第03話 EP01-03 叙勲式
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
外地なら、人が武器に残した強い記憶で戦う魔法が使えて、『心剣士』と呼ばれる。
内地で、退屈な日常を過ごす。ときどき外地に行って、バイト感覚で魔物を狩る。
今日は外地の要塞で、叙勲式に出席する。
並木道を木陰伝いに歩く。
夏の青空に、葉の隙間から降る日差しが暑い。木々に囲まれて、セミの声が煩い。
ようやく、前方に要塞の正門が見えてくる。軍の施設の割には、長閑な感じである。
「内地よりは涼しいな」
制服が中学生の正装だから、中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーで来てる。腰には、愛用の小剣をさげる。
人間の領地奪還に貢献した功績を称え、軍が勲章をくれるそうだ。小さな前線で、ボスの二つ角の魔物を倒しただけだけど。
勲章なんて、別に興味はない。勲章を拝領して壇上に並ぶだけで報酬を上乗せしてくれる、ってことで渋々と承諾した。やっぱり、世の中は金だ。
「新実 健二『心剣士』殿! 御足労いただき、申し訳ない!」
前線基地のレオン指揮官が、鉄の格子の正門の向こうから、よく通る低音で声をかけてきた。
いかにも前線の騎士っぽい、無精髭でボサボサ金髪の、オレの親より年下であろう若めのオッサンである。体格がよく、顔に大小の傷痕がある。叙勲式の今日は、心なしか髪と髭が整い、全身金板鎧じゃなくて内地っぽい布の軍服で着飾ってる。
「レオンさん! こっちこそ、わざわざ出迎えしてもらって恐縮っす!」
オレも、大きく手を振って応えた。
ここは、要塞といっても、内地と外地の境の安全圏に建つ。役所っぽいキレイなデザインの建物を、高さ二メートルほどと低く薄いブロック塀が囲む。門扉の鉄格子も細く、見栄えのためだけのものだと分かる。
前線に近いと、小規模な砦ですら、分厚い石積みの四メートル越えの壁に囲まれてる。それくらいはないと、魔物相手に役に立たないのである。
◇
人間の安全生活圏を『内地』と呼ぶ。
闇に包まれた魔物の領域を『魔界』と呼ぶ。
侵攻してくる魔物と人間が争う範囲を『外地』と呼ぶ。
ドーナツで例えると、ドーナツの穴が『内地』、ドーナツが『外地』、ドーナツの外側が『魔界』である。
人間はずっと、魔物の侵攻を受け続けている。そりゃもう、最古の歴史書にすら、『遥か古より続けり魔物の侵略』と記される。
人間の生きる大地は、『魔界』と呼ばれる闇に囲まれて、そこから魔物が攻めてくるのだ。
人間もずっと、自分たちの生存圏を守るために、魔物と戦い続けている。
人間と魔物の戦争が繰り広げられる範囲が、『外地』となる。
土地の支配権の移動、戦線の変動に伴って、『外地』の範囲も変わるわけだ。人間的に言うなら、『国境沿いの土地』=『外地』ってところか。
だから、魔物に侵攻されればされるほど、『内地』が押し込まれて狭くなる。逆に、侵攻を押し返せれば『内地』が広くなるし、世界を囲む闇だって押し返せる。
じゃぁ、世界を囲む闇『魔界』の向こうがどうなってるかは、分かっていない。無数に別の『内地』があって人間と魔物の争いが無数に繰り広げられている、との説が一般的ではある。いつか別の『内地』と合流できて、最後には平和な人の世が全土を覆う、なんて希望に満ちた話じゃないか。
◇
レオンの案内で、来賓の控室に通された。レオンは、式典の準備があるからと早々に退室した。別の案内役が来る、とも言っていた。
学校の教室くらいの広さで、学校の教室っぽい部屋である。ガランとして殺風景で、折り畳み式の机とパイプイスだけが並ぶ。こういうときだけ使う空き部屋なのだと思う。
「これは奇遇! 新実君ではないか!」
白銀の軍服をはち切れそうに着こなすマッチョの男が、廊下を通りすがった。
少し長めの白銀の髪をして、右目にかかる前髪をファサッと掻きあげながら、ジェントルマンな癖のある声音で声をかけてくる。
「君が軍の式典に出席するなんて、意外だね」
「あっ。リヒトさん。お久しぶりっす」
オレは引き気味に挨拶を返した。
苦手な人だ。軍人で、二十歳そこそこで、オレと同じ『心剣士』だ。キラキラして目立ちまくる軍服とか、服のサイズが小さくない?とか、声が特徴的とか、ツッコミどころも多い。
「同じ『心剣士』同士、そう畏まる仲でもなかろう? まだ若い『心剣士』が前線一つのボスを討伐したと、若い兵士たちの間で評判だよ」
人付き合いの距離感が近い感じも、オレは苦手だ。大人と子供、軍人と民間人なのに、いつも対等な立場でフレンドリーに接してくる稀有な雰囲気の人だ。
「そりゃ、恐縮っす」
オレは腰低く感謝を述べた。褒められるのは、悪い気はしなかった。
今ここに、他の人はいない。オレとリヒトの二人きりだ。
「ところで、そろそろ教えてもらえないかな? 新実君は、どんな記憶で戦っているんだい?」
リヒトが何故か、上腕筋に見事な力瘤を膨らませて続ける。
「僕は、屈強な兵士の記憶で戦う。誇りに懸けて、一片の嘘偽りもない」
秘密でも何でもなく、『心剣士』は使える記憶に制限がある。一人が一種類だけ、武器とできる。
リヒトは、屈強な兵士の記憶。羨ましい。戦場にいくらでも転がってるだろうし、いかにも強そうだし、イメージが硬派で格好いい。
オレは、少女の記憶。武器を探すだけで難儀するし、弱くはないけど、軟派な感じが恥ずかしい。友だちに噂とかされると恥ずかしいし、ほとんど誰にも教えてない。
「そ、それは、最高機密っす。リヒトさんとは方向性が違うっす。戦場でのジャンル被りはないって、保証するっす」
オレは、心を頑強な壁で囲いつつ答えた。
「……そうか、ふっ。君も強情だな。詮索はすまいが、二人の仲だ、もっと親しく『リヒト』と呼び捨ててもらって構わないから」
リヒトがジェントルマンな微笑でウィンクして、オレの肩に手を置いた。
やっぱり距離感が凄く近い。接しづらいけど、嫌いじゃない。接しづらいけど。
◇
「失礼します!」
軍服の少女が控室に入ってきた。カツン!、とブーツの踵を鳴らして足を揃え、斜に構えた敬礼をした。
「新実 健二『心剣士』の案内を担当する、美月 ゲシュペンストです。よろしくお願いします」
オレは驚いた。
オレと同い年くらいだろうか。オレみたいな中学生の傭兵もいるから、軍人が若いっても驚くほどじゃない。
ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。体は軍人にしては華奢で、黒の半袖の軍服に、黒のミニスカートを穿いて、細く伸びる素肌の腕脚を見ずにいられない。
……いや、そうじゃない。
オレは、『ミツキ』って名前を、つい最近に聞いた記憶があった。
武器に残った少女の記憶で、……いや、まさか、そんな偶然が……。……でも、まぁ、『ミツキ』って名前は珍しくもないし。そんな都合好く、気になっていた結末を知るチャンス到来!、なんて都合が好すぎるし、やっぱりただの偶然か……。
と、思いなおした。
心剣士
第03話 EP01-03 叙勲式/END
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