ブリゴキ退治薬開発中の私
時は、2200年。人類の好き勝手な行動の代償として、その数は大きく減少。そして、古来から抜群の生命力を見せつけてきたゴキブリもまた、進化を遂げ、ブリゴキという、地球上で最も強い生物として自由きままに暮らしていた。
人類が穏やかに生活するためには、このブリゴキを地球上から抹殺するほかない。しかし、ブリゴキもだてにゴキブリの進化系をやっているわけではない。従来の人類が開発してきた種々のゴキブリ退治薬では到底かなわず、我々日本第2開発部は「ブリゴキ退治薬」の開発をまかされ、日々奮闘していた。
「あ~疲れたぁ~もうイヤ~」叫ぶ私。深夜2時。こんな時間に日本第2開発部にいるのは、私こと杉原真理子と、親友でありライバルでもある、アメリカ人のメアリーしかいない。「真理子、ちょっと休憩しよ?」メアリーが誘ってくれたので、私達は深夜のお茶会でまったり。
「ブリゴキ退治薬かぁ~・・異常な生命力のあいつらに弱点なんてあるのかなぁ~」私はメアリーに弱音を吐く。すると、メアリーが目を輝かせて私にあるものを見せてきた。「え?すごい!なんで!?」私はひどく興奮する。なんと、そこにはビニールの袋に入れられた、ブリゴキの死骸が。
「へへーん。私ブリゴキの弱点、分かっちゃったんだよね。この間、昼ご飯用に持ってきたサラダの中にレモンが入ってたんだけど、そのレモンを誤ってブリゴキの上に落としちゃったの。そうしたらいきなりブリゴキが苦しみだして死んでしまったの!そう、ブリゴキの弱点は酸っぱい匂い、だったのよ!」
メアリーの言うとおり、ブリゴキの弱点は酸っぱい匂いだと、その後の研究で明らかになった。我々は開発を続け、ブリゴキ退治薬の開発に成功。しかしそこで思わぬ出来事が。なんと、我々日本第2開発部よりも先に、我々の開発した退治薬以上の効果がある退治薬を開発した人が存在したのだ!しかも、その人は、一人で、開発をしたらしい。なんという人だ。我々が何年もかけて開発した薬を、たった一日で開発してしまうなんて。私達は愕然とし、無駄になった退治薬を乱暴にゴミ箱に捨て、各々とぼとぼと帰宅したのだった。
家に帰ると、彼がご飯を用意して待っていてくれた。「おつかれさま。ご飯、一緒に食べたくてさ」彼は本当優しい。毎日ブリゴキに追われていた私にとって、彼は唯一の癒しだった。
ご飯の後、二人で手をつなぎながら映画を見ていると、彼がブッとおならをした。「はは、失敬」彼は笑いながら私に謝る。「もう~~、英司ったら☆」私は彼の無邪気な笑顔に思わずキュンとする。でも、あれ?このおならの臭い・・・何かに似ているような・・・。
そして、次の日。開発部の開発の努力が実らず、気が抜けてしまった私がぼんやりテレビを見ていると、例の、開発をたった一日で成し遂げた一人の男の特集がやっていた。「救世主、現る!」の文字と共に、笑顔でインタビューに答えている一人の男性。それは、なんと私の彼だったのだ。
彼はある日、自分のおならにブリゴキが死ぬ匂いの成分が含まれていることを発見、すぐに特許申請をお願いしたそうだ。まさかあの彼が私の長年の夢だった開発を邪魔した張本人だったなんて。彼を憎いと思った。私に内緒で、そんなことをしていたなんて!私は深く傷つき、彼のもとを去った。
後日談。おならで人類を救った私の元彼は、あの後、一日1000発のおならを国家から強要され、芋ばかり食べさせられたため、栄養失調でドクターストップがかかったそうだ。そのため、我々日本第2開発部の開発したブリゴキ退治薬は結果的に商品化、爆発的なヒットを獲得したのだった。