第28話 EP05-07 ゲシュペンストとレッドローズ
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』、中二男子。『少女が武器に残した強い記憶』で戦う魔法使い、『心剣士』だ。
オレは、『勇者に選ばれし少女の思い』の残る『滅魔の剣』の力で、魔将軍『冒涜者』を闇に落とした。
オレは、その力で、オレも闇に落ちた。
嫌な予感が、『心剣士』の勘が、悪い方に当たってしまった。
◇
真の闇よりも暗い闇の中にいる。闇しか見えない。上も下も右も左も分からない。
闇だけが見える。音は無い。感触も無い。
自分が落ちてるのか、漂ってるのか、静止してるのか、昇ってるのか、分からない。
ジタバタと手足を動かしてみる。何もない。
上へと手を伸ばしてみる。何もない。
絶望的だ。今度こそ終わった。好運どうこうのレベルじゃない。
死して魔将軍を討った英雄となる、ってのも悪くないか? 魔将軍の討伐となれば、百年に一度の奇跡か? 歴史に名が残ったりするかも?
……否! 嫌だ!嫌だ!嫌だ!、やっぱり死にたくない! 愛妹に、『お土産を買って帰る』って約束したし!
ジタバタと手足を動かしてみる。何もない。
上へと手を伸ばしてみる。何もない。
上も下も右も左も分からない。どっちが上かすら、分かってない。
このまま死ぬのか? むしろ、死ねるのか? 永遠に闇の中を彷徨う、とかだと、洒落にならないぞ?
上へと手を伸ばしてみる。何もない。
手を握って開いてと繰り返してみる。何の感触もない。
手を開いて、……ダメっぽい、諦めて、全身から力を抜いた。愛妹の愛らしい笑顔を思い出して、ちょっと悲しくなった。
◇
「っ!?」
オレの手に、誰かの手が触った。不意すぎてビックリした。
華奢で柔らかい手だった。触り憶えがあった。いや、変な意味じゃなくて。
「いたわ! 掴んだ! 皆手伝って!」
美月の声が聞こえた。無音の闇に、美月の声が聞こえた。
嬉しくて、ちょっと泣きそうになった。
オレの手を、今度はゴツくて大きな野郎どもの手が掴む。力尽くで強く引っ張られる。痛い!
オレは引っ張られて、水面から上がるように、闇から抜け出した。上に薄曇りの空が、耳に戦場の喧騒が、手には美月の手の感触があった。
「健二! 大丈夫!?」
美月に心配された。心底心配する顔をしていた。
美月は、ゲシュペンスト騎士団長の養女で、オレのクラスメートの美少女だ。ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。体は華奢で、黒の半袖の軍服に、黒のミニスカートを穿いて、素肌の腕脚が細く伸びる。
「さすが! 我らの美月嬢!」
「美月ちゃんに感謝しろよ、英雄!」
体格のいい兵士に背中を叩かれて、我に返る。現実感に、全身が震える。
美月がいなければオレは、……いや、美月がいたから、オレは助かった。それで、いい。
オレは、潤む瞳で、震える声で美月を見つめる。
「見つけてくれて、助けてくれて、ありがとな、美月。オレは今、猛烈に感動してる。これが、ゆゆゆ友情パワー!、ってヤツか」
美月が、何故か、露骨に気まずそうに目を逸らした。
「そ、そうね。ゆゆゆ友情パワーってものかもね」
口調も気まずそうだった。
オレは、ふと思い当たって、自分の手を見おろす。そこには、最強のアーティファクト『滅魔の剣』が握られる。
美月は、宝物捜索系の最上級魔法使い、『アーティファクトシーカー』である。アーティファクトの位置が、障害物を無視して分かるらしい。
「……ゆゆゆ友情パワー!、だな」
「ゆゆゆ友情パワーね」
「ゆゆゆ友情パワーだ」
「ゆゆゆ友情パワーで、間違いない」
オレも美月も兵士たちも、清々しいほどに白々しく、意見を合わせた。
◇
「……戦果は十分! 撤退して本隊に合流する!」
戦馬に騎乗したゲシュペンスト騎士団長が、力強く号令を発した。勝利の凱旋ってより、戦況の逼迫を肌で感じてるようだ。
実際、騎士兵士たちの返答は疎らだ。誰もが死を覚悟した、意気消沈のお通夜ムードだ。
そうだ! 今は!
戦場を見まわす。
ゲシュペンスト騎士団の方陣は、まだ辛うじて陣形を保ってる。押し寄せる魔物どもを、大盾騎士たちが必死に防ぐ。土人形は、どこにも見当たらない、一体たりとも、いない。
……やった。魔将軍『冒涜者』を、討った。実感は薄めだけど、状況的に、討った、でよさそうだ。
四つ角の魔物は、三体とも、地面に半分ほど埋まってる。抜け出そうと藻掻いてる。
四つ角は討てなかったか。魔将軍を討てたのだから上々。それ以上は贅沢ってもんか。
敵の戦力は、大幅減。でも、まだまだ万単位。数が多すぎる。
人間の軍は、本隊は半壊、敵中に孤立したゲシュペンスト騎士団は限界、同じく赤薔薇騎士団も限界だろう。
闇の中では終わらずに済んだけど、絶望的な状況に変わりはない。
オレだって、残る武器は、もう僅かしか思いの残ってない愛妹護剣だけだ。頭ガエルを受けとめたときに、思いのほとんどは消費されてしまった。
思いを使い果たした『滅魔の剣』に至っては、選ばれし少女にしか使えない荷物に成り果てた。黒い鞘に納めるしかない。
これじゃぁ全然足りない、何もできない。他に何か、『少女の記憶が残る武器』は無いか?
周囲を探す。そう都合好く、落ちてるわけもない。戦場に落ちてるタイプの『思い』でもない。
◇
「報告! 薔薇騎士より一部が分離! 敵中を掻き分け、こちらに来ます!」
物見の兵士が馬上から叫んだ。
「……援護してやれ。矢は撃ち尽くして構わん」
『了解!』
赤薔薇騎士団からゲシュペンスト騎士団に、数千人が移動してきた。こんな、互いに絶体絶命の状況で、加勢ってわけでもないだろう。
「御助力、感謝いたしますわ」
レサリアが代表して感謝を述べた。
レサリアは、赤髪ロング縦巻きロールの、クラスメートの女子である。小柄で、体が上から下まで細くて、自信家で高慢な御嬢様って顔をしてる。
これが騎士としての初陣。赤い重装金属鎧を細身に纏い。赤い金属籠手に直径一メートルほどの赤い円盾を握る。
「ロゼリア伯母様の御命令で、ゲシュペンスト騎士団の撤退を補助させていただきます。おっしゃいますには、『その間は、赤薔薇騎士団で、可能な限り敵を引きつけてさしあげましてよ』、とのことでしてよ」
つまり、赤薔薇騎士団のロゼリア騎士団長が、大事な姪っ子のレサリアを離脱させた。他の騎士兵士たちもニ十歳前後と、比較的若い。これは、もしかしなくても
「他を生還させるために、犠牲になるつもりか……」
誰かが呟いた。誰もが、そう思った。
◇
「違いますわ」
レサリアが、迷いなく否定した。
「離脱を命じられましたのは、赤薔薇騎士団の所属期間が八年以下の者がほとんどですの」
八年……? ……八年!
「ロゼリア伯母様の元に残りましたのは、苛烈な頃の赤薔薇騎士団に所属して、苛烈な戦いを生き抜きました精鋭ばかりでしてよ」
八年!
「……くっくっくっ。はははははっ!」
ゲシュペンストが、笑った。この人って笑えるんだ?、みたいな眼帯初老強面で、高らかに笑った。
「しぶとい!、これだから年寄りは、互いに諦めが悪いな! 厚化粧BBA!、もとい!、薔薇騎士の退路を斜めに突っ切って撤退する! 少しくらいは敵を減らしておいてやれ!」
『了解!』
また、騎士兵士たちが士気を吹き返した。主に、比較的年上の人たちだ。きっと、八年前の苛烈なゲシュペンスト騎士団を生き抜いた精鋭たちだ。
「負傷者は見捨てて構わん! 誰が死のうとも! 生き残った者たちで、必ずや作戦を完遂せよ!」
『おぉー!!!』
高らかに、全員が声を合わせた。
万単位の魔物に包囲され、戦い続けて、こっちは限界の一歩手前。だと、オレでさえ諦めてた。
でも、まだ、終わっちゃいない。終わっちゃいなかった。
さぁ!、端々に残った気合まで全て掻き集めろ! ここからが! 最後の勝負だ!
心剣士
第28話 EP05-07 ゲシュペンストとレッドローズ/END
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