第04話 EP01-04 初対面で再会
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
外地なら、人が武器に残した強い記憶で戦う魔法が使えて、『心剣士』と呼ばれる。
今日は、叙勲式に出席するために、外地の軍の要塞に来た。そこで顔見知りの軍人『心剣士』リヒトに絡まれていたら、『美月』と名乗る少女が現れた。
関係があるのか否か、ついこの間、ボロボロの長剣に残る記憶で、少女が口にした名前が『ミツキ』だった。
◇
「リヒト隊長? どうしてこちらに?」
美月が、リヒトを訝しげに見た。
「あぁ、友人に会ったので少し挨拶をね。邪魔者はすぐに立ち去るさ」
リヒトが、含みのあり気なウィンクをして、部屋を出ていった。
「そっ?! そんなんじゃありません!」
美月が何故か強い口調で、リヒトの背中に言い放った。
この美月という少女が何者か、オレは知らない。が、今のやり取りから分かることもある。
リヒトは、ゲシュペンスト騎士団の魔法使い隊の隊長を務める。
リヒトを『隊長』と呼ぶなら、美月もゲシュペンスト騎士団魔法使い隊に所属する可能性が高い。
魔法使い隊所属の兵士は、だいたい『魔法使い』か『サポート兵』かだ。
この場合の『サポート兵』とは、魔法使いを補助する一般兵である。肉体で戦う一般兵は、普通に考えて、筋肉質で身体能力が高くないと務まらない。
美月の華奢さから考えて、『魔法使い』だろう。魔法で戦う魔法使いなら、華奢でも問題ない。
そして最も重要な情報として、この叙勲式は、ゲシュペンスト騎士団のために催される。
ゲシュペンスト騎士団は、つい最近に、四つ角の魔物を討伐して大きな戦場を制圧した。四つ角の討伐は十年に一度の快挙であり、内地でも連日の報道特番が組まれる偉業だ。
しかも、強いだけの騎士団じゃない。アーティファクトと呼ばれる強力なアイテムの発見確保の実績も多い。軍全体への貢献度がトップクラスに高い、超凄い騎士団なのだ。
◇
美月がオレの方を向いて、ブーツの踵を鳴らして足を揃え、斜に構えた敬礼をしなおす。
「新実 健二『心剣士』の案内を担当する、美月 ゲシュペンストです。よろしくお願いします」
美月は、オレと同い年くらいの少女だ。ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。体は軍人にしては華奢で、黒の半袖の軍服に、黒のミニスカートを穿いて、素肌の腕脚が細く伸びる。
「よっ、よろしくお願いするっす」
オレはキョドりながら、右手を差し出し握手を求めた。人付き合いは苦手だ。
美月が敬礼を解いて、握手はしてくれなかった。
……しまった?! 距離感を間違ったようだ。他人と距離を置くタイプのようだ。
消極的な相手は、どう話しかけていいのか分からなくて、苦手だ。
オレは仕方なく、差し出した手をそのままに、パイプイスに座る。
折り畳み式の机を挟んで向かいのパイプイスに、美月が座る。前屈むように顔を近づけ、オレを睨む。
「……!?」
オレは動揺した。カワイイ女子の顔が近くて、ドキドキした。
距離を置くタイプじゃないのか? ってか、積極的な娘だな?
積極的な相手は、どう反応していいのか分からなくて、苦手だ。
じゃぁ、どんな相手なら得意かというと、……人付き合いは苦手だ。
「一つ、新実 健二『心剣士』にお聞きしたいことがあるのですが。よろしいですか?」
美月が、他の人に聞かれたくないのか、小声で聞いてきた。
今ここに、他の人はいない。オレと美月の二人きりだ。
◇
「お、おう。何でも聞いてくれていいぜ? 歳、同じくらいだろ、敬語もいらないぜ?」
オレはキョドりながら答えた。
美月はオレの真意を探るように、オレの泳ぐ目を凝視する。視線で室内を見まわし、他に誰もいないと確認して、いよいよオレの目を凝視する。
「旧ナントリ村の戦場で戦闘に参加した、と聞いたわ。『心剣士』なら、そこの記憶で、魔物に襲われる子供の姉妹を見なかった?」
……見た!、と即答したい気持ちは抑える。即答は、オレがその姉妹のどちらかの記憶を見たと、オレが少女の記憶で戦うと、ヒントになる恐れがある。
だったら、例えば、少女以外の記憶から、魔物に襲われる姉妹を見たとする。どんな感じに目撃したと証言するのが自然か。
オレは、賢明で冷静な男だ。
「……何か、チラっと、見た気がするな。逃げる村人の中に、いたような、いなかったような?」
オレはキョドりながら答えた。
「……そう」
美月が考え込む顔をして、近い顔を引き戻し、パイプイスに座りなおした。
「ワタシは、六歳まで、ナントリ村という農村で育ったの」
◇
内地は、全ての人が暮らすには狭すぎる。高い税金を払える比較的裕福な家庭じゃないと、安全で科学の恩恵を受けられる内地には暮らせない。
外地は、魔物に襲われる危険がある。しかも、電子機器が機能せず、文明的ではない不便な生活を強いられる。
そんな外地に暮らす人たちもいる。大まかに、『比較的貧乏な人』、『一次産業従事者』、『軍人や軍属』である。少数ながら、犯罪者や世捨て人みたいなのもいるらしい。
農地は、ほぼ全てが外地にある。
内地は、全ての人が暮らすには狭すぎる。機械を動かす工場なんかは内地に建てざるを得ないから、農地を確保する余裕なんてないのである。
魔物の襲撃に常に備えるなら、軍人は外地の拠点で生活するのが都合が好い。魔物と戦い続ける今の世に、軍人は当然ながら多い。
外地では、町一つがそのまま砦で拠点ってのも普通にある。そういう町の一般人のほとんどは軍属みたいなもので、そう考えると軍属も少なくない。
戦争状態の外地は、残念ながら、内地より治安が悪い。軍隊の治外法権すら黙認されている。治安がいいと都合の悪い人たちには、内地より暮らしやすいのかも知れない。
ってことで、美月みたいな境遇は珍しくない。農家に産まれたのか、内地に住めなかったのか知らないが、外地の農村に暮らしていただけだ。
オレは、産まれた家が比較的裕福で、運好く内地で育っただけだ。
だって、ここは、そういう世の中なのだから。
◇
「魔物に村を襲撃されたとき、両親とは逸れて、十歳の姉と一緒に逃げたわ。まだ小さくて、怖くて、ほとんど覚えていないのだけれど」
美月が、沈んだ顔で語る。
「姉も、ワタシと同じピンク色の髪をして。ワタシを助けてくれた騎士団の人は、姉がワタシを最後まで守ろうとしていたと、教えてくれたけれど」
「それ!」
オレは思わず興奮して、パイプイスから勢いよく立ちあがった。
「それ! 見た! ピンク髪の子供の姉妹!」
あの姉妹の妹の方が無事だったと分かって、嬉しかった。
美月のビックリした感じの視線に、我に返って、平静を装いつつ座りなおす。
「ま、まぁ、確かに、姉の方が妹を守ろうとしてたな。うん。確かに、そんな感じだった」
オレは、軽い口調で頷いた。
「でも、十歳の子供が、恐ろしい魔物に立ち向かえると思う? 足が竦んで逃げられなかったとか、恐怖で動けなかったのではないかしら?」
美月の口調は、懐疑的だ。
「それに、ワタシは、たぶん、いい妹ではなかったわ。曖昧な記憶だけれど、姉の手を煩わせることも多かったし、喧嘩もした。姉にとって、命懸けで守るほど大切だったとは、思えない」
もちろんオレは、そうじゃない、と知っていた。命を賭しても妹を守ろうとする姉の記憶を、垣間見たからだ。
それをここで言ってしまえば、バレる。でも、姉の心情を知っていて、知らぬ存ぜぬで通すのは、『心剣士』として不義理だと思う。
「……いや、そんなことはなかったぜ。キミのお姉さんは、命懸けでキミを守った。キミを守りきれたと確信して、微笑んでいた」
「そんなこと、どうして、あなたに分かるのよ? 傍から見ただけで」
言いかけて、美月が察した。
「そりゃぁ、分かるさ。オレが、妹を守ろうとする少女の記憶で、二つ角を討伐したんだからな」
言ってしまった。でも、言わずにはいられなかった。
美月の驚く顔が、オレは嬉しかった。あの記憶の妹が無事に生き延びたと分かって、嬉しかった。
あぁ、どうにも、少女の記憶とオレの感情が混じりやがるぜ。
心剣士
第04話 EP01-04 初対面で再会/END
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