だい4わ
「助けてください!」
目の前に突然現れた、美しい女性がケビンにしがみつくように言った。
「ど、どうしたんですか?」
「助けて、お願いです、どうか命ばかりは……」
紐と僅かばかりの布地だけを身につけた、殆ど裸同然の女は、ただ震えるばかりで何も答えない。ケビンの胸に顔を埋めながら何度も意味の通らない言葉を繰り返すばかりであった。
「落ち着いて」
ケビンは女の肩に手を置いて言った。
「大丈夫、誰もあなたに危害を加えたりしないから」
女は、しばしボーっとなって、夢見るような目をケビンに向けていた。
「いやー!」
そう言うと、女はまたしてももケビンにしがみついた。
「お願いです、見捨てないでください!あなたが居ないと、あなたが一緒に居てくれないと--」
どうしようもないほどの錯乱状態である。
”よっぽど怖い目に会ったんだな”
今になって考えてみれば、このとき既に彼は術中に嵌まっていたのであろう。
しかし、誰が彼を笑えようか?
男であれば、引っかからない方がおかしいのだ。常識では考えられぬような美貌の魔女による、巧妙で強引な甘い罠の前には、いかなる男と言えどなすすべも無く陥れられるものである。
ましてや、目の前に現れた女--ジュエリーヌの魅力を拒絶し得るのは、世に生きながら既に生きる事自体を否定するような生き方を貫く、上州○田郡三日○村の貧しい農家に生まれた、誕生と同時に間引かれかけて生き延びた咥え楊枝の渡世人くらいであろう。