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桜小路茶話  作者: 望月 明依子
第二章 「月」
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第十二話 「七人のお茶会」


よく言われる話、「一月は行く、二月は逃げる、三月は去る」。

それだけ三学期が短いということであるが、社会部の世代交代が行なわれて、一月はあっという間に過ぎて行った。

一年生は、その頃北海道へ修学旅行へ出かけ、部にお菓子をたくさん買ってきてくれた。

二月に入ると、すぐに学年末考査準備期間だ。


杉谷高校では、私も本来行く予定だった修学旅行に行くとのことだ。

杉谷高校では旅行先が北海道か海外か選べる仕組みになっていた。寒さが苦手な私は海外を希望していたが、御勢学園大学教育学部附属高校へ転入してしまったため、その話も無しになってしまった。

渉は、「思ったより寒くなかったぞ。どこも暖房効いてたしな。スキーも、楽しいもんだったよ」とたくさんの写真とお菓子やお土産を持って遊びに来た。しばらく勉強漬けだったから、解放感が大きかったようだ。

陽子は海外へ行ったとのことだ。電話で、あちこち観光して回って、お土産店で可愛いものを値切ったという話を聞かせてくれた。ただ、水が合わず、体調を崩す子も続出したとも言っていた。お土産を渡したいと言われたので、学校帰りにいつものファミレスで待ち合わせて、中に入らず、お土産だけを受け取った。陽子もこれから塾なのだ。



定例の桜小路先生との面談。前回はレポートの受け取りを拒否されたので、今回はレポートにも力を入れて面談に挑んだ。

レポートについての質疑を行ったあと、桜小路先生は「ところで、中村さんは進路希望は御勢学園大の法学部でいいのか?」と問いかけてきた。

「はい」素直に答える。

「そうなると、……内申の話は生徒にするものではないのだが、実は、法学部は求められる内申点が高い。今のところ、あなたは出席、提出物等はいいのだが、いかんせん、一年次の内申点がやはり転入という形でこの学校に来た分、少し低めに出ている……。あなたの今研究していることは、やはり法学部で研究を深めたほうがよいだろう。そのためには、学年末考査で点を落とさない事が大切だ。あなたは苦手な科目にも前向きに取り組む意欲を持っている。それは素晴らしい才能だ。それを活かして、学年末考査、赤点には注意するようにな」

「はい」

部室でお茶を飲もうかと思ったが、その前にパソコンを立ち上げ、一般的に、御勢学園大学の偏差値というものを調べてみることにした。


御勢学園大学 文学部 五十七

法学部 五十八

教育学部 五十七

経済学部 五十六

理学部 五十九

工学部 五十八


「あまり教育学部とかとは変わらないみたいだけど、少し高いのかな……」

転入とはいえ、せっかく御勢学園大学の附属高校に入学できたのだ。目標は変えたくない。

「お茶飲もうっと……」

ついでに各種のお茶の残りもチェックしておく。冬場でも冷たいお茶が好きな人もいるようなので、冷蔵庫内のペットボトルのお茶の残量チェックも忘れない。

「ええと、いいお茶、残り少なくなってきたな……。ついでだし、ペットボトルのお茶もお願いしようっと」

私は優にメールを打って、二リットルペットボトルのお茶の追加をお願いした。

「いいお茶、どうしようかな……」

隣の駅まで買いに行くついでに、匠に教えてもらった同人誌の店巡りをしたい気もする。ただ、今はちょっと時期が悪い。

「今回は、通販で頼んでおこうかな」

お茶を飲み終わった頃、優から「明日にでも買ってきて、部室の冷蔵庫に入れておくよ。レシート渡すから、精算頼むな」

「了解」と返事を返し、私は部室を後にした。


自宅に帰ると、私は早速いいお茶の通信販売のページを開いた。

シーズン物のお茶と、定番のお茶を注文し、銀行振込を選ぶ。クレジットカードではないため、振込に手間はかかるが、仕方が無い。

匠にあのお店を教えてもらってから、インターネットであれこれサイトを探すことがなくなった。思い立ったら、着替えて隣の駅に行き、ちょっとブラついて欲しい本を収穫してくればいいだけだ。ただ、やはり中身が見えない分、ハズレた、と思う物もたびたびあった。そして、それらの本の隠し場所にも頭を悩ませた。


パソコンを落とし、机に向かう。三学期の学年末考査の概要もこれまでと大差はない。ただ、問題はどんどん実戦的に、本番の試験に近くなっていく。

理系科目は基本から。基本なくして応用なし、真理先生が言っていた言葉だ。短い期間に学習した内容の基本からきちんと復習して、それから応用へ。それは他の科目にもあてはまることだ。

私はひとしきり試験科目の基本の復習を行い、そのまま疲れて寝てしまっていた。


「美咲、ご飯よ」

お母さんが部屋まで起こしに来た。

「呼んでも下りてこないものだから、心配したわよ」

「うーん、試験前だし、疲れてたみたい」

「ご飯食べて、お風呂入っちゃいなさい。寝る時はちゃんと寝室でね」

「はあい」

私は教科書を閉じ、夕食を食べに行くことにした。

「私も、塾とか通ったがいいのかな?」

お母さんに聞いてみる。

「今のあなたに、到底そういう余裕があるようには見えないわ。言い方は悪いけど、勉強だけをしてればよかった前の学校の時のあなたとは違う、全く。

今は、勉強に加えて、かなりレベルの高い研究を求められてる。それと普通の勉強にも時間をとられてるのだから、塾に通う時間も余力もないと思うの」

「そう……」

そんなに余裕がないように見えていたのか。まあ、仕方ないかもしれない。

「ごちそうさま」


入浴を済ませた後、再び私は机に向かった。

理系科目は基本的な問題でも時間がかかる。うんうんうなりながら問題を解いていた。

ようやく一息ついたのが十二時近く。もう寝よう、と思い、寝室へ向かった。

お母さんはまだ台所で父の夕食の片付けをしていた。

私は無言で布団に入った。


翌日から、このような生活を続けた。それに加えて、毎月のレポート作成も行わなくてはならない。

学校が終わったらみんなすぐに帰宅している。さすがに、クラス内に塾に通っているという子の話は聞かない。それぞれ、毎日の勉強と部活動という名の研究でいっぱいいっぱいなのだろう。

渉も電話をくれるが、こちらも勉強の合間で、渉も学校と部活、塾に追われているため、話せる時間は限られている。元気なことと、その日のことを短い時間話すくらい。余裕はかなり失われていた。

「学年末考査終わったら、また遊びに行くな」

「うん」

それが精一杯だった。


学年末考査が始まった。

ここまで来たら、あとは自分のやって来たことを信じて突き進むしかない。

赤だけは、赤点だけは避けなければ。それのみを考えながら、各科目のテストを解いていった。


学年末考査、全日程が終わった。ひとまずみんなホッとした顔をしている。

返却まで気は抜けないが、今できることはここまでだ。

後は、修了式まで欠席しないことだ。

「ねえ、久しぶりに部室行こうよ。お疲れのお茶会しようよ」

早希が提案してきた。

「いいね、部室も行くの久しぶりだよ」

「百花姉様と麻衣子、匠と祐樹、優にも声かけてくる」

ああ、優へのお茶の精算忘れてた、ことを思い出したと共に、自宅に届いていたいいお茶を学校に持ってくるのを忘れていたことも思い出した。


部室へ向かい、冷蔵庫をのぞくと新しいお茶のペットボトルが三本入っていた。

まだいいお茶の葉は残りがあるが、今日七人で飲むとなくなってしまいそうだ。

百花がお茶をいれてくれる。「残り少ないけど、美咲、新しいお茶ある?」

「ごめん、うちに注文したのあるのを持ってくるの忘れてた。明日持ってくる」

「もうあるのね。さすが、美咲」

「とりあえず、学年末考査、お疲れさまでした!」

「お疲れさまでした!」

「どうだった?」

「うーん、微妙」麻衣子が言う。

「祐樹は?」

「俺は、そういう話はしない主義だ。だって、自信なくなるじゃないか」

「優は?」

「まあまあかな」

「すごい自信」

「さすが、学年トップクラス」

優は学年で一、二を争う成績なのだが、すでに御勢学園大学経済学部への内部進学希望を出しているらしい。「もったいない」と言う声もあるようだが、桜小路先生は「自分の進路は自分で決めろ」と言う考えのため、特に希望に反する進路を押し付けることはない。

「あ、ごめん優。この前のお茶のレシート、今持ってる?」

「あるある。今渡していいか?」

「預かって、明日精算でいい?」

「分かった。よろしくな」

レシートを預かり、無くさないように自分のファイルに入れておいた。

しばらく、学年末考査期間中のストレスを晴らすかのように、七人で話をしていた。


匠が、あ、と思いついたように話を切り出す。

「先輩たちの卒業祝い会をしようか、と思ってたんだけど」

「去年も、この時期にしたね。もう少し後だったっけ?」

「卒業式の前だから、もう少し後かな」

「部室は狭いかな」

「でも、卒業祝い会だし、やっぱり部室だろう」

「何がいるかな?」

「お茶もだけど、他の飲み物、お菓子、後は花束とかプレゼントだね」

「去年は?」

「花束とプレゼントだったな」

「やるなら、一応桜小路先生に許可はとっておいたがいいよね」

「それは俺がやる」

「だいたい何がいるか、見積もりを私がつくる。それに基づいて、美咲、優、二年生の部員と一年生への費用を計算して、部員への集金をお願いできる?」百花がてきぱきと指示を出す。

「うん、分かった」

「おう」

「お菓子は早希嬢、よろしく」

「任せてよ。いっぱい買ってくる!」

「早希嬢、予算以上買うのはやめてよ」

「ちぇっ」

「花束は当日に届くように注文しないといけないから、麻衣子、花束担当になってくれる?」

「うちの近くの花屋でよかったら、任せて!」

「プレゼントは、七人で買いに行きましょう。女の子だけでも、男の子だけでも、全員分の好みを把握するのは難しいし。責任者は祐樹、よろしくね」

「責任者って、何すればいいんだ?」

「七人のスケジュール管理、プレゼントの保管、ってところかしら」

「おう、やってやるぜ!」

これで、社会部の三年生の卒業祝い会の概要が決まった。まず、善は急げと匠が桜小路先生のもとへ許可を取りに向かった。

「部室を使う分には構わないそうだ。日程を決めて、報告しろと。自分も参加するからって」

「じゃあ、今、日程だけ仮にでいいから決めよう。都合が悪い先輩が多かったら、変更で」

「卒業式は三月一日だな」

「前日はバタバタしそうだから、前々日は? 二十七日」

「とりあえず、それでいいんじゃない?」

「仮決定ね」

二十七日までは、あと約十日ほど。それまで、またバタバタだ。

「祐樹、あんたのスケジュール管理がモノを言うわよ。頼んだわ」

「は、ハイ……」

「美咲と優には、見積もりが出来次第パソコンにメール送るから。それから費用の計算、各買い物組への連絡、部員への集金をお願い」

「了解」

「買い物組は、会計組からそれぞれ利用可能な金額の連絡を受けて。それからね」

「了解」

「わかった」

そう言うと、百花は部室のパソコンを立ち上げ、表計算ソフトで見積もりを作り始めた。

「百花姉様、仕事始めちゃったね」

「とりあえず、土日が動きやすいだろう。今度の土日、どっちが都合いい?」さっそく祐樹も動き出す。

「あたしは日曜」振り向かずに百花が答える。

「あたしも、日曜かな」

「私はどっちもいいよ」

「俺は土曜がいいが、日曜もなんとかなる」

「あたしはいつでもフリーですよ」

「俺も土日どっちでも構わない」

「じゃあ、多数決で、日曜な。美咲、優、土曜の夜までに予算頼むぜ」

「優、百花姉様が見積もり作ったら、一度部室で作業しようか」

「ああ、それがいいかもな」

「今日の夜にはできるかもよ?」

「じゃあ、明日の放課後でもいいじゃない」

「買い物組がその場で予算分かったら、手間も省けるしな」

「じゃあ、頑張ろっと」百花は再びパソコンへ向かい、仕事を再開した。


帰宅後、久しぶりにゆっくりと夕食をとることができた。

「ようやく終わったのね、学年末考査。今日くらい、ゆっくりしなさい」

「部の仕事があるから、少しそれをしたら休むよ」

「すっかり馴染んだわね、あなたは。一年前からは考えられないほど、毎日忙しそうだけど、充実しているように見えるわ」

「そう?」

「ええ、部活してた頃の優子を思い出すわ。休みなんて全くないのに、疲れた様子も見せずに定期演奏会に向けて練習していた頃」

「へぇー」

私も今、ただ前を向いて走っている。それだけだ。

「今日くらいは、早く寝なさいね」

「はあい」


パソコンのメールをチェックすると、百花からの見積もりのファイルが添付されたメールが届いていた。これ位でいちいちメールするのも面倒だ。優に一本電話を入れる。

「もしもし? 優? 百花姉様からの見積もり届いた?」

「来た。明日、印刷して持っていけばいいか?」

「うん、私も持って行くけど」

「精算も頼むぜ」

「あ、ごめん。明日持って行くよ」

「じゃあ、明日な」

「よろしく」

明日持って行く荷物に、いいお茶とレシートを精算した金額を入れる。これでいい。


いいタイミングで、渉から電話がかかって来た。

「もしもし、美咲、学年末考査今日までだったろ」

「うん、やっと終わった」

「俺らは明日までだ」

「じゃあ、まだ忙しいね」

「明日、久しぶりに美咲の家に遊びに行くよ。いいか?」

「うん、大丈夫だけど、何時ごろ?」

「まあ、明日から部活も再開するし、夜になるかな」

「なら問題ないよ、お母さんにも伝えとく」

「時間に何か問題あるのか?」

「うーん、部で先輩たちの卒業祝い会をすることになってね、その打ち合わせを放課後にやると思うから」

「ああ、そういう時期だな。俺らは記録会して、その後にどっか会場を貸し切って卒業祝いするな」

「そういうのは誰がやってるの?」

「たぶん顧問と保護者だろうな。お金は俺らは扱わないし、ただそういう会があるって聞いて参加するだけだから」

「なるほどね」

「夕方、少しは明るくなってきたけど、あまり遅く帰るんじゃないぞ」

「うん」

「また明日な」

「うん、待ってるね、渉」

「おやすみ」

「あと少し、頑張ってね。おやすみ」


翌日から、学年末考査の結果がぞくぞくと返却されてきた。

今回は、二学期末のような危ない点数はなかった。赤点もなかった。

本当に胸を撫で下ろし、後はこの一年間は出席日数だけだな、と考える。

三学期末まであと一月。思えば、本当に駆け抜けた一年間だった。

でも、まだ卒業祝い会を成功させ、無事に先輩たちを送り出すことも大事なことだ。気は抜けない。


放課後。部室に七人が集まった。

「みんな、どうだった?」

「セーフ」

「ギリギリだけど、なんとか」

口々に言う中、優と匠は何も言わない。彼らには「ギリギリ」という概念がないのだ。

苦手な科目はあっても、毎期末のテストくらいは余裕という。

「まあ、赤点がなければ出席日数足りてれば内部進学は大抵いけるみたいだし、何かまずいようだったらまた桜小路先生が呼び出すか面談で何か言うでしょ」

「俺、どう判断されてるのかな……」

「祐樹、もしかして……」

「俺、この前も言ったとおり、島井大学を志望しててさ。センターもあるけど、一般入試も考えないとな……。うち、推薦は見込み少ないし」

「それこそ、桜小路先生に聞きなよ。今ならどの方法がいいかって。私も今度の面談で、御勢学園大の文学部の新しい学科の設置状況聞くつもり。それによっては今から別の進路考えないと」

「とりあえず、今日は見積もりから費用を計算するんだろ、優、美咲?」

「うん」

「じゃあ、とっととそれやっちまおうぜ」

「あ、優、お茶の精算」

「ありがとよ。じゃあ、始めるか」

前日百花から送られてきた見積もり表を見つつ、まずは参加費を計算する。

社会部は一年生と二年生で合わせて二十二人。しかも、一年生は仮入部なので、二年生と同額の参加費は取れない。

「うむむ、一年生は半額にすると、バランスが……」

「これぐらいにしたら?」

計算が苦手な私に代わり、優がパパッと計算する。

「これなら、きれいに割れるぞ。これで行こう」

二年生三千五百円、一年生三千円。

「で、あたしはいくら使えるの?」優の計算を眺めていた早希が聞く。

「お菓子代は見積もりの予算四千円だな。中身は早希嬢、うまく考えてくれ。飲み物代も入ってるから、お菓子ばっかりにしないでくれよ」

「花束は?」

「一人三千円。で、川崎先輩、島本先輩、川口先輩、清水先輩、山崎先輩には三千五百円」

「うん、妥当なところかしら」百花が言う。

麻衣子は必死でメモを取っている。

「で、プレゼントは? 一人予算いくら?」

「二千円」

「それを十三人分か」

「一日で買うのは辛くないか? ちょっと大変だけど、土日使うか。参加可能な日だけ参加で」

百花がホッとした表情をした。

「後は、集金方法だな。俺らはクラスの子たちだから集めやすいけど、一年生は一組も二組もいるしな」

「臨時に全体会を開こう。お金が絡むから、これも事前に桜小路に許可を取って、桜小路立会いの下が揉めないで済むな。告知に時間かかるから、今週木曜開催で」

「で、金曜までに上手く集まればいいがな」

「集まらなければ、仮に会計から出しておくよ」

「俺、桜小路の所行ってくるわ」匠が席を立った。


数分後。匠が戻ってきた。

「全体会をやって集金するのはいいが、一応見積もりを見せろって。どういう使い方か把握しておきたいとさ」

「分かった。これを桜小路先生に渡してきて」

「ありがとう」

匠は再び桜小路先生の所へ向かった。


更に数十分後。匠は見積もりとともに封筒を持って帰ってきた。

「見積もりはOKが出た。そして、桜小路先生からの卒業祝い会の資金だそうだ」

「匠、中身見たの?」

「いいや、封筒を渡されただけ」

全員が封筒に注目し、そして中身を取り出そうとする匠の手を食い入るように見る。

そこには、一万円札が二枚入っていた。

「おお! 万札だ! 二枚もだぞ!」

「かなり気が楽になった……」

期間が期間なだけに、全員からきちんと集金できるか私は心配だった。

「よし、ちゃんと桜小路先生の所にお礼を言いに行くぞ!」

こうして、七人揃って桜小路先生の所へお礼を言いに行ったのだった。


「ただいま」

「お帰り」

「今日、渉が来るって」

「あら、久しぶりね。何時ぐらいになるのかしら?」

「連絡くれるみたいだけど……」

部屋に戻ると、渉からもらった電話に着信のランプがついていた。

何度か電話をもらっていたらしい。今日は遅くなったな、と思いながら、かけ直して見る。

「もしもし?」

「もしもし? 美咲? やっと出た!」

「ごめんごめん、今帰ってきた」

「部活か?」

「うん、昨日言ってた話し合い」

「忙しいな」

「だからごめんって。ところで、ご飯は?」

「もう食べた。じゃあ、今から行っても大丈夫か?」

「いいよ」

「じゃあ、今から行くわ」

そう言っているうちに、家のチャイムが押される。

「あら、早かったわね」

「こんばんわ、お邪魔します」

「いらっしゃい、ゆっくりしていってね。渉くん、ご飯は?」

「食べてきました。お構いなく」

「じゃあ、お菓子でも持って来るわね」

お母さんは紅茶の準備を始めた。

私たちは部屋に行き、いつものように並んで座った。

「学年末考査、お疲れさま」

「お疲れ。どうだったか?」

「今回は、何とか……」

「なら良かったじゃないか。安心したぞ」

「渉は?」

「俺今半端なく勉強してるからな。今回は俺も余裕だ」

「そんなに半端なく勉強しなきゃいけないの?」

「まあ、本当はな。でも、それより前に、今しっかりやるべきことやって、部活を本格的にできるようになったらそっちに本腰を入れようと思って」

「そこまで考えて今勉強してるんだ……」

「お前も、毎日の勉強に、部活の役員だろ。忙しさは俺と変わらないはずだぞ」

トン、トン。 部屋がノックされる。 お母さんが紅茶とケーキを持ってきてくれた。

「美咲は後で軽くでいいからちゃんとご飯食べなさいね」

「お前、飯まだだったのか?」

「言ったじゃん、帰ってきたばっかりだって」

「そういうことは早く言え。ケーキ食ったら、ちゃんと晩飯も食うんだぞ」

「うん、そうする」

「いや、しかし、美咲、そこまで忙しかったんだな。俺、何だか心配になってきた……」

「大丈夫だって。ちゃんと寝てるし、食事もしてるよ」

「俺、これ食べたら帰るわ。美咲の食事の邪魔にはなれない」

「別にいいのに。じゃあ、ゆっくり食べて行ってよ」

「じゃあそうする。いただきます」

渉はいつもの倍以上の時間をかけてケーキを食べた。

食べながら、学校の話、部活の話、色々な話をした。

「ごちそうさま。美咲、ちゃんと俺が帰ったら晩飯食えよ」

「分かってるよ」

「約束だぞ?」

「うん、約束」

私は階下に行き、帰る渉を見送った。

「お邪魔しました。美咲、メシ……」

「分かってるよ。ちゃんと食べる。だから、渉も気をつけて帰ってね?」

「おう。またな」

「またね」

そして、私は渉に言われたとおり、夕食を改めてきちんと食べた。

私はまだ知らなかった。私たちの家の近くを原香奈子が下見していることを。


卒業祝い会の話はクラス内で早めに行い、確実に費用を集金できるようにしておいた。

木曜には桜小路先生立会いの下、臨時に社会部の全体会を行い、一年生にも卒業祝い会の話と、費用の集金の話をした。

金曜には、クラスのほぼ全員、一年生もその日に払ってくれた子もいて、プレゼントの費用には充分な費用が集まった。

必要な額を責任者の祐樹に渡し、残りは保管しておく。花束代まで集まったら、麻衣子に渡すつもりだ。

桜小路先生から頂いた資金は、予備費としている。

「ああ、もう卒業式か……」

去年は自分が卒業する感覚でいたが、今年は慣れ親しんだ先輩方を見送る。私たちにできることは、社会部で卒業を祝うことぐらいだ。


ブーンブーン メールが届いた。祐樹からだ。

「明日プレゼント買い出しに参加可能な方へ 朝十時、学校の前に集合お願いします」

私は両日参加可能だし、両日参加のつもりだ。「了解」とだけ返信して、念のため予備費を持って行こう、と考えながら寝室へ向かい、眠りについた。


そして翌朝、私は念のための資金の準備をして、学校へと向かった。


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