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だい35わ
”ジュエリーヌはさ、したいんだよ、溜まってるんだよ、誘ってるんだよ”
”馬鹿な、ジュエリーヌはそんなふしだらな女性ではない!”
”何言ってるんだ、魔女だぜ、ジュエリーヌは”
”譬え魔女でも、その前に一人の女性なのだ!”
”そうだよ、生身の女なんだよ”
”彼女はその様な、そこらの女ではない。慎み深い、清楚な女性なんだ!”
”そうさ、慎み深くてさ、したくても自分から言い出せないんだよ。なあ、そんな切なくてナイーブな乙女心を察してやれよ。それが男ってもんだろう?”
「おお……」
「マスター……」
天使と悪魔の戦いに、心が左右に激しく揺れるケビンを、ジュエリーヌは心底痛々しい眼差しで見詰める。
「あの、マスター」
「――ジュエリーヌ」
ゼイゼイと息を乱し、脂汗を垂らしながら悲惨な笑顔でケビンは答える。
「ジュエリーヌ」
やつれた笑顔と共にジュエリーヌに語り翔けるケビンの姿は、余りに気の毒な、男なら切実に我が身に痛感せずには居られないほど切羽詰った悲壮感が漂っていた。