最終話 第30話 EP06-01 一つの物語の終わりに
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
とにかく、必死だった。
本隊に合流して、装備を補給して。まだ戦える人を募って、赤薔薇騎士団の救援に向かって。
大人の騎士兵士たちに囲まれてたから、周囲の状況はほとんど見えなかった。必死に戦ってたら、騎士兵士たちが一斉に歓声をあげた。呆気に取られて聞いていたら、勝鬨だと、安全圏まで後退できたのだと、分かった。
オレの名は『新実 健二』、中二男子。『少女が武器に残した強い記憶』で戦う魔法使い、『心剣士』だ。
あの作戦から二日が経って。オレは、『外地』の軍病院に検査入院してる。木造平屋の病棟の、個室の病室に、白いパジャマで白いパイプベッドに座ってる。
◇
コンコン、と木の扉がノックされた。
「どうぞ」
オレは明るい声で応えた。
キィと軋んで開いた扉から、美月が入室する。
「元気してる、健二?」
ちょっとだけ挙動不審というか、ソワソワと落ち着かない感じだった。
美月は、オレのクラスメートの美少女だ。ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。体は華奢で、黒の半袖の軍服に、黒のミニスカートを穿いて、素肌の腕脚が細く伸びる。
「退屈してると思って、マンガを持ってきたわ」
「おおっ! ありがと! 『外地』だから、ゲーム機が動かなくてさ」
オレは、美月が差し出す紙袋を受け取った。
美月が白いパイプイスに座って、黒いミニスカートの裾を整える。
ガン見したと思われると心外なので、オレは目を逸らす。ふと、半開きの扉の陰に半身隠してコッチを覗く女の人に気付く。
その女の人は、灰色に近い長い銀髪が、昆布のようにウネって頭の全面を覆う。煌びやかながら清らかな、フリルやレースで飾られた白いドレスを着てる。細い手と細い指には、白いレースの手袋を嵌める。
白いレースの手袋に、どうにも見覚えがあるような気がしないこともない。でも、あんな、昆布の精霊みたいな人は知らないしなぁ、とも思う。
◇
「リンゴ、食べる? 剥いてあげよっか?」
「食べる食べる。頼む」
美月の提案に、オレは美月へと意識を戻した。
美月が小皿とナイフとリンゴを準備して、器用にリンゴの皮を剥く。
「上手だな」
「そ、それは、立派な軍人を目指してるし」
美月が、照れたように頬を赤らめた。
検査入院だから、病気や怪我があるわけじゃない。ゲームできなくて、退屈はしてる。でも、こういうイベントがあるなら、悪い気はしない。
「はい、どうぞ」
キレイに切ってピックを刺して、リンゴを並べた小皿が差し出された。
「ありがと」
オレは感謝して、受け取った。
「健二。闇に呑まれた影響は、無さそう? ワタシは、片腕を突っ込んだだけだったから一日の検査で終わったけど、異常は無かったわ」
作戦中、オレは『滅魔の剣』から生じた闇に落ちた。美月が、その闇に片腕を突っ込んで助けてくれた。
「今のところ、問題なさそうだぜ? まだ検査が残ってるけどな」
「ふぅん、そう。一応、相談できそうな人を……」
美月が意味深に応えて、扉の方を横目に見る。オレも釣られて、扉の方を見る。
半開きの扉の陰に半身隠してコッチを覗く女の人が、『もしかして、わたくしの出番ですか? わたくしが出ていっても、よろしいのですか?』って感じの明るい雰囲気を漂わせた。顔は昆布、もとい、灰銀色の髪に隠れて見えないけれど、きっと明るい表情をしてるだろう。
「……なら、いいわね。作戦の結果は、聞いてる?」
美月が、オレに視線を戻した。
「勲章を貰える、ってしか聞いてないぜ。検査が終わるまで病院から出ちゃダメらしくってさ」
オレも、美月に視線を戻した。
コッチを覗く女の人が、『そっ、そうですよね。わたくしの出番なんて、ありませんよね。こんな、わたくしに、出番なんて……』って感じでシュンと肩を落とした。顔は昆布、もとい、灰銀色の髪に隠れて見えないけれど、きっと悲しげにしてるだろう。
◇
美月が、信じられない、と顔に出す。
「勲章って。『魔将軍』の討伐に成功したのよ? 最高勲章で教科書に名前が載って駅前に銅像が建つわよ」
「本当か?! 銅像は恥ずかしいな!」
オレはビックリした。まさかそこまでとは、思ってなかった。
「あ、でも、騎士団あってこその討伐だよな」
「それは、そうね。いくら強くても、健二が一人で討てる相手ではなかったものね。銅像ではなくて、作戦の記念碑になるかもね」
十万の軍勢があったから、『滅魔の剣』に辿り着けた。ゲシュペンスト騎士団と赤薔薇騎士団あってこそ、魔将軍『冒涜者』の討伐に至った。
その後の撤退に成功したのは、運が好かった以外の何ものでもない。オレが『心剣士』として新しい段階に覚醒した、ってのも、一つ角と二つ角を退けられたに過ぎない。
あれに三つ角の魔物が一体でも交じっていたら、方陣は崩壊してた。四つ角になんて追われようものなら、容易く皆殺しにされてただろう。
「人間の軍は本隊もボロボロだったのに、終盤の救援も後退も意外とスムーズにできてたよな? 魔物の方は、どうなってたか分かる? 美月は何か聞いてる?」
オレは、疑問を直接的に聞いてみた。
「それが、それなんだけど」
美月が数秒、言い淀む。
「……援軍が、あったらしいの。軍の援軍ではなくて、『ユーナベルムの残党』を名乗る一団の、ね」
美月の横目の視線が、チラと扉の方を見た。
「っ?!!!」
オレは、ビックリした。まさか、そんな、死んだと思っていた……いや、やめよう。実は生きてました、なんて希望的観測もいいところだ。
オレも横目に、チラと扉の方を見た。どこかで見たことあるような気がするんだけどなぁ。
コッチを覗く女の人が、『いっ、いよいよっ!? わたくしの出番ですかっ!? わたくしが出ていっても、よろしいのですかっ!?』って感じの明るい雰囲気を溢れさせた。顔は昆布、もとい、灰銀色の髪に隠れて見えないけれど、きっと期待にドキドキワクワクしてるだろう。
美月が席を立つ。半開きの扉の陰に半身隠れる女の人に近づく。前昆布、もとい、昆布のようにウネる灰銀色の前髪を横にあげて、女の人の顔を見せる。
っ?! ごっ、御尊顔にっ、満ち満ちた気品がっ、まっ、眩しいっ?! 高校生くらいの、儚げで清楚な美少女だ!
見たことある! 知ってる! 記憶を見たこともある!
美月が女の人の前髪を元通りにおろし、片手で示す。
「そう。そうよ。ご覧の通りに、昆布の精霊様よ」
「違う。昆布の精霊様だろ」
オレは間髪入れずにツッコミを入れた。何か間違った気もした。
◇
こうして、オレの一つの物語が終わった。
図らずも、伝説となってしまったわけだが。疲れた。
しばらくは、普通の中学生として、普通に暮らしたい。夏休みくらいは、のんびりとゲーム三昧でダラダラしたい。メディアへの露出は待ってもらえるように、軍に頼もうと思う。
目立ちすぎると、愛妹が一緒に歩いてくれなくなりそうだし。それは悲しい。
学校の友だちも、オレを避けるようになりそうだし。……とっ、友だちくらいいるしっ!
またいつか、戦場に立つ、そのときまで。
今の心地好い人間関係で、平和に過ごせれば、この上もない。美月との出会いに感謝して、美月と共に過ごせれば、この上もない。
一つの物語の終わりに、神様なんて信じちゃいないが、オレは神に祈ろう。少女たちに幸多からんことを。少女たちの魂に安寧が訪れんことを。
心剣士
最終話 第30話 EP06-01 一つの物語の終わりに/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる皆様のお陰で、無事に最終話となりました。
ありがとうございました。




