第07話 EP02-02 アーティファクトシーカー
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この地は『ユーナベルム戦場』。『ユーナベルム城』を奪還するために、大軍で大規模戦を繰り返す激戦地だ。
「作戦を説明させていただきます」
見るからに情報官の、水色髪オカッパでメガネの女が前に立った。
いよいよ、戦闘開始直前だ。
オレは、緊張を鎮めるために、腰の小剣を握る。
オレの名は『新実 健二』。人が武器に残した強い記憶で戦う、『心剣士』だ。
防具は、無くても問題ない。中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーで来てる。そもそも、余所行きの服も戦闘服も持ってないし。
大事なのはコッチ、武器の方。腰に愛用の小剣をさげる。
大きな騎士団ばかり集まる大きな戦場だから、騎士は重装金属鎧、兵士は軽装金属鎧、周りは誰も彼もが装備が整ってる。普段着すぎるオレだけ目立ってそうで、恥ずかしい。
例外は、白銀の軍服をはち切れそうに着こなすリヒトと、黒の半袖の軍服に黒のミニスカートの美月。二人が一緒に目立ってくれてるのが救いだ。
◇
「私たちゲシュペンスト騎士団千は。本隊一万の左端を担当します」
見た通りの状況と配置である。
「本隊が小規模なのは、敵を平原に誘き出すためです。敵が平原に出て後、本隊で突撃をかけます」
魔物との戦闘は、大軍で攻め込むか、小軍で誘き出すのが基本だ。
「ここまでで、質問はありますか?」
「はい! 本隊の中央は、どの騎士団でありますか?」
騎士の一人から質問が出た。
「中央は、薔薇騎士団です」
薔薇騎士団? ……あぁ、赤薔薇騎士団か。オレも知ってる、堅守で知られる大騎士団だ。
「厚化粧BBA、もとい、顔面も堅守の薔薇騎士団長曰く。前回は貴公らに手柄を譲ってさしあげたのですから、今回は譲っていただくのが礼儀ですわよねぇ? とのことです」
ドズンッ、と地面が揺れた。
「あわわわわっ!?」
オカッパメガネ女が動揺して、キョロキョロと周囲を見まわす。
「あわわっ?! 現状確認されている敵ボスは、四つ角です。体高十メートルオーバー、形状は鼻のないマンモス!」
指さす森から、メキメキと木々を薙ぎ倒し、巨大な魔物が姿を現した。
そいつは、体高は高い木々よりも高く、長い鼻はないけど、象に似た形をしている。赤黒い肌は、赤黒い剛毛が疎らに覆う。薄汚れた牙が二本、口から長く突き出し反り返る。
額には、一本の根元から四股に分かれた角がある。遠目に見ても、大きな、歪な枯れ木が生えてるような、異様な気持ち悪さがある。
「ユーナベルム戦場の重戦車! 通称『ヴォモス』!」
ヴォモスが、極太の四脚で木々を薙ぎ倒しながら、森と平原の境で停まった。
よくよく見れば、森の端に、魔物の姿がたくさんある。いつの間に集ったのか。四つ角に追従してきたのか。
一つ角は、人型に近いものが多い。ハゲで痩せて腹の出た、手長短足の赤銅色のオッサン、みたいな見た目のヤツが一般的だ。頭の角、尖った耳、赤一色の目が、人間との決定的な違いだ。
二つ角も、大きな戦場だけあって多い。人間より大きく、人間と獣の中間的な形状が目安だ。集団戦で、いちいち頭の角を確認してる余裕がないときは、その辺りで見分けるといい。
三つ角も、何体か視認できる。二つ角よりもさらに大きく、形状が獣の四足歩行に近い。対峙した印象は、圧倒的な強者から無感情に見おろされる。湧きあがる恐怖に、背筋がゾワゾワと冷たくなる。
四つ角は、巨大すぎて強さを、怖さを想像できない。ヴォモスを単純に考えると、ビルが殺す気で突進してくる感じか?
四つ角が暴威を振るう場に居合わせれば、精強な騎士すら背を向けて逃げ出す。そういうヤバさだと、経験者に聞いてはいる。
じゃぁ、五つ角=『魔将軍』は?
「ユーナベルム城を攻め滅ぼした『魔将軍』の姿は、未だに確認できていません。この戦場の何処かにいるはずなのですが」
◇
『全軍! 戦闘準備!』
本隊の中央から、精悍な女の声で号令がかかった。
全員が表情を引きしめ、今一度、隊列を整える。
「私たちゲシュペンスト騎士団は、敵の端の部隊に攻撃を仕掛けます。目的は、敵の混乱、可能であれば指揮官の三つ角の討伐です」
オカッパメガネ女の説明に、ふと疑問が浮かんだ。最強の騎士団の一つにしては、消極的な作戦だ。
「消極的な作戦っすね?」
オレは、疑問を思わず口に出した。
オカッパメガネ女が、その質問を待ってましたとばかりに、メガネのレンズを光らせ、口の端を吊りあげて笑む。
「よくぞ聞いてくれました!、そう、本命は! その混乱に乗じて、ユーナベルム城跡に小隊を潜入させます。そこに残されているかも知れないアーティファクトの捜索と回収が、大本命です」
オレは、一瞬で理解した。完全に理解した。
魔法が半永久的に付与された超強力なアイテムを、『アーティファクト』と呼ぶ。外地でしか力を発揮しない、外地特有のものである。
ユーナベルム城に残されているかも知れないアーティファクト、となれば。しかも、その道のトップ、ゲシュペンスト騎士団が捜索を任じられるほど重要なもの。
つまり、簡単な連想ゲームだな。ユーナベルム王家に代々受け継がれる伝家の宝剣だ。
「捜索班は少数精鋭。新実 健二『心剣士』殿と、美月ちゃんの二名です」
「……えっ?」
オレはビックリした。ビックリして、間抜けな声が出た。
「聞いてないっすけど!?」
オカッパメガネ女が、当たり前のように答える。
「それはもう、今初めて話したので。あ、一つだけ注意点が。潜入タイミングは、敵の混乱に乗じてください」
「何っすか、それ!? 敵の混乱に乗じてって、いつっすか、それ!?」
思わず、抗議の口調が出た。
「……」
ゲシュペンストが、無言で進み出た。
無言でも、目の前にいるだけで! 威圧感が! 圧倒される威圧感が凄い!
「……その時になれば、分かる」
ゲシュペンストの、低く渋く、有無を言わせぬ迫力の声だった。
オレは、その声だけで、その時になれば分かるって何っすか!?、と抗議する気を失くした。
◇
『敵が動くぞ! 迎撃態勢!』
あちこちから、号令があがる。
森から、魔物どもが出てくる。数は、数えるには多すぎる。乾いた平原に土煙を舞いあげ、角の数なんて関係なく横並びに広がって、人間の軍に押し寄せる。
魔物どもは、どいつもこいつも、人間という獲物を前に赤一色の目を見開き、大きく裂けた口から濁った涎を垂らす。赤黒い体を歓喜に躍動させ、我先にと、醜悪な体躯を前へ前へと走らせる。
オレだって、何体もの魔物を屠った『心剣士』だ。魔物の醜さ自体は知っていたし、見たことだって何度もあった。
でも、この大規模で、この数の多さは、初めてだ。緊張する、いや、正直に、怖い。
「ちょっと、健二」
美月に、ワイシャツの袖を引かれた。
「わ、分かってるって、美月。オレは、この戦闘には参加しない感じだろ?」
オレは、引き攣るキメ顔で、美月に振り向いた。
話し合って、名前で呼び合うことにした。名字のゲシュペンストで呼ぶわけにはいかないし。勘違いした騎士団長が『騎士団長なのに呼び捨てにされた!? 騎士団長なのに!?』みたいな反応をしたら絶望しかないし。
この作戦でのオレの役目は、戦闘系の最上級『心剣士』として美月を護衛することだ。
アーティファクトの捜索は、それ系の魔法使いがするはずだ。その道のトップのゲシュペンスト騎士団なら、きっと、『宝探し』の最上級『アーティファクトシーカー』を擁しているに違いない。
潜入するのはオレと美月の二人だけで、……。
「っ?!」
即ち! そういうことか! オレは思わず、美月を凝視した。
人一人が使える魔法は、一種類だけである。美月が捜索系の最上級『アーティファクトシーカー』だというなら、美月の騎士団内での厚遇も納得がいく。
「今のうちに、分かる範囲で段取りを説明しておくわね」
美月が、凝視に照れたような顔で、目を逸らした。
心剣士
第07話 EP02-02 アーティファクトシーカー/END
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