第29話 EP05-08 手を取り合って
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
「防御特化の赤薔薇騎士団は、側面と後面の補助に入りますわ! そちらは、余力を前面に回してくださいませ!」
「……感謝する、小さき指揮官よ」
魔物どもが、方陣に押し寄せる。
ほとんどが一つ角。人型に近い、ハゲで痩せて腹の出た、手長短足の赤銅色のオッサン、みたいな見た目のヤツらだ。
ところどころに二つ角が交じる。人間より大きく、人間と獣の中間的な形状をしてる。
三つ角は、本隊の方に行ってるのか、見当たらない。
「密集しろ! 互いに支え合え! 最小面積で突破するぞ!」
騎士兵士一万数千が、縦横百メートルに満たない広さの方陣で密集する。四方の外面に、騎士たちが大盾を構え並んで壁を成す。
壁を成す大盾に、魔物どもが取りつく。人間を殺したいと、殺そうと、牙を剥く。
戦場の喧騒が、轟く。耳に痛いぐらいの、金音、呻き、怒号、叫び、咆哮が、ずっと轟き続けてる。
「どうせ死ぬなら、力を出しきって死ね! 全力で、押し進めーい!」
『おぉー!』
二つの騎士団が声を合わせた。一歩も進めなかった。押し寄せる魔物どもを押しとどめるだけで、精一杯だった。
◇
已む無し。
一筋の希望が見えて、士気は吹き返した。
でも、疲労が回復したわけじゃない。誰も彼も、体力も精神力も限界だ。諦めずに抵抗できてるだけで奇跡だ。
やはり、ここは、ほぼ温存されてて、まだ戦えるオレが、やるしかない。
オレの名は『新実 健二』、中二男子。『少女が武器に残した強い記憶』で戦う魔法使い、『心剣士』だ。
やる気はあるけど、やるには武器が必要だ。
「なぁ、美月。何か、『少女の強い記憶が残る武器』って、無いか?」
オレは、密集に肩が密着する美月に聞いた。美月の胸に腕が触れないように、気も遣った。
「そう言われても」
美月が困り顔で、軍服のポケットを漁る。
急に聞かれて持ってるタイプのアイテムじゃない、とは分かってる。そのタイプのアイテムなら、オレはこんなに苦労してない。
「……あ! これは?」
美月がオレに、『魔法使いの杖』のキーホルダーを差し出した。
昔に流行った『不死鳥の勇者』という物語の、美少女魔法使いが持ってたものと同じデザインだ。美月の姉の記憶が僅かに残る長剣から作ってもらった、ある意味で形見だ。
オレは、迷う。
「う~ん。『少女の思い』は残ってるみたいだけど。武器じゃないと、出力が低いんだよな」
武器を加工したものではあるけど、武器じゃなくてアクセサリーだ。
「使っていいわよ。何かの足しにはなるかも知れないし。遠慮は要らないわ」
美月が『魔法使いの杖』のキーホルダーを、オレの胸に押しつけた。
「そうだな。こんな状況だしな」
オレは感謝して、謹んで受け取った。
◇
美月のキーホルダーの記憶を見る。残っているのは、美月の姉の思いの残滓か。今の美月の思いで上書きされてるか。
「……うおっ!?」
オレはビックリして、声が出た。
キーホルダーに残る記憶で、八年前の美月の姉と、今の美月が、手を取り合っていた。
現実には在り得ない。美月の姉は八年前に、十歳くらいで死んでる。十歳の姉と十四歳の妹が手を取り合う光景は、とても不思議に映る。
……いや、いやいやいや。在り得ない。『昔の記憶=過去』と『今の記憶=現在』が一緒にある、なんてことが、あるはずない。
……いや、いやいやいや。でも、オレが知らないだけで、在り得るのかも? 『一つの物に一つの記憶が固定されている』ってオレの常識が本当は間違っていて、思いってヤツは、もっと流動的なのかも知れない?
この絶望的な状況ゆえの、希望的観測か。耐え難い現実に、現実逃避の妄想か。
それならそれで、まぁ、いいか。どうせ他の方法なんて思いつかない。夢みたいな魔法、ってんなら、夢を現実にしてみせればいいだけの話だ。
「美月、イケるかも知れない。レサリアさん、『御守』、持ってきてたら、貰えないか? 一個でも二個でもいいんだ」
「……よろしくてよ」
レサリアが不思議そうに首を傾げてから、赤い重装金属鎧の胸部装甲の脇の隙間に、赤い金属籠手を突っ込む。
女性用の胸部装甲は、女性特有の胸部の膨らみがある。レサリアは、そこの膨らみを収納に使っちゃってるんだ、と微妙な気持ちになる。
抜き出された金属籠手に、ジャラジャラと数十個のキーホルダーが繋がるメタルリングが握られていた。
「これですわよね? ロゼリア伯母様からいただきました御守だけ、抜いてもよろしいかしら?」
「あぁ、うん。それは大丈夫」
少女じゃないから。
戦場に御守を全部持ってくるとか、律儀だ。レサリアって、そういうとこあるよな、と思った。
オレが魔法に使えるのは、中学校の女子=少女から貰った御守で、レサリアの無事を祈った人のもの。コネ目的みたいな邪なのは、今は役に立たない。
「レサリアさんって、人望あるんだな」
意外だ。ほとんどが、ちゃんとレサリアの無事を祈ってた。特に、取り巻きの二人が。
「当然でしてよ」
レサリアが、自慢げに高笑った。
「皆さんも、『少女の思い』の込もってそうなもの、何でもいいっす! くださいっす!」
「皆! お願い!」
「赤薔薇も! お出しなさい!」
オレと、美月も、レサリアも、周りに呼びかける。密集、喧騒、必死の防戦で、応じてくれる余裕があるかどうか。
「娘に貰った大切な御守だ! やる! だが、娘はやらんぞ!」
髭の濃い騎士から投げられたキーホルダーを受け取った。
「感謝するっす!」
「姉上が、まだ少女の頃にくださったものだ!」
クール系の男騎士から投げられたネクタイピンを受け取った。
「感謝するっす!」
「誰が今はオバサンですってぇ?!」
気の強そうな女騎士が声を荒げた。
「うわっ!? 姉ちゃん、ゴメン!」
「恋人に貰った指輪です! できれば、後で返していただきたい!」
「十八歳は少女に含まれますか?」
「美月に頼まれちゃぁ、嫌とは言えないなぁ!」
「レサリア様の御命令とあれば!」
「感謝するっす!」
投げられた多種多様のアイテムを受け取った。
◇
オレに今できる、最善。
愛妹護剣と『少女の思い』の込もったアイテムを、一纏めに両手で握り、眼前に構える。
「美月とレサリアさんも、一緒に握ってくれ」
美月とレサリアが頷き、一緒に愛妹護剣を握る。
条件は、たぶん、単純で明快。
愛妹護剣に僅かに残る『愛妹の思い』を中心にして。
「二人とも、この場の誰か一人でもいいから、『守りたい』って強く願ってくれ」
要らぬ指示だとは思う。美月はゲシュペンスト騎士団の全員の無事を祈ってるし、レサリアも赤薔薇騎士団の全員の無事を祈ってるに決まってる。
「よし! やるぜ!」
美月とレサリアを仲介にして、『愛妹の思い』と『皆の思い』を繋ぐ。
ここにいる大切な人を守りたいと、『少女の思い』が大切な人に寄り添い。全ての『思い』が手を取り合って。全ての『思い』が、思いを一つに合わせて。
愛妹護剣に魔力が集う。集った魔力が、膨らんで、方陣を包む。
やった! 成功した!
強い力は必要ない。近くの魔物を押し返す程度でいい。
それだけで、……方陣が、一歩、前進した。
「いいぞ! 押せ押せ押せー!」
野太い号令に、方陣が、歩みの速度で二歩三歩と前進する。
本隊までの距離は、たった数百メートル。
オレは、そこまでの数分間、魔力の維持と制御に集中するだけでいい。オレたちは生きて帰れる、オレたちの勝ちだ!
心剣士
第29話 EP05-08 手を取り合って/END
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