第六話 「オフレコ」
「私、ゴールデンウィーク開けから、自分で自転車で学校に行く」
そう宣言したら、お母さんは驚いたようだったが、仕方ない、というような表情をした。
「いつそう言い出すかと思っていたわ。だって、あれだけ自力で学校へ行きたがってたんだもの。そうでなければ、あんなにハードなリハビリを自分から申し出るなんて、それも退院してからも続けるなんて、私には到底耐えられないわ。自転車はお父さんがきれいにしてあるわよ。いつでも乗れる。でもちょっと不安だから、お父さんと休み中に練習しておきなさい。そろそろ、外に出ても大丈夫な頃でしょう。あと、ちゃんとお医者さんにも確認を取るのよ」
確かに、事件の噂も聞くことが減って来た。とはいえ、まだ油断はならないとのことだ。この時期に気を緩めると、こっそりと張り込んでいる悪意の輩に狙われかねない、ということで、まだ警戒の手は緩めていなかった。
ゴールデンウィークの休みに入る直前、私はお母さんと病院へ向かった。
いつもとは違う時間帯だったが、担当の医師が応対してくれた。
「本来はもっとゆっくりが望ましいのですが、公共の乗り物への恐怖心もおありのようですし、いいでしょう、ゴールデンウィーク明けから、自転車で学校に登校しても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
「ただ、毎日本当に体の様子を見て決めてくださいね。調子が悪い時はタクシー、自家用車、最終手段として欠席、方法はいくらでもありますから」
ゴールデンウイークの祝日に邪魔されない五月の一日、私は渉の誕生日を祝うためにお母さんに頼んで隣街へと買い物へ出かけた。
毎年のことだが、お互いの誕生日は多忙でメールで済ませてしまったり、総体後で次の大会へむけてそれどころじゃないということで、きちんと祝った記憶があまりなかった。
しかし、今年はあんなことがあったのだ。何とかして、今年は渉の誕生日をきちんと祝ってあげたい。
今の渉の頭の中は泳ぐことでいっぱいだろう。さて、そういう彼には何が役立つだろうか。
私は母を連れてスポーツ用品店へ向かった。もちろん、使い慣れたものを使いたいだろうから、新しい水着やゴーグルなどよりは、数がたくさんあっても困らないものをたくさんプレゼントしよう、と考えた。タオルなどは毎日使えば数も足りなくなるだろう。そう思ってタオルはよく贈ってきたが、今年はいいタオルを贈ろう、と思った。
水泳用品コーナーへいくと、給水速乾に優れたタオルが最近発売されているようである。これはいい、と思い二、三枚選び、さらにレジ前に行きスポーツドリンクを箱で購入した。「泳ぐ人間ほど水分を必要とするんだ」と渉は口癖のように言っていた。店員が箱の運搬を手伝ってくれたため、苦労はしなかった。
「重い物だし、まっすぐ大谷さんのところへ行きましょう」
「うん、お願い」
私は優子お姉ちゃんから聞いていた渉のお母さん、美香の電話番号に電話をした。美香は在宅とのことで、わざわざ申し訳ないと恐縮していた。
大谷家に車を止め、再度美香に連絡を入れる。美香が出てきてくれて、私たちの大荷物を驚きながら歓迎してくれた。
「ごめんなさいね、あの子、最近は学校と部活から帰ったら塾っていう生活で。なかなか美咲ちゃんにも会えないって嘆いていたわ」
「いいえ、仕方ないですよ。この子、今年だけはどうしてもきちんと贈り物がしたいっていうものだから、突然こんな大荷物を持って押しかけることになってしまって、ごめんなさい」
「でも、助かります。正直、タオルが乾かない日もあるんですよ。部活は毎日なのに。これだけタオルがあると、余裕ができます。スポーツドリンクもあの子がよく飲むから、助かります。帰ってきたら、お礼の連絡を渉から美咲ちゃんにさせますね」
「ありがとうございます」
「渉、頑張ってるね」大谷家を出て、お母さんと話す。
「あなたはあなたよ。自分のペースを守ることが、一番大切だからね」
その日の夜、渉から電話がかかってきた。
「美咲、ありがとう。あのタオル、高かっただろ?」
「まとめ買いしたらね、結構安くなったよ」」
「スボーツドリンクも箱であるからさ、びっくりした。なんでも美咲たちがプレゼントってことで家に持ってきてくれたっていうものだから、もう驚くしかなかったよ。でも、嬉しかった。ありがとう。ちゃんと美咲の誕生日もお祝いするからな」
「喜んでもらえて贈ったほうもうれしいよ。渉、あんまり無理しないでね?」
「お前もな。まだまだ体力もないんだから、無茶するなよ」
「うん、ありがとう」
ゴールデンウィークに入り、私はお父さんに頼みこんだ。
「自転車で学校に行きたいから、練習するのにつきあって」と。
「そうか。一人で練習するのはいろいろな意味で危ないしな。俺が付き合おう。どの辺りで練習するか?」
「小花川の河川敷沿いを走ってみたい」
「うちから、まあ遠くないし、何だったら今からでも行ってみるか?」
「行く!」
小花川は、うちから自転車で約十五分くらいで行ける川だ。隣の県との県境の川でもある。河川敷が広いため、野球やサッカー、ゴルフの練習をしている人も多い。
「美咲、行くぞ」
「はあい」
久しぶりに乗る本物の自転車。母親は転ばないかと心配していたが、私は今までどおり乗りこなすことができた。
「あー、やっぱり前に進む自転車は気持ちいい!」
「お前は本当に自転車好きだな」
「好きっていうより、もう足だから。車も運転できないんなら、自転車しかないじゃない」
すっかりリハビリで鍛えられた脚で、順調に自転車をこぐ。普段は自転車に乗る習慣のないお父さんは置いていかれ気味になっていた。
「これじゃあ俺の方が練習しなきゃいけないな、ふぅ……」お父さんはそう漏らしていた。
帰宅してからの夕食は、久しぶりの運動後と言うだけあって非常に美味しく食べられた。
「美咲、あれだけ走れるならもう御勢学園大附属高校まで自転車で行っても大丈夫だと思うぞ。ずいぶん今日は長く走ったからな」
「そう? そんなに長かった?」
「俺はもうくたくただ」
「美咲、実際に学校まで自転車で行ってみたら? 今度は私が付き合うから」
「そうだね、それが一番現実的かも」
「お母さん、頼んだ……」
お父さんは今日のことによほど懲りたのか、もう勘弁してくれという顔をしている。
「そうね、明日はあなたも休みなさい。課題もあるんじゃないの? 行くならあさってにしましょう」
今年のゴールデンウィークは連休が取りにくく、カレンダー通りに出勤しなくてはいけないお父さんの連休は三日しかない。
もちろん、私たちもカレンダー通りに登校しないといけないのだが、ゴールデンウィーク明けに社会部の全体会が予定されているのだ。
これが、曲者なのだった……。
私が登校を再開し出しておよそ二週間後のこと。
私と匠が桜小路先生に呼び出された。嫌な予感を禁じ得ない。
「なんで二人なんだろうな?」
「そんな、何かしでかす暇なんてないよ、私には」
「部長と副部長ならまだしもなぁ……」
渋々と桜小路先生と面談する部屋へ出向く。三者面談は初めてだ。
「単刀直入に言おう。中村さん、水野くん、あなた達を今年の学会の共同研究者に指名したい。
中村さんのことは、もちろんああいうことがあったからなんてことは一切ない。
私も、去年の学会後からくらいかな、裁判員制度を授業に利用する論文を書いていてね。中村さんの研究と、水野くんの研究を共同で参考にしたいと考えていた。
去年は川崎さんにいろいろと辛い思いをさせてしまった。川崎さんだけでない、島本くんや川口さん、言ってしまえば去年の三年生みんなにだ。
今までは、生徒一人に荷を負わせるような形になってしまっていた。その点についても考えた。
今年は、私の論文の、本当のサポーターとして、このテーマを研究する公民科の中村さんだけでなく歴史科の水野くんにも参加してもらいたいと考えた。水野くんの研究は教育学としてもいい研究だからな。三人で初めて成立する学会の発表にしたい。
ああ、まだオフレコで頼む。連休明けに社会部の全体会を行う。その時に発表するつもりだから」
「はい……」
大変なことになってしまった、という表情をお互いしていた。
私たちは無言で部室へ行き、匠が美味しいお茶を二人分入れてくれた。
「大変な事になったな……」
「うん……」
「とりあえず、休み明けまではオフレコなんだろ? 今は、聞かなかったことでいいんじゃないか?」
「でも、休み明けには桜小路先生は公表するんでしょ?」
「最後の休みだ。休みたいだけ休めということだ」
社会部員全員に正式に承認されれば、夏休みはまずないと思っていい。
「俺は決めた。今、迷っていることがあったけど、桜小路のさっきの話で決心がついた。最後の休み、俺はもう迷わない」
匠が何に迷っていたかを知るのは、ゴールデンウィーク明けのことになる。
ゴールデンウィーク最終日。私はお母さんと自転車で御勢学園大学教育学部附属高等学校を目指して家を出た。
連休最終日とあって、あちこちからの帰りか、それとも最後の休日を満喫するためか、街は混み合っていた。
私たちは遠回りにはなるが、人の少ない道を選んで学校へと向かった。
こんな行き方もあるんだ、と思い、全く縁のなさそうなお母さんが何でこのような行き方で御勢学園大学教育学部附属高等学校へたどり着くことを知っているのか不思議に思って尋ねてみる。
「お母さん、何でこんな道知ってるの?」
「御勢学園大なら受けたことあるのよ」
「えっ」
「今まで言ってなかったわね。落ちちゃったから、恥ずかしくて。優子にも、言ったかしら……?」
「お父さんは?」
「知ってるわよ、もちろん」
「学部は?」
「法学部。私の成績じゃダメだったみたい」
「そうだったんだ……」
お母さんの出身は同じ県内だけど、違う市。おじいちゃんもおばあちゃんも、私のとても小さいうちに亡くなったというのを聞いたのは、優子お姉ちゃんからだった。
「今から御勢学園大学の附属高校を受けようとしているあなたに、私が落ちたことがあるなんて言えなかったわ。今でも言い出しにくい話……」
「ご、ごめん……」
「まあ、今は学校へ向かうことよ。ちゃんと着けないと明日から自転車で行けないからね」
私はお母さんと二人、学校まで普段は十五分くらいの道を二十五分ほどかけてたどり着いた。
「遠回りの道でも大丈夫そうね。これからまた忙しくなるんでしょ? 行き帰り、注意するのよ」
「同じ方向に帰る友達いるし、気をつけて帰るよ」
「そう、それなら少しは安心だけど」
「え! 美咲、もうチャリで学校行くって、本気か?」
「本気も本気。しっかり練習もしたよ。医者のOKも出てるし」
「すげーな、退院してまだ一か月経ってないのに、もうチャリか」
「自転車は私には足だからね」
「そのためにリハビリ頑張ってたもんな」
「早希じ……小島さんに、『私が部活引退した頃みたいな脚してる』って言われた」
「それだけ鍛えたってことだな。リハビリの意味とはなんだか違う気もしなくもないが、日常生活を送る上で必要なんだしな」
「明日から、誰の手も煩わせずに学校に行ける」
「でも、みんな心配してるんだぞ。それだけは忘れるなよ」
「うん、わかってる」
翌朝。御勢学園大附属高校の三年一組の自転車置き場に初めて自転車を置く。ようやくだ。
そこに、「美咲! 自転車で来たの?」と百花がひどく驚いたような顔をして現れた。
「うん、自分の力で学校来たいと思ってたし」
「大丈夫なの?」
「平気だったよ。ゴールデンウィーク中に練習もしたし」
そう言うと、百花は私を掴むようにして三年一組の教室へと連れて行った。
「匠、あんた美咲と帰り道同じ方向だったでしょ? この子、もう自転車で学校来てるのよ。匠、帰りは美咲の家までとは言わないから、安全なところまで送って行ってあげて」
「それは構わないんだが……もう自転車で来て大丈夫なのか?」
「うん、医者の許可も下りたし」
「分かった、俺が安全なところまでは責任もって送る。同じ方向だしな」
「……ありがとう」
百花のこの強引さも、私を心配してのことなのだ。渉の言葉を改めてかみしめた。
そして、その日の放課後。社会部の全体会が行われた。
議題は部長の匠と、私しか知らない。
桜小路先生が現れる。そして、あの日私たちに告げた、あの衝撃的な発表を行うのだ。
『裁判員制度の考察ーー授業実例への導入からーー』桜小路先生は部室の黒板に書き、そしてこう告げた。
「これが私の今年の学会の発表テーマだ。そして、共同研究者として、水野くん、中村さん、二人を指名したい」
部室が無音になる。何と言っても、前例のないことだからだ。
「去年、私は大きなミスを犯してしまい、去年の三年生には多大なる迷惑をかけてしまった。似た研究をしている生徒がいたのに、一人だけに共同研究者としての重責を与えてしまい、同じ学年間の関係までもギクシャクさせてしまった。今でもそれは反省しているし、責めを受けても仕方が無いと思っている。
今年は、言い方は悪いが、試行期間だ。私は去年の学会の後からこのテーマで論文を書き続けていた。無論、何のしがらみもない。自分の興味が今年は裁判員制度へ向かったからだ。
ただ、ここで同じ研究をしている中村さんだけに共同研究者としての重責を負わせるのは、去年の繰り返しとなるのではないかと考えた。
そこで、授業実例に活かすことができそうな研究をしている水野くんと二人で共同研究者として指名しようと考えたのだ。そして、それぞれ重責にならない程度に、三人で本来の共同研究をする、こういう形を取りたいと思う。
これは今年の暫定的な形式だが、来年以降も自由に形式や方法は変えて行けるようにしたい」
静寂を破る、拍手が湧き出てきた。その主は優だった。無言ではあるが、「同意」という表情で拍手を送る。つられてか、あちこちから拍手が起こり、満場一致の決定となった。
全体会が終わり、私は新入部員や新しい一年生に声をかけていなかったことに気がつき、麻衣子や早希、祐樹に新入部員や新しい一年生と思われる子の、どの子が何科かを尋ね、声をかけて回った。
双子の内田兄弟の兄、翔がいた。弟の翼は数学部へ正式に入部したそうだ。そういえばあの子は一年二組だったな、と思い出す。
「先輩、もう学校来て大丈夫なんですか?」
「大丈夫! もう自転車で来てるよ」
「すげ……翼にも先輩が元気になったこと伝えときますね。あいつも心配してたから」
新しい一年生と思われる子は私のことをまだよく知らないらしい。まあ、仕方が無い。再登校し出して、部活に来るようになって半月経つかたたないかだ。
ただ、私が「中村美咲」であること、桜小路先生に共同研究者に指名されたことは分かってもらえたようだ。あの事件のことに気づく必要はない。
部員が帰ったあと、私たちは桜小路先生に呼び出され、現段階まで書いている論文を渡された。
「これ、読んでおいて。それぞれ、役割はまたおいおい話すから」
現段階でも三十枚はある論文を渡され、げんなりしながら部室に戻ると、桜小路会メンバーが待っていた。
「待ってたのか? 桜小路の呼び出しは長くなるのに……」
「美咲、会計の全権を俺に譲れ、いや、譲ってくれ」
「……って、いきなり?」
「お前入院してた期間中、俺が会計やってたし、さらに今からは学会の発表だろ? 絶対に辛い。俺がやる」
「川口先輩が忘れられないんだねぇ」早希がちゃかす。
「でも、美咲、優の話ももっともだと思うよ。去年の川崎先輩、学会前、すごくやつれてたもん。絶対に掛け持ちは辛いよ。投げられるものはさ、信頼できる相手がいるんだったら、パスしちゃいなよ。自分で何でもかんでも抱え込んじゃダメ」
「匠もそう。部長だからって、いろいろ抱え込まないで。後から入った私が言うのも何だけど、私たちみんなで受け止めるからさ、困ったら、パスして」麻衣子も言う。
「ありがとう、みんな。俺は部長だからって辛いとか思ったことないけど、みさみさはまだいろいろと辛い時期だと思うんだ。だから、優、会計はお前に任せる。みさみさ、それでいいか?」
「お茶……お茶の注文は、私にやらせて。後は、優に任せる」
「分かった。会計の道具一式、渡してくれよ」
「とりあえず、これからは部費とかを美咲じゃなくて優に払うってことになるんだよね?」
「そういうことだな。まあ、今の所もそういうことになってるけどな」
「部員みんなに告知しないとね」
「まあ、部費の時期はしばらく先だし、各部会での連絡ででもいいんじゃない? 急ぎのときはその人に伝えるってことで」
「でもまあ、こういうことになるとはなあ……」
「約束だろ、誰が桜小路の共同研究者になろうと、俺らは全員でサポートするって」
「美咲、いろいろあるけど大丈夫?」
「やってみないと分からないけど、やってみたい」
「じゃあ、これはもう、美咲と匠が選ばれたとかの問題じゃなくて、俺ら全員で協力して学会発表成功させるしかないな」
「私たちならできるよ!」
「Yes,We Can!」
「どこの国だよ」
そして、私たちも帰ることにした。
帰り道。私はどうしても匠に聞きたいことがあった。
「た……」
「みさみさ、聞いて欲しいことがあるんだ」
ビックリした。聞きたいことを聞こうとした瞬間、あちらから聞いて欲しいと言われるとは。
「な、何?」戸惑いを隠しきれないまま尋ねる。
「桜小路に呼び出された後、俺、決心したって言ってただろ? そのことをみさみさに聞いてもらいたくて」
ゴクリ。ツバを飲む音が聞こえる。心臓の鼓動が早まっているのが分かる。
「俺、一大決心して、自分の気持ち、智也に伝えたんだ。これでダメなら今なら諦めもつくって。そしたら、智也、OKしてくれたんだ! 俺、すっげー嬉しくて、みさみさに早く伝えたかったけど、直接話さないとメールとかじゃ誰かに見られるかもしれないし、怖くてさ……」
「おめでとう! よかったじゃん! ああ、なんか、自分のことみたいに嬉しい!」
「本当か! みさみさしかこんな話できないからさ……。朝は、百花姉様に引っ張られて来てたからタイミング逃しちゃったよ」
「でも、これから忙しくなりそうだけど、大丈夫?」
「みさみさの彼氏のアイデアを借りた。携帯をお揃いで買ったんだ。プリペイドの一番安いやつをな。会えないときは携帯で、まあ、主にメールになるだろうけど。会えるときは会うことにして」
そういえば渉は親に同意書を書いてもらって、お小遣いの範囲内で二台分の携帯とその料金を払ってくれているそうだ。匠の場合、この関係は誰にも知られたくない、でも連絡は取りたい、ということでプリペイドの携帯をお互い持つことにしたのだろう。
「とにかく、おめでとう! いやぁ、すっごく嬉しい話聞いて幸せな気分! ありがとう!」
「みさみさにここまで喜んでもらえると思ってなかったな」
そしてその次の日、部室を貸し切りにして、匠と智也のお祝いのお茶会をひっそりと開いたのだった。二人とも、幸せそうな、穏やかな顔をしていた。
そして、ある日私が学校から帰ってきた夕方、お母さんが「池田先生が、見えられるわよ」と慌ただしくしていた。何かあったのだろうか。
そして、お母さんの携帯に、「今、お宅の前におります」との電話が池田先生より入った……。




