9.過去が今に追いつくとき 前編
リハースト家に産まれた待望の第一子。子供を持つことを諦めかけていた一人の年老いた貴族の家に赤子の産声が泣き響いた。
この子がわたくしを幸せにする。
この子が居れば、わたくしはもう惨めな思いはしない。
家を取り上げられる事ない。
醜悪で身の程を知らない男に襲われる事も無い。
だれも、わたくしを虐めない。
この子が居ればあの無能たちにもう頭を痛めることはない。
「早く目を開けておくれ」
初めてのお産に疲れてはいたが、そんなものは気にならなかった。
侍女の手から渡された自分の腹から生まれた赤子。
抱き上げてみても愛情がわかなかった。
あの男を上に乗せたのはわたくしの幸せのため。
あの男が欲しかったのは名門の血、わたくしがほしかったのは無くした栄華。
「オマエは母の幸せのために生まれたのですよ」
だって、そのためにわたくしは食べてしまったんだから。
確実に子を授かるために邪法にも手を出した。
だけど、大丈夫。大神には妊婦を十人も捧げたから。
呼び出したのは悪魔とも云われる旧き神、受肉したその姿にわたくしは感謝した。
だって、気高きアストラル体は食べれないから。
信仰の復活を餌に呼び出した悪魔を食べた。
でも、それも……
「わたくしが幸せになるため」
許されるわ、だってわたくしはあんなに酷い不幸にあったんだから。
この子はわたくしの免罪符。
すべてが手にはいるわ。
微笑がそのほっそりとした頬に浮かぶ。
赤子がむずかりながらも瞼を開き始めた。
「ああっ……」
ゆっくりと開いていく小さな瞳に感嘆の声が漏れた。
しかし、次の瞬間凍りついてしまった。
赤子が両生体だとは聞いていたが、それくらいのことは問題なかった。珍しいが異端というわけではない。
でも、これは、これはわたくしの禁忌がばれてしまう。
見開かれた瞳、まだ光が見えない瞳、その左の瞳が動いていた。
透明な水のような眼球、その中に小さな人が居た。
二両体、ダブル。
羽の生えた小さな人、それの意味はすぐに解かったエルニーニョ神の意思、神の子供。
抗うことかなわぬ時の流れを組む者、神の作った道がわたくしなの?
禁忌を起こしたことすら悪魔へと堕ちたあの神の組んだ運命だというの。
眼球の中で天使がくるりと泳いだ。
小さな二つの目が一人の女性を見つめて笑っていた。
「ママっ」
喋れるはずの無い赤子がママと呼んだ。
「……ひぃッ」
必死で悲鳴をかみ殺した。
小さな声だったが奥に控えていた侍女がふと顔をあげた。
空耳かしら。と、首を傾げているがその眼が怖かった。
近寄ってくる侍女が怖い。
「御方様?」
見られてはダメ。幸いこの子には羽は無い、瞳が閉じればばれない。
この天使さえいなければ、息子はわたくしを幸せにする。
思ったときには息子の左目を突いていた。
長い爪が眼球にズブリと沈む、血で赤く染まった眼球。
そしてわたくしをママと呼んだ天使の胸を穿つ感触。
天使が赤い海を狂ったように踊っていた。
悲鳴があがった。
それが天使の声だったのか、赤子の声だったのか、侍女の声だったのか、それともわたくしの声だったのかはわからない。
「レミ、大丈夫かな?」
メリーは最近それしか口にしていない。
「大丈夫だ、あの記者会見見ただろ? レミにはたくさんの味方がいるみたいだからな」
ジャックも何度口にしたかわからないセリフをはいた。
心配だからと言っても、レミとは連絡も取れず、ベガスに出ていっても迷惑にしかならないだろう。
ジャックは娘を言葉で安心させてやることくらいしか出来ないでいた。
あの記者会見から、レミに対する世間の見方はかなり好意的なモノになっている。
大物選手がレミの噂を一蹴したことも大きかったが、メカニックマンたちの必死の姿とレミの儚い姿が大衆を打ったのだろう。
会見から三日後、マスコミに出てきたレミはテレビに向かって謝罪した。
洗練された美しさと躍動感を感じさせるたたずまい、時折見せる勝負師としても鋭さ、それが今までのレミだった、しかしこの事件で彼女の被っていた仮面は完全に剥がれてしまっていた。
病的なほどに痩せた姿なのに、それでも美しさだけはその身に残したレミをみてすべての人々が思った。
なぜ、この女性を男性と思っていたのだろうか?っと。
そして、みんながレミを支持し始めた、どんな時代でも美しくて儚い女性は大切にされる。今では、反レミ派のベリナスの人気は落ちるところまで落ちていた。
ベガスの委員会は世論を味方に付けたレミを選手として認めるだろう。
しかし、とジャックは思う。
「女としての大切にされることをあいつが喜ぶとは思えないけどよ」
小さな呟き声には同情と小さな哀れみが込められていた。
薄汚い下町のバー、床には吐瀉物と血の臭いが染みついた最悪の環境。
薄暗い店内のもっとも暗い場所にその男はいた。
「役にたたねぇ馬鹿が、俺がせっかく幸運をくれてやったってのによ」
ノイズの走る小さなテレビを睨むように見ている。テレビではレミの謝罪の会見が何度も放送されていた。飛び競艇の委員会はレミを正式な選手として認め、女性の選手枠についても検討を始めたらしい。
画面が切り替わって大柄の中年が写った、テレビのなかで土下座して見せた男だ。
男が大きく歯を鳴らした。
「トラッシュが……男くわえ込むのが上手くなったもんだ」
手の中にはバーボンの角瓶が握られているが、それを持つ手が細かく震えている。
いまにも瓶を取り落としそうなその姿を店員が見たが、何も言わなかった。
アルコール中毒者などここには掃いて捨てるほどいる。
それに、男の目の色がこの掃きだめのなかでも一際、光っていたので関わりたくなかった。
この目をしたやつは近い内に何かやる、それはもうろくでもないことを。
この男がここに通い出したのつい最近だが、その時はここまで酷くなかった。卑屈な笑みを顔に貼り付けた男だった、他人の不幸を見て笑っていた。狂喜しているようなところすらあった。
しかし、ここ数日だんだんと言葉数が少なくなっている。
凶相を表した男には店内のだれも近寄ろうとしていない、下町のこんな酒場に溜まっているような男たちにも何となくわかったのだろう。
これから惨めに死ぬ男の末路を。
だからだれも近寄らない。その前に起こる、ろくでもないことにできるだけ巻き込まれないように。
誰かがレミを起こそうとしている気がして不意にパチッと目が覚めた。
テレビカメラにむかって謝罪してから何日たっただろう。時間の感覚が無くなるくらい眠っていた、まるで死んだように。
ユックリと起きあがり、ユックリと歩いてみる。
眠り続けていたからだろうか?とても頭が痛い。
「わっ……酷いな」
水を求めてたどり着いた洗面台、姿見に映る自分を見てレミは驚いた。
鏡の中の痩せた自分が目元を押さえた。
「真っ赤じゃない。……泣いた後みたい」
実際、泣いていたのだろう。
目元の肌色に紫が混じって、ふやけている。
何か怖い夢でも見たのだろうか?それにしては何も憶えていないのが不思議だ。
「イヤな夢って起きても憶えてるものなのに……」
なんでだろ、と首をひねる。
あれの心配はみんなのお陰で大丈夫なのに…ワタシはまだ不安なことがあるんだろうか。
取り敢えず、パシャパシャと顔を洗っていると背後に人の気配がした。
「レミちゃん、起きたのかい?」
嬉しそうな声にレミは振り向いた。
「レティーおばさん。はい、レミはやっと起きてきました」
レットの姉レティーは熊のようなレットとは対照的な小さくて可愛らしい人だった。
あの日、レットたちにホテルから逃がしてもらって以来レミはこの婦人の家に世話になっていた。
今は、独り身だと言うレティーは心身ともに傷ついていたレミを優しく癒してくれた。
今ではレミもレティーに懐いている。
「じゃ、こっちにいらっしゃい。消化のいい物作ってあげるからご飯にしましょう。丸々一日眠ってたからお腹空いてるでしょ?」
何気ないレティーの言葉に「えっ」と驚いた。
「ワタシ……そんなに寝てたんですか?」
「ええ、何度も起こしたんだけど、とっても深く眠ってたみたいよ。揺すっても起きなかったわ」
「ご、ごめんなさい」
真っ赤になってレミは謝った。
レティーはその様を微笑ましそうに見ている。
「寝ながら泣いてる時があって心配したのよ、だれかの名前をたまに呼ぶときだけ落ち着いてたけど」
やっぱり泣いてたんだ。
でも、名前ってだれだろ?ジャックおじさん、それともエリーかな?
「彼氏かしら? レミちゃん可愛いからそんな人がいてもおかしくないわよね」
からかうようにレティーが聞いてくる、レミにはそれには答えず力なく笑った。男は勘弁してほしい。
「リハースト・レイ・ダブル・ロックシスコ。なんども呼んでたわ。やっぱり彼氏なの?」
嬉しそうな声でレティーが言うが、それが驚いた顔に変わる。
「ワタシそんな人、知りませんよ」
オロオロとしているレティーを不思議に思いながらレミは答える。リハースト・レイ・ダブル・ロックシスコ?やっぱり聞いたことがない名前だ。名前が四つあるってことはブラジルの人だろうか、あっちの人の名前は長いから。
「でも、レミちゃん。あなた泣いてるわよ」
「えっ」
レティーの言葉で思わず手を目元に当てた。指先が暖かい水に触れる。
「あれ? あれ? なんでだろ……なんで涙が流れてるんだろ」
とめどめなく零れてくる涙に顔を覆った。悲しくはない。
それどころか、何か暖かい気持ちになった。
リハースト・レイ・ダブル・ロックシスコその名をなぞるだけでなぜか嬉しくなった。
昔なくした宝物を引き出しの奥に見つけたときのように。
静かに泣き続けるレミをレティーは優しく抱きしめてやった。
「悲しくないの。なんだかとっても嬉しいのよ。……でも、それがなぜだかわからないのが辛い」
「レミ?」
リハースト・レイ・ダブル・ロックシスコはハッとして、飛び起きた。
このごろのレミの夢が酷いモノになっている。それを払うのに忙しくてまったく体を休めていなかった。
線の細い体は丈夫とは言い難い、連日のレミへの呼びかけはそれなりに体力と気力を消耗させる。深いレミへの愛情があってもそればかりはどうしようもないことだった。
レミの悪夢を祓ってやっと眠りについたのはついさっきのことだった。いつもならこのまま、半日は眠り込んだだろう。
しかし、一瞬で目が覚めた。
ロックの最愛の存在の声が聞こえたから。たしかに聞いた。こっちから聞こうとしたんじゃなくて、向こうから聞こえてきた。
繋がりが強まった?
「レミ、ボクの名前を呼んでくれたんだね」
開け放たれた窓から夜に映える大きな月が見えていた。しかし、ロックはその向こうを見つめて呟いた。
「もうすぐ、君に触れれる」
薄い唇がウッスラと微笑んだ。
手を伸ばせば、もうすぐ君に手が届く。二十二年、ロックの待ち望んだ瞬間がもうすぐ来る。
「でも、願わくば……」
喜びのなかにロックは小さな憂慮を心配した。
「君の傷が再び開きませんように」
レミのスキャンダルから一ヶ月、レミは選手としての資格を失うこともなく、一流選手の名誉も損なわなかった。
一時はどんぞこまで落ちていたレミの悪評も時間と共に薄れていき、卑猥なレミに対する流言も消えている、今では仕事場で日々に戦う女性の象徴とされていた。
なぜか、未だに結婚したい男性ランキングにレミの名前が入ったままだったりしてレットが目を剥いていた。
ルディック宇宙産業に解雇されたレミは今は飛ぶ飛行機がない。
しかし、信頼できるメカニックたちがレミとともに会社を出てくれたのでレミはそのことに対してはなんの心配もしていなかった。
ペナントレース前半戦、もっとも成績のよかったレミたちなのだ、彼らを丸ごと取り込めるというならいくらでも資金を出してくれる会社は他にもいくらでも見つかるだろうし、なにより、レミはこの半年に稼いだ賞金がある、ついでに言うならテレビにもかなり出ていたのでCM料金などでもかなりの額がレミの懐に入ってきていたのだ。
今後をレットに相談してみたら「俺たちだけでレースに挑んでみないか?」と言われたのだ。
どういうことか、と聞いてみると「レミ、おまえが俺たちを雇うんだ。つまり俺たちは個人でレースに挑むってワケだ」
ニカッと笑ってとんでもないことを言い出したのだ。
取り敢えず、メカニックたちとレミ(ほとんどレミ)がお金を出し合えばレース用の飛行機をなんとか設えることが出来るらしい。
「無論、この程度の銭じゃ、俺たちの給料を削ってもな、そこんとこにプラス運用費用諸々で三ヶ月ほどでなくなっちまう。だからレミ。……穴に火がつく前に稼げ!」
いきなりすごいことを言うよ、このおじさん。
レミはあっけに取られてレットを穴が開くほど見つめたものだ。
ボロボロ状態からなんとか復活して、みんなに礼を言おうと会いに行けば、ズイブンいきなりな話だ。
どうやら、彼らは今でもレミを女性のように扱う気はないらしい。
と言うか……もうちょっと気遣ってくれても良いんじゃないか? ……そんなことを思いもしたが彼らの不器用な気遣いに感謝した。
レミの畏れていた過去の詮索、それを彼らが止めてくれたとレティーに聞いて泣いた。
彼らがレミのために頭を下げてくれたことに泣いた。
そして、今なにごとも無いかのように自然に、そして何時も道理に前を考えている彼らに感謝した。
ごめんね……うぅん、これはなんか相応しくないね。……ありがとう。うん、こっちの方がずっといい。
「みんな、……ありがとう」
妙に盛り上がっていた彼らがキョトンとした風に固まる。
レミの中の女をレミがこれほどストレートに彼らに見せたのはこれが初めてだった。なぜだか、女の自分を出せて言えた。レミは昔ほど男に嫌悪感を感じないでいた、なんでかな?姫。
と、自問しても理由は思い当たらなかった。リハースト・レイ・ダブル・ロックシスコ、この人が関係有るのだろうか?なぜか嬉しくなる人の名前だ。暖かくて優しくなれる。
一人一人の仲間たちにレミは「ありがとう」と言いたかった。
「ほんとに……ありがとぅっね!」
全員がレミを珍しげに見ているので急に気恥ずかしくなってレミは叫ぶようにして言った。
普段のレミの弾んだような声音だったのでやっと男たちが照れたように笑いだす。
「気にすんな」「仲間だからよ」「当然のことだろ」
そんな声がアチコチでする、でも今までの…昔のレミには当然じゃない優しい言葉にレミは涙ぐんだ。
……いいじゃない、こんな連中と一緒に頑張れるんならもう一回空を飛べる。
「うん。いいな! ワタシみんなを雇う! みんなと一緒に空を目指す!」
レットたちはベガスの砂漠地帯に放棄されていた工場を勝手に乗っ取りレットカンパニーを設立した。もちろんスポンサーはレミ一人だ。
このスポンサーは営業に関してほとんど口を出さない人なので現場の人間たちはすこぶるご機嫌だった。ァラッキー、うるさいこと言われないから好きに出来るぞ~、て感じだ。
今、彼らはレッドバロンに対抗するような仕事をしていた。
エンジンを積んだ機械ならなんでも顧客の注文道理に弄っている彼らは、レミには仕事と言うより楽しそうに遊んでいるように見えた。
もちろん、最優先にレミの飛行機を造っていたが事務的な仕事の出来る人が仲間内にいなかったので飛び競艇に関する仕事はあまり進んでいないのだ。
やっぱり、決まりきったルールを舌先三寸で争う交渉の世界は、力押しでレミの正当性を世間に訴えたときのようにはいかなかった。
仕事の取り方から、料金設計、タイムスケジュール、今まではそれは最初から決まっていたことだったが、これからは自分たちですべてをやらなければならなくなった。
「これはやっぱり、内務と外交のプロがいるな」
工場内に通信機器とパソコンをどんと置いただけの机、レッドカンパニーの事務所でレットが唸った。
彼の前には山のような書類の束ができあがっている。
なんで、紙なんだろう?データにすればいいのに。
「俺たちにソフトがわかるわけないだろ?」
「なるほどね。つまり、ここにあるパソコンはただの箱ってワケだ」
レミは納得したように深く頷いた。
パソコンに送信されても、そのファイルがどこにあるのかわからないのだろう。ハードのプロのくせに情けない連中だ。組むことは出来るくせに使えないなんて…。
中古ショップから買いたたいてきた部品から組んだ自作パソコンは市販の最新型なみに性能はいいらしい(レット胸を張って断言)、しかし…使えない。なんのために作ったのやら。
「業界に詳しくて、口が堅くて、パソコンが使えて、ついでに交渉ごとの得意なやつ。……どっかに転がってないもんか?」
厳しい注文をサラッと言うレットにレミは苦笑した。
そういう有能な人がその辺に転がっていれば苦労はない。
でも、心当たりが無いわけでもなかった。あいつには一筆手紙を送っておいた、もしまだあの男が空の仕事に魅力を感じているなら遠からずやってくるだろう。
昔のワタシなら裏切り者とでも言ったかな、いえ、存在を忘れようとしたかも。
でも、今ならもう一度って気にもなれる。
……すこし、苛めるかも知れないけど。
「どうしたレミ? 含み笑いなんぞしやがって……心当たり有るのか?」
勢い込んでレットがレミに詰め寄る、拍子に積んであった書類が雪崩を起こしたが頓着していない。
「うん。レットも知ってる奴よ」
「俺も、か?」
顎に手を当て頭を絞るがレミの言う知っている人が浮かんでこない。
「それは私のことか?」
不意に聞こえた声にギョッとレットが振り向き、そのまま顔を赤くして声の主を睨み付けていた。
「敬語使ってくれなきゃこまるよ。この会社の社長はレットなんだから、雇用主には礼を尽くさなきゃ」
固まったレットとは違い、驚いた様子もなくレミが男に声をかけた。
「ねぇ? ハックマン」
「お、おいレミ! 雇用主って……こいつを雇うのか?!」
石化が解けたレットが大声を張り上げる、何かとウルサイ工場内でもその声はよく響いた。
「業界に詳しくて、口が堅くて、パソコンが使えて、ついでに交渉ごとの得意なやつだよ」
耳を軽く叩きながらレミが言う。
「有能なのはレットも知ってるでしょ? こんな人材、他にどっから調達するのよ?」
レットの顔にはおまえはそれでいい良いのか?こいつはあの時なにもしてくれなかった奴だぞ?
そう書いてあった。
レミは笑顔でその問いに応える。
でもさ、レット、無償ですべてを捨てて味方してくれる人なんか普通はいないもんだよ。
だから、あの時のことは当たり前のことと納得できていた。
もちろん、無償で味方してくれたレットたちにはとても感謝しているが、それはそれ、これはこれだ。
今、ハックマンの能力が必要だ。なら、昔のことなど忘れて引き入れて見せようとレミは思えるようになった。
レミはレットに向けたのとは違う、ニンマリとした笑みをハックマンに向ける。
覚悟しなさい。とことん、こき使ってあげるから!
問題をいくつも抱えながら、レットカンパニーはだんだんとその地盤を固めていく。
レミのレース復帰は二ヶ月後だ。予定より嵩んだ資金繰りにより、それに勝たないと後がなかった。
だけど、やれる! やってみせるよ。姫それにリハースト・レイ・ダブル・ロックシスコさん。