そんな感じ受けたことなかったもん、先輩たちからも、桜小路先生からも」

「じゃあ、今はまだその時期じゃないかな」

ふと見ると、早希がすっかり寝付いてしまっていた。

「早希嬢、疲れたんだろうね。私たちも寝ようか、美咲」

「そうだね、おやすみ、百花姉様」

「おやすみ、美咲」


翌朝、起きたら既に早希も百花も起きていた。

「さて、今日は秘密特訓だよ」

軽い掃除を済ませた後、早希と百花は室長会議へ行ってしまった。

今日の午後は見学か……。ちょっとつまらないけど、傷のこともあるし、無理はできない。

早希と百花が戻ってきて、今朝の連絡。午前中は昨日の歴史科の発表の続き、午後は体育館で秘密特訓。

軽めの朝食後、研修棟で昨日の歴史科の発表の続き。

今日は去年、もしくは一年次から社会部の歴史科にいる歴戦の兵達の発表だ。もちろん、桜小路先生からの質疑も鋭い。

薫の「大仏建立とその背後の民衆の帰依」、祐樹の「箱館共和国と新選組、それに対する新政府の形」という去年より引き続き行われている研究については、「現地へ行って実物を見たことがあるか」「どのくらいの資料をもとにしているか」を桜小路先生は尋ねていた。

「歴史は、あくまで伝えられたことでしかない。それが本当かどうか、その時に生きていた人ですらも分からないものだ。その正しさを後の時代の私たちが検証するのは難しい。それに、何が正しいかということすら分からない。歴史学というものはその点で自由と言えるかもしれない。しかし、それを論ずるには確たる証拠を必要とする。証拠をどれだけ集めたか、それで新しい論が生まれる。まあ、それはどんな学問にも言えることなのだがな」

そこまでで、午前中は終了した。これで歴史科の発表は終わりである。

本来、匠もここで発表するはずだったのになあ、と思いつつ、昼食へ向かおうとすると、

「三年生はちょっと待機をお願いします」百花に呼び止められた。

一年生、二年生が全員食堂へ向かったのを確認すると、百花が話を始めた。

「今日の午後のミニバレーボール大会の準備の分担をお願いします。男子は体育館で二面のコート準備、女子は三十人を六人の五グループに分けるくじの作成と、トーナメント表の作成をお願いします。

昼食後、各自準備に取りかかって下さい。この部屋は午後の一時半まで借りてあるので、くじの作成、トーナメント表の作成はこの部屋を利用して下さい。ミニバレーボール大会は午後一時半開始です。よろしくお願いします」

解散した私たちは昼食を食べに食堂へ向かった。今日の昼食は冷やし中華。私たちは早々に食事を済ませ、持参したジャージに着替え、秘密特訓の準備へと取りかかった。

「美咲、私とボールを借りに行くのについて来てくれる?」百花に誘われ、私は事務室へボールを取りに行った。三個借りたボールのひとつを持ち、体育館へ向かう。まだ三年生の男子が準備している以外は誰も来ていない。

コートの準備は着実に進んでいる。私たちは得点板などの準備を行った。

「そういえば、美咲着替えたんだね。動かないなら着替える必要もないのに」

「なんか、寂しいからさ。みんなジャージなのに自分だけ制服って。ところで、三十人って、桜小路先生は参加しないの?」

「そうみたい。あと、葵ちゃんが足をくじいてるから、見学を合宿前から申し出てたの。だから、桜小路先生も参加しないって。見学者がいるのに、自分だけ羽目を外せないみたいなこと言ってた」

「葵ちゃんは去年も参加してるから、中身は知ってるよね……?」

「本当に、不慮のケガみたい。階段の数段から落ちて足をくじいたって。合宿前に不注意だった、って桜小路先生から聞いた」

「お風呂とかは?」

「そのあたりは問題ないみたい。ただ、あまり温めないほうがいいから、お湯にはあまり浸かってないみたいだけど」

「そういえば、葵ちゃんもシャワー浴びてた。そんなことがあったんだ」

「美咲は完全にシャワーだからね、今回」

そういう話をしているうちに、くじとトーナメント表を持って三年生の女子が体育館へ現れた。その頃には、ポツポツと昼食を終えた一年生、二年生たちが体育館へ現れはじめ、体育館に準備されたミニバレーボールのコートに驚く子、してやったりという表情をしている子、それぞれだ。

「はい、秘密特訓はじめます。驚いた? これがうちの部の秘密特訓、部内の交流を深めるためのミニバレーボール大会です。まずは皆さん、くじを引いて。チーム分けを行います。それからトーナメント表に従って、二面のコートで試合開始です」百花が宣言する。

私と葵はステージに座ってその様子を眺めていた。みんなわいわいとチーム分けを行っている。それから、しばらくたって試合が始まった。審判は試合をしていないチームが行うこととなっているらしく、私たちは本当に見学しているだけだった。

「葵ちゃん、足くじいたってね」

「そうなんです。本当に、うっかり階段で足をくじいちゃって。合宿直前だったから、秘密特訓は参加厳しいな、と思って桜小路先生に相談したら、副部長の西山先輩に報告しておくから、って言われたので。女子のことだから、女の先輩に伝えてくれたんだと思います」

「まあ、部長が忙しいのもあるけど、女の子の相談は女の先輩にして欲しいよね」

「中村先輩も忙しいんですよね? 身体、大丈夫ですか? 無理されてませんか?」

「忙しいのは確かだけど、無理はしてないよ。ずいぶん楽にしてもらったし」

「それならいいんですけど……私たちの間でも、先輩のこと、心配してます」

「大丈夫よ。無理はしてないから。家の猫たちにも癒されてるし」

「先輩の家、猫いるんですか! うちと一緒!」

「葵ちゃんの家にも猫がいるの?」

「兄弟、いや、姉妹猫で、あおばとわかばって名前なんです。先輩の家の猫は何て名前なんですか?」

「うちはね、鈴と小鈴って名前。親子かどうかは分からないけど、一緒にうちのお姉ちゃんが拾ってきたの」

「そうなんですか。うちは、最初は一匹だけ里親さんから譲ってもらう予定だったんですけど、二匹が仲が良くて。引き離すのが可哀そうで、二匹とも引き取ることにしたんです」

思わず葵と猫の話で盛り上がってしまった。

気がついたらミニバレーは決勝戦を行っている。応援に行くぐらいなら問題ないだろう。

「葵ちゃん、歩ける?」

「大丈夫です」

「決勝戦、見に行こうか」

「はい」

そして私たちも決勝戦をコートに見に行くことにした。桜小路先生もいつの間にか現れていた。

「チーム部長対チーム会計、決勝戦!」

審判は早希が行うらしい。得点は麻衣子がつけていた。

チーム部長には匠、薫、美里、誠、悠、うららが、チーム会計には優、絵美、英太郎、伊織、凛、さちがいた。前評判通りの決勝戦らしく、どちらが勝つかで話題になっている。

「そういえば、全然試合見てなかったね、私たち」

「ですね」

「決勝戦ぐらい、ちゃんと見ようか」

「そうですね」

試合は大方の予想通り、接戦となっている。どちらが勝ってもおかしくないところにまできて、勝負の女神はチーム会計に微笑んだようだ。

「試合終了! 最終セット、十二対十五、会計チームの勝利で、優勝!」

一斉に拍手が沸き起こる。敵味方、選手、見学者の区別なく。

そして、そこにたくさんの飲み物を抱えた桜小路先生と百花が現れた。

「お疲れさま。喉も乾いたろう。ただ、体育館での飲食は禁止されているようだから、食堂へ行こうか」

全員で片付けを済ませ、ボールを返却すると、全員で食堂へ向かった。

すでに夕食の用意に取りかかっているようで、厨房では人々が慌ただしくしている。

桜小路先生は、「秘密特訓と聞いて怯えてた子もいただろう。でも、これがこの部の習慣でね。みんな通る道なんだよ。今年はこうして飲み物も用意してみた。これが好評ならば、来年以降も定番にしたい。じゃあ、皆さん、合宿半分お疲れさまでした。また残り半分も、頑張ろうな。乾杯」

「乾杯」

皆ジュースで喉を潤し、汗も引いたところでそのまま夕食にすることにした。

今日の夕食は鮭のムニエルに温野菜サラダ、冷製スープ。

「汗かいたし、風呂入りたいな」

「ああ、風呂まだかな」

という声があちこちから聞こえてくる。確かに、ジャージのままだ。汗をかいて気持ちが悪いだろう。

ようやく入浴時間。今日の順番は、女子は地理科の部屋からスタートだ。

早希が提案する。

「ねえ、百花姉様、今日ってお風呂の後室長会議まで時間空かない?」

「そうよね、男子は早く終わるんだし、最後は歴史科の順番だしね」

「じゃあ、今夜、室長会議まで桜小路会やらない?」

「いいわね、やりましょうよ」

「美咲は大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「じゃあ、タイミングみて、麻衣子に伝えておくわ。匠たちと優、今日はどっちが先にお風呂なのかな?」

「まあ、どちらにしても私たちと同時に終了でしょ、男子風呂は。私たちが上がったら、両方の部屋を回ってみようよ」

「先に寝られると困るし、先に声だけはかけとこうか」

「そうだね、戻るついでに声かけとく」

百花が引き受けてくれた。


「次、公民科お風呂だよ」

麻衣子が私たちの部屋に伝えにくる。

「じゃ、みんなお風呂行こうか」早希が言う。

確かに、葵は右足を少しかばいながら行動している節がある。気がつかなかった。

「葵ちゃん、お湯入れる?」

「あまりお湯に長く浸かるのは良くないみたいなんですけど、短時間ならいいって、お医者さんが。今日みたいな日は、お湯に浸かって疲れ取りたいですし」

にっこり笑って、美里と浴槽へ向かう。

私はシャワーで体をよく洗い、浴室を出た。上がってくる早希と百花を待つ。

早希が歴史科の部屋にお風呂の連絡をしている間に、百花が男子部屋を回って去年の場所で、と伝えたようだ。とはいえ、優には分からない。匠と祐樹と合流してくるように伝えたそうだ。

麻衣子も去年の場所で、と言われても分からない。私たちは荷物を置くと、麻衣子と合流し、去年桜小路会を開催した場所へ先に向かった。


そして、そう時間を空けずに、匠、祐樹、優が現れた。

二度目の合宿での桜小路会、今度は七人でだ。みんな時間を気にしながら、桜小路会が始まる……。


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