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桜小路茶話  作者: 望月 明依子
第二章 「月」
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第一話 「転入生」

四月五日。いよいよ、真新しい制服に袖を通す日がやってきた。

実質的に杉谷高校の制服は一年も着ていない。優子お姉ちゃんとサイズも違うので、制服を着回すこともできなかった。

私の制服は優子お姉ちゃんの制服と一緒に、もったいないからと言ってリサイクルショップにお母さんが持って行ってしまった。


今度の制服は、前の制服と違ってネクタイがついてくる。もちろん結ぶのではなく、胸元にクリップで止めるような形だ。

スカートも、紺色からチェックになった。同じ人間でも制服が変わるとこんなにも変わるのか、と驚く。


「行ってきます」

「いってらっしゃい。緊張するわね。でも、あなたなら大丈夫よ」

「うん、ありがとう」


通学方法も今までと変わらない自転車だ。ただ、少し距離が伸びただけ。自転車があれば山でも海でも平気で行ってしまう私にはほんの少しの距離の変化など何の苦痛でもなかった。春の爽やかな風が気持ちいい。


そして、とうとう御勢学園大学(みせがくえんだいがく)教育学部附属高等学校へ到着した。まずは職員室へ、と言われているため、職員室へ向かう。行き交う生徒が見慣れない顔だな、という目で見つめる。そういえば、転入試験の時に見かけた顔の子がいる。同じく職員室で待機を命じられているのだろうか。


「今から職員会議なので、会議室で待機してください。その後、担任教諭が教室に案内します」

職員室に揃った真新しい制服の四人に、教員が声をかけ、会議室へ誘導した。職員会議はおよそ十五分くらいだった。


「中村さん、行きましょう」

どうも、二年一組に配属されたのは私だけのようだ。あとの三人はいわゆる二年二組、理系ということか。

面接の時に会った男性が担任教諭のようだ。「私は、桜小路博と申します。二年一組、あなたのクラスの担任です。この学校の特性ですが、来年三年生に進級してもクラス替えは基本的にありませんし、担任も私から変わらないとお考えください。どうぞ、よろしくお願いいたします」

教室に向かいながらそのような話をされる。二年一組のクラスは職員室から三分ほど歩いた、教室棟の二階手前だった。


ガラガラ…… 桜小路先生が教室のドアを開ける。

まだ、このクラス自体も緊張しているな、と感じた。桜小路を見るのも初めてだという顔をしている子もいる。

「起立。気をつけ。礼」

日直も何も決まっていないため、桜小路先生は自分で号令をかけた。

「二年一組のみなさん、はじめまして。もう私を知っている方もいらっしゃるかもしれませんが、自己紹介をします」

よくあるパターンだが、桜小路先生は黒板に自分の名前を書き始めた。

「桜小路 博」

「『さくらこうじ ひろし』だ。けったいな苗字か思うかもしれないが、仕方ないだろう、苗字なんだから。これから二年間、長い付き合いになるが、よろしくお願いします」

「一年の頃は二組だった子もいるだろう。二年からは一組は完全に文系クラスだと考えてもらって構わない。あなたたちの希望を面談等で極力聞き、希望に沿った進路指導を行っていく。また、部活動も二年からは必修になる。ちなみに、私は社会部の顧問だ。社会部のみんな、部活でもよろしくな」

「そして、今年からこの学校に転入してきた方を紹介します。中村さん、一言どうぞ」

ここまですっかり桜小路先生のペースだったので、突然話を振られてびっくりした。まあ、転入生が話を振られるのは当然だ。

「中村美咲です。よろしくお願いいたします」

パチパチパチパチ…… 拍手が起こった。

「じゃあ、とりあえず、中村さんには、空いている席についてもらおうかな。出席番号順に座ってるなら、あのあたりが空いているはずだ」

ちょうど二列目の前から三番目あたりが空いていた。好奇の視線を受けつつ、席についた。

「しばらくは、この席で行こうか。慣れてきたら席替えをしよう。で、日直は今日から出席番号順だ。出席簿、あとで職員室へ持ってきてくれ」

桜小路先生は一番廊下側の生徒に日誌を渡した。「じゃあ、これから体育館に移動。始業式の後、ホームルームで今日は終わりだ。正式な部活動はまだ先だな。今までの部から変わる子は注意するように」

「起立。気をつけ。礼」

今度日直の子が号令をかけた。


みんな思い思いに体育館へ移動している。私も行かないと、と思い立ち上がった瞬間だった。

「美咲ちゃん? 原中合唱部の美咲ちゃんでしょ?」

「えっ?」

「私、原中陸上部だった小島早希(こじまさき)。覚えてない?」

「……」

名前は聞いたことがあったが、クラスは一緒になったこともないし、話したこともなかった。

「美咲ちゃんのことは知ってるよ。原中合唱部といえば結構校内とか校外でも有名だし、合唱コンクールでも目立ってたからね」

「ごめんなさい、覚えてなくて」

「タメ口でいいよ。杉谷に行ったって聞いてたけど、また会えると思ってなかった。百花姉様、この子、あたしと中学で同期だったの」

「へえ、早希嬢と同じ中学かあ。あ、紹介が遅れたね。私、西山百花(にしやまももか)。実は、一つ上です。ここに来たくて、ダブっちゃった」

「よろしくお願いします」

「早希嬢と一緒で、あたしにもタメ口でいいよ。どうせ、三人部活も一緒になるんだし」

「えっ」

「そうそう。まだ、このクラスには社会部がゴロゴロいるからね」

「結構バランス良く各部員がいるとは思うけど、だいたい四分の一は社会部だからね」

そうか、ということは、国語とか英語がすごく得意な子もいるんだよね……

「行こう、体育館」

「うん」


始業式の後のホームルームは簡単な連絡事項程度で終わった。

「美咲ちゃん、社会部の部室来てみない?」

「初日からいきなりはちょっと早すぎじゃないの、早希嬢?」

「行ってもいいの?」

「お茶ならあるから、お茶飲みって気分でおいでよ」

「匠と祐樹も来るかなあ」

「誘ってみよっと」


早希ちゃん、は男子二人に声をかけ、戻ってきた。

「来るってさ。美咲ちゃんを連れてくるって言ってたら楽しみにしてたよ」

「じゃ、行こうか」


社会部の部室には冷蔵庫、ポット、高級と言われる紅茶メーカーのお茶が数種類、ソファーがあると同時に、たくさんの長机も並んでいた。

「まあ、座ってよ。今日はたぶん誰も来ないだろうし」

「百花姉様、あのお茶いれてよ」

「任せなさい。美味しくいれてあげるわ」


五個のティーカップが並んだ時、男子二人が部室に入ってきた。

「あ、中村さん……」

「よく名前覚えてたわね、祐樹。百花姉のことしか頭に入ってないのかと思えば」

「そこまで俺はアホじゃない」

「始めまして、中村さん」

「始めまして」

「僕は、水野匠(みずのたくみ)。どうぞよろしく」

「よろしくお願いいたします」

「俺は安田祐樹(やすだゆうき)。よろしくな」

「よろしくお願いいたします」

「もう、美咲ちゃんったら、こいつらにもタメ口でいいのに」

「わたしも、『美咲』でいいよ」


「へえ、そういうきっかけがあったんだ。すごいね、美咲」

「うん、でも、本当に受かるかどうか心配で仕方なかった」

「一発で受かるだけすごいじゃない」

「ところで、百花姉様、早希嬢って、なんか理由があってそういう呼び方してるの?」

「百花姉様は百花姉様、それ以上でもそれ以下でもない」

「アホはほっとけ。百花姉って言ってるのは……」

「あたしが一つ上なのと」

「なんかお姉さんって感じがあるんだよね」

「それは否定しない。だから百花姉様って呼ぶようになった」

私は他人の感情を読み取るのが下手くそなのだが、祐樹が百花にベタ惚れなのは見ているだけで分かる。

「早希はねえ、これも感じなんだけどね、お嬢って感じがするから、早希嬢って呼んでるの。美咲が来たから、なおさら早希嬢って呼んだ方がらしいわね」

「早希嬢と百花姉様ってゴロもいいしな」

「そうなんだ」


「今日はもう誰も来ないみたいだね」

「普通、どのくらい人がいるの?」

「全体会の時は三十人ぐらいで、この部屋ぎっしり。各科会でこの部室を使うんだったら、十人ぐらい。個人活動が多い部だから、あまり集合する必要がないのよ」

「他にはどこで活動してるの?」

「空き教室とか、必要な時には社会科資料室とか。活動っていうのもなんか変だわね。大抵個人の研究なんだから、本来部活動である必要性もないと思うんだけど」

「だから、活動って言ったら、ここでお茶飲んでダベることかしら?」

「お茶だけはいつもあるしね。でさあ、美咲って彼氏いるの?」

「い、いきなりだね…… いるよ」

「お、いるんだあ。あの子? 原中から続いてたとかいう、えっと、大谷くん?」

「うん……」

「えー! まだ続いてるんだー!」

「きっかけって何?」

「幼なじみ」

「なんか典型的だけど憧れるパターンだよねー。 きゃーん」

その流れから恋愛話が始まっていった。早希は「今は」御勢附属以外の同い年の子と付き合っているらしいが、原中の頃は同級生と付き合っていたそうだ。

百花は「今年、大学生になった人」とのみ教えてくれた。その時の祐樹が泣きそうになっていたのをみんな見て見ぬ振りした。

「んで、匠は?」

「ちょ、俺は無視?」祐樹が割り込む。

「あんたのその目を見ただけで聞いちゃいけないオーラがだだ漏れなのよ」と早希。

「俺は…… 中学の同級生を追いかけてる…… 感じかな。中学の時は、いい感じだったんだけどな」

「市川さくらのことか」

「ああ」

「あいつ…… どうして他県の県立にいっちまったんだろうな…… てっきり、俺たちと同じ、御勢の附属高校に来ると思ってたのに……」

「匠、どんな子だったの? さくらちゃんって」

「一言でいうと、ちょっと変わってる感じかな。でも、みんなと一緒に盛り上がってたのしそうにするし、盛り上げ役もするし、面白い子だった」

「俺ら、結構一緒にいたもんな」

「引きずってるんだね、ごめん、匠」

「いいよ、気にするな」

「どちらかというと俺のことを……」

タイミング良く祐樹の頭上にお茶の空き缶が落ちてきた。

百花が「こんなところに空き缶置いとくなんてね。まったく。飲み終わった空き缶はちゃんと片付けなさいって部長がいっつも言ってるのに……」というと、みんなで「あははは……」と笑った。

唯一、腑に落ちていなさそうなのが祐樹だった。


初めての御勢学園大学教育学部附属高等学校での一日。

まあ、とりあえず、同じクラス、同じ部の友達ができた。それは、今日の朝まで抱いていた不安をかき消してくれた。

これからは、入学の時に出したレポートをさらに進めて行くことと学校の授業、これが私の生活になるのだろう。


ブーン ブーン メールが届いた。珍しい。二件同時受信だ。

一件目は陽子から。「新しい学校、どう?」といった内容だった。

二件目は渉からだった。「陣内先生、異動したぞ」という内容だった。

陽子には「知り合いがいて、そのツテで友達ができたよ」と返信したら、「ほらやっぱり!  美咲ならすぐ新しい学校に慣れると思ってたから」と返ってきた。「陽子は? どんな感じ?」と返事をしたら、「クラスが混さって、まだちょっと緊張してるかな」と返ってきた。「陽子も大丈夫! きっとすぐ友達できるよ」と返したら、「そうだよね、ありがとう。じゃあ、おやすみ」と返ってきて、終わった。

渉へのメールには、「新聞で見た。長谷高校(はせこうこう)だってね」と返したら、「お前のこと、心配していたぞ。御勢学園大学附属高校でもちゃんとやっていけてるのかって」と返ってきた。

修了式の日の放課後に交わした会話を思い出す。「私はどこででも自分の仕事を全うする」という陣内先生の言葉を。

渉には「私は大丈夫、って伝えて。伝えられたらでいいから」と返信した。すぐに「明日が退任式だから、伝えられるかはわからないけどな」と返ってきた。

「できたらでいいよ。無理しなくていいから」

「分かった。でもあまり期待はしないでくれ」

「ありがとう。じゃあ、おやすみ」

「おう、おやすみ」


御勢学園大学附属高校での生活と同じように、杉谷高校でも新学期が始まっているのだ。時間は動き続けている。

「さて、今日は寝ようかな…… 疲れちゃった……」


そして、入学式から、部活が本格的に始まる頃のこと……


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