第06話 EP02-01 ユーナベルム戦場
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
外地なら、人が武器に残した強い記憶で戦う魔法が使えて、『心剣士』と呼ばれる。
今日は、軍から傭兵のお誘いがあったので、採用面接のために軍の要塞に来てる。バス停から近い、叙勲式のときと同じ役所っぽい要塞である。
面接といえば、当然ながら、制服が中学生の正装だから、中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーだ。
騎士レオンから傭兵依頼のリピートも考えたけど、それにしては面接場所が大袈裟か。
軍から直接のお誘いなら、傭兵ギルドみたいな部外者の仲介を挟みたくない、重要な作戦の可能性がある。しかも、そんなものに傭兵バイト=部外者の『心剣士』を呼ぶんだから、多角の魔物が何体もいる大きな戦場の可能性が高い。
楽観的なオレでも、ちょっと緊張する。
◇
通されたのは、学校の教室くらいの広さの、学校の教室っぽい部屋だ。ガランとして殺風景な室内にあるのは、折り畳み式の机が一台と、パイプイスが二脚だけだ。
イスの一脚には、オレが座る。机を挟んでもう一脚に座ってオレと向き合うのは、ゲシュペンスト騎士団の騎士団長、ゲシュペンストその人である。
「……」
ゲシュペンストが無言で、手にした書類とオレを見比べる。初老を感じさせない鋭い眼光と、右目の黒い眼帯に彫り込まれた死神で、圧倒される威圧感をオレに圧し掛からせる。
「……」
オレは、潰されそうな緊張感に冷や汗を流し、肩を狭く背中を丸める。我ながら、完全に委縮しきってる。
「……新実 健二、『心剣士』」
ついに! ついに、ゲシュペンストが低く渋い言葉を発した!
「……美月を、どう思うかね?」
「っ!?」
意図の読めない質問に、オレは一瞬、混乱した。
しかし、すぐに冷静になって、真顔で答える。
「幸せを願ってるっす。姉的な心情で」
お盆に湯呑を二つ載せた美月が、カツカツとブーツを鳴らして歩いてきた。コン、コンと、わざとらしく音をたてて机に湯呑を置いた。
「真面目にしてください」
見おろすように睨みつけ、またカツカツと離れた。
「……新実 健二、『心剣士』」
ゲシュペンストの低く渋い声で、仕切り直しだ。
「……三つ角の討伐経験あり、とあるが、事実か?」
オレは、緊張気味に答える。
「一回だけっすけど、本当っす。バッタみたいな形で、バスくらいの大きさだったっす。三つ角相手は初めてで、混乱して、必死で、倒したあとも他の魔物が近くにいて、慌てて戦略的撤退したんで、角を拾い忘れたっす」
状況的に仕方なかったけど惜しいことをした、と今でも思い出す。証拠の角がないと、討伐報酬が貰えない。
はっきり言って、三つ角を倒せる好機は滅多にない。
倒せる実力がある自信は、ある。でも、三つ角ともなれば、部下の魔物が一緒にたくさんいて、どうしても集団戦になってしまう。集団戦で集団のリーダーを倒すのは、とんでもなく難しい。
「……結果は、後日、伝える」
ゲシュペンストが、低く渋い声で結論した。
「……美月が淹れた茶を、飲んでから帰れ」
「はいっす」
何の説明も意思確認もないってことは、よほど重要な作戦の戦力選抜なんだなと、オレは察していた。
◇
戦場に呼ばれたってことは、採用されたってことだな。……ことだな?
広い平原に、たぶん一万人くらいの騎士兵士が並ぶ。頭上は夏の青空が広がって、今日も暑い。
作戦の概要は、開始直前まで教えてもらえないらしい。あちこちからザワザワと、落ち着かない話し声も聞こえるから、軍人の騎士兵士も同様に知らないのだろう。
それでも、周囲を見れば分かることがある。予想できることもある。
前方で、乾いた土色の平原と、深緑の森が接する。高い木々の茂る大きな森である。
森の中には、巨大な城塞が天高く突き出す。城壁は、高々と堅牢な石積みの灰褐色をして、陽光に白く照らされて聳え立つ。山と例えても差し支えない、目を疑うサイズ感をしている。
城塞は『ユーナベルム城』。この地は『ユーナベルム戦場』。一年くらい前に陥落した『ユーナベルム城』を奪還するために、大軍で大規模戦を繰り返す激戦地だ。
「緊張してるのかい、新実君?」
背後から、ジェントルマンな癖のある声音で声をかけられた。
軍人で、二十歳そこそこで、オレと同じ『心剣士』のリヒトだ。少し長めの白銀の髪をして、白銀の軍服をはち切れそうに着こなすマッチョ男だ。
「だ、だ、だ、大丈夫っす。オレの心は、い、いつでも明鏡止水っす」
オレは、緊張に噛みながら強がった。激戦地で大規模戦は、初めてだ。緊張するなって方がムリだ。
リヒトが、右目にかかる白銀の前髪を、ファサッと掻きあげる。
「ユーナベルム城は、ユーナベルム王家が守護する最大規模の城塞だった。陥落の報を聞いたときは、耳を疑ったものさ」
今の世の中は、民主制である。王制ではない。
最大規模の城塞が、『王国』と呼称されることがある。複数の町を内包し、住民も万単位で抱える。両手の指で数えられるほどしかない、最大級の拠点の俗称である。
そういう拠点の最高責任者を、『王』と呼ぶこともある。『外地』での軍の治外法権と相俟って、特別感を感じる。
「オレは、伝家の宝剣を代々受け継ぐ強国だった、ってことしか知らないっす」
民間人が知れる情報なんて、そんなものだ。
リヒトが、ジェントルマンな癖のある声音を、ややシリアスに低いトーンで囁く。
「周囲を森とし、意図的に魔物を誘き寄せ殲滅するほどの強国だったさ。それが、魔将軍の率いる魔物の大軍に急襲され、援軍の到着を待つ間もなく攻め落とされた、と聞いている」
「っ?!」
五つ角の魔物を、『魔将軍』と呼ぶ。現状、四体の『魔将軍』が確認されている。
六つ角の『魔王』が戦場に出てくることはないから、実質的に『魔将軍』が最強最悪の敵となる。
◇
四つ角の討伐は、十年に一度の快挙だ。世間が称える偉業だ。
だったら、五つ角の強さは想像に難くない。いや、強すぎて想像を絶する強さなのだろうけど、想像を絶する強さだろうことは容易に想像できる。ちょっと、ややこしいな。
「……諸君」
オレたちの前に、ゲシュペンストが立った。平原の風音に負けない、低く渋く、圧倒される威圧感のある声だった。
ゲシュペンストは、今や最強の騎士団の一つにも数えられる『ゲシュペンスト騎士団』の騎士団長である。
初老の男で、歳を感じさせないガッシリした肉体に、急所を守る軽装金属鎧を纏う。白髪交じりの癖のある灰色髪は、耳が隠れるくらいに伸びる。顔にシワが目立ち始め、頬はこけて、眼光鋭く、右目は死神の意匠の黒い眼帯に隠れる。
ゲシュペンスト騎士団の、この場の千名ほどが、一斉に敬礼する。オレも、リヒトに釣られて、ガッチガチに緊張した敬礼をする。
「……我らの役割は、敵の殲滅ではない」
ゲシュペンストの口から、驚愕の事実が告げられた。
ゲシュペンスト騎士団の、この場の千名ほどが、一斉に驚いた。オレも、リヒトに釣られて驚いた。
「……以上だ」
ゲシュペンストの口から、驚愕の締め括りが告げられた。
ゲシュペンスト騎士団の、この場の千名ほどが一斉に、さらに驚いた。オレも、さらに驚いた。
「言葉足らず!」
ゲシュペンストの横に立つ水色髪オカッパでメガネの女が、丸めた冊子でゲシュペンストの頭を叩いた。平原の風音に、パコン、と軽い音が流れた。
オカッパメガネ女は、そのまま一歩前に出る。
「代わりに説明させていただきます」
見るからに、情報官だろう。小綺麗だし、背が低いし、体の線が細いし、色白だし、魔物と戦ってる感じが一ミリもない。
それにしても、英雄といっても過言ではないゲシュペンストその人を遠慮なく叩いて、凄い人だ。
……いや、凄い騎士団だ。さすが、今や最強の騎士団の一つにも数えられる『ゲシュペンスト騎士団』だ。
心剣士
第06話 EP02-01 ユーナベルム戦場/END
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