第05話 EP01-05 出会い
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
外地なら、人が武器に残した強い記憶で戦う魔法が使えて、『心剣士』と呼ばれる。
今日は、叙勲式に出席するために、外地の軍の要塞に来た。
そこで、剣に残った記憶で見た姉妹の妹の方、『美月』と出会った。
◇
「……っ?!」
姉が命懸けで妹を守った、と数年越しで知った美月が、驚きでオレを見あげる。両手で口を覆い、顔を背ける。オレからは見えないけれど、涙を拭うように手を動かす。
嬉し涙か、哀悼か、懺悔の念かは分からない。分からなくても、オレには関係ないことか。
美月は、オレと同い年くらいの少女だ。ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。体は軍人にしては華奢で、黒の半袖の軍服に、黒のミニスカートを穿いて、素肌の腕脚が細く伸びる。
「頼みがある!」
オレは勢いよく、床に両膝をついた。両手も床について、土下座した。
「このことは、秘密にしてくれ! 誰にも話さないでくれ! 皆に知られると、友だちに噂とかされると恥ずかしいし!」
額を床に打ちつけ、擦りつけた。
後頭部に、美月の困惑の視線を感じる。
美月の姉の名誉のために、美月の蟠りを取り除くために、伝えなきゃならないと思った。でも、オレの恥ずかしい秘密を知られるのは困るのだ。それとこれとは別なのだ。
「そう言うなら、誰にも話さないけど……。少女の記憶で戦う『心剣士』って、別に恥ずかしくはないでしょ?」
美月が困惑の口調で答えた。
コイツ?! やっぱりバレてる! しかも、口に出して言いやがってる!
「オレは恥ずかしいの! 絶対に秘密だぞ! お願いします!」
オレは渾身の土下座で懇願した。
「それはそれとして」
オレは、土下座したまま、美月を見あげた。思った通り、困惑の瞳でオレを見おろしていた。
「元気に生活できてるのか? 困ったこととかないか?」
少女の記憶を見たせいか、ついつい姉の心情になってしまう。オレは男で同い年だけど。
美月が、苦々しい顔で目を逸らした。
「ワタシが保護されたとき、騎士団が村人の救助に来たわけじゃないわ。魔物の討伐に来ただけで、それでも、魔物に襲われるワタシを助けてくれたのよ」
美月が美談を語るつもりじゃないと、顔を見れば分かる。影のある瞳を見れば分かる。
「そのせいで、想定外の被害が出たでしょうね。死ななくてよかった兵士が、死んだかも知れない。ワタシは騎士の養子になって騎士団で生活することになって、そんな境遇の子供がどんな扱いを受けるか、想像はつくでしょ?」
「そ、それは……」
オレは、何となく予想できてしまって、返答に詰まってしまった。
◇
「邪魔するぜ?」
部屋に、軍服の軍人が二人入ってきた。男が一人と女が一人、共に二十代くらいだ。
「何か、ご用っすか?」
オレは、さり気なく立ちあがって、さり気なくパイプイスに座って、さり気なく何ごともなかったように聞いた。
男の方が、オレをジロジロと見る。角刈りで筋肉質で背が高くて、いかにも脳筋軍人である。
「おい、お前」
オレに、不機嫌な低音で声をかけてきた。
「な、何っすか?」
オレは、キョドりながら聞き返した。
もしや、土下座を見られたのか? さり気なく立ちあがったけど、不自然に思われたか? 見かけに依らず、些細な違和感も見逃さない鋭いヤツなのか?
「……なるほど、美月が好みそうな細身だな。しかし、どうしてこんな弱そうなのを」
独り言のようにオレを値踏みする男の後頭部を、女の方が平手で叩く。スパーーーッン!、と爽快な音がする。
「暑苦しい筋肉野郎どもに囲まれて育った反動に決まってるでしょ」
女の、色気のある声音のツッコミだった。
女の方は筋肉質じゃなくて、長い黒髪のナイスバディな大人の女って感じだ。魔法使いか後方支援だろう。大きな騎士団なら、医療や情報に携わる人員も充実してるはずだ。
「ねぇ、美月」
女が折り畳み式の机にセクシーに座って、美月の前に小さな香水瓶を置く。
「男を落としたいときは、これを使いなさい」
「そっ?! そんなんじゃありません!」
美月が何故か強い口調で、女に言い放った。
「いいからいいから」
女は、分かってる分かってる、と言わんばかりの理解ある笑みで頷く。
「おい、待て。俺はまだ認めてないぞ」
「いいから、邪魔者は去るわよ」
抗議する男の襟首を、女が掴んで引っ張る。そのまま廊下へと……
廊下への出口を全員が見て、全員が驚いた。
そこには、いつの間にか、黒い眼帯をした初老の男が立っていた。
男と女と美月の三人とも、緊張した雰囲気で直立し、敬礼する。
『きっ、騎士団長!』
知ってる! オレでも知ってる! 今やテレビやSNS、あらゆるニュースで顔を見ない日はない。
まさしく、ゲシュペンスト騎士団の騎士団長、ゲシュペンストその人だ。
ゲシュペンストは、白髪交じりの癖のある灰色髪で、耳が隠れるくらいに伸びる。顔にシワが目立ち始め、頬はこけて、眼光鋭く、右目は黒い眼帯に隠れる。死神みたいな意匠の彫りが入った金属の眼帯で、格好いい、イカス!
歳を感じさせないガッシリした肉体を、叙勲式の主役だけあって、内地っぽい布の軍服で着飾る。騎士団の腕章も死神っぽいデザインで、格好いい、イカス!
美月も男も女も、同じ腕章をつけている。当然、階級を示す模様は違うけど。
「……美月」
ゲシュペンストが、低く渋く、圧倒される威圧感のある声で、美月を見遣った。
迫力が! 迫力が凄い!
声だけで、オレまでガチガチに緊張した。思わず、立ちあがって敬礼しそうになった。民間人だけどオレも敬礼した方がいいのか?、と迷った。
「……人前では、『パパ、……あっ?!、もっ、申し訳ありません、ゲシュペンスト騎士団長! つい、いつもの呼び方が出てしまいました』、と呼ぶように言っているだろう?」
低く渋く圧倒される威圧感のある声に、微妙な声真似を交えていた。
「絶対に嫌です」
美月が冷たい目で即答した。
◇
「何だったんだ……?」
オレは、呆然として呟いた。
ナイスバディな女に引っ張られて、ゲシュペンストも男も立ち去った。グランパでもいいぞとかまだ早いとか、喚いてもいた。
「これで、分かったでしょ?」
美月が、苦々しい顔で目を逸らす。何か恥ずかしいのか、顔が赤い。
「騎士団の皆に、孫か娘か妹かってくらい可愛がられて甘やかされてるわ。ワタシは、厳しい鍛錬を積んで立派な軍人になりたいのに。厳しく接してほしいのに」
「あぁ、それは、まぁ、確かに、苦労してそうだな」
オレは、複雑な心境で答えた。
思ったより、幸せに暮らしているようだ。本人が満足してるかどうかは置いておいて。
これが、オレと美月の出会いのきっかけであり、出会いだった。
◇
「新実 健二『心剣士』殿! 前へ!」
「はい!」
オレの番が来た。
今や時の人、ゲシュペンスト騎士団長が主役の叙勲式だけあって、規模が超大きい。広い体育館の何倍もある超広い体育館みたいな会場に、ギッシリとパイプイスが並び、座る人々で埋め尽くされる。壁際までも、ビッシリと立ち見で埋まる。
嘘か本当か、立ち見の多くはオレを見にきた若い騎士兵士だと、リヒトが言っていた。
オレなんて前座の脇役と分かってても、緊張する!
壇上は壇上で、ゲシュペンストを始め、お偉方っぽい年輩の軍人ばかりが十数人も踏ん反り返る。
「その功績を称え、勲章を授与する!」
「身に余る光栄です!」
年輩軍人たちの刺すような注目に耐えながら、教えてもらった段取り通りに勲章を受け取る。掌の半分くらいのサイズの勲章が、二回りほど大きい木の箱に、敷かれた薄紫色の布に沈むように納まっている。
『うおーっ!』
客席から、大きな歓声と拍手があがった。ほとんどが、壁際の立ち見の人たちだった。
ちょっとビックリした。
勲章なんて、別に興味はない。でも、これはこれで悪くない。
オレは、歓声に応えて、大きく手を振った。
心剣士
第05話 EP01-05 出会い/END
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