第27話 EP05-06 滅魔の剣
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』、中二男子。『少女が武器に残した強い記憶』で戦う魔法使い、『心剣士』だ。
オレは、『滅魔の剣』を握った。黒い鞘で、黒い柄で、黒い刀身をしていた。
少女の記憶に引っ張られる。オレの現実が、ゴチャゴチャに、分からなくなる。
◇
起きた! 興奮しすぎて、ほとんど眠れなかった。
カーテンの隙間から、朝日が差し込む。小鳥の囀りが、窓の外から聞こえてくる。
跳ねるようにベッドから降りる。パジャマを着替える。友だちと駅前に遊びに行くときの、カワイイ服を選ぶ。
「お母さーん! 早めに出るから、髪、結ってー! お出かけのときの!」
一階にいる母親に聞こえるように、大声で呼びかけた。嬉しくて思わず、声が弾んだ。今日は、とうとう、勇者に任命式の日だ!
◇
狭い密室で、強面のオジサンたちに囲まれる。ちょっと怖い。
軍の偉い人たちだそうだ。
狭いし、明かりがランプ一個だけで薄暗いし、床も壁も天井もコンクリートだし、窓もない密室だし。軍服のオジサンたちが値踏みする目で舐めまわすように見てくるし。怖い。
一番偉いらしい人は、シワのお爺ちゃんだ。他のオジサンたちよりは怖くない。
「軍が保有する最高評価のアーティファクト、『滅魔の剣』を貸与する。勇者に選ばれし者の責任を胸に、魔王討伐へ向けて邁進せよ」
シワのお爺ちゃん、もとい、軍の一番偉い人から剣を受け取る。
黒い鞘で、柄も黒い。真の闇よりも暗い黒をしていて、自分が剣を持っているのか、闇を持っているのか、分からなくなる。
カチリ、と鳴らして、鞘から剣を、数センチだけ抜く。
「貴様! 我らに向けて剣を抜くとは」
「儂が許す!」
オジサンの一人が怒鳴るのを、シワのお爺ちゃんが制した。
刃物を人に向けちゃ危ない、って、お母さんも言ってた。これは自分が悪かったかも、と、ちょっと反省。
細い長剣だ。カッコイイ! 純白に輝く、曇り一つない、見惚れるほど美しい刀身だ。
自分の全身が上気するのを感じる。嬉しくて、興奮してる。
「資格なき者が抜けば、剣に拒まれると聞く。お主は剣に選ばれたのじゃ。選ばれし勇者よ、いかな苦難に遭おうと、その誇りを忘れるな」
「はっ、はい! 頑張ります!」
緊張と興奮で、短い返答が精一杯だった。
◇
仲間三人と、『外地』の冒険が続く。
一人は、白銀の板金鎧の騎士の、少し年上の男の人。装備品の扱い方と、戦い方を教えてくれる。お兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかな。
一人は、お母さんより少し若い女の人。水の色の長い髪で、線が細くて背が高くて、青いローブを纏って、水を操る魔法が使える。毎朝、髪を結ってくれる。
一人は、ハゲで髭でメイスでマッチョのオジサン僧侶。怖っっっっっ!!!!!、って最初は思ったけど、料理も裁縫も上手で頼りになる。戦闘でもビックリするくらい頼りになる。
他にも、別行動してる仲間たちもいるそうだ。会ったことないから、実感はない。どんな人たちなんだろう?
その場だけで仲間になってくれる人も、ときどきいる。森の魔物討伐を、近くの村の護衛傭兵が手伝ってくれたり。別の冒険者パーティと一緒にダンジョン攻略したり。
まだ子供なのに偉いねぇ、と褒めてくれる人もいる。誇らしい気持ちになる。
君のような子供が危険に身を晒す世の中は間違ってる、と嘆いてくれる人もいる。優しい大人の人なのだと思う。
でも、魔王討伐を目指す勇者だ、ってことは絶対に秘密。誰にも話せないから、話したくてウズウズする。協力してくれてる人たちに隠し事があるのは、後ろめたい気持ちにもなる。
◇
いよいよ明日、魔王の城に乗り込む。長かった冒険が、ついにクライマックスを迎える。感慨深い。
今夜は、魔王の城に近い軍の砦にお世話になる。久しぶりに、夜風の吹き抜けない部屋で、温かい夕食をいただく。熱いお風呂と、ふかふかのベッドも、用意してくれるらしい。
幸せな気持ちで、シチューを食べる。
魔王との決戦に不安がないわけではない。けど、仲間と一緒にいられる楽しさが、不安を上まわる。
特に、お兄ちゃんみたいに思っていた騎士を見ると、最近は、なぜかドキドキする。目が合うだけで、嬉しくなる。話すだけで、心が弾む。
「そうだ! 魔王を倒して家に帰ったら、皆を夕食に招待するね! お母さんの作るご飯、とっても美味しいんだよ!」
「いいな。勇者の家だけじゃなくて、皆で皆の家族に御挨拶してまわろう」
「ふふ。それは、楽しみですね」
「神ぃの御ぉ加ぁ護ぉがあぁらんこぉとをぉ!」
◇
うおっ?! 青年騎士の笑顔に、ドキッ!、ってした! オレは男だけど、ドキッ!、ってした!
これが恋ってヤツなのか!? 恋って感情なのか!?
いやいやいや、落ち着け。これは『少女の記憶』だから、男相手にドキッとしても問題ない。
男のオレが男相手にドキッとしたのは、少女の記憶に引っ張られたからだ。
この矛盾で、ようやく気付けた。少女の思いの強さに、境界線が分からなくなっていた。オレがオレを認識できなくなっていた。
まだ、オレは『勇者に選ばれた少女』だ。
オレの中に、幸せな気持ちが満ちる。純白の光になって、天にも届きそうに、天高くへと立ち昇る。乗り越えた無数の苦難が報われる、積み重ねた努力が結実する、勝利のゴール直前の高揚感って感じである。
◇
雨が、降っていた。
少女は、雨に濡れて、薄暗い荒野に座り込んでいた。無数の魔物と土人形に、包囲されていた。
魔王の城に辿り着けなかったのか。魔王の城から戻れなかったのか。
少女は、項垂れ、自分の膝に載る、三人の仲間の頭部を見つめる。三人とも、頭しかない。首から下は、無い。
涙のように、雨粒が頬を流れる。
喪失感が、他の全ての感情を凌駕する。剣を振る気力も、無い。何も、考えられない。
動け! キミまで死んじまうぞ!
オレは思わず、叫んだ。でも、これは『記憶=過去の出来事』だから、無意味だ。
三人を殺した魔将軍『冒涜者』への怒りはある。魔物を討伐する使命感もある。
でも、喪失感が、全てを凌駕する。思考が止まって、呆然と、ただ見つめる。涙のように、雨粒が頬を流れる。
怒りが、ある。純白の光、天高く昇る幸福感が完全に反転した、地獄の底すら貫通しそうな、真の闇よりも暗い黒の、漆黒の怒りが、ある。
◇
そして、選ばれし勇者の。……否。一人の少女の冒険が幕を閉じた。
オレが、この『滅魔の剣』を手にするまで。記録に残ることもなく、誰に知られることもなく、死の荒野に埋まっていたのだ。
「健二!」
美月に呼ばれた。
「おう!」
オレは、オレの現実に引き戻された。
オレの手には、漆黒の刀身の『滅魔の剣』がある。見たこともない強さの『少女の思い』も残ってる。
躊躇う。
何を躊躇う!?
嫌な予感がする。『心剣士』の勘が、危い、と警告する。
躊躇の理由は、何となく分かる。『見たことない強さの思い』と『特殊な精神状態』の組み合わせが、どんな結果となるか、知らない。『敵への怒り』と『自死を許容するほどの喪失感』が、どう混じり合うか予想できない。
何を躊躇う!?
躊躇う暇はない。迷っていては、陣が崩れて魔物に皆殺しにされてしまう。他に選択肢は、無い!
「やってやるぜ!」
オレは、地面に『滅魔の剣』を突き刺した。漆黒の刀身が影のように吸い込まれて、足元に丸く闇が広がった。
嫌な予感がする。
トプン、と水面に落ちるような音がした。見えなくても、魔将軍『冒涜者』が闇に落ちたと、感覚で分かった。
真の闇よりも暗い闇だ。闇しか見えない。上も下も右も左も分からない。
こりゃ凄い。『少女の思い』の具現化か、『滅魔の剣』の能力か。
抜け出し方も分からない。どっちが出口かも分からない。地獄の底すら貫通しそうな、深い、深い、果てなく深い、闇がある。
なるほど、斬魔でもなく討魔でもなく滅魔。不死だか何だか知らないが、『冒涜者』も、この世界から強制退場は確定だろう。
オレも、その闇に落ちていた。だから、嫌な予感がしたんだ。
心剣士
第27話 EP05-06 滅魔の剣/END
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