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企業監査ミステリー『監査法人の密室(ブラックボックス)』  作者: 如月妙美


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第五章 断罪の記者会見

小章① 崩壊のファンファーレ

 翌日、午後三時。  兜町にある証券取引所の記者会見場は、異様な緊張感に包まれていた。  ニブス建設の決算発表。毒島常務を始めとする経営陣が、雛壇に並んでいる。  毒島の表情は自信に満ちていた。神谷が証拠を掴めず、諦めて適正意見を出したと思い込んでいるのだ。

「……以上のように、当期の業績は堅調に推移しており、湾岸プロジェクトも順調に進捗しております」

 毒島が説明を終え、会場を見渡した。  その時、会場の後ろの扉が開き、神谷が入ってきた。  ボロボロのスーツに、無精髭。だが、その目は燃えるように輝いている。  隣には、同じくスーツ姿の青山が毅然と立っていた。

「お待ちください」

 神谷の声が会場に響いた。  無数のフラッシュが焚かれる。

「帝都監査法人、担当会計士の神谷です。今の説明には、重大な虚偽があります」

 毒島の顔が引きつった。

「な、何を言っている! 君は担当を外れたはずだ!」

「外れていません。私は監査人として、この決算書に対する意見を表明しに来ました」

 神谷は、手に持っていた一枚の書類を高く掲げた。

「監査法人の結論は『意見不表明』です。会社側の隠蔽工作により、適正な監査証拠が入手できなかったためです。さらに……」

 神谷はプロジェクターのケーブルを自身のPCに繋いだ。  スクリーンに映し出されたのは、毒島が海に捨てようとした「裏帳簿」のデータと、財前との「覚書」だった。

「これは、ニブス建設の裏帳簿、および監査法人代表との贈収賄の証拠です。湾岸プロジェクトの赤字は三百億円。会社は実質的に債務超過です」

 神谷は、会場の記者たちを見渡し、さらに言葉を強めた。

「ですが、湾岸プロジェクトの赤字隠しなど、氷山の一角に過ぎません。販売用不動産の過大計上、循環取引による売上の水増し、下請法違反による不当な減額、さらには東南アジア支店における巨額の簿外債務……。これらを全て適正に再計上し、減損処理を行うとどうなるか」

 神谷は手元の資料を叩きつけた。

「実質的な債務超過額は、二千億円を超えます。あなた方は過去十年以上にわたり、粉飾決算を繰り返して傷口を広げ続け、東京証券取引所に対しても虚偽の開示を行ってきました。これはもはや企業経営ではない。犯罪です」

 会場は悲鳴のような騒めきに包まれた。  毒島は腰を抜かし、その場に崩れ落ちた。


小章② 鉄槌

 会見場の外では、すでにサイレンの音が近づいていた。  神谷が事前に通報していた東京地検特捜部だ。  毒島常務、そして監査法人の財前理事長が、その場で連行されていく。  ニュース速報が流れ、ニブス建設の株価はストップ安で張り付いた。  巨大な虚構の城が、音を立てて崩れ落ちた瞬間だった。


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