だい37わ
ケビンの痛ましい姿に、ついジュエリーヌは口を滑らせてしまった。
何と健気な、そして無謀な一言であろうか。
一方、ケビンはと言えば--要するに、助平なパトスが溜まりに溜まって葛藤している訳だが、朴念仁の彼にとっては身を裂かれるような一大事である。いや、男なら誰しもそうだろう。ここで彼の邪まな苦悩を非難するものは男ではない。逆の意味で非難するのは、ある種の思いやりだが。ここまで我慢する方が立派と言えば立派なのだ。
「ジュエリーヌ……」
「ジュエリーヌは、決心いたしますでございます」
決心--その一言に、ケビンもただならぬものを感じた。
「……マスターが望むので御座いましたら、ジュエリーヌは、女の子を卒業する覚悟でございましたり……」
「ジュエリーヌ」
ケビンは優しく語りかけた。
今の今まで葛藤に悩まされてきた、痛ましくもさもしい懊悩が嘘のように落ち着いた言動であった。
「ありがとう、ジュエリーヌ」
「マスター……」
「君のその言葉だけで気持ちだけで、俺は充分さ」
”カッコつけやがって、この偽善者野郎-―!”
悪魔の声ではない。紛れも無くケビン本人の、心の叫びだった。